第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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その叫びはお前たちの涙なのか

 フェイトは立ち上がると、キングオブモンスを切り付けた。予想外の一撃に怪獣がひっくり返る。なのはからは驚きと嬉しさの混ざった声が上がり、クロノも味方が増えたと笑った。だが、この中で一番衝撃を受けた人物がいた。

 

「フェイト……お前、どうして」

 

 浩だった。

 浩は親に拒絶された自分とプレシアに拒絶されたフェイトという共通点から仲間意識を持っていた。だからフェイトは自分の敵になるとは考えもしなかった。

 浩は呆然としたまま握りしめた『赤い球』を見つめている。キングオブモンスは暴れてはいるものの、さっきまでの暴虐っぷりは見せていない。クロノ一人で何とか抑え込めそうな状態だ。バジリスとスキューラはなのはとフェイトに対して吠え、威嚇している。敵意はむき出しだが、まだ襲ってこない。

 

「ヒロシ! しっかりして、その『赤い球』はみんなを不幸にする。いつもの怪獣が好きなヒロシはどこに行っちゃったの」

「フェイト、何で邪魔するんだ? お前は俺と一緒に否定されたじゃないか、仲間じゃなかったのか」

「だからだよ。ヒロシは私の中で大切な人。いくら否定されたからって、みんなを攻撃するのは間違っている。だから私が止めるんだ」

「うるさい、俺の怪獣たちは誰一人として受けれてくれなかったんだぞ!」

「でも、アリサちゃんとすずかちゃんはティグリスを、怪獣を受け入れたよ。まだ大丈夫、怪獣を受け入れてくれる友達も見つかるよ」

 

 なのはもフェイトと一緒に説得を試みる。浩は歯を食いしばり、血走った目でなのはを睨みつけた。

 

「おまえが、怪獣を倒してきたオマエが、そのセリフを吐くな!」

 

 逆に『赤い球』の輝きが強くなる。浩の瞳は『赤い球』と同じように真っ赤に染まり、不敵な笑みを浮かべ、全身が赤い光によって照らされていた。口を開いて発せられた声は何重にもエコーがかかり、人のものではなくなった。ロストロギア『力任せの邪悪な願い』、それを擬人化したかのような人間が今の浩だった。

 

「俺には世界を滅ぼすだけの力がある。破壊の限りを尽くす怪獣がいる。お前たちなんか捻り潰してやる!」

 

 キングオブモンスはクロノを吹き飛ばし、なのは達の前に転がった。バジリスがフェイト、スキューラがクロノ、キングオブモンスがなのはに狙いをつける。三人は背中合わせになり、怪獣たちを迎え撃つ。

 キングオブモンスはもちろん、『赤い球』の力を最大限に発揮して創られた怪獣たちだ。そのまま戦っては勝ち目がない。

 

「フェイトちゃん、あの怪獣たちに弱点は無いの?」

「分からない。でも、怪獣たちはヒロシの『赤い球』が強化してると思う。だから『赤い球』さえ何とか出来ればこれ以上パワーアップしないと思う」

「でもどうやってヒロシに近づくんだ」

 

 クロノ言うことが最もで、一対一でも勝てるかどうかわからない状況なのに、浩から『赤い球』を奪うのは難しいだろう。怪獣たちも動き出した。

 バジリスは高速で飛び回り、フェイトに襲い掛かった。両手のカマはフェイトの手数の二倍、口から放つバリバルボールも加わって、フェイトを追い詰めていた。スキューラは遠距離攻撃を持ってない。しかし、浩の手によって飛行能力を授かり、空を水中のように移動している。さらに、クロノの得意とするバインドをはじめとした搦手を突進でかき消し、クロノ目掛けて突き進む。キングオブモンスに関しては言わずもがな、クレイメイトビームを乱射してなのはを攻撃していた。

 光線に追随する爆発を見て、なのはに一つの案が浮ぶ。

 

「ヒロシ君に特別な力は無いから、爆発の衝撃とかで『赤い球』を手放せないかな」

「あまり一般人を巻き込みたくは無いが……しょうがない」

「分かった」

 

 クロノは難色を示すが、そんなことは言ってられない。『赤い球』をどうにかしなければ世界が滅ぶのだ。

 遠距離攻撃が出来ないスキューラはこの作戦に不向き。素早いバジリスは接近される恐れがある。だが、残るキングオブモンスは光線を主体として戦っている。威力も範囲も申し分ない、狙うクレイメイトビームだ。

 三人とも怪獣たちの攻撃をさばきながら作戦を実行に移す。クロノがスキューラと他二体の距離を遠ざけて、フェイトがバジリスを引き付けてドッグファイトを繰り広げる。あとはなのはがキングオブモンスを誘導するだけ。

 なのはが走って浩に近づくと、キングオブモンスは主を守るために、なのはの後を追う。なのははレイジングハートに魔力を溜めつつ、怪獣が突っ込んでくるタイミングで横に身を投げた。身体は怪獣の方に向いている。キングオブモンスに標準を合わせる。なのはは溜めてきた魔力を解き放った。

 

 ―――ディバインバスター―――

 

 レイジングハートが魔法を唱え、杖の先端から桃色の光線が放たれた。キングオブモンスも振り返りながらクレイメイトビームを発射。

 二つの光線がぶつかり合う。本来ならディバインバスターが押し負けて、なのはがダメージを負うはずはずだが今回は違う。なのははあらかじめ魔力を爆発するように仕込んでいたのだ。

 オレンジ色の破壊光線が桃色の魔法を打ち抜くと、見事に大爆発が起こった。さらにクレイメイトビーム特有の一拍遅れた爆発と合わさって、激しい光と爆風が当たりを包んだ。

 

 あまりの激しさになのはが腕で顔を覆い、目を瞑る。キングオブモンスが怯む。

 

 そして浩が『赤い球』を手放した。

 

 それをフェイトが見逃さないわけがない。

 遠く離れて光から逃れたフェイトは自慢のスピードを最大限に発揮し、『赤い球』目掛けて突っ込んでいく。バジリスは光球を放ってフェイトを妨害する。しかし、フェイトが地面スレスレに飛ぶことで瓦礫が盾となり当たらない。

 バジリスは光弾が当たらないと分かると、速度を上げて接近。大鎌で切り刻まんと振り上げた。フェイトも速度を上げるが障害物が仇となり、距離はすぐに縮まった。

 

 バリアを張る余裕などない。斬撃で飛べなくなっても、吹っ飛ばされて『赤い球』に近づければ問題ない。その後は戦えるかどうか。

 フェイトが覚悟を決める。バジリスのカマが赤く光った。

 その時、何者かによってバジリスの足がとらえられ、バランスを崩して墜落した。

 

「ドラコ!」

 

 フェイトが叫ぶ。なのはによって倒されたと思われたドラコがフェイトを助けてくれた。

 ドラコは浩を守るために創られた。『赤い球』によって浩が暴走しているからこそ、ドラコも浩を助けたかったのだろう。最後の力を振り絞ったのかドラコは、周囲に見せつけるように片腕を上げると、そのまま倒れて動かなくなった。

 バジリスを振り切ったフェイトは『赤い球』にたどり着いた。

 

「フェイト危ない!」

 

 クロノが叫んだ時にはもう遅い。フェイトの身体が浮遊感に襲われて、『赤い球』から遠ざかる。

 フェイトが状況を把握したときにはスキューラの口の中だった。自分の身体に牙が突き刺さっているのが分かると、体中に激痛が走った。

 巨大顎海獣は体中から黒煙を上げながらも、フェイトを咥えて爆走する。クロノがフェイトを助けようと魔法で攻撃しているものの、スキューラの顎はがっちりと噛み合わさったままだ。ジタバタともがくフェイトにクロノから念話が入った。

 

「フェイト、一斉攻撃でひるませる。出来るか」

「あぐぅ……な、なんとか」

「タイミングは君に任せる!」

 

 痛みに耐えながらバルディッシュに力をこめる。刃が金色に光った。それを見てクロノのデバイス、S2Uに魔力が込められた。

 二人が同時に叫んで、金色と青色の魔法がスキューラの身体で大爆発を起こす。口の根本あたりにぶち当たり、強固な皮膚でさえ貫通し、肉が見えている。さすがのスキューラも同時攻撃には耐えられなかったのか、閉ざしていた大きな口を開く。

 フェイトは転がり落ちるように脱出すると、痛む身体を抑えて上空に飛び立ち、『赤い球』を探した。

 

「フェイト! あそこだ」

 

 クロノが指をさす。

 起き上がろうとしているスキューラの横、なのはを襲うバジリスの奥。キングオブモンスが『赤い球』を掴んでいた。

 状況はさらに悪化したが、重要なことが分かった。あの三体は『赤い球』を守っている。攻撃を食らおうが、敵が背中を見せようが、『赤い球』にかける執着心は高い。だからこそ、あの三体にとって『赤い球』は重要なアイテムだろう。フェイトの推測は当たっていた。

 

「行くよ、クロノ」

 

 クロノとフェイトがキングオブモンス目掛けて突っ込んだ。クレイメイトビームが矢のように飛んでくるが、二人ともギリギリの回避が間に合い、当たらない。

 見かねたスキューラが怪物の王をつつく。二体の間でやり取りがあったのか、キングオブモンスがスキューラの背ビレを片腕でつかむと、クロノ目掛けて投げ飛ばした。

 

「なに!?」

 

 ミサイルのように突っ込んでくるスキューラ。大きな口を開いてクロノに噛み付いた。

 残されたフェイトがキングオブモンスまでたどり着き、腕を切り付けて『赤い球』を奪還。

 

 奪い取った『赤い球』はフェイトの手の中で赤く輝いている。

 母、プレシアに抱かれて眠るフェイト。アルフとリニス、プレシアとピクニックに行くフェイト。ヒロシや怪獣たちに囲まれて楽しそうにゲームをするフェイト。なのはとお菓子を食べてはしゃぐフェイト。

 それらはフェイトが心のどこかで望んだ光景であり、今でも叶えたい願いだった。幻想でありながらも絶対に叶うと、心に訴えてくる『赤い球』。ただ強く願えばすべてが叶う。

 『赤い球』の光が強くなるにつれ、フェイトの瞳から光が消えていく。それはフェイトの瞳の光が『赤い球』に吸い取られているようだった。

 

「負けるなフェイト!」

 

 聞き覚えのある声が響いた。

 浩だった。彼はススだらけの顔で、手にはスマートフォンが握りしめられている。

 かつて『赤い球』にとらわれた少年が、今『赤い球』にとらわれようとしている少女の名を叫んだ。フェイトは何とか踏みとどまると、心の中で強く願う。

 

 ―――珠よ、消えろ―――

 

 『赤い球』が断末魔をあげるように光りを放ち、砂のように崩れて消え去った。その直後、バジリスとスキューラから火花が散る。倒れる気配は無いが、弱体化と捉えるのならば大正解。

 バジリスとスキューラは浩の創り上げた怪獣たちとは異なり、『赤い球』の力のみで生み出された。だからこそ『赤い球』が消えた影響をもろに受けたのだ。しかし、キングオブモンスは違う。この怪獣はジュエルシードや今まで倒された怪獣たちを素材として生み出された。『赤い球』が消えたところで何の問題も無い。

 隙をついて、クロノがスキューラの口から脱出。バジリスの追跡を振り払うと、なのはが浩を守るために駆けつける。三人はそれぞれ武器を構える。クロノが噛まれたところを手で押さえながら作戦を伝える。

 

「なのは、フェイト。バジリスとスキューラは弱っているみたいだ、二人はその二体を倒してくれ」

「クロノ君は?」

「ボクはキングオブモンスを引き付ける。なに、防御や搦手は得意だ。二匹を倒す時間くらいは稼げるさ」

 

 三人は怪獣たちに立ち向かった。

 

 

 

 なのはの相手はバジリスだった。

 バジリスは『赤い球』が壊れた影響か、フェイトを上回るスピードを失っている。複雑な軌道を描き追跡できるアクセルシュートはヒットするが、直線的なディバインバスターはなかなか当たらない。逆に相手の光球、バルバリボールはバリアで防げるようになった。両者とも空中戦を繰り広げるが決め手に欠ける。先に動いたのはなのはだった。

 

「レイジングハート、行くよ」

 

 相棒を振るって、白い靴に魔法の光で翼を大きく羽ばたかせると、バジリスに突っ込んだ。バジリスは巨大なカマを武器にしているため、接近戦は望むところだ。

 なのはが懐に潜り込んでレイジングハートで殴打する。バジリスがカマを振るって、それをはじくと連続攻撃を仕掛けた。接近戦もできるバジリスに対し、なのはは中~遠距離を得意とするため、しだいに追い詰められていった。

 防戦一方だったなのはのバリアが切り裂かれ、急所を見せる。それをバジリスは見逃さない。大鎌を大きく振り上げる。

 

「今だよ、お願い!」

「All right my master」

 

 体勢を崩したなのはに変わり、相棒が魔法を使う。レイジングハートの無機質な声が響くと、バジリスの身体中に光の鎖が絡みついた。複雑に絡み合ったバインドは超獣が暴れても壊れる気配は無い。

 バジリスの強さはスピードだ。バインドが有効だと分かっていたが、仕掛けるのは至難の業。遠距離はバリバルボール、近距離は両手の大鎌、攻撃範囲に隙は無い。だから、なのははあえて敵の得意とするレンジに飛び込み、相手を優位に立たせて攻撃に集中させることで、気づかれずにバインドを仕掛けられた。

 いつだって、なのはの傍にはレイジングハートがいた。なのはがダメでもレイジングハートがカバーしたし、レイジングハートがダメでもなのはの作戦がカバーしてきた。この二人の絆を断ち切るのはバジリスのカマだとしても無理だった。

 一瞬にして形勢が逆転。なのはがレイジングハートに魔力をこめる。

 

「行くよ、レイジングハート!」

「Yes master」

 

 ディバインバスター。ベムラー、ギマイラを倒し、数々の怪獣と戦うときに撃った、なのはの得意技。その威力はメフィラスが危険視するほどの威力だ。いくらバジリスとはいえ、ゼロ距離で放たれたらひとたまりもない。

 

「いっけー!」

 

 レイジングハートから桃色の光線が放たれる。最大まで貯めたこともあり、バジリスの身体すべて飲み込んだ。暴力的な光と威力はバジリスの金切り声をかき消して、銀色の甲殻も、長い首も、両手の鎌も、キングオブモンスとおそろいの羽もみな等しく吹き飛ばした。

 

「ふう、勝ったのかな」

 

 なのはは額の汗をぬぐうと、クロノを助けるべく、飛び立った。

 

 

 

 フェイトの相手はスキューラだった。

 空中を泳ぐ能力を手に入れた海獣の皮膚は堅く、フェイトのどんな攻撃も致命傷には至らない。逆に、突進攻撃は軌道を変え、口を開けることで範囲も変わる。フェイトの攻撃が効きにくいというプレッシャーと、この不規則な突進だけでスキューラはフェイトを追い詰めていった。

 このままではじり貧になると考えたフェイトは、一つの作戦を思いつく。すぐに相棒のバルディッシュと共有する。危険な賭けに相棒は難色を示すも、なんとか説得して実行に移した。

 

「バルディッシュ、準備はいい?」

「Yes sir」

 

スキューラが口を開き、噛み砕くタイミングでフェイトが飛び込んだ。フェイトは上と下にバリアを張って、大顎から耐えしのぐ。バルディッシュは魔力を溜めはじめた。

 スキューラの口は大きく、たしかに必殺の武器になる。しかし、大きすぎるがゆえに獲物を噛んでいると前足や尻尾などの他の器官での攻撃ができなくなる。つまり、この噛み砕き中には他の動作が取れず、自由に攻撃し放題。

 フェイトの作戦はスキューラの口にあえて飛び込むことで、それ以外の行動を実質的に封じる。噛み付き攻撃に耐えながら魔法を溜めて、頑丈な皮膚がない口の中にぶっ放すというもの。

 

 フェイトのバリアがミチミチと音を立て、ヒビが入る。その間にバルディッシュが魔力を溜め切った。

 

「Thunder Smasher」

「ファイア!」

 

 フェイトが放つ砲撃魔法、フェイト版ディバインバスターというべき砲撃はスキューラの口の中で爆発を起こした。口から煙を上げて大きく後退。しかし、スキューラは防御力の高い怪獣だ。口の中を攻撃され、大ダメージを負ったもののまだ戦える。

 

「バルディッシュ」

「Photon Lancer」

 

 もちろん、フェイトはそれさえ見越して次なる攻撃に移る。フェイトの周りに無数の光の玉が現れた。それらはドンドン増えていく。

 

「フルファイア!」

 

 合計三十を超える光の玉。それらがフェイトの合図一つで光の槍に変形すると、稲妻のごとくスキューラ目掛けて降りそそぐ。もちろん狙いは一つ、クロノとフェイトが同時攻撃して出来た傷だ。閉じれば防がれてしまう口とは違い、あそこなら強固な皮膚に覆われていないし、防御もできない。

 さらにスキューラは先程の攻撃から立ち直れずにいた、そんな状況でフェイトの攻撃が外れることなどあり得ない。精密な攻撃を得意とするフェイトだからこそできる芸当。全弾がスキューラの傷口を打ち貫いた。

 スキューラの全身から光が漏れ出し、発光すると大爆発を起こす。難攻不落と思われていた大海獣が木っ端みじんに吹き飛んだ。

 

「クロノを助けに行くよ」

 

 フェイトはマントを翻して、キングオブモンスと戦うクロノの元へと飛んでいく。




 もしかしたら内容少し変えるかも。
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