どうしてこの子たちがこんな目に遭うのか。
リンディがリニスの話を聞いて最初に思ったことがこれだった。
地球のとあるマンションに魔力反応があり、駆け付けてみたらフェイトの使い魔のアルフを筆頭に、かつて研究者として名をはせたプレシア・テスタロッサ、死んだと言われていたはずのプレシアの娘、アリシア・テスタロッサ。そして、プレシアの使い魔を名乗る、リニス。
眠りについているアリシアと、怪我で気を失っているプレシアを医療室に連れていき、手錠をはめた使い魔二人から情報を得る。
突然、アリシアという少女とボロボロのプレシアが現れたかと思うと、続けてタイラントという怪獣が襲来。さらに『赤い球』を持った浩、メトロン星人、アリサとすずかを洗脳した黒幕のメフィラス星人までもが現れた。
フェイトを庇ったことから浩はフェイトの味方だと考えていた。しかし、浩は突然裏切りプレシアを攻撃、さらに怪獣軍団まで見せつける。そして、明かされたフェイトの秘密。
「これは私の仮説ですが」
リニスがこれまでの状況から判断した推測を述べた。
ヒロシは自分がオオカミの群れに襲われている時にフェイトと助けてくれた。それだけではなく、今後も一緒にいられるようにプレシアに便宜を図っている。もし、ヒロシが最初からプレシアを裏切るつもりならリニスを助けようとはしない。プレシアからの信頼を勝ち取るために助けたとしても、ヒロシの味方になるようにメトロン星人かヒロシ自身と契約を結ばせるはずだ。プレシアの体調など、言い訳はいくらでもあるのだから。
つまり、ヒロシは裏切るつもりなど無く、冗談抜きに突然おかしくなってしまった。という結論だ。
「おそらく、原因は『赤い球』だろうな」
クロノが補足する。リンディも同意見だ。聞けば聞くほどひどい内容だった。
フェイトは信じてたプレシアに裏切られて、ふさぎ込み浩と一緒にいる。浩には会ったことないが、『赤い球』を拾ってしまい、彼の生活環境と『赤い球』の影響でここまで荒れてしまったと考えている。リニスの話を聞く限りは、悪い少年ではないだろう。
戦いに巻き込まれたのは二人だけではない。高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか。三人ともジュエルシードさえ落ちてこなければ平和に暮らしていただろう。
ジュエルシードと『赤い球』。この二つのロストロギアが幼い少年少女の人生を狂わせてしまったのだとすると、リンディは強い怒りを覚えた。
「状況は分かりました。そして、あなた達に謝らなければならないことがあります。私たち時空管理局の不手際のせいで関係のない方々まで巻き込んでしまい、申し訳ありません」
リンディは自分の不甲斐なさから素直に頭を下げた。
そんなことないよ。と励ましてくれる三人の少女たちに思わず涙が出そうになった。
「大体の事情は分かった。まさか、こんな事になっていたとは……。情報量が多いな」
クロノは何から手を付けていいのか頭を抱えていた。
メフィラス星人の他に敵がいることは予想していた。海の襲撃で、浩がデスレムとグローザムを復活と言っていたことから、もしやとは思い始めていた。しかし、それが人間の、それも小学生の浩とまでは思いつかない。まして、仲間であるデスレムとグローザムの情報を教えた少年なのだから。
メフィラス星人、デスレム、グローザム。この三体をなのはとフェイト、浩の共通の敵と認識させ、三人に奇妙な信頼を作り上げる。そして、管理局がなのは側についたところで、浩がフェイト側につき、なのはとフェイトで戦わせる。浩側は二人の少女の戦闘データを収集し、『赤い球』を使って戦力を補強。ある程度準備できたところで管理局に攻撃に転じる。フェイトとプレシアを味方につけたうえで。
浩が狂い、アルフたちが管理局側に着いたことで、作戦は失敗に終わった。もし、彼らの作戦が成功していたならば、怪獣軍団にプレシアとフェイトが加わることになる。そうなればお手上げだ。
「いたって簡単です。ヒロシから『赤い球』を取り上げて、私たちの今後を裁判で決めてもらう。ただそれだけです」
「虫がいいことだってアタシ達も十分理解している。だけどさ、これ以上ヒロシを、『赤い球』を放っておいたらマズいんだ。それにアタシ達にはもう、アンタ達しかいないんだ……」
リニスは毅然とした態度で、アルフは申し訳なさそうに言った。心なしか、オレンジ色のフサフサした尻尾が垂れ下がり、耳も元気がない。
「クロノ君、私、フェイトちゃんを助けたい」
「分かっている、分かっている。メフィラス星人が関わっている以上は管理局も動きたい。だけど、無策で戦って勝てる相手じゃないんだ。なのは、分かってくれ」
「なら尚更じゃない! 言っとくけど、私も協力するから」
「何でも言って下さい、なのはちゃんみたいに強くはないけど、私とアリサちゃんに出来ることなら頑張ります」
どうしてこの子たちはここまで協力的なのか。少女の強さにリンディは敬意をはらう。
相手は凶悪な怪獣たちだ。立ち向かうのだって怖いはず、なのに臆することなく戦うことを選んだ少女たち。敵だったフェイトを思いやり、それでも助けたいと言ったなのは。自分たちを洗脳した相手と再び戦うことを選んだアリサとすずか。もし、リンディが三人と同じ年だったら、同じような選択ができただろうか。
「なのはさんたちの意志は分かりました。改めて、協力をお願いします。敵の情報が分かるようなものはありますか?」
リニスがはい。と答えると、プレシアのデバイスを取り出して襲われた時の記録映像を流す。ズラリと並んだ怪獣軍団。クロノはその中にいるテレスドンとドラコ、そして『赤い球』を持つ浩が映っている。これで浩が黒幕だと確定した。
一方で、アリサとすずかは怪獣軍団の中に自分たちの知っている怪獣がいないかを探していた。
アリサの隣にはティグリスが丸くなっている。こいつは浩たちが引き上げた後、アリサが経緯を話してクロノとリンディにお願いして保護することになった。なのはやユーノ、クロノ、エイミィといった人たちにも懐いて気に入られた。その中でもティグリスはアリサに一番懐いているので、アリサは少しうれしかった。
「アリサちゃん、知っている怪獣いた?」
「んー、ドラコとテレスドン、メフィラス星人はいいとして、私は……タイラントとバキシム、キングジョーとブラックギラスにレッドギラス」
「うん。私は、両手がハサミになった怪獣、レイキュバス。その隣の二本足の赤くて胸からトゲが生えてるやつ、ラゴラスエヴォ。そのくらかな」
「……よくそんなマイナー怪獣知ってるわね」
「うん、だって冷凍怪獣調べてたし」
「じゃあ、そのレイキュバスとラゴラスなんとかって冷凍ビームでも出すの」
「うん、そうだよ。実際はそれだけじゃなくて、炎も放つけど」
「私たちの魔法を足したような奴らね」
氷系魔法を得意とするすずか、炎系魔法を得意とするアリサ。そして、二人の得意魔法を操るレイキュバスとラゴラスエヴォ。浩が二人と戦わせるために創られたような怪獣だった。
スクリーンに釘付けのアリサとすずか。アルフがタイラントを見て思い出したのか、口を開いた。
「アリシアが言ってたんだけどさ」
アルフが聞いたアリシアの話によると、浩はタイラントが暴れる姿を見て大笑いしていたという。『赤い球』の影響で破壊活動を喜びと感じるようになってしまったら、いずれ歯止めが効かなくなり地球に総攻撃を仕掛けるだろう。
参謀はメトロン星人とメフィラス星人。プレシアの病気に対抗できる薬を作ってしまうほどの科学力の持ち主だ。リンディたちが対応できないような作戦も練ってくるだろう。
そうなると浩が新しい怪獣を創る可能性もある。早急に攻撃を仕掛けないといけない。艦長のリンディが命じた。
「これより、アースラは『赤い球』の奪還および、怪獣軍団のせん滅を目標とし、『時の庭園』に進攻します」
第97管理外世界、惑星名称地球。魔力を持たない人々が生活している星。それ故に管理局に立ちふさがる勢力がいないと思って来てみれば、状況は全く違った。『ジュエルシード』の他に『赤い球』、トドメにテレビの怪獣軍団と来た。もはやこの星で何が起こるか分からない。
何があってもこの子たちは無事で帰す。リンディは自分に誓った。
アースラは『時の庭園』へとワープする。
ブラックホールのような黒く渦巻く空間をバックに、岩で出来た城のような建物が見える。あれが『時の庭園』だ。
浩の持っている『赤い球』を奪還するため『時の庭園』に近づくアースラ。特に攻撃など無く、そのまま侵入できると思ったとき、アースラ内に警報が鳴り響いた。
「艦内の電子機器に異常発生! 原因は……なにあれ? スクリーンに投影します」
オペレーターのエイミィが困惑しながらも映像を映し出した。スクリーンに映ったのは巨大な岩のような物体で、フヨフヨと漂い、アースラの側面を陣取った。その岩の物体には人影が見える。
エイミィはそれを見落とさずに拡大した。真っ黒の身体に青い目、銀色の顔の宇宙人が映り、彼は丁寧にお辞儀をした。
「メフィラス星人」
なのはが口を開いた。親友を洗脳し、戦わせ、それをゲームと称した冷酷な宇宙人。なのはが最も憎んでいる相手だった。
メフィラスは自分がアースラのモニターに映ったと思ったのか、発生器官を光らせる。
「お久しぶりです、アースラのみなさん、高町なのはさん。遠くからこの『時の庭園』にようこそお越しくださいました。カシマ・ヒロシに代わりご挨拶に参りました、よろしくお願いします」
メフィラスは一方的に話し始める。
「以前、私があなた達に再び挑戦すると言ったものの、あなた達の方から出向くとは思いませんでした。よって、面白いゲームを用意できておりません。申し訳なく思います。
しかし、それではわざわざやって来たあなた達に失礼です。ですので、即興ながらこんな催し物を用意しました。それが今私が乗っているこの岩石、モキアンです」
メフィラス星人が地面を指さすと、ただの岩石に思われていた物体が動き出し、口が現れて、その中から一つ目がのぞいていた。
「超巨大単極子生物モキアン、それがこの子の名前です。気軽にモキアンとお呼びください」
メフィラスは饒舌にモキアンの紹介を始める。
浩によって創られたこと、目からは怪光線を放ち、触手によって魔導士を捕らえてることができること。モキアンは自分の意志でN極の磁力しか持たない単極子になれること、その影響でアースラの機械に影響が出ることなど。そして、極めつけに。
「モキアン最大の特徴ですが、彼が単極子になって地球に近づくと、プレート同士が衝突し、津波や大地震が起きて地上の文明を破壊するでしょうねえ」
モキアンの能力を全て教えたうえで、さらりと重要なことを漏らす。
そもそもモキアンはウルトラマンガイアに登場した生物で、XIGという防衛軍の基地と相打ちした実績を持っている。もちろん、浩がそれを知らないわけがない。
「あとは好きにしてください。モキアンを放置して『時の庭園』に総攻撃をかけるのも戦略の一つです。まあ、その時、地球がどうなるかはお察しください。ワッハッハッハッ」
悪質宇宙人は笑い声を残すと、モキアンから消え去った。
モキアンの戦闘力や特徴を教え、それが無視できないものだということを決定づけさせる。メフィラスは策がないと言っておきながら、最初からアースラとモキアンを戦わせるつもりでいた。アースラはビーム砲を搭載しているものの、はたしてそれがモキアンを倒せるかと言われたら話が変わってくる。
「全砲門開いて、ここでモキアンを食い止められなければ、実質私たちの負けです!」
それでも地球を守るために戦うという選択肢以外は無い。リンディの指示で、アースラ全ての砲門からビームが放たれた。しかし、モキアンには効果が薄い。一方のモキアンもただやられているだけではなく、一つ目から怪光線を放ちアースラを攻撃した。
アースラに直撃し、煙が上がるが落ちる気配は無い。しかし、アースラの砲撃は効果が低いのに対し、モキアンの怪光線は小さいなりにもアースラの装甲を傷つけた。
「このままだと、じり貧ね……」
リンディは唇をかんだ。
アースラの敗北は地球の終わりを表している。リンディと地球は今まで何の縁も無い。まして地球は管理外世界だ。リンディの故郷からみて、地球を助けたところでメリットもデメリットも無い。メトロン星人から見れば、どうして地球のために戦うのかい? と言われただろう。
リンディは必死にレイジングハートを握りしめて戦局を見守っている少女を見た。自分と無縁の星、地球で知り合った女の子。ジュエルシードをはじめ、怪獣やメフィラス星人の卑劣な作戦に怯むことなく戦った女の子、なのは。魔法と無縁だったこの子は、見ず知らずの自分の言うことを信じて一緒に戦ってくれた。
無垢な少女をこれ以上、戦いに巻き込みたくない。
確かな決意を胸に固め、どうすればこのモキアンを倒せるのかを考える。アースラの通常装備じゃ歯が立たない。もっと強い兵器を使わないといけない。ビーム砲よりも強い兵器、それは。
「……アルカンシェル」
「艦長、それを使うんですか」
エイミィが驚くのも無理はない。
魔導砲・アルカンシェル。アースラが今回の任務に当たり、取り付けられた切り札。その威力は時空を捻じ曲げて対象をせん滅するというもの。そしてその範囲は数百キロに及ぶ。
アルカンシェルに弾数制限などは特に無いが、相手にはメフィラス星人という未知の科学力を持つ宇宙人がいる。ここでアルカンシェルを使いモキアンを倒したら、メフィラス星人は確実に対策を練ってくる。ゆえに、次は無い。浩がモキアンよりも強力な怪獣を創り出してしまったら、確実に負ける。
それでもリンディは毅然とした態度で、アースラ艦内に言い放った。
「魔導砲・アルカンシェルを使用します。対象はモキアン!」
リンディは何重にも施されたロックを解除し、自身の持っている発動キーを刺した。アースラは魔力を溜めはじめ、その間はモキアンの攻撃を食らい続けた。あちこちから煙を上げながらも、魔力を溜め切ると、リンディが叫ぶ。
「アルカンシェル、ってー!」
スターライトブレイカーよりも何十倍、何百倍のエネルギーが放たれ、モキアンの姿をかき消した。
ひとまず地球の崩壊を防いだリンディたちは『赤い球』のある『時の庭園』へ侵入した。