今俺は学校のキャベツ畑にいる。キャベツ畑とはいってもしょせん市立、ものすごく小さい。昨日のベムラー倒した女の子は私立だからキャベツ畑も大きいのだろうな。
市立小学校に何故、キャベツ畑があるかというと五年生がキャベツの観察に使うためだ。決して食べるためではない。さらに、育てたキャベツについた虫を三年生が観察するという目的もある。俺も去年はキャベツについた虫を飼育したので、この辺はよく分かっている。
さて、何故俺が今、キャベツ畑にいるのかというと、イモムシが欲しいからだ。昨日の夜、『赤い球』に願ってグローザムとデスレムを呼び出した。次はバキシムとドラゴリーの番だが、せっかく超獣を創るのでヤプールのように地球で元になった生き物と超獣のソフビを合体させたいと思った。
そんな理由で、休み時間に友達とサッカーしたかったが、バキシムの元になるイモムシを探しにキャベツ畑にいる。
「お。いたいた」
イモムシはすぐに見つかった。これを虫かごに入れて適当な場所に隠し、放課後を待つ。
帰りの会が終わると俺はすぐに教室を飛び出して虫かごのを回収し、友達の誘いを断って帰宅した。
「ただいま」
「おう、帰ったか」
玄関を開けて出迎えてくれたのは冷凍星人グローザム。三日月を横に倒し、全身銀色の鎧に覆われているような見た目をしている。
ウルトラマンメビウスで初登場した彼はエンペラ星人率いる暗黒四天王の一人、豪将の地位についている。両手の剣、グローザムブレードと口から吐く冷気、ヘルフローズンブレスが武器だ。また再生能力もあり、身体を木っ端微塵にしても復活してしまうほど強力だ。
ウルトラマンと戦った時は冷気を放っていたが、家にいるときはお願いして冷気を放たないようにしてもらっている。本人は嫌がっていたが、俺が頼み込んだら渋々受け入れてくれた。個人的にツンデレ疑惑があるので隙を見て『グローザム、ツンデレ説』を検証したいところ。メフィラスにたずねてみたら爆笑していた。
「あ、グローザム。他の皆は」
「デスレムならそこにいるぞ。メフィラスはお前の親に代わって会社とかいう場所に行った」
自慢のブレードで魚をさばいているグローザムはすごいシュール。だが、本人はサクサク切れる魚の感触が気に入ったらしく、ノリノリで三枚おろしにしていた。今日の夕飯はお刺身だ。昨日は寿司だったが。
「ヒロシ、メトロンは虫網を買いに行った、時期に帰ってくるから。まあ待て」
ひょっこりと顔を出したのはデスレム。こっちもウルトラマンメビウスに登場した策謀宇宙人。グローザム同様エンペラ星人に仕える暗黒四天王の一人だ。骨と肉体を逆転させたデザインと扇のように巨大化した左腕、デスレムクローが特徴的だ。必殺技は時空を歪ませて火球を放つデスレムインフェルノ。
そんな彼は破壊された俺の部屋を直してもらっていた。ゴミ袋から怪獣のソフビを取り出して並べてもらっている。今後、使えそうな怪獣や宇宙人がいたら教えてもらうつもりだ。
「ただいま。っとヒロシ少年、帰っていたのか」
メトロンの帰宅。手には新品の虫網が三本握られていた。
「イモムシは捕まえてくれたかい?」
「もちろん、バキシムを作ろう」
リビングに移動して、ちゃぶ台を囲んだ。麦茶の缶にストローをさしたメトロン、魚を切り終わったグローザムと片づけを中断したデスレム、そして俺の四人がちゃぶ台を囲んだ。木でできた机の上に青とオレンジのソフビとイモムシの入った虫かごをおいて、『赤い球』を取り出した。
昨日と比べてボコボコしている気がするが、気のせいだろう。俺は球に祈った。
「ソフビとイモムシでバキシムを創れ」
四度目の赤い光を放ち、球が輝いた。
イモムシがソフビに吸い込まれて、2メートルと15センチほどの光になった。光が止むと、ちゃぶ台の上に超獣が立っている。
青とオレンジの対照的なカラーの超獣。イモムシのようなぷよぷよしたお腹と、逆に鉱物のようなダイヤ型の突起物が生えた背中。手には指の代わりに鋭い棘が並び、頭の上には二つ名にもなったの大きな一本角が生えていた。一角超獣バキシム。それがコイツの名前だ。
ウルトラマンエースに登場した超獣のコイツは両手から火炎放射を放つ他、鼻からミサイルを発射させ、頭の角が誘導ミサイルにもなる。また、人の言葉を話し、変身能力もある。空をガラスのように割って異次元と繋ぎ、移動することも可能だ。
本来は65メートルもあるが家の都合上、小さくなってもらった。カプセルから復活したアボラスみたいに家壊されたくないし。
バキシムはきょろきょろとあたりを見渡して、デスレムとグローザムに驚いた。それから俺の方を向くと口を開いた。
「ヤプール以外に創られるとは思わなかったけど、仲良くしようぜ」
バキシム、フレンドリーじゃん。
「やあ、バキシム。君は私と一緒に行動するけど、不満はあるかい?」
「メトロンか。同族が一緒に戦ったらしいな。ま、いいや。楽しくやろうぜ」
「もちろん」
バキシムと握手すると痛い。それはお互い分かってるみたいで、メトロンとバキシムはお互いの手の甲をぶつけて友好の印とした。
「バキシムさ、早速お願いがあるんだけど、君の異次元にこれから怪獣とか宇宙人を住まわせたいんだよね。いい?」
「え、構わねーけど、誰?」
「ドラゴリーとか」
「蛾超獣か~イイね。大怪獣バトルでもおっぱじめる気? デスレムさんとグローザムさんいるし、俺ら必要なくない?」
バキシムは話しやすい、いいヤツだった。
「俺たちはメフィラスとつるむから、オマエはメトロンのボディーガードをしろよ」
「はい、分かりましたグローザムさん。メフィラスさんもいるんですね」
「ああ、ヤツは仕事をしているらしい。可哀そうだな、フハハハハハ」
デスレムはお馴染みの笑い声を上げた。こいつ、よく笑うんだな。
バキシムの上司、ヤプールもデスレムとグローザムと同じ暗黒四天王の一人だった。バキシムから見ればデスレムたちは上司の同僚なので敬語なのか。
メトロンのもう一体の仲間、ドラゴリー。コイツは蛾超獣と呼ばれるだけあって蛾と宇宙怪獣を合成して作った超獣だ。そんなわけで、蛾を採取したいが、蛾は夜になってからの方が出会いやすいと思ったので日が落ちるまで待つ。
メフィラスが帰宅し、グローザムの下ろした刺身を食べてから夜の街へと出かけた。
メフィラスとグローザム、デスレムの三人はやりたいことがあると言って家に残った。蛾を採りに行ったのは俺とメトロンとバキシム。バキシムもメトロンも変身能力があるのでそれを使い、近くの蛾が集まってそうな街頭を中心に探し回る。
蛾もイモムシ同様すぐに見つかって、俺たちは虫網を構えた。
「ヒロシ、超獣の方が動きやすいから戻っていい? 人来ないし」
「うーん、いいよ」
この前のベムラーVS女の子が話題になっていなかったから大丈夫だと思いながらも、この街の監視の目に不安を抱きつつもバキシムにOKを出した。
バキシムが超獣の姿になるが、両手には棘が生えているため虫網を持つことができない。そこで俺はヒモで手と虫網を括り付けてやった。
「ヒロシ、行ってくるぜ」
バキシムは文字通り、緑色の目を光らせてやる気を見せると、短い脚でよちよち歩いて、それから街頭の下で腕をブンブン振り回していた。かわいい。メトロンもほっこりした様子で眺めている。
苦戦するかと思いきやさすがは超獣。五分くらいで蛾を捕まえて戻ってきた。
「ほれ、蛾、捕まえた」
「すげぇー」
「お見事。では、うちに帰るとしよう」
目的を達成した俺たちは意気揚々引き上げた。
ところ変わって鹿島家。ここでは留守番した三人の宇宙人がちゃぶ台を挟んで顔を合わせている。照明を落とし、真っ暗の部屋にはそれぞれの器官が光っていた。
一人目は真っ黒な姿の宇宙人、メフィラス星人だ。今回、話を持ち掛けたのがコイツだ。
「お二人には話したいことがあります」
「仕事の愚痴か? 聞いてやるぞ。オマエが苦労した話なら尚更な。フハハハハ」
二人目、笑っているのはデスレム。扇状の手を叩いて喜んでいる。
「そんな下らないことをするくらいなら俺は抜ける。ブレードの手入れをしたい」
三人目、若干不機嫌なのはグローザム。魚を下ろした結果、自慢の武器が生臭くなってしまい苛立っていた。現にファブリーズをブレードに吹きかけている。
「グローザム。そう言わずに。仕事に関してですが、地球人の効率が悪すぎる。おかげで存分にサボれました。これでお金がもらえるとは楽ですね」
IQ一万もある彼ならではの発言だ。メフィラスは浩父の名刺を見ながら会社までたどり着き、地球には無いメフィラス星の科学を使って仕事を片っ端から終わらせた。その後は忙しい振りしてサボタージュ。
これも浩の、メフィラス星人の科学力は飛びぬけてスゴイ。という漠然としたイメージを『赤い球』が見事にかなえてくれた。
「そんなことが言いたいのではありません。これを見てください」
メフィラスが小さなダイヤ型の青い宝石を取り出した。デスレムとグローザムは興味深く見つめていた。
「おい、これは何だ。よく分からんが強力な力を秘めているぞ」
「こんなものが地球にあるのか?」
デスレムもグローザムも初めて見たという反応を示した。
「おそらく違います。ヒロシ少年が持っていたあの『赤い球』同様、地球上にあるものではありません。働いたから分かります。彼ら、地球人がこの宝石や『赤い球』を作れるほどの技術は持ち合わせていません」
メフィラスは一日だけとはいえ人間の生活を身を持って体験している。その経験から何でも願いをかなえてくれる『赤い球』や、グローザムたちが驚くほどのエネルギーを持つ『青い宝石』は人類の科学では作れないと判断した。
この意見にグローザムが同意する。
「当たり前だ。だが、何処でこんなものを」
「帰り道に拾いました。後はこれも」
メフィラスは茶色い鱗を取り出してちゃぶ台の上に置いた。
それを一目でグローザムが看破する。
「ほう、ベムラーの鱗か。しかし、ずいぶん小さいな」
「嘘だ、この地球にベムラーがいるとは考えられねぇ。ギャンゴの鱗だろ」
デスレムの言う通りベムラーは宇宙の怪獣で、地球上では生息していない。ギャンゴも一緒だが。しかし、ギャンゴは人間の願いによって生み出された怪獣だ。体の大きさも自由に変化できる。したがって鱗の大きさ的に考えれば、ギャンゴのものであるといえるだろう。デスレムの主張も一理あった。
メフィラスが唸る。
「デスレム、残念ですがギャンゴの可能性はありません。ギャンゴの実体は隕石の能力によるため、不安定で消えてしまうという特徴があります。ヒロシ君は原作重視なところがありますから、彼がギャンゴを生み出すとしたら今頃は消えているはずです。この鱗と一緒に」
かつて、ギャンゴも『赤い球』のような願いをかなえる不思議な隕石によって生み出された。ウルトラマンと戦っているが、スペシウム光線で倒される前に隕石の効力が切れて消えてしまっている。もし、生み出されたのがギャンゴなら、メフィラスの手元に鱗が残っている可能性はないと言えるだろう。
「ベムラーだとすると、サイズ的に見てこれは野生のベムラーのものではないでしょう。おそらくヒロシ君が生み出したベムラーのものだと思われます」
「おいメフィラス、どっちにしろ俺たちはベムラーもギャンゴも見た事ねーぞ」
グローザムが喚いた。メフィラスは手を顎に当てて考える。
「私も見たことがありません、そして問題はそこなんです。考えらる状況としては二つ。一つ目は宇宙の墓場に連れていかれた時のように脱走し、今もどこかに潜伏中か。
しかし、これが当てはまるのならば、ヒロシ君が怪獣好きであるから、私たちと探しに行こうと言っているでしょう。可能性は低いと考えます」
これも当たっていて、実際にベムラーが『赤い球』見て逃げ出した時に、浩は説教を覚悟で夜の街を探し回っていた。
「二つ目は何者かによってベムラーが倒された。そう考えるのが妥当でしょう」
メフィラスの言葉にグローザムが驚いた。
「なんだと、ベムラーとはいえ仮にも怪獣だぞ。地球人ごときに倒されるようなことがあるか?」
「私も同意見です。しかし、我々を生み出した『赤い球』といい、この『青い宝石』といい。この二つはこの地球に存在しないものです。
つまり別の世界のものが流れついたと考えてもいいでしょう。そして、それを追って来た者によってベムラーが倒された。そう考えるのが妥当ではありませんか?」
これだけ聞けば妄想だと思われるが、今話しているメフィラス星人も話しを聞いているデスレムも地球には存在しないし、浩が『赤い球』に願って生まれたものだ。
仮に『赤い球』や『青い宝石』が地球の技術で生産できるのであればエネルギー革命が起こって全く別の文化が発展しているだろう。よって、メフィラスはこの二つが異世界から送り込まれたと結論付けた。
「フハハハハ、俺たちに敵が現れたのか」
「それでいい、俺は板前になるために生まれてきた訳じゃねえ」
姿の見えない敵を前にして大胆不敵に笑う二人の四天王。知将メフィラスも満足そうに頷いた。
「異世界から来た『赤い球』がここにあるのです。それを管理する者は『赤い球』を管理しきれないほどの能力しかない。仮に管理しきれたとしても、『赤い球』を管理していた者と『赤い球』を奪い、この地球に落とした者の二者がいるはずです。この戦い、我々に十分勝ち目があると思います」
『赤い球』は宇宙怪獣から始まり、宇宙人、超獣。それもこの世界に存在しない、テレビのフィクションのキャラクターを生み出してしまった。これらはウルトラマンに登場する怪獣のほんの一部に過ぎない。浩が本気で『赤い球』に願えば全ウルトラ怪獣を生み出すことも可能だろう。つまり、全ウルトラ怪獣対異世界人という構図の出来上がりだ。
もし、異世界人同士が対立していたのであれば、メフィラス側に都合の良い方を味方につけて戦うこともできるし、同士討ちを待つこともできる。分が悪くなればバキシムを使って異次元に逃げればよいのだから。
「それで……その管理者とやらを撃退したらどうするつもりだ?」
「……皇帝を降臨?させたいとは思いませんか?」
メフィラスの提案に二人が笑った。
ゴーストリバースのような流れ。これも浩が自分のイメージを練り上げてメフィラスたちを生み出した結果だろう。
「異論はねぇ。ヒロシを皇帝にしてこの地球を征服し、拠点とする」
「その後はこの世界の全宇宙を侵略し、いずれは異世界の宇宙にまで進出してやろうではないか」
豪将の言葉を謀将が紡ぎ、三人の意見となる。
「そうと決まれば計画を練ります。まずはこの『青い宝石』の収集、そして怪獣と宇宙人の創作です。ヒロシ君にもこのことを伝えて、情報収集に徹してもらいましょう」
「そいつぁいい」
「デスレム、メフィラス。なぜヒロシが情報を集める必要がある? メトロンに任せておけばいいじゃねえか」
頭脳プレーを得意とする二人の意見に対し、実力派のグローザムが首を傾げた。
「グローザム、表向きでは俺たちが動くように見せかける。メトロンは異次元から怪獣たちの管理とヒロシの護衛だ。
んで、ヒロシは人間のガキだが、ヤツでしか得られない情報だって多いはずだ。異世界人も地球人の、それもガキ相手なら油断して喋ってくれそうじゃねぇか」
「よくも姑息なことを考え付くもんだな。俺には分からん、誰が相手だろうが武力でねじ伏せるまでだ」
デスレムの作戦を聞いてグローザムは肩をすくめた。
メフィラスもデスレムも人間を甘く見ているが、人の特徴を理解している。人間を味方につけたウルトラマンは無敵だが、人間を上手く利用できた時の侵略者も無敵なのだ。
「めんどくせえことは俺とメフィラスに任せて、お前は戦闘で暴れればいい」
「応よ」
デスレムクローとグローザムブレードをぶつけた。それが二人の合図となる。
暗黒四天王あらため暗黒御三家の誕生だ。メフィラスの青い瞳が不気味に光った。
「今度は我々が『赤い球』に願う番です」
ヒロシの知らない水面下で邪悪な計画が練られていた。
サブタイトルは『かいじゅうむほう ち たい』です。
家って『俺ん家』みたいに読むときもあるから。