シリアスな前半からクソみたいな後半になってます。
オマケ:狙ってくれなかった女性
メトロンはアースラ内の病室を出ると、人間に変身し、何食わぬ顔でアースラの廊下を歩いていた。いくらメトロンとはいえ、アースラの内部をすべて把握したわけではない。当てもなく、ただ適当に、気分に任せて、ブラブラしていた。その足取りは大型のショッピングモールで時間を潰すのと同じだった。
それでも黒ずくめの男がウロウロいているのは目立つ行為で、さまようこと15分。アースラのスタッフに見つかり、リンディのいる司令室に連れていかれた。メトロンにとってはこうなることも予想の範囲内だったが。
司令室の自動扉が開き、局員が艦長のリンディに敬礼をした。
「艦長、艦内で不審な男を発見、連行しました」
「ありがとう、さっそくで悪いのだけれど、その男を監視してもらえないかしら」
「了解!」
リンディとしては不審な男の取り調べをしたいところだが、『時の庭園』ではなのはをはじめ、局員が怪獣たちに襲われてバラバラになったという情報が入った。最優先事項はアースラスタッフと協力者の安否確認と居場所の特定だ。
怪しい男の後ろ姿を見送りながら、気持ちを落ち着かせるためにリンディがコーヒーを口に含んだ。
「ブッ」
「やあ、艦長。私はメトロン星人だ」
黒ずくめの男の姿が宇宙人へと変わり、その拍子にリンディがコーヒーを噴き出した。リンディはこぼしたコーヒーを拭くのすら忘れ、呆然とメトロン星人を名乗る極彩色の宇宙人を見つめる。司令室は敵が侵入したことで、大騒ぎとなった。メトロン星人は連行してきたスタッフの拘束を振りほどくと、発生器官を光らせる。
「そんなに怒らないでくれ、私は君たちと話し合いに来た。言っておくが、どこぞの悪質宇宙人と違って私は本当に暴力が苦手でね。まあ君たちが戦いたいのなら、相手をするが……戦闘ができる者は全員、『時の庭園』にいるのだろう?」
スタッフ全員が警戒する中、メトロンはお構いなしに、どっこらしょ。とクロノが使っている椅子に腰かけた。それからどこからともなく麦茶の缶をとりだして、プルタブを立て、缶を開けると、ストローを刺して飲み始める。いつの間にか、手にはシュークリームが握られている。
「おー、やってるやってる」
口と思われる場所にクリームを付けて、アースラのモニターから戦局をうかがう。その姿は休日にテレビを見るのと何も変わらない。
リンディは、本当に戦う気がないのだと分かりつつも、警戒しながらメトロンの前に立つ。
「あなた達の作戦はお見通しです、大人しく降伏しなさい」
「お見通し? 何を言うのかと思ったら、くだらない。作戦的にはね、私がこうしてこの船で、君と喋っているだけで達成してるのだから、成功だよ」
「何ですって!?」
「そんなことよりさ、ゲームをしよう」
メトロンは人間の姿に戻るとトランプを取り出して、シャッフルを始める。メトロンの敵の中心でゲームを始める非常識な行動に、リンディをふくめアースラスタッフの思考が追い付けなくなった。
「ババ抜きでいいかい? それとも七ならべ? あ、大富豪は止めてくれ。ローカルルールが多すぎる」
「あなた、状況が分かってるの? あなたの味方も、私の仲間も戦っているのよ」
メトロンはカードを配り始めた。カードの山は四つだ。
「戦う? 私にはそう見えないけどね。
みんな譲れないものや、自分の中に疑問ががあって、それを伝えようとしてるし、答えを見つけようとしている。会話の相手が喋れない怪獣と人間だ。お互いの共通点と言ったら暴力が好きなこと、だから戦ってしまう。まあ、ヒロシ少年が望んだってのもあるけど」
「なら、あなたはどうなの? なぜトランプを」
「嬉しいことに私は答えを見つけた。戦ってる連中は自分で答えを見つけないといけない、いくら仲間とは言え、そこに私が口出ししてはいけないだろう。このババ抜きは、仲間が答えを見つけるまでの暇つぶしさ」
メトロンはカードを配り終えると、四つの山から一つを選んでペア同士を捨て始めた。その作業を終えると、オペレーターのエイミィを指さした。
「え、わたし!?」
「二人でババ抜きをやってもつまらない、君も混ざらないか。おーい、ドラゴリー、バキシム」
虚空から蛾超獣と一角超獣が出現。アースラスタッフの何人かが武器を取り出すが、二匹とも気にせずにメトロンの隣に座る。ドラゴリーとバキシムはジェスチャーで話し合うと、ドラゴリーがトランプの山を掴んだ。
バキシムは困惑するエイミィの方にヨチヨチと歩いていくと、手の甲でエイミィを叩いてトランプをしようと催促する。
「二対二のババ抜きだ。宇宙人と超獣タッグVS時空管理局タッグ、まさしく世紀の一戦。せっかく勝負するんだ、君たちが勝ったらこれをやろう」
メトロンは懐から小さなボタンの付いた四角い箱をとりだした。よく分からないまま着席させられたエイミィが問う。
「これは何?」
「『時の庭園』の自爆スイッチだ」
あっけらかんと言い放つメトロン星人。あいにく宇宙人の姿に戻ってしまい、表情から何を考えているのかは読み取れない。ドラゴリーもバキシムもスイッチに関してノーリアクション。衝撃が走ったのはアースラスタッフだけだった。
「自爆スイッチですって!?」
「嘘だよ。そんなものをポケットに入れて、うっかり押してしまったら大事故だろう。物騒じゃないか」
「……何考えているのよ、あなた」
「案外、なーんにも考えてなかったりして。ささ、ババ抜きをしよう。君たちが勝つたびに怪獣の弱点を教えてもいいから」
「分かったわ。私たちが負けたら何をすればいいのかしら」
「んー、海鳴市に翠屋っていう洋菓子店があってね、私はそこのシュークリームが大好きなんだ。それが食べたい」
リンディがメトロンを睨みつける。
正確には睨みつけるだけで精一杯だった。敵かと思ったらババ抜きを持ち掛けて、自爆スイッチまでも渡してくる。自分たちが勝ってもお菓子を要求するだけ。リンディが時空管理局に入ってからずいぶん経つが、こんな目的も分からず、ふざけた態度をとる犯罪者を見たのは初めてだ。
とはいえ、ババ抜きをすればシュークリームで怪獣の情報が手に入る。あの自爆スイッチが偽物である確証も無い。なのは達が動けなくなったところを押されたら大変だ。何よりも、アースラ内で怪獣と戦闘になればサポートどころじゃなくなるし、司令室が破壊されて操縦不能になったら帰れない。機嫌を損ねるのは危険だと判断する。
リスクとリターンを考えてた結果、戦っているメンバーに申し訳ないと思いつつも、リンディとエイミィはババ抜きすることに決めた。メトロン星人のペースを乱すことは容易でないと理解したうえで。
かくして、時空管理局と地球とその他色々の命運をかけたババ抜きが始まった。
カードを引く順番はメトロン星人からリンディ、リンディからドラゴリー、ドラゴリーからエイミィ。それでエイミィがメトロン星人のカードを引くことになった。
メトロンはリンディのカードに手を伸ばし、どれにしようかなの要領でカードを選んでいる。
「まず、君たちが覚えていて欲しいことがある。……あ~、揃わなかったか~」
「何かしら? ……ハートの2、これでペアね。」
「我々、宇宙人も怪獣も、超獣も、ヒロシ少年が創ったのには願いが込められていてね。例えばベムスターは高町なのはに勝ちたい、そこのドラゴリーとバキシムは私の用心棒の他に、友達が欲しいって願って創られた」
ババ抜きをするドラゴリーはエイミィからカード引くと、ペアを作り、嬉しそうに捨て場に投げた。エイミィからカードを引かれる時もメトロンの話は続いている。
「つまりだね、その怪獣がどうしてヒロシ少年に創られたか、役割は何か。それによって関わり方が変わってくる。今回のドラゴリーとバキシムに関しては、私の護衛が目的で私の管理下にあるから、私を攻撃しなければ戦闘にはならないよ」
アースラ内で戦闘が起きる心配がなくなった。
リンディからのメトロンに対しての評価は、胡散臭いが暴力は徹底的に嫌っている。この話に関しては信用しても大丈夫だと判断する。
「それで、どうしてあなた達がこのアースラに侵入できたのかしら」
「うん、モキアンと戦ってた隙に忍び込ませてもらったよ。この話はプレシアにもしたが……」
「プレシア!? プレシアってまだ眠ってるはずじゃ」
驚愕するエイミィ。彼女に変わってモニターを監視していたスタッフが叫んだ。
「『時の庭園』内にプレシアの姿があります! 傀儡兵を連れてスコーピス、ゾイガー軍団と交戦中。時空管理局の援護をしています」
「おお、二児の母でいっぱいいっぱいだと思ってたが、彼女もやるもんだね。脱走の手伝いをしてよかったよ」
「タイラント襲来、プレシアと交戦に入りました」
緊迫する中もババ抜きは続けられた。メトロンがリンディからカードを引いて、7を揃える。
「タイラントはプレシアと戦って自分が何者なのか、その答えを得ようとしている。命令がプレシアを倒せってのもあるけど。ね、ヒロシ少年の願いや命令で動いているだろう?」
「……つまり、ヒロシ君の命令や意図を読んで動けば、戦闘が有利になるのかしら?」
「さすがにそれ以上は言えないなあ。ま、だからといって我々が素直に言うことを聞いてると思ったら大間違いだよ」
メトロンが7のカードを捨てる。表情は相変わらずだが、メトロンは自分の番になるまで7のカードを見つめつづけた。
ババ抜きはリンディとエイミィが情報を引き出したいがために、会話が中心に進んだ。途中で怪獣の情報や作戦を話したから時間がかかった。
あれから時が流れた。
『時の庭園』では、なのはとクロノが浩の居場所を発見し、全力で向かっていた。ユーノやアルフ、アースラのスタッフたち全員で協力し、怪獣軍団を引き付けている。なのはとクロノという管理局側の最大戦力を、黒幕の浩にぶつけられる。
浩の持つ『赤い球』さえどうにかしてしまえば時空管理局の勝ち、つまりこの事件も大詰めだ。大切な局面に、アースラの艦長リンディは……。
「さあ、早く引きたまえ。ここまで勝負が長引くとは思わなかったが楽しかったよ」
「分かってるわよ」
メトロン星人とババ抜きをしていた。
捨て場にはカードの山ができ、ゲームで使われている札は三枚。エースが二枚とジョーカー。残るプレイヤーはリンディとメトロン。リンディがメトロンからエースのカードを引けば、時空管理局の勝ちとなる。
「どうした、大切な場面が見られなくなるぞ」
「……うるさいわね、少し黙っててくれるかしら」
メトロンの持つ二枚のカードを凝視する。裏は全く同じ模様で違いが分からない。
透視能力さえあれば……様々な魔法を覚えてきたリンディだが、ここにきてババ抜きに勝つためだけに、新しい魔法を習得したいと思ったのは初めてだ。このババ抜きに勝てば、約束によりメトロンから浩の切り札に関する情報を入手できる。この情報が有るのと無いのでは話が変わってくる。どうしてもこのババ抜きには勝ちたかった。
「右!……ひだり、右!」
リンディは心理作戦に出る。手を左右に動かして相手の表情を確かめる。
リンディは時空管理局に長い間、勤めてたこともあって様々な人と出会い、表情から何を考えているかを、ある程度推測できるようになっていた。今回はそれの応用、目を光らせてメトロンの表情のわずかな変化も見逃さない。その変化からどちらにジョーカーを持っているのか見抜ける自身があった。
「さっきから何をしているのかい?」
メトロンの表情は一切変化しなかった。いや、実際には分からなかった。だってメトロンは人間ではない、メトロン星人。宇宙人なのだから。
心理作戦が失敗に終わったが、ババ抜きは終わっていない。リンディは長年の経験から次の作戦に出る。
「メトロン……あなた、右利きかしら」
誘導尋問作戦だ。
リンディは時空管理局に長い間、勤めてたこともあって様々な人と出会い、人の言葉から何を考えているかを、ある程度推測できるようになっていた。今回はそれの応用、耳を澄ましてメトロンのセリフの一言も見逃さない。右か左か。言葉のどちらにジョーカーを持っているのかを見抜ける自身があった。
「両利きだが」
「……そ、そう。じゃあ、普段道路を歩く時はどちら側を歩くことが多いのかしら?」
「そうだな……しいて言えば、バキシムの異次元を通って移動しているから分からない」
「……便利な、能力、なのね。なら野球の外野で注目する場所は?」
「センター」
「センターも、大切な守備位置よね。じゃあ、カレイとヒラメ、どっちが好きかしら」
「食べたことないから分からないなあ」
メトロン星人は強かった。
リンディの右か左かを答えさせる作戦も通用しない。だが、ここでリンディが気づいた。宇宙人相手に地球の文化で戦ってきたことが間違いだったのだ。同じ宇宙で、それもウルトラマンに関する質問で攻めれば、必ずや右か左。メトロンの好きな方を言ってくれる。そして、その方向にリンディの求めているエースのカードが握られている。
リンディの顔つきが変化する。長年の付き合いだったアースラもリンディの表情から、彼女が勝負に出ると分かった。スタッフが見守る中、リンディがついに動いた。
勝負よ、メトロン。
「ウルトラマンダイナに出てきたチェーン星人のライトとレフト、どっちが好き!」
チェーン星人は野球と違ってセンターが居ない。答えはおのずとライトとレフトになる。
勝った。メトロン星人の分かる話題かつ、右か左以外に答えは無い質問。これで第三の選択肢はあり得ない。後はメトロンの答えを聞いてこの勝負が終わる。右か左か、ライトかレフトか、カレイかヒラメか。答えは……。
「んー、デマゴーグ」
「宇宙人って言ったでしょー!」
誘導尋問作戦は失敗に終わった。崩れ落ちるリンディ。
だが、リンディにはとっておきの作戦がある。ハイリスクでハイリターンな作戦、だからこそ、今まで使ってこなかった。その作戦をついに使うときが来た。その名も……。
「明日のエースは君だ、女の勘よ!」
女の勘。今まですべての考えを捨て去ることで、50パーセントの純粋な運へと持ち込む大技。リンディの最終必殺技だ。
リンディはメトロンの二枚のカードのうち、一枚をものすごい勢いで躊躇いも無く抜き取った。手元にはスペードのエース、引いたカードは……。
「ダイヤの、エース……勝った、勝ったわ! 勝ったのよ! みんな、みんなー勝ったわ」
リンディは両手を高く空にあげた。エイミィを筆頭に、リンディの元にアースラスタッフが駆け寄ってくる。みんなリンディに抱き着いて、喜びを分かち合った。ようやく、長く苦しいババ抜きが終わったのだと実感する。これで、メトロン星人から浩の怪獣の弱点を聞いて、なのはに伝えれば。
「あ、なのはちゃん、勝ったみたいだよ。おめでとう、この勝負は君たち時空管理局の勝ちだ。それでは失礼する、楽しかったよ」
「え?」
メトロンに言われてモニターを覗くと、フェイトが浩に支えられて見たことない怪獣を攻撃している。
呆然とするリンディにメトロンが淡々と言った。
「ババ抜きに勝てたというのに、賞品が渡せないなんて残念に思うよ。だからコレを押すことにした」
ポチッとな。メトロンは『時の庭園』自爆スイッチをなんの躊躇もなく押した。岩石で出来た柱が爆発し、そのまま城も崩れ始めた。
「早く回収してやるといい。まあ、間に合うと思うがね。それでは私はこの辺で」
メトロンは白い手を振ると、バキシムとドラゴリーを連れて消えていった。
リンディと仲間たち力なく手を振り返して、現実を受け入れられずに虚空を見つめた。
『時の庭園』に二度目の大爆発が起こる。
「はやくみんなを連れ戻して。私が外に出て爆発を遅らせます」
リンディの時空管理局人生の中で最も覇気のない指令がアースラ内に飛んだ。
プロローグとエピローグ以外のサブタイトルに元ネタがあるけど、皆さま分かりましたか?