モキアンを倒して、なのは達が『時の庭園』に降り立った。メンバーは、なのは、ユーノ、クロノ、アリサ、すずか、アルフ、リニス、ティグリスと20人の管理局の戦闘スタッフだった。
アルフとリニスを先頭に岩石の柱が連なる道をひたすらに飛んでいく。特に敵と遭遇することも無く、室内に侵入できた。廊下を進んでいくと大広間についた。
この大広間がエントランスになっているようで、いくつか道が分かれていた。今回の目的は『赤い球』の奪還であるため、別行動はしない決まりになっている。土地勘のあるアルフとリニスが相談を始めた。
「リニスー、ヒロシに貸し与えた部屋は右側の通路だからこっちに行った方がいいのか」
「そうですね……自室にいる可能性もあるとは思いますが、今は攻められています。全体が見通せる場所や、通信のできる場所いるかもしれません」
「なら、しらみつぶしに調べていけばいいんじゃないか」
クロノの意見に全員が賛成し、進もうとしたとき、突如真上の天井が音を立てて崩れはじめた。瓦礫がなのはたちの間に積み重なり、アースラスタッフ、アリサ、すずか、リニスというグループと、なのは、ユーノ、アルフ、クロノのグループに分かれてしまった。幸い誰も怪我はなかったものの、瓦礫の山を超えるにはひと手間必要だった。
「今から瓦礫を爆破してそちらに向かう、待っててくれ」
アースラのスタッフが声を張り上げ、それに対して反対側にいるクロノが光りを使って答えた。安全な場所に避難するなのは達、二つだったグループが四つに分かれる。合流のための行動。しかし、それは敵の仕掛けた罠。最初に気づいたのはリニスだった。
「敵襲!」
リニスの声と共に襲い掛かる有翼の怪獣軍団、その数およそ十匹。
薄紫色の身体に灰色の腹。お腹には連コラのような模様がある。身長2メートル22センチのソイツらは、黄色と赤の翼を広げ、くちばしを開いて光弾を放ち襲い掛かって来た。全て同じような姿、同種族ゆえに一つの軍隊とも思える連係プレーを見せる。
攻撃技と姿、そして腹の模様から判断してアリサが叫んだ。
「ぞ、ゾイガー!」
アリサは強い怪獣を探すため、最終回を中心に見ていたことが幸いした。このゾイガーという怪獣はウルトラマンティガの最終回に登場したボスの配下だったから。
超古代尖兵怪獣ゾイガー。ウルトラマンティガに登場した怪獣だ。本来は邪神に仕える尖兵だが、今回邪神の姿は見当たらない。
アリサは軒並み強い怪獣を調べていたので、ウルトラマンの最終回を中心にDVDを借りていた。ゾイガーは最終回と、その二つ前の話に登場していたため知っていたのだ。
「みなさん! 翼の付け根を狙ってください、そこがこの怪獣の弱点です」
スタッフの悲鳴を受けて、なのはが砲撃体勢に入る。瓦礫を壊して救助に行くためだ。桃色の光が溜まる寸前、なのはが見えない何かによって吹き飛ばされた。
何もないはずの空間が歪み、姿を現した四歩の足の怪獣。背中には形がまばらの水晶が生えている。それだけではない、混乱するなのは達の前に二足歩行の甲虫怪獣が群れを成して飛んできた。
各々が迎撃態勢を整え、怪獣軍団を迎え撃つ。爆発が止まない大広間に、学校の校内放送とよく似たものが流れた。
「やあ、よく来たね。俺創った怪獣軍団はどうだい? せっかくだから紹介してやるよ。まず初めに超古代尖兵怪獣ゾイガー。こいつに関してはアリサのあたりだ」
アースラスタッフとアリサの活躍によって、四体ほどが撃ち落とされたが、闘志は消えておらず、二本のするどいツメで地上戦を仕掛ける。さらに空中を舞う群れと、甲虫の怪獣と共に連携して追い詰める。
「紹介しよう、ゾイガーと一緒に攻撃している怪獣だ。怪獣兵器スコーピス、元々は別の怪獣によって創られたけど、今回は俺が創ってみた。群れで惑星を破壊する凶悪な怪獣だ」
スコーピスはボイゾニクトとフラジレッドボムという二種類の攻撃を使い分けて局員を攻め立てていた。身長も2メートルを超え、大人のアースラスタッフ相手でも近接戦闘で有利に立っている。その様子が見えてるのか分からないが、浩の声が喜んでいるように聞こえた。
「最後、インビジブルタイプビーストのゴルゴレムだ。正確には怪獣じゃないが、君たちには分からないだろう」
なのはを吹き飛ばした怪獣がこのゴルゴレムだ。ゴルゴレムは透明になると、新たに現れたスコーピスの群れと合流。それらと戦うクロノ達の隙をついて、奇襲を仕掛ける。
悪戦苦闘するなのは達にさらに放送が入った。
「連携や作戦も人間の君たちや本物と劣らないだろう。集団戦も楽しいとは思うが。せっかくだ、他の俺が創った怪獣たちをよく知ってもらいたい。君たちがバカにしてきた怪獣たちをな!」
浩は一方的に話すと満足したのか、放送をブツンと切る。狙ったかのようにあちこちに赤色の空間が出現。怪獣たちに吹き飛ばされたり、距離をとったりした者を片っ端から飲み込んでいった。ゾイガーをはじめ、襲ってきた怪獣たちも赤い空間に飛び込んでいく。
はじめは30人ほどいた大広間にはゴルゴレムも消え、アルフ、ユーノ、なのは、クロノの4人だけが残された。
「ヒロシを止めないと、合流できないか」
当初の予定が狂い、クロノが唇をかんだ。四人はアルフを先頭に『時の庭園』を進んでいく。
プレシアが目を覚ましたのはアースラの医療室だった。
ゆったりとした入院用の衣服に着替えられていて、呆然としながらも上半身を起こす。腕には点滴が刺してあった。ボーっとしながらも、プレシアは今までの出来事を振り返っていた。浩の力を借りようとしたら怪獣に襲われて、抵抗したものの、その力をみくびり敗走。リニスたちに介護されていたところまでは覚えている。
ふと、視線を移すと自分が寝てたベッドの隣で、スヤスヤと寝息を立てる少女がいた。
「アリシア」
プレシアは娘の髪をかき上げて寝顔をなでる。見知らぬベッドで寝かされていたが、アリシアが無事だったので安堵した。試しに軽く腕を回してみたが、痛みは無い。重傷を負ったような扱いだったにも関わらず、目立った怪我などはなく、どうして寝かされているのかが不思議なくらいだ。
次に誰かいないかと当たりを見渡した。医療機器が並び、薬品棚には薬が整頓してある。意識がはっきりしたところで、もう一度記憶をたどる。リニスに時空管理局へ出頭しろ。と命じたことから、ここは管理局の施設だろうと考えた。
今後、何とかしてアリシアと一緒に暮らしていきたい。そのためにはどうすればいいのかを考えはじめた。
「それにしても、誰もいないのは何故かしら」
自分は怪我人の前に犯罪者だ。時空管理局の施設内だとすると、誰かが近くにいて監視するのが普通だ。こうして漏れたプレシアの疑問、それに答えたのは。
「それは、今みんな忙しいからさ」
極彩色の宇宙人、メトロン星人だった。ひょこっと現れた敵幹部をプレシアが睨みつける。現状、プレシアは武器らしい武器を持っていない。それでも彼女の眼光は、メトロン星人が一瞬怯むほど強力なものだった。
「まてまてまて、私は君と争いに来たわけじゃないよ~。まったく、宇宙人だと人間はすぐ叩くんだから。君と私はゲームをした仲だろう、過去からリニスを連れてくるゲーム。結果は私の勝ちだったけどね。それに、君も地球人じゃない。似たようなものじゃないか」
「お生憎、私の身体はカラフルでも、真っ黒でもないわ」
「着てる服は黒いのに?」
再びプレシアが睨む。メトロンはお手上げといった様子で、白いチューリップのような両手を上げた。その様子から敵意は感じられない。
「さて、誰もいない理由の前にだ。ここはアースラ、時空管理局が時空を超えるときに使う船、とでもいえば分かるよね」
「ええ」
「ほいで、今アースラは君の家、『時の庭園』に攻め込んだ。今頃リニスさんやアルフが大怪獣とバトルでもしているんじゃないかな。
ああ、私の目的はアースラだ。司令室に行って足止めしろって言われてさ、宇宙人使いが悪いと思わない? 私だけ敵の本拠地に攻め込むとか」
メトロンは人を馬鹿にしたような態度をとる。プレシアはイラついたのかそっぽを向いた。
「相変わらずね、その話し方も。気に入らないわ」
「君も元気そうで何よりじゃないか。ま、治療したのは私だから当然か」
何ですって。プレシアが食らいつく。メトロンが今まで経緯をこう話した。
アースラにモキアンをけしかけ、電子機器を一瞬マヒさせる。その間にメトロンが侵入し、アースラの兵器を使えないようにする。じっくりと怪獣軍団と魔導士たちを戦わせるという作戦だった。
「作戦は成功さ。私がここに居て、手元にはドラゴリーっていう超獣もいる。あとは司令室に行って取引すれば私の仕事は終わり」
「なら、油売ってる暇はなくて?」
うん、確かにそうだ。メトロンは近くのベッドに腰掛けた。
医療機器のライトが一段と強いオレンジ色に光り、夕日のように二人を照らす。その光景はどこか地球の夕焼けに似ていた。時間だけが切り離された下町のごとくのんびりと時が流れる。
机の上に置いてあったコップの水がメトロンを映していた。逆光に照らされて、メトロンの目と発生器官が浮かび上がる。
「だけど、一つ疑問があってね。プレシア、君にとってフェイトは何者だい?」
「それを聞いてどうするのかしら? ヒロシみたいに発狂してドラゴリーでもけしかけるつもり?」
「違う、私は暴力が嫌いだ。それに君と戦っても無意味だろう」
ならなぜ。プレシアが問う。
メトロンの発生器官が光った。
「生み出された時、私は地球の夕焼けを見たことがない。にもかかわらず、夕日がきれいだと知っていた。
少年が言っていたよ、フェイトは君によって生み出されたと。どこか私と似ている気がしてね、アリシアのクローンのフェイト、ヒロシの記憶から作られた私。地球の文化に触れて、フェイトと話をして、色々感じたけれど、その感情もヒロシの記憶から作られたものなのかと」
「意外とセンチメンタルなのね。あなたって」
「感性が豊かって言って欲しかったなあ」
そうね、プレシアが言葉を区切る。
未だに寝ているアリシアの頭を優しく撫でた。手元からは、うにゃぁ、とかわいらしい寝言が聞こえた。
「今ならわかるわ。フェイトはフェイト、アリシアなんかじゃない。アリシアにはなれない。アリシアもそう、フェイトにはなれない。二人の始まりは同じだったけれど、結局、違う人間になった。
……それもそうよね、アリシアの母は私だけど、フェイトの母はリニスだもの。違う子に育つに決まってる。アリシアもフェイトも人間なのにね。……余裕が出来た今だからこそ言えるけど、フェイトには悪いことをしたわ」
メトロンはアリシアを見つめた。彼女はプレシアに撫でられて気持ちよさそうに寝ている。メトロンはしばらく二人の様子を見つめていたが。
「私も撫でてみたい、すこしいいかな」
プレシアはメトロンを睨むだけで何も言わない。メトロンは肯定と受け取ったのか、人間の手とは全く異なる腕を使って、器用にアリシアを撫でた。
不意にメトロンが立ち上がると、プレシアのお腹の上に箱を一つ置いた。
「……時間だ、仕事に行ってくる。貴重な話をしてくれたお礼にこれを置いていくよ」
そのまま病室のドアに手をかけた。何を思ったのか振り向くと。
「プレシア、まだ間に合うよ。元々私はヒロシ少年の母親だったから」
それだけ言い残して病室を出ていった。メトロンの姿が消えて、プレシアが渡された箱を開いてみると、デバイスが一つ入っていた。それはかつてプレシアが使っていたデバイスだった。
「ほんと、余計なことしかしないわね」
プレシアが立ち上がる、身体は思った以上に軽い。これならあのタイラントとかいう怪獣と互角に渡り合えるだろう。アリシアを自分が寝ていたベッドの上に横たえる。どれほど気を失っていたのか分からないが、ずっと傍にいてくれたことが分かる。
メトロンに茶化された、いつもの黒い服を身にまとう。その顔は弱弱しい病人から、魔導士のものになっていた。
プレシアが病室のドアに手をかけると、警報が響いた。メトロンが仕事を完遂したのだろう、アースラ内はパニックになっている。今なら人が一人、居なくなったところで誰も気づかない。
「あれぇ、ママ……どこいくの?」
警報のせいでアリシアが目を覚ました。まだ眠いのか目をこすっている。
「ええ、ちょっとね。迷子の女の子を探しに」
「すぐ帰ってくる?」
不安そうな表情でアリシアが訊ねる。事故でアリシアが死ぬ日もこんなやり取りをしたと覚えている。プレシアは一瞬、強く目を瞑ってからアリシアに対して優しく微笑んだ。
「必ず帰るから、安心して待っててね。もし、危ないことが起きても大丈夫。面白い宇宙人さんが助けてくれるから」
「うん! いってらっしゃい、ママ」
電球のようなオレンジ色のランプがアリシアを照らす。アリシアの声援を受けてプレシアが病室を出た。廊下はLEDみたいな白い光で照らされていた。