第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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うたかたになって……

 管理局に浩から送られた手紙。内容は近々ヴォルケンリッターを倒すというもの。

 『闇の書』というロストロギアが海鳴市に現われ、それを完成させるために守護騎士たちが登場、なのはやフェイトを倒してしまった。隠れて生活していた浩たちも例外なく襲われて、ヴォルケンリッターに戦いを挑んだのだろう。

 

 この手紙が鹿島浩率いる怪獣軍団が『闇の書』事件に介入するという合図だった。浩たちの目的はいたって簡単で、怪獣達を襲わないで欲しい。ただそれだけ。つまり、守護騎士たちや『闇の書』の主が、もう怪獣達を襲いません、それよりも時空管理局をどうにかしてください。と言えば浩たちが守護騎士側に着く可能性もある。元々管理局と浩たちは敵対していたのだから。

 

 現状の二大敵勢力が争っているうちに、クロノたちは別の準備に入る。まず初めに、クロノのデバイスが新調された。前回の戦闘でクロノはキングオブモンスによってデバイスを折られている。今回は相手が『闇の書』という危険なロストロギアともあり、『デュランダル』というデバイスを用意してある。

 次に高町なのはとフェイト・テスタロッサのデバイスの強化だ。ヴォルケンリッターのカートリッジシステムという機能によって、なのはとフェイト達は負けた。今後、守護騎士たちと戦う可能性があるため、是非とも用意しておきたい機能である。このカートリッジシステムについてはプレシア主導の元、早急に用意され、レイジングハートとバルディッシュに実装された。

 

 なのはとフェイトのデバイスがちょうど完成したときに戦闘が起こった。エイミィがギマイラの霧を何とか掻い潜り、スクリーンに映したものはタイラント、ゼットンと戦うシグナムとヴィータの姿だった。

 

 昼間なのに霧がかかった大都市、結界によってつくられた不気味な空模様はこの世のものとは思えない。だが、空模様の除けば何の変哲もない街だった。ビルが立ち並び、道路が整備され、コンビニにもデパートにも品物が陳列されている。文字通り現実世界から切り取られたこの異空間。

 

 そんな隔絶された都市は崩れていった。大通りを陣取って腕を振り回し、口から炎を吐いて大暴れする大怪獣たち。対するは服のような鎧をまとった二人の女騎士。画面を介してみれば映画か何かであると誰もが思う光景に、フェイトの目は釘付けになっていた。

 後からシャマルとザフィーラが集合。怪獣達も次々に現われて、守護騎士たちと怪獣軍団との全面戦争が行われた。

 

 勝敗はあっけなく着いた。怪獣軍団の勝利だった。

 

 勝因は敵の戦闘パターンを熟知していたことと怪獣達の連係プレー。

 ギマイラの霧とバルタンの重力操作で結界内を掌握。シグナムにはタイラント、ヴィータにはゼットンという相性の良い怪獣をぶつける。その後、守護騎士たちが全員集まったところで怪獣軍団を召喚、数の暴力でペースを握る。ゼットン、タイラント、キングジョーなどの強豪怪獣を守護騎士と戦わせ、残ったメンバーが遠距離から援護射撃。テレスドンが作った地下通路や、ビルの上によじ登ったゾイガーたちも攻撃に参加。つねに四面楚歌の状態を作り続けて力でねじ伏せた。

 

 極めつけはリーダー、シグナムの動きを封じてから残った三人を中心に集め、光線を放ち爆撃する。もちろんバリアで防がれるが、それも読んでのこと。ゼットンがザフィーラの作り出した障壁やシャマルのバリアの内側にテレポーテーション、そのまま火球を叩きこむ。

 攻撃を防ぐバリアの内側から攻撃をすることでバリアそのものを無効化し、術を解除させたあげく真上から巨大なビルを次から次へと落として下敷きにした。

 

 残ったシグナムがギラス兄弟を倒して一矢報いたところで映像は途切れた。それでもこの状況下、シグナムたった一人で残りの怪獣達を倒せるわけがない。

 

 

 あまりの光景に管理局のスタッフは息を飲む。フェイトも例外ではない。『時の庭園』で戦った時には互角の勝負だったが、フェイト達が裁判でもめている間、浩たちは連係プレーを強化したのだろう。

 

「……すごい」

 

 正義は強きものにあり。かつて、どこかの侵略者の言葉。

 守護騎士はあくまでフェアプレーにこだわったが、怪獣たちは無法状態だった。強い者が勝ち、弱いものが負ける。ウルトラマンで度々起こる怪獣同士の戦いそのもの。わざわざ宣戦布告の手紙を管理局に送るだけの事を浩たち怪獣軍団はやってのけた。

 

 無言が漂う会議室。その緊張を解いたのもエイミィだった。彼女は必死にパネルをいじって現状起きていることを報告する。

 

「民家に反応あり、これは……シグナム!? メフィラス星人もいる。他には、鹿島浩とメトロン星人、バルタンも。あと、小さな女の子もいるよ」

「なんだって!」

 

 あの戦いの後で何が起こったのか分からないが、シグナムと浩たちが対話している。もし、二つの勢力が協定を結ぶとなれば、管理局にとって不利になるのは言うまでもない。

 

「私、行ってきます」

「あ、待てフェイト!」

 

 クロノの制止も聞かないで、フェイトは会議室を飛び出した。もちろん、目的は浩に会うためだ。

 

 

 

 フェイトは転移すると、八神家と書かれた表札の前にいた。この家で守護騎士と浩が対話している。管理局としてはこの対話を阻止したいところだが、フェイトの心は別の場所にあった。

 

「もうすぐヒロシに会える」

 

 鹿島浩。怪獣達を従えて、『赤い球』に操られたフェイトの一つ上の少年。フェイトが心細い時にはアドバイスをくれて、不死の病となるプレシアの病気を治してくれた。一緒にウルトラマンを見て、トランプやテレビゲームで遊んでくれたフェイトの初めての友達。

 

 彼はキングオブモンスを生み出して破壊の限りを尽くして、『時の庭園』と崩壊と共に消えていった。フェイトは助けるだけ助けてもらいながらも、浩を助けられなかったことに負い目を感じていた。次会ったら、ありがとう。と言いたい。フェイトは七夕の時からそう思っている。

 

「ヒロシ君いる?」

 

 フェイトはドアをノックするのも、インターフォンを押すのも忘れて、八神家の玄関を強く開いた。

 メトロン星人がお茶菓子を出して、いつものように敵味方関係なく談笑しているのだろう。自分もその中に混ざりたい。しかし、廊下から聞こえてきたのは、誰かの笑い声でも、メトロンのイケボでもなく、悲鳴だった。

 

「ヒロシ!」

 

 フェイトは一瞬にして魔導士の姿に変身すると、リビングへ突っ込んだ。

 そこには『闇の書』を持った仮面の男と、本に吸い込まれるテレスドンとドラコ。うろたえる車いすの女の子とそれを庇うシグナム、転送の準備をするメトロンとメフィラス。浩は……机の脚にしがみついて無事だった。

 

「フェイト! 何故君が……いや、そんな場合じゃない。早く逃げるんだ」

「待ってヒロシ、今助けるから」

 

 メトロンの言葉など耳に入らず、フェイトは仮面の男を敵と決め、バルィデッシュを振るった。

 しかし、その刃が届くことはない。『闇の書』を持った仮面の男とは別の仮面の男に妨害された。バルタン星人の分身の術のように、うり二つの姿を持った仮面の男たち。フェイトは片方の男に首を掴まれて、さらにバインドを食らい、動きを封じられてしまう。

 

「転送の準備が整いました。場所は不明ですが、この場に居る全員がワープできます」

 

 メフィラスの合図と同時に転移装置が光った。フェイトの身体が浮遊感に襲われ、足元が光りだす。

 

「メフィラス、フェイト!」

「ヒロシ!」

 

 だが浩は違ったようで、『闇の書』に吸い込まれかけている。彼の下半身は半透明になりつつあり、消えてしまいそうだ。

 

 フェイトは仮面の男を蹴とばして、脱出すると浩の腕を掴んだ。

 『時の庭園』の時には掴むことすら出来なかった浩の手。あの出来事はフェイトのトラウマとして心にしっかりと刻まれている。でも今は違うバルディッシュは強化された。守護騎士に負けてしまったが、なのは達は助けられた。無力で自分の弱さに沈んでいた自分じゃない。

 あの時助けられなかった浩を助けるために、助けてありがとうって言うために。フェイトは浩を助けなければならない。

 

「フェイト」

 

 浩が名前を呼んだ。フェイトの腕に力が入る。あとは引き抜いて連れ戻すだけ。

 

「ヒロシ、絶対助けるから。絶対に、手を、離さないで」

「フェイト、無理だ。だって、もう……」

「諦めないで、だって、まだ。……え、どうして」

 

 浩の身体は光の粒になりつつある。さっきまでフェイトがしっかりと掴んでいた腕は透けてしまい、今にも消えそうなほど弱弱しい。フェイトはバルディッシュを口に加え両手で浩の右手を優しく掴む。

 メフィラス達が転送を始めた。その時までに浩の手を握って繋ぎとめていればいい。そしたら一緒に転送されて、また皆でウルトラマンを見れる。それまで浩を……。

 

「ゴメン、フェイト」

 

 フェイトが助けたかった浩は、それだけ言い残すと光となってフェイトの手をすり抜ける。

 

 そして『闇の書』へと吸い込まれてしまった。

 

「いや……いやああ」

 

 カコンとバルディッシュが床に落ちた。フェイトは悲鳴を上げて、そのまま転送されていった。

 

 

 

 フェイトが転移した先はリンディが買った一軒家だった。家具が一つもない、からっぽの部屋に魔法陣を描き、呆然と管理局本部まで転移する。

 フェイトの突然の帰還をなのは達が出迎えてくれた。管理局も八神家で起きたことを、スクリーンを通じて見ていたようで、みんながそれぞれ言葉をかけてくれた。だが今のフェイトは、なのはの慰めも、クロノの説教も、使い魔アルフの言葉だって耳に入らず上の空。両腕に残った、一人の少年が残した僅かなぬくもりを求めて、小さな両手を握っては開いてを繰り返す。

 

 それから自室にこもってうずくまる。

 思い出すのは浩と一緒に過ごした日々。レンタルビデオ店で浩と出会ったのが始まりだった。メビウスを見て、デスレムとグローザムを研究した。管理局のクロノから一緒に異次元に逃げて、メトロン星人とお茶会をした日。エアロヴァイパーの背中に乗って、リニスを助けたこともあった。プレシアの病を治してくれたし、ジェロニモンのおかげでアリシアっていう妹も出来た。

 浩の創ったキングジョーと一緒になのはと戦ったときは自滅していたけど、それが浩らしいなって思ったこともある。最後のキングオブモンスをなのはとフェイトと浩の三人で倒したのはフェイトの自慢だ。一度『時の庭園』と一緒にいなくなったけど、七夕の願い事を見て、生きていると分かったら嬉しかった。

 

「もっと遊びたかった。もっと会いたかった。……ヒロシは、私の初めての友達だったのに」

 

 浩はいつも私を助けてくれた。心の支えになってくれた。クローンだって言われて塞ぎ込んだフェイトに最後まで寄り添ってくれたのは、他でもない浩だ。でも、その浩は居ない。フェイトの支えとなった少年は『闇の書』の中に消えてしまったのだ。

 

「もう二度と大切な人を失いたくない。なのはも、アリサも、すずかも……。私の大切な人を奪う奴を、私は許さない」

 

 フェイトの赤い瞳に真っ赤な炎が宿る。タイラントやゼットンの炎に負けをとらない深紅の炎。フェイトは立ち上がると自室を後にする。そして、管理局の様子見という方針を聞いて地球に転移した。

 

「……時空管理局は様子見だって言ってたけど、それじゃ遅い。シグナムは生きているし、今こうしている間にも仮面の男が魔力収集をしているはず。私の大切な人が傷つかないうちに……私が、私が何とかしないと。悪い奴を倒して、今度こそ、私の力で、大切な人を守るんだ」

 

 バルディッシュにだけ聞こえるように覚悟を決める。シグナムが一人で怪獣軍団に立ち向かっていったのと同じように、たとえ一人だって戦える。敵はヴォルケンリッターと仮面の男たち。さっそくサーチ魔法を使おうとすると、後ろから名前を呼ばれた。

 

「待ってフェイト。いきなり飛び出してどこ行くのさ」

「管理局は様子見って言ったでしょ?」

 

 アリサとアルフだ。無断で行動したフェイトを連れ戻しに来たのだろうか。とはいえ、フェイトは友達と使い魔から何と言われようと、守護騎士と戦う意思を変えるつもりはない。

 

「……ごめん、今こうしている間にも魔力収集が続けられていると思うと、私。うんん、もし、なのはやすずかもいなくなったらって思ったら」

 

 アリサは無言でフェイトを見つめると、はあ。とため息を吐く。

 

「全く、あんたもなのはも自分一人で背負い込んじゃって。少しは周りの人を頼ればいいのに」

「アリサ、何を言って」

 

 連れ戻しに来たと勘違いしたのか、アルフが聞き返す。しかし、アリサはそんなことを思っていないようで。

 

「私も混ぜろって言ってんの。こっちだって、なのはとすずかを傷つけられて、ティグリスを失ったのよ。腹の虫が納まるわけないじゃない」

 

 思いがけない味方が現れてフェイトが目を見開いた。アリサは照れ臭そうに髪をいじっている。さらに、地面に魔法陣が出来上がるとリニスが現れた。

 

「同感です。私もヒロシには御恩があります。今からでは遅いかもしれませんが、せめて彼の成したかったことをしてあげたい。それが仮面の男を倒すというのであれば、微力ながら私も協力します」

 

 リニスも加わる。それだけでは終わらなかなった。空間が歪むと冷気がフェイト達を包み込む。冷たい風、凍えるような冷気をフェイトは肌で覚えている。絶対零度ともいえるこの冷気は。

 

「……グローザム」

 

 かつてなのはとフェイトと激闘を繰り広げ得た宇宙人。冷凍星人グローサムだった。

 

「よう、フェイト。久しぶりだな。こうして会うのはあの戦い以来か、負けちまったが面白かった。っと、それを言いに来たんじゃねえ。その仮面の男退治に俺たちも連れてってくれって話だ」

 

 こいつらもな。グローザムが示した先に怪獣軍団が並んでいる。

 暴君怪獣・タイラント、スペースビースト・ゴルゴレム、宇宙ロボット・キングジョー、進化怪獣・ラゴラスエヴォ。怪獣達が同意を表すように吠えた。ヴォルケンリッターと戦った怪獣達。仲間を傷つけられて立ち上がり、八神はやてとの和平に不満を抱いた怪獣達だった。

 

「状況的に勝てるはずだった勝負を止められて、俺たちはリーダーの浩を失った。もしあのままヴォルケンリッターを倒し、『闇の書』を手に入れていたらこんな事にはならなかったはずだ。だから今度こそ、ヴォルケンリッターを倒し『闇の書』も手に入れる」

 

 氷の身体にある心は闘志で厚く燃え滾っている。主、浩の敵を討つためにグローザム達が仲間に加わった。

 

「ええい、もうどうにでもなれ。アタシはフェイトの使い魔さ、御主人を守らなくてやってられるかってーの」

 

 アルフも腹をくくる。リニスと戦ったゴルゴレム、フェイトと協力したキングジョー。アリサと戦い、ティグリスと友達になったラゴラスエヴォ。タイラントはフェイトの母、プレシアと戦っている。グローサムにとどめを刺したのは他でもないフェイトだ。アリサは地球に来てからできた友人だし、リニスはフェイトの師匠。そしてアルフは使い魔であり、フェイトの大切な家族でもある。

 時に戦って、時には協力し合った。かつての味方だった友達も敵だった怪獣も、今は守護騎士たちを倒すという目標を掲げて手を取り合う。

 

「みんな……ありがとう。本当に、ありがとう」

 

 フェイトは地球に来たときはアルフと二人っきり。今回は一人で戦うはずだったのに、いつの間にか仲間に囲まれていた。今まで過ごしてきた日々は決して無ではなかったと噛み締める。奇妙な縁で集まった、これ以上ない強力な仲間たち。使い魔に怪獣に人間、おまけに宇宙人。新しい仲間たちを従えて、フェイトは魔力を収集する悪者を倒すために立ち上がった。




 あ、浩生きているから。
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