第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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 前後編になりました。


メフィラスのお茶会・前編

 フェイトとアリサが消えた。正確には別行動を始めた。月村すずかの直感が告げる。

 

 

 現在、彼女は学校の制服のままで市街地を歩いていた。ただ背中に学校指定の鞄を背負っていないことから帰宅中ではないことが分かる。すずかは代わりに大きめのリュックを背負い、前を向いてひたすら歩いていた。しかし、すずかの頭の中は目的地を目指すというよりも、消えた二人の友人の事でいっぱいだった。

 

 アリサは活発でフェイトは大人しいという違いがあるが、二人とも芯が強いということは分かっている。偶然街中で二人に会って説得しても無駄だろう。アリサはティグリス、フェイトは浩という互いに大切なモノを失っている。この悲劇が起こらないようにあの二人は自分にできることをやろうとしているのだと、簡単に想像できた。

 時空管理局に従って、なのはのように様子を見るのが正解だと分かっている。だから、すずかは二人が居なくなってから幾日か過ごした。その時間で、すずかはいろんなことを考えた。

 

 なぜ守護騎士たちがすずか達管理局の関係者と戦ったのか。戦う以外に方法はないのか。時空管理局は守護騎士たちと分かり合おうと、話し合いで解決しようとする姿勢を見せてはいる。この管理局の考え方にすずかは賛成していた。しかし、相手が警戒しすぎて実現には至っていない。現状、管理局は雲隠れした守護騎士たちの様子をうかがっている。

 

「……いつも後手じゃダメ」

 

 すずかは今回の敗因が後れを取ったことだと考えた。先手必勝という言葉があるように、先に動いたものが有利になる。実際に襲撃を受けた自分たちはヴォルケンリッターに負けて、そのヴォルケンリッターを倒した怪獣達は、先に罠を張って倒している。さらにその怪獣達も仮面の男の襲撃を受け、後手に回り、リーダーの浩を失った。だからすずかは一人でもできることが無いかと考えて時空管理局よりも先に行動しようとしていた。

 

「メフィラスさんかメトロンさんに出会えればいいけど」

 

 メフィラスたちはシグナムとその主と話し合いの場を設けている。襲撃を受けて中止になったとはいえ、管理局よりも守護騎士たちを関りがあることに間違いない。もしかしたらメフィラス達と一緒にいればシグナム達をまた会えるのではないか。戦いではなく、話し合いによって解決できるのではないか。

 メフィラスは今でも許せない相手だが、彼の力を借りてバラバラになった友達に、もう一度会えるなら協力しても構わない。それが今のすずかの本心だった。

 

 月村すずかが敵であるはずのメフィラス星人と協力し合えると思った理由は二つある。

 一つ目は、怪獣達の現状。怪獣達は正気の浩をリーダーとして動いている。『時の庭園』でデスレムやグローザム、メフィラスと話し合った時に、怪獣達は浩のために戦っていた。『赤い球』の暴走で浩が浩で無くなった時は手のひらを返したように戦闘を止め、死闘を繰り広げた管理局と話し合いをしている。すずかはトップの浩が居ない今、怪獣達はバラバラになっていると予想する。力が弱くなり人手不足な今なら、すずかを仲間として受け入れてくれる可能性があると考えた。

 二つ目は、エアロヴァイパーの時空間移動やジェロニモンの蘇生術などの能力。怪獣達の能力には人間の科学力を上回るものがある。しかし、怪獣達の力をもってしても魔法を使う高町なのはを倒せなかった。すずかは魔法に対しては研究が進んでいないと考え、魔法に関係する情報を提供できれば仲間に加えてもらえると見当を付けた。

 もし、怪獣達と時空管理局が手を汲めば不可能なことはないだろう。浩たちを襲撃した仮面の男たちも何とかなるかもしれない。

 

 すずかは自分が怪獣達と管理局の橋渡しができればいいなと思いメフィラス達と会いたいと思っていた。幸いにもすずかはギマイラの霧で海が覆われた時、敵の本拠地を探し当てている。チャンスがあれば前回の経験も活かしてメフィラス達と出会えるだろう。

 運よく管理局が地球に拠点をつくり、その機会を利用して、何とか抜け出すことができた。月村すずかという吸血鬼の力を駆使して、同じような異形の気配をたよりに海鳴市中を探し回っていた。

 

 

 

 なんとなくデパートの屋上にいる。そんな気がして、すずかは海鳴市のとあるデパートにたどり着いた。エレベーターを使い、屋上へ続く階段の手前まで行くと、人目を盗んで立ち入り禁止のロープをくぐる。忙しいのか分からないが、デパートの従業員はこの階段を掃除していないようで、階段の手すりは埃がかぶっていた。衛生的には良くないものの、人が立ち入っていないことを示していて、今のすずかには逆にうれしい。

 

 電気がついてない暗い階段。人の目では暗くて何も見えない空間を吸血鬼の目を使ってすずかは上がっていった。極力手すりに触れないように慎重に進んでいくと、鉄の扉が目の前に現れた。鉄で出来たドアノブは少しさびていたが、手すりと違って埃はかぶっていない。それは誰かがドアノブに手をかけて回したことを物語っている。

 

「この先に誰かがいる」

 

 使われていないデパートの屋上に人がいるとしたら誰か。人工物とは言え、人が立ち入らない場所にわざわざ入っていくような人物に碌なものは居ないだろう。その上立ち入り禁止ときた。すずかは怖気づくが、友達が別行動をとる。その理由が魔法である以上、日常的なものではない。すずかはこれを解決するためにここに訪れたのだ。

 目には目を、非日常には非日常を。力を借りるとしたら常識にとらわれないような人物に限る。例えばそう、吸血鬼とか、宇宙人とか。

 意を決してドアノブを回すと、案の定カギがかかってなく、ギギイと最新のデパートの扉とは思えない音を立てて動いた。ほどなくして、真っ白な眩しい光が差し込んだ。

 

 

 

 すずかはひっそりとデパートの屋上を歩く。鉄のフェンスの真ん前まで進むと海鳴市の景色が広がった。

 道路には自動車が忙しなく行きかい、真下には米粒くらいの人が歩いている。オフィスビルには電気がついていて仕事をしているのが分かる。車を降りて携帯電話で通話している人も、ふざけながら歩いている学生も、だれも変哲もない日常で、みんながそれぞれの生活を送っていた。どうして自分だけが戦っているのだろう。すずかはそんな気持ちになった。

 

「……ここは立ち入り禁止だったはずだ」

 

 デパートの人に見つかった、どんな言い訳をすれば許してくれるのか、そもそもデパートの人のなのか。言い訳が見つからず、説教を覚悟し、すずかが後ろを振り替えった。そこにいたのはデパートの従業員でも、悪ガキでもない。ましてや人間などではなかった。

 骨格と肉体を入れ替えたような生物。すずかが探していた異形であり、浩が居れば大喜びしそうな宇宙人。

 

「デスレム!」

「フハハハハ、覚えててくれたか」

 

 かつてグローザムと協力し、なのはとフェイト相手にジュエルシードを奪いあった相手。傲慢さゆえに敗れたがその実力は確かなモノ。メフィラスとジェロニモンの力によって復活した策謀宇宙人、デスレムだった。

 

「……デスレムさん、探したよ」

「俺を探しただと? アリサはどうした、なのはもいねえようだが……フハハハ、管理局からはぐれたのか」

「うん。今は私一人、それも命令無視しちゃった。……デスレムさんたちもそうなの」

「ほう、なぜ思った」

「フェイトちゃんから聞いたんだ。浩が居なくなったって」

「……バレてたか」

 

 すずかが頷く。デスレムは頭を掻くと、発生器官を光らせた。目や口は無く表情が読むことは難しいはずなのに、一目見て困っているの事が分かる。

 

「俺はその場に言わせていなかったんだが、仮面の男が『闇の書』を持って現れたと思うと、浩やバルタンを吸い込んでいったらしい。それが分かってから怪獣達も、メトロンも相棒も……バラバラになっちまった」

 

 今のお前に見たいにな。デスレムはそれを最後に黙ってしまった。すずかは胸に手を当て、深呼吸をするとデスレムに向かって提案をする。

 

「私とあなたで協力しませんか?」

 

 驚いて言葉を失うデスレムに、すずがは話し続けた。

 

「私は時空管理局に協力していたから『闇の書』みたいなロストロギアについての情報を持っている。あなたたち怪獣は、時空間を移動できたり、死んだ人を蘇らせたりできる。科学力は管理局よりも上だけど、なのはちゃんの使う魔法については詳しく分からない。

 私たちが協力すれば色んなことが分かって、色んなことができるはず。そんな保証はないけど……。それに私も戦えるから。シグナムさんには負けちゃったけど。あとは、えっと、あ、私は吸血鬼で人間じゃない、だから裏切らないよ。だから、だから」

 

 一生懸命に言葉を紡ぐ。親友のアリサにですら隠していた吸血鬼であるということも交渉カードに加えて、すずかはデスレムに協力を求めた。かつて霧の支配する海で、浩が仲間にならないかと言ってくれた時と同じように。

 

―――そうだよな友達なんかに言えるはずないよな、吸血鬼だなんて。でも安心しろよ。俺たちにとって種族なんかちっぽけなもんだ―――

 

 浩は怪獣が好きだからという理由で今まで迫害されてきた。だから不当にのけ者にされる辛さが分かっている。それは吸血鬼であることを隠して生きてきたすずかにも当てはまる。今まで自分が吸血鬼であることはすずかにとってのコンプレックスだったが、浩のように、初対面なのに吸血鬼であることを肯定してもらったのは初めてだった。

 

 それ以来、すずかは視点を広く持つことを心がけるようになった。『時の庭園』では浩が地球の破壊を掲げていたため、戦う羽目になってしまったが。

 今回、デスレムに交渉を持ち掛けたのは、すずかが手に入れた広い視野の賜物でもある。他にもフェイトとアリサが別行動をし、弱体化した時空管理局だけじゃ手詰まりかもしれないという危機感からもあった。

 デスレムはしばらく放心状態だったが、すずかの交渉が面白かったのか、いつものように笑いだす。

 

「フハハハハ、分かった。月村すずか、その話乗ってやろう。とすれば、俺の仲間も紹介しないといけないな」

 

 デスレムは空間を歪ませると怪獣達を呼び出した。レイキュバス、ベムラー、ギマイラ、エアロヴァイパー。すずかと一度戦ったレイキュバスにエアロヴァイパー、ギマイラと見知った怪獣が多い。ベムラーのみ例外だが、温厚なすずかなら上手くやっていけるだろう。そしてもう一人。

 

「月村すずかさん、お元気そうで何よりです。こうして協力関係になれたことを嬉しく思います」

 

 全身真っ黒の、ずんぐりむっくりした宇宙人。浩率いる怪獣軍団の参謀を任され、原作では知将とよばれた侵略者。すずかが一番合いたかった人物であり、魔法の世界に引き込んだ人物でもあった。悪質宇宙人メフィラス星人、彼がすずかの前に姿を現した。

 

「メフィラスさん、ここにいたんですね」

「はい。本日はこの屋上で会議を行おうと思いましてね、ゲストを待っていたところに貴方が来ました。せっかくです。参加して行ったらどうでしょうか」

「ゲスト?」

 

 すずかはメフィラスの単語に首を傾げながらも、会議に参加することに決める。メフィラスは屋上に結界を張ると、異次元からイスとテーブルを取り出した。怪獣達は乱雑に落ちてきたイスやテーブルを屋上のど真ん中に並べはじめる。

 

 すずかも手持ち無沙汰だったので、ギマイラと一緒にテーブルを運んだ。そのテーブルは木で作られており、初めてメフィラス星人と一緒に食事をしたときに使われたものだった。あの時は緊張して気づかなかったが、このテーブルには怪獣のシールが貼られていたり、傷ついていたりと、数あるテーブルの中でも一番ボロボロだった。それだけ大切に使われていたことが分かる。

 

「メフィラスさん、このテーブルって」

「私のお気に入りです。密かに頂いておきました」

 

 ドンと屋上の真ん中にテーブルが置かれた。メフィラスは両腕を伸ばし、背伸びをする。そして海鳴市の景色を見ながら呟いた。

 

「彼は私の言ったことの半分も理解してくれませんでしたが、私は彼のやっていたことのほとんどが出来ませんでした」

 

 すずか達が運んだテーブルを中心にして、数合わせのテーブルがくっつけられ、小学校の会議室のような会場が出来上がった。メフィラスは会場が出来上がると、お菓子の入ったバスケットとティーセットをテーブルに置いて満足そうに頷いた。

 

「皆さんのおかげで予定より早く準備ができました。っと、いいタイミングで彼女たちが来たようですよ」

 

 屋上の床に三角形の魔法陣が四つ描かれると、四人の人影が出来上がる。真っ白だったシルエットにだんだん色がつき、髪型や服装が詳細になっていく。四人の人物が完全にできあがり、魔法陣が消えると、すずかが驚きの声を上げた。

 

「シグナム!?」

 

 この事件の発端となったヴォルケンリッター、そのリーダーのシグナム。炎の女剣士はすずかを見て一瞬驚いたが、平然を保っている。だけど、心なしか以前出会った時よりも弱く見えた。シグナムはメフィラスに向き合うと、軽く会釈をした。

 

「ヴォルケンリッター、ただいま参りました」

 

 彼女の後ろには敵意むき出しのヴィータと、不安そうなシャマル、そして人間の姿をしたザフィーラが控えている。すずかは『闇の書』の主を見渡すが、車いすの少女は何処にもいなかった。浩が本に吸い込まれたように、『闇の書』の主の身にも何かが起こったのだと察する。でなければ、シグナム達がここに呼ばれるわけがない。

メフィラスはテーブルとその上のお菓子を指さして言った。

 

「食事というものは一人で食べるよりも誰かと食べる方が楽しいものです。かつて、このテーブルには私の大切なモノがありました。詳しくは話せませんが……。お互いにそうでしょう?」

 

 いなくなった友達、この場に居ない主、消えた怪獣が大好きなリーダー。全員思い当たる節があるのか、メフィラスの言葉を聞いて視線をそらす。本題は会議だ。いつまでも立ちっぱなしという訳にはいかない。メフィラスに言われるがまま、それぞれが椅子に座った。

 

「食べたまえ、食事をしよう」

 

 グロッケンと出会った日を思い出す。魔法の世界に引き込まれた言葉であり、『赤い球』という悲劇の始まりを教えてもらった言葉。すずかが未知へと遭遇する時、最初に聞く言葉だ。

 ヴォルケンリッター、吸血鬼、宇宙人に怪獣達。人間が暮らしている地球という星の中で、人間のいない会議が始まった。




 まだ浩の切り札が出てきていませんね。しばらくお待ちください。
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