時間が経ち、このタイミングでと思いますが、挿入します。
なんかあったので。
高町なのはが物心ついたとき、彼女は一人ぼっちだった。
父親が仕事で事故に遭い、意識不明の重体となった。最終的には命を取り戻し、家族全員で仲良く暮らしているが、それまでが大変だった。
父親の分を母が喫茶店を切り盛りし、二人の兄弟も母を手伝った。
幼くて何もできなかったから、なのはは常に一人。家族が大変だからと、誰にも迷惑をかけないよう、いい子に努めた。
その時から、無力な自分が嫌だと。誰かを守れるような人になりたい、守れなくとも人の気持ちを分かるような人になりたいと、そう思ってきた。
小学校に入学、すずかとアリサの二人と友達になった。
出会いはアリサがすずかの大事なものを盗って、悪ふざけしていた。そこになのはが止めに入り、大喧嘩になって、すずかが勇気を振り絞って止めに入ってくれた。
出会いは最悪だったけど、それでも間違ったことは、ダメだと言ってくれる友人を誇らしく思った。
何より、家以外もなのはの居場所ができて嬉しかった。
小学三年生の春ごろ、ユーノと出会い、ベムラーを倒して魔法少女になった。
なのはは、誰かを守れる力を手に入れたと喜んだ。
これで誰も悲しませないようになれる。私もみんなの力になれると。
別の魔法少女のフェイトと戦い、時には協力し、時空管理局を名乗るクロノやリンディと出会った。
メフィラス星人の企みで、洗脳されたアリサとすずかと戦った。話を聞けば、なのはのためだと思ってやってくれたこと。アリサとすずか、二人の親友は協力してくれることになった。
二人には感謝している。
メフィラスに操られたとはいえ、一度攻撃しようとしたにもかからず、許してくれて、自分が魔法少女であることを許してくれた。
人知を超えた力を持つ自分を恐れずに、一緒に戦ってくれると、言った親友二人を、なのはは誇りに思った。
なのはは本当に人に恵まれた。
両親と兄妹は仲良く、なのはを愛してくれている。
二人の親友は、魔法の力を受け入れたうえで、それでもなお協力してくれた。
ユーノはなのはを信じて、いつも味方になってくれている。
リンディさんたちも、なのはを信じてくれた。
だからこそ、考えてしまう。
もし、メフィラス星人の策にはまり、アリサとすずかを攻撃してしまっていらた。
もし、二人が自分の魔法の力を恐れて、離れてしまったら。
大切な者を守るために戦っているのに、大切な者から嫌われてしまう。
もし、自分がそうなったら。
その答えは……。
「無理するな。オマエも強くてカッコいい怪獣が好きなんだろう? 街を破壊し大暴れする怪獣たちが大好きだ」
鹿島ヒロシ。
なのはの一つ上の、怪獣が大好きな少年。
『赤い球』を拾い、誰にも理解されずに狂ってしまった少年。
「でもそんなこと言ったら笑われるもんな、いい年して怪獣なんて幼稚な、ダサい、くだらない……。くだらなくて悪かったな!」
なのはは彼を知っているが、彼がどんな人でどんな人生を歩んできたのかまでは分からない。
でも、彼が怪獣が好きなことだけは分かる。
手に握りしめれている『赤い球』と、粘土でできた怪獣。翼とお腹の棘に接着剤を塗った後が残っている。塗装はところどころ剥がれ、時間が経ったのだろう。
壊れても剥げても、大切に、大切にしてきたことが分かる。
「今こそ見せてやる、怪獣の本当の凄さを!」
なのはからみれば、怪獣は敵だった。
ベムラーとベムスターはいきなり襲ってきたし、デスレムとグローザムはジュエルシードを破壊の力として利用していた。メフィラス星人は親友を操った悪いやつだ。
だからこそ、怪獣が好きな人はいない。知らないうちに決めてつけてしまった。
「その恐ろしさを! 全て壊してやる……」
けど、それは間違いだった。
テレスドンとドラコはメフィラスに「お前は負けた」と説得してくれたし、キングジョーはフェイトを守るように動いていた。ティグリスは怪獣なのにアリサと一緒に戦ってくれて、なのはの仲間になってくれた。
戦ってきた怪獣たちは、純粋な悪ではなかった。
「こんな世界全てブチ壊すんだ!」
なのはにとって大切な者は家族や友達で、ヒロシにとって大切な物は怪獣や宇宙人だった。
もし、なのはの家族や友達が危険な目に遭ったら、なのはは全力で対抗するだろう。実際、破壊をもくろむデスレムやグローザムとは徹底的に戦った。
「暴れろ! 俺の最恐怪獣」
キングオブモンス。
鹿島ヒロシが高町なのはとクロノ・ハラオウンを倒すために生み出した大怪獣。
破壊の限りを尽くさんと、雄たけびを上げる怪獣のはずなのに。
「……ないてる、あの怪獣。ないてるよ」
周りの人に理解されなくても、怪獣を愛し続けていたころの彼を、キングオブモンスは知っているのだろう。
「そうか、そうだよね。怪獣が、ヒロシ君にとっての大切な物だったんだね」
両親を、友人を、理解者を怪獣に求めてしまったからこその結末。目の前の少年が、怪獣が好きだと知らずに、彼の好きなものを、知らず知らずに否定してしまっていたのだ。
もし、なのはがヒロシともっと話し合って、怪獣を受け入れたら、こんなことにはならなかっただろう。
もし、ヒロシがなのはともっと話し合って、友達になっていたら、こんなことにはならなかっただろう。
もし、『赤い球』で生み出されたベムラーが、なのはとユーノを襲わなかったら、こんなことにはならなかっただろう。
「あれは、怪獣なんかじゃない。もっと悲しい、孤独な何か。小さかった頃の私と同じ……」
怪獣軍団を従えた元凶のはずのヒロシが、昔のなのはと重なって見えた。一人ぼっちで、いい子を演じていた、無力だったころのなのはと。
ヒロシには居なかったのだ。大切な物を認めてくれる人も、間違えたことをしたら止めてくれる友人も。
「フェイトちゃん」
生気を失ったフェイトがなぜヒロシの隣にいるのか、なぜヒロシはフェイトだけをそばに置いたのか。メフィラスでも、メトロンでも無い。フェイトなのか。
その理由が、少し分かったような気がした。
「クロノ君。私ね、思っちゃったんだ。もし、アリサちゃんとすずかちゃんを助けられなかったら、魔法の力を理解してもらえなかったら……」
なのはは、ヒロシの座っていた玉座を杖で指した。
「あそこに座っていたのは、たぶん。私だと思う。私の運が良かっただけで、ヒロシ君は運が悪かっただけ。フェイトちゃんも、プレシアさんも……もちろん、ヒロシ君だって。みんな、悪い人じゃなかったんだ」
「同感だ。みんな、いろいろな事情や過去があって生きている。すれ違って、こじれて、こんなはずじゃなかったことになっちゃうけど、不幸を口実に人の幸せを壊しちゃいけない」
なのはにとっての家族と友人。それはヒロシにとっての怪獣。
もちろん、クロノにだってそれはある。だからこそ、クロノは杖を構える。
「それに、まだ終わっていない。人は、生きている限りやり直せる。バッドエンド一歩手前だけど、まだ終わりじゃない。彼には償って、戦って、未来を変えてもらう。なのは、キングオブモンスを倒そう!」
一瞬、キングオブモンスを倒していいのかと頭の中によぎる。
けど、なのはの心は『赤い球』を破壊しろと、ヒロシを助けろと叫んでいる。
「……私より一歳年上の男の子が、ただ『赤い球』を拾っただけで、こんなことになっちゃって。すべての責任を押し付けて、悪い奴だと決めつけて、事件を終わりにしたくない」
キングオブモンスが吠える。俺を倒せ、と。
あの怪獣、キングオブモンスは今のヒロシそのもの。哀しみと嫉妬、承認欲求に囚われて、暴れている。
なのはが知っているキングジョーやティグリスみたいに生きていない。『赤い球』の暴走で生み出された、愛を知らずに哀を叫ぶモンスターだ。
「クロノ君、レイジングハート、力を貸して。『赤い球』を壊して、キングオブモンスを倒して、ヒロシ君の洗脳を解くよ」
やることは決まった。上手くいくかは分からない。でも、なのはは迷わない。
誰かを守るために、誰かを助けるために、魔法の力を使う。
「全ての答えはこの胸にあるから」