ヒロシ君がいい感じにぶっ壊れてくれます。
海上決戦を終えた俺たち。平和な日常を過ごしていたが、ジュエルシード集めにも終わりが訪れ、それが合図になった。事の発端は俺がプレシアに呼ばれたところから始まる。
フェイトたちに秘密に創り上げた怪獣軍団が完成し、暇になった俺。プレシアは研究室に来いとだけ伝えて先に行ってしまった。
廊下の人形、傀儡兵にビビりながら長い道を歩いていくと厳重にロックされた研究室にたどり着いた。ノックをすると普段堅く閉ざされた扉が、俺に入れと言わんばかりに自動で開く。無機質な床をさらに歩いていくと、様々な形の機械がズラリと円を描きながら並び、中心には大きなガラスの筒があった。筒の内部は何らかの液体で満たされていて、その液体に少女が包まれていた。
「……誰?」
俺は驚きながら声をひねり出す。小さな声だったが、室内に響き渡り大きくなった。そして俺の疑問に答えたのは、ここに呼んだ張本人、プレシアだった。
「カシマ・ヒロシ、この子はアリシア。私の娘よ」
いつになく厳格なオーラを纏ってアリシアの横に立つ。俺を睨みつけてさらに続けた。
「私がジュエルシードを集めてた理由を話すわ。この子、アリシアを蘇らせるためよ」
それから俺はアリシアの話を聞いた。
アリシアは安全管理不備で起きた魔道路の暴走事故に巻き込まれて命を落とす。娘を失ったプレシアは使い魔を越えた人造生命の生成や死者蘇生などの研究を繰り返し、アリシアを蘇らせようとした。結果は……今のままだった。
「ええ、怪獣を創りだしているあなたなら何とかなると思ってね。私にとってあなたの能力ほど羨ましいと思ったことはないわ。でも取り巻きが邪魔で、今まで言い出せなかった。でも、もう時間が無いの。さあ、アリシアを蘇らせてちょうだい」
プレシアの言いたいことは分かる。愛する者を蘇らせたいという気持ちは俺にも理解できる。俺もベムスターを蘇生したし。
怪獣から人間に対象が移ったとしても、ジェロニモンなら出来ると思う。仮に失敗しても俺には『赤い球』がある。でも、一つだけ、疑問点があった。
「プレシアさん、アリシアちゃん? アリシアなんだけどさ、どうしてフェイトとそっくりなんですか」
「……私の携わった研究の一つに、記憶を転写したままクローンを作る研究があったの、『プロジェクト・フェイト』っていう。つまりフェイトはその時に作られたアリシアのクローンよ」
フェイトがアリシアのクローン?
リニスと会って喜んで、俺と一緒にウルトラマン見て笑ったフェイトがクローン。クロノから逃げた時に掴んだ腕の温かさはプレシアに創られたものだったのか。
呆然と考える俺に対してプレシアは続けた。
「あなたも私と似たもの同士。自分の好きな怪獣を創っていたでしょ? 私も自分の好きなアリシアをつくろうとした、結果フェイトという失敗作ができてしまったけれど。お互い理想のために頑張りましょ」
どういうことだ。フェイトが失敗作? アリシアが理想?
フェイトはフェイトでアリシアはアリシアのはず。子供に理想を押し付けて都合のいいところしか認めない。子供はどうなる。
勉強ができて欲しいというから塾に通い、スポーツが出来るようになって欲しいと言われたからサッカーを練習した。俺の両親は褒めてくれたけど、俺が望んだのはそんなことじゃない、好きな物を認めてくれさえすればよかった。
結局、親は子供を自由なんかにせず、自分の癒しやステータスの一つでしかとらえてないのか。
「ごめん、何でフェイトがダメでアリシアがいいんですか?」
「ええ、アリシアがいいの。フェイトじゃダメ。あなただってそうでしょ? 小さい、偽物の怪獣に満足していない。それは限りなく本物に近い偽物。だって、本物の怪獣はもっと大きくて、もっと凶悪じゃない」
ごめんなさい、変なことを言ってしまったわ。プレシアが俺の肩に手を置いた。首筋に当たったプレシアの指は温かったフェイトの手と違って、金属のように冷たかった。
「……ジェロニモン」
俺は言われるがままにバトルナイザーを取り出してジェロニモンを呼び出した。身長180センチの怪獣酋長を見て考える。
確かに、俺はこの怪獣たちを人と同じような大きさで創りたいと願った。一緒に生活したいから。でもそれは本物の怪獣だったのか。ウルトラマンに出てきたジェロニモンは身長40メートルで体重は3万トン。かたや俺の創ったジェロニモンは身長180センチで体重は90キロ。同じ能力が備わっても、身長が本物のジェロニモンと違う。だから偽物。
一緒に温泉に行ってくつろいで、ベムスターを蘇生してもらったジェロニモン。でも実際はジェロニモンに限りなく近い偽物。俺の願望によって意味出された都合のいい怪獣。アリシアという理想を結集して生まれたフェイトと同じ失敗作。
メフィラス星人もメトロン星人も、デスレム、グローザム、ベムスター、バキシム。そして、新しく創りあげた怪獣軍団。俺の創った怪獣は全て偽物。……なら、なら本物はなんだ。
「ジェロニモン、アリシアを蘇生しろ」
偽物と本物が頭の中でループする。ジェロニモンは心配そうに見つめてきたが、それでもちゃんと言うことを聞いてベムスターを復活させた時と同じ光を出した。この光は本物のジェロニモンが得意とする蘇生技と同じものなのだろうか。それらは全てアリシアの中に吸い込まれていく。
きっと本物のジェロニモンは人間の言うことなど聞かない。60体の怪獣を蘇生させ、人類に喧嘩を売ったのが本物のジェロニモンなのだから。
なら、偽物が本物になるにはどうすればいい。プレシアはアリシアの代わりとしてフェイトを作った。フェイトは最終的にアリシアの偽物になってしまったが、プレシアの中でフェイトが本物のだった時間が必ずあるはずだ。
それはなぜか。アリシアがその一瞬だけプレシアの中から消えたから。つまり、本物を殺せば偽物は居なくなる。アリシアが眠ったままなら本物はフェイト。ならば、ここでアリシアを……。
ジェロニモンの光が強くなる。液体に浸かっていた少女が目を覚ます。俺は新たに『赤い球』を握りしめ、そして叫んだ。新しく創った怪獣軍団のうち一匹の名前を。
「暴君怪獣タイラント! プレシアとアリシアを殺せっ!」
虚空から雄たけびを上げ、合体怪獣が登場。腕のハンマーでアリシアの入った筒をぶっ壊した。ガラスの破片が砕け散り、その一つ一つが赤い光を反射する。
プレシアは俺の突然の裏切りに驚愕したが、すぐに娘のアリシアを守るために武器を持つ。それは電気のムチに変わってタイラント目掛けて飛んでいく。タイラントはカマの腕でプレシアのムチを巻き取ると炎を吐いてそれを切断、そのままプレシア目掛けて突っ込んでいった。
「アリシア、逃げなさい! 早く」
「ママ!」
泣きわめくアリシア、娘を逃がそうと懸命に戦うプレシア。その二人を倒そうと襲いかかる暴君怪獣。
タイラントは両手がバラバ、耳がイカルス星人、頭がシーゴラス、尻尾はキングクラブ、背中はハンザギラン、足はレッドキング、そして腹はベムスター。超獣、宇宙人、宇宙怪獣、地球怪獣の合成。自然の進化では絶対に誕生しないであろう、合体怪獣。
テレビのタイラントは身長62メートルだが、俺が創ったものは身長195センチ。この時点で本物ではない。だけど、果たして、どこかの宇宙には62メートルの、本物のタイラントが生息しているのだろうか。
「お前はクローンでも偽物でもない! 立派な本物だ。もし、本物がいてクローンが偽物になるのなら、本物をぶっ殺してしまえば問題ない。いけ、タイラント! 怪獣になるために!」
タイラントが暴れ、壊れていく研究室。悲鳴を上げて逃げ惑う親子。その光景を俺は知っていた。テレビだ。それらはテレビで暴れる怪獣と何の大差も無い。
『赤い球』が狂ったように発光する。俺は嬉しくて嬉しくて笑いが止まらなかった。今まで俺がやってたのは怪獣の姿をした生物とのなれ合いで、偽物と批判されてもしょうがない。温泉旅行に出かけた俺たちも、アリサと抱き合ったティグリスも、今思えばバカバカしい。だって、やっていることはゲームのポケモンと同じなのだから。
やっと分かった、どうして戦いの中でアイツらが喜んでいるように見えたのか。そうだ、本物はこうだ。全てを破壊し大暴れする、人間の抵抗など無意味なほどに。暴れだしたら手を付けられない、人の力では太刀打ちできないほどの暴力の化身。
崩れていく研究室、燃え盛る炎の中で吠えるタイラント。俺が望んだ大怪獣は確かにそこにいた。
『時の庭園』の内部ではアリシアが叫びながら駆け回っていた。人気のない廊下に響き渡る声は何時も同じ、みんな逃げて。誰もいなかった廊下を過ぎて、大部屋に行くと、フェイトとアルフとリニスが魔法について話しているところだった。
アリシアというフェイトと瓜二つの少女が現れて、驚く三人。貴方は誰? どうしたの? どこから来たの? というありきたりの質問が飛び交うが、アリシアの答えは一つだった。
みんな逃げて。
リニスが訳アリと判断し、プレシアと連絡を取ろうとした時、大部屋の壁に穴が開いた。
四人の位置は幸いにも穴から遠く、怪我人は誰一人としていない。床に散らばる瓦礫と、舞い上がる埃をみて、敵襲だと悟り三人は戦闘態勢をとる。
警戒する四人の前に、現れたのはボロボロになったプレシアだった。その有様は酷いものでマントは破れ、口から血を流している。
「母さん!」
「ママ!」
フェイトとアリシアがプレシアに駆け寄る。
リニスが眉をひそめた。
「来ます」
ドアを粉砕して怪獣が襲来。鼓膜が破れるほどの大きさで吠えると、両手のカマとハンマーを振りまし威嚇する。怪獣はフェイトたちに目もくれず、プレシア目掛けて耳から無数の光の矢を放った。
「ここは私に任せて、フェイトはプレシアと少女を」
リニスがバリアを張って攻撃を防ぎ、フェイトたちに指示を飛ばす。だがフェイトは食い下がった。
「タイラント!? リニス、ダメ。そいつは強い、戦うなら三人がかりじゃないと、リニスが死んじゃう」
ウルトラマンを見てきたから者だけが分かる情報。暴君怪獣タイラント、ウルトラ五兄弟を倒して地球に飛来した大怪獣。フェイトは地球にいた時にビデオショップで借りて知っていた。
一緒にフェイトとウルトラマンを見ていたアルフも強敵だと分かりファイティングポーズをとる。フェイト、アルフ、リニス対タイラント。三対一の対決が始まろうとした時、少年の声が響き渡った。
「ストップだ、タイラント」
タイラントが壊したドアからヒロシが現れ、さっきまで暴れていた怪獣が大人しくなる。
「ヒロシ! これは一体。どうしてタイラントが暴れているの」
静止したタイラントを見て話し合いに持ち込もうとするフェイト。だが、浩は狂ったように笑っている。ひとしきり笑うと、満足したのか口を開く。その声は人の元とは思えない、不気味なエコーがかかっていた。
「フェイト、そこにいる女の子、アリシアって言うんだけど、プレシアの一人娘なんだ」
浩はフェイトの疑問など答えようともせずに一方的に話し始めた。
「事故でアリシアは死んだ。プレシアは悲しんで生き返らせようとした、でも出来なかった。あきらめなかったプレシアはアリシアの代わりにクローンを作った。それがフェイト、お前だ」
自分の感情を抜きに話していく浩。フェイトに向けられた言葉は過去を暴く偽りのない真実だった。長い二つに結んだ髪の毛が左右に揺れる。フェイトはすがるようにプレシアの方を向いた。ボロボロになった母は胸を上下に動かすだけで動かない。
「それでジュエルシードを集めて、その力でアリシアを生き返らせようとした。……ずいぶん滑稽ですね。本物を生き返らせるために、偽物のあなたが奔走するなんて」
音も無く黒ずくめの宇宙人が現れる。メフィラス星人はフェイトの前に立ち、プレシアを覆い隠した。
「分かっただろ、親なんてそんなもんだ。子供を大切にすると言っておきながら自分の都合のいい部分しか見ない。望んでいたのはただ一つ、自分が描く理想の子供だけで、それ以外は子供じゃない。オマエの親も、俺の親も。そうだろう、プレシア」
浩はだんだんとヒートアップしていく。その目は焦点があっておらず、少年の声は原形をとどめていなかった。『赤い球』は光を放ち、少年の顔を赤く照らしている。
たった一人の少年の言葉に、宇宙人も怪獣も異世界人も使い魔も、誰一人として身動きせず、聞いている。
「その沈黙が答えだ、フェイト。プレシアは、お前の母は、お前のことなど愛してない。趣味をバカにされ、拒絶された俺と同じなんだ! さあ来い、拒絶されたもの同士、コイツらと同じ偽物の扱いをされたものとして、本物に、プレシアに、復讐しようじゃないか」
浩が指を鳴らすと、突如フェイトの前に怪獣たちが現れてズラリと並んだ。
冷凍怪獣が溶岩怪獣を取り込んで進化した怪獣、異なる両腕をもつカニ、水晶を生やした四足歩行の怪獣。さらに、キングジョー、ブラックギラスとレッドギラス、ベムスター、バキシム、ドラゴリー、メフィラス星人、メトロン星人、ジェロニモン、ドラコ、テレスドン、エアロヴァイパー、タイラントが加わる。姿形に違いがあれど、それら全ては浩が生み出した怪獣たちだった。
フェイトの瞳は虚ろになり、『赤い球』に導かれるように、フラフラとした足取りで怪獣たちの元へと歩いていく。
プレシアに見捨てられたフェイト。彼女はジュエルシードを集めていたが、その全ては母プレシアの願いでありフェイトもプレシアに愛して欲しかった。
しかし、プレシアは自分のことを何とも思ってないと言われ、フェイトの支えはなくなった。ベムスターを倒し、デスレムとグローザムに打ち勝った、凛々しかった頃の面影は何処にもない。
「フェイト!」
アルフやリニスが叫んで引き留めようとするが、フェイトの耳には届かない。弱弱しく、でも一歩ずつ着実に『赤い球』に近づいていく。フェイトが崩れ落ちて浩の腰にしがみつく。怪獣軍団を統べて浩が命じた。
「やれ」
浩が手を振り下ろす。今まで静止していた怪獣軍団が一斉に動き出した。雄叫びが重なり合って不協和音を生み出すと、口や角を光らせて、軍隊のように光弾や光線が放たれた。
「フェイトが!」
「ひとまず転移します」
瞬時にリニスが転移魔法を唱えて、アルフ、プレシア、アリシアを連れてワープした。一拍遅れて色とりどりの光線が『時の庭園』の壁をぶち抜いた。
黒い煙が舞い上がる中で、少年の笑い声が響いていた。
タグにアンチ・ヘイトってつけたけど、どこからが該当するのか分からん。
メフィラスがアリサとすずかにした洗脳とか、今回の浩が批判したプレシアとかってヘイトになるのかな? 引っかからなきゃタグ外すんだけど。