第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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 浩回。


ウルトラ怪獣引き連れて散歩

 俺は真っ暗な世界で目を覚ました。

 目覚ましになったのは時計ではなく、怪獣達の鳴き声で、個性的な不協和音を聞いて起きたのだから寝起きが悪い。

 半分眠っている状態で目を開け、上半身だけ起こすとバルタン星人がいた。彼は俺が起きたのを見ると、丸い目玉をギョロギョロと回転させて、蝉のような口を動かした。

 

「おお、おはようヒロシ。目覚めは悪いようだが、もっと最悪なお知らせだ。ここは『闇の書』の中らしい、もちろん出る方法など分からない」

 

 『闇の書』の中ぁ?

 記憶を漁ってみると、守護騎士たちを倒すべく作戦を立てた俺たちは、戦闘を怪獣に任せて、主の家にけしかけた。そこで和平を結ぶところまではいった。その後仮面の男たちに乱入されて、フェイトが助けに入った気がしたけど、その後は覚えていない。

 

「バルタン、フェイトはどうなった! メフィラスやメトロンは」

「分からない。私が知っているのは、君と、あっちにいる連中だけだ。メフィラスが転移装置を起動させたから他の連中は無事だと思うが」

 

 バルタンの話を聞きながら、俺はデカいハサミの先を見た。少し遠く離れたところの床が白くなっていて、怪獣達が見える。俺が寝てるときに騒いでいた連中だ。ブラックギラス、レッドギラス、ゾイガー、スコーピス、ドラコ、テレスドン、ジェロニモン。みんな『闇の書』に吸い込まれた怪獣だ。お、ティグリスもいる。

 

「……あー、バルタンの科学力でもどうにかならないの」

「魔法は専門外だ」

 

 確かに。魔法なら科学で解明できないし、しょうがない。ほうきで空を飛ぶとか、墜落しない紙飛行機とかテレビでは魔法のような科学使ってたのにな。

 緊急事態なのに、現実離れしすぎて冷静だった。どうでもいいことを思いつくくらいに。

 

「よっこら小四」

 

 クソ寒いギャグを言いながら立ち上がると、遠目に怪獣達が見える。主であるはずの俺が気を失っている間、アイツらは遠くでプロレスごっこしていた。

 観客のゾイガーもティグリスもギラス兄弟も盛り上がっていて、対戦カードはドラコVSテレスドン。俺のボディーガードなんだから少しは心配して欲しかった。二匹とも『時の庭園』でガッツ見せてくれて、俺はすごく嬉しかったんだぞ。とくにジェロニモン、仲裁しろよレフリーなんかしてないでさ。

 

「……バルタンさ、これからどうするの?」

「うむ。このままでは事は進展しない。移動してもいいだろう」

 

 ジーとしててもドーにもならないってか。なら出発するか。

 俺が立ち上がると、怪獣達は素直に一列をつくって整列する。あー、授業中にいなくなった先生が帰って来たみたい。ともかく俺たちは遠足に行くように隊列を作って歩き始めた。

 

 ゾイガーが言っていたことをバルタンから聞いた話だ。

 『闇の書』に吸い込まれたゾイガーがフラフラ歩いていると、ティグリスを見つけて、二人でさまよっていたらスコーピスを発見。その後でギラス兄弟が降って来たらしい。続いてドラコ、テレスドン、ジェロニモン。この三体と出会って、しばらく歩いた先にバルタンと寝ている俺を見つけたとのこと。

 

 しかし本当に何もないな。右も左も前も後ろも真っ黒。靴が地面についている時だけ白い地面が見える。その地面も土でもコンクリートでもタイルでもない、ふわふわした感触で、空を歩いていると言った方があっているような感覚だ。

 この現象は怪獣達やバルタンにも当てはまり、俺たちが歩いている場所だけが白い。下という概念があるのかは分からないが、白い床が移動しているように見えると思う。

 俺は、物体があるところだけ白くなるのかなと思ったので、鼻くそを飛ばしてみることにした。もし上手くいけば、鼻くそが光りを放ちながら飛んでいくというレアな光景が見れる。

 ま、失敗したんだけどね。どうやら小さいものはダメらしい。

 

 他にも服を振り回したり、ゾイガーが光線を放ったりしたが、どれも効果なし。結局、白い部分は俺たちが歩いている足元だけだった。逆を言えば白い場所に人がいる。

 暇を持て余した俺たち一行が、退屈という言葉を嫌いになり始めた時に変化が起きた。

 

「あれ? あの場所だけ白くね」

 

 そう、白い部分が見えたのだ。かなり遠くだが、真っ黒な世界に白い点があれば嫌でも目立つ。この白い点は人間ないし怪獣がいる証拠だ。俺たちは未だ見ぬ誰かを探して走り出した。……かけっこの結果はもちろん俺がビリだよ。

 

 

 白い床にたどり着くと、そこにいたのは八神はやてとナイスバディな銀髪のお姉さんだった。赤い瞳、髪と同じくらい白い肌。ぴっちりとした黒いタイツみたいな服を着ているから、スタイルの良さが丸わかりだ。まじまじ見ていると怒られそうなので、背中に視線を移すと、小さいて黒い羽根が六つ生えている。人間じゃありませんね。

 はやての方は俺と初めて出会った時と同じ服装で車いすに座っていた。どうやら、はやてと俺はほぼ同じタイミングで『闇の書』に吸い込まれたらしい。

 

「ああ! ヒロシやん。それに怪獣達もおる。ヒロシも気が付いたらここにいたんか?」

「よ、詳しくはゾイガーに聞いてくれ。さっき会ったけど、久しぶりでいいのか? その女の人誰?」

「この子か、『闇の書』の管理プログラムってゆーてたな」

 

 マジ?! 『闇の書』の中に人間がいるのかよ。

 管理プログラムって事はコイツの意志一つで俺たちの運命が決まるってことか。俺が機嫌損ねたらバグとして消去されんのか、この女性に。やべーよ、さっき鼻くそ捨てちゃった。謝らなきゃ、先に友好的に接する方がいいか。君と俺は友達、みたいな。管理プログラムってたけど言葉通じるかな? 宇宙語なら何とかなるはず、失敗しても隣にバルタンいるから通訳してくれるさ。

 俺は意を決して管理プログラムに話しかけた。

 

「キエテ、コシ、キレキレテ」

「……すまない、君の日本語は分かりにくい」

 

 はい、コイツ大好き。

 バルタンをはじめ、怪獣達から歓声が上がる。

 お前たちも大好き。

 

 状況を把握しきれていないみたいで、管理プログラムはオロオロしていて可愛かった。

 

 

 

 真っ黒な空間に白い円ができた。俺とバルタン、怪獣達とはやてと管理プログラムさんがそこに座っているからだ。スポットライトを当てられたようにその場所だけ明るい。特に重要な話をするつもりはないけど光の加減か、何か重要な出来事が起こりそうな気がする。劇でいうと重要な場面とか、名台詞が誕生しそうな雰囲気だった。

 そんな白いサークルの上で、バルタンが納得したようにうなずいている。

 

「なるほど、この『闇の書』は魔法を記録するアイテムで、そのための容量がある。プログラムとはいえシグナムのような守護騎士を内蔵していることから人間や怪獣の数匹が納まっても問題ないのか」

「んじゃ、ますたあ? の私が何でここにいるん?」

 

 主のはやてが質問を投げると、管理プログラムさんは視線をそらして申し訳なさそうに言った。

 

「……それは、この『闇の書』がバグで浸食されているからだと思います。管理プログラムを名乗っていますが、この本に関して私が干渉できる事はほとんどありません」

 

 バグ? それって最近はやりのチートとかバグレベルに強いとかいう例えとしてのバグじゃなくて、パソコンとかソシャゲとかで起きるバグの事だよな。もしかして俺たち、バグが原因で動かなくなるとかあるのか。

 

「いえ、そのようなことにはならない……はずです」

 

 管理プログラムさんは何かを隠している様子だったが、決意を固めて俺たちに教えてくれた。

 

「この『闇の書』は全てのページを埋めると完成するのではなく、バグによって暴走、周囲の物を破壊してしまうんだ。その威力はこの星を消し飛ばせるくらいに」

 

 突然の暴露に俺たちは言葉を失った。

 驚きじゃなくて、あきれるという意味で。だって、地球が滅ぶと言われても全然実感が沸かないし、一度俺が本気で地球を滅ぼそうとしてきたけど阻止されている。今回地球を破壊する原因だと思う管理プログラムさんとのんびり話しているから、本当にこの人が星を滅ぼせるのか疑問だし。俺たちを吸い込んだとはいえ、たかが本一冊で地球は滅ぼせるとは思わない。だって、怪獣より強い本なんて聞いたことが無いから。

 

 『ジュエルシード』とか『赤い球』みたいな宝石の暴走に頭を悩ませていたな。だから本でも地球を壊せるのか……この世界ってか、魔法アイテムに碌な物がないな。

 現状は把握できたが、これから何をすれば地球崩壊を防げるだろうか。どーせ高町なのはに阻止される。そんなことを考えていると、バルタンの蝉のような口が動いた。

 

「つまりシグナム達が我々を攻撃したのはバグなのか? それとも君の責任か?」

 

 バルタンが意地悪な物言いで管理プログラムさんを責める。俺たちからしたらこの本が無ければ、今ものんびり暮らしていたからな。

 

「それは私がしっかり面倒見られなかったからです。この子の責任ちゃいます。私にできることなら何でもしますから」

 

 すぐにフォローに回れるはやてはいい子。どうしてフェイトといい、はやてといい。この星の女の子は不幸な目に合うんだろう……しかもみんな強い。デフォルトで強いの止めてくれませんかね。

 

「バルタンさ、それくらいにしてやれよ」

「少し語弊があったな。もし、シグナム達が正常な状態にも関わらず、自らの意志を持ってハヤテの言いつけを守っていないのだとすれば、本人たちに変化があったことになる。シグナムも、管理プログラムである君も、バグの原因となったモノも、すべて同じプログラムだ」

「つまりどういうこと?」

「この『闇の書』のプログラム、すべて書き換えが可能ではないのか?」

 

 俺を含め、みんな目を大きく開きてハッとした表情になった。地球に滅ぶ以外の運命が与えられたから。

 嬉しそうに瞳を輝かせるはやてに対して、管理プログラムさんは一瞬だけ笑顔を見せるとすごい複雑な顔になった。

 

「ですが……プログラムを書き換えに書き換えられて今の私ができました。今回、書き換えたところでもっと悪化しないかどうか」

 

 確かに、言われてみればそうかもしれない。誰だって星を破壊するまで暴走させたくない。でも、『闇の書』にはいろんなことをして欲しいから色んな機能を詰め込んで、その度にプログラムを書き換えてきたんだと思う。もちろん、星を破壊しなくなるプログラムも作られたって予想はできる。だから管理プログラムさんが怖がるのも分からなくない。

 でもね、こちらには秘密兵器があるんだよ。

 

「ちゃっちゃちゃー、『第97管理外世界の赤い球』」

 

 俺は意気揚々と例のアレを取り出して、はやてと管理プログラムさんに見せつけた。

 テレビの怪獣を創り出してしまうチートアイテム。世界を滅ぼしてしまう本が相手なら、世界を滅ぼし損ねた球で勝負だ。なんでも願い事を叶えるという特性なら、『闇の書』のプログラムを書き換えて。ゆるくお願いすればそれで終わり。この事件は解決だ。

 

「この球に願い事を言えばなんでも叶えてくれます。俺はそれでバルタンとか、後ろにいる怪獣達を創りました。てなわけで、『闇の書』が暴走しなくなるようにしてください」

 

 沈黙。いつもなら赤い光を放って願い事が叶うはずなのに、俺がドヤ顔で願っても『赤い球』は反応しない。故障したのかと思って、ぺちぺち叩いてみても変わらない。……規模の違いで負けたのか。

 

「ヒロシ、あまりにも具体性がないから反応しなかったんじゃないのか?」

 

 なるほど、バルタンの言う通りかもしれない。

 俺が最初に創ったベムラーはイメージのみが頼りだったので、高町なのはに負けた。対してちゃんとイメージを固め、ソフビ人形を素材にして創ったデスレムやグローザムは高町なのはに勝利している。具体的な願い事じゃないと叶えてくれない、もしくは効果が薄いのかもしれない。

 

「……管理プログラムさん。どこが悪いとか分かったりする?」

 

 管理プログラムさんは頷いて目を瞑った。

 自分の悪いところを探しているのだろう。しばらく唇を動かして呟き、システムにアクセスしているらしい。

 

「あがあああ! 違う、私じゃない。私じゃないんだ。止めてくれ」

 

 いきなり目を開けて発狂した。両耳を手で押さえて、小さくうずくまる。このままだとゲロを吐いて倒れてしまいそうだ。はやてがすぐにかけよって、背中をさすった。

 

「大丈夫、大丈夫や。安心せい、私もヒロシもみんな、みんなここにいる」

 

 はやての介護が上手くいって、管理プログラムさんは落ち着きを取り戻した。だけど、バグの原因は不明、探そうとすると本人がトラウマを思い出して発狂する。内部じゃこれ以上はどうしようもできないらしい。

 

「……せっかくの提案だが、すまない」

 

 はやてに支えられながらも管理プログラムさんが謝った。呼吸は落ち着いているとはいえ、顔色は悪い。本当に無理そうだ。

 

「大丈夫やで、つらかったな。ここにいるみんなは味方や。やることは決まった、これからは力を合わせて解決していけばええ」

 

 やっぱり、はやてはいい子。

 何とかしてあげたいところだけど、俺にプログラムの知識は無いし、魔法は専門外もいいところ。バルタンなら何とかなると思うけど、メフィラスやメトロンが欲しい。

 

 それだ!

 

「どうしたヒロシ」

「メフィラスやメトロン、フェイト達にも協力してもらえばいいんだ。アイツらはたぶん外にいる。宇宙人たちを通じて管理局と手を組めばきっとできる。魔法と科学の専門家がそろうから」

「だがヒロシ、管理局と我々は敵同士じゃないのか?」

「んなこと言ったって地球が滅びるんじゃ、協力するしかないだろうが」

 

 確かに、俺たちと時空管理局は戦争したけど今回ばかりは協力しないとどうしようもないと思う。質の悪いことに魔法関係の問題なら確実に首突っ込んでくる。今回はこの特性を利用させてもらおう。

 それに『闇の書』が科学で作られたものなら俺たちだけで何とか出来ると思うけど、あいにく魔法で出来ている。あっちで原因や対処法を解明してもらって、俺たちに教えてくれればバグを治せるかもしれない。

 

「バルタンの科学じゃダメか?」

「お前たちの科学力って、銅鐸一つ解明できなかったじゃん」

「……君ノ日本語ハ分カリニクイ」

 

 論破。

 そうと決まれば外の世界と通信できる手段を探さないといけない。アイツら俺たちが生きていること自体知っているのかすら怪しい。生存報告から始めなければ。

 

「管理プログラムさん、『闇の書』の文字を並び替えたり、挿絵入れたりできる?」

「まだ不完全の状態ですので、挿絵くらいなら……もう少しページが埋まれば映像として送れると思います」

 

 勝った。

 

「そうと決まれば挿絵からだ。新しい怪獣を創って、それを挿絵に乗せれば気づいてくれるはず。管理プログラムさん、何か素材とか道具みたいなのが落ちていそうな場所ってありますか?」

「それなら確か……分かった。案内しよう」

 

 管理プログラムさんに連れられて俺たちは『闇の書』の中を進んでいく。どんな怪獣を創ろうかワクワクしながら歩いていくと、はやてに服を引っ張られた。

 

「ヒロシ君、『闇の書』を怪獣図鑑にするのだけは止めて―な」

 

 それは……アリかもしれない。

 車いすに座りながらも心配そうに見つめてくる彼女を見て、俺は思った。

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