でも、現時点でガタノ関係は書き終わっているから安心して。
アリサの索敵魔法が守護騎士たちを捕らえた。その場所はデスレムとグローサムの二人とフェイトが初めて戦った、温泉旅館のはずれ。そのあたりに霧が立ち込めていて、シャマルの結界と二重の体勢で守護騎士たちを隠している。
しかし、何かを感じたのかゴルゴレムがアリサに温泉旅館を調べるように訴えかけ、ならばとアリサがサーチ魔法を使って発覚。
「シグナム見っけ。お手柄よ、ゴルゴレム」
アリサがゴルゴレムを撫でまわした。背中の結晶を点滅させてゴルゴレムも嬉しそう。
敵の所在が分かったところですぐさま作戦会議に入る。進行はグローサム。
「アリサとゴルゴレムは待機してくれねえか。非常時に備えておきたい。ま、余力があれば隠れた場所からデスレムインフェルノぶっ放しているだけで充分だ。
リニスもバックアップをしてくれ、おそらくお前の相手はシャマルだ。タイラントは念のため待機。管理局用にとっておきたいところだな」
分かりました。リニスが頷いた。
前線に出るのは、フェイト、アルフ、グローサム、ラゴラスエヴォ、キングジョー。シャマルの相手をリニスに任せることから、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、この三人をフェイト達五人で戦うことになる。
タイラントは切り札として温存することに決まった。
「んじゃあ、リーダー。一発号令をかけて欲しいところだな」
グローサムにリーダーと呼ばれて、フェイトは一瞬驚いた。
「ちょっと待ってて、すぐ戻る」
フェイトは一度浩の部屋に戻って、机の引き出しからお守りとして『赤い欠片』を取り出した。誰かに見られているようなあの感覚。それは怪獣達のリーダー、浩に見守られているような気がする。フェイトは大切そうに『赤い欠片』を握りしめ、お守りとしてポケットにしまった。
それからすぐグローサム達の待つリビングに戻る。キングジョー、ラゴラスエヴォ、タイラント、ゴルゴレム、グローサム。リニス、アリサ、そして使い魔のアルフ。フェイトに協力してくれたメンバーを見渡した。
「みんな、行くよ」
フェイトの掛け声に合わせて怪獣達が立ち上がる。決意に満ち溢れた表情で、フェイト達は鹿島家を飛び出した。
フェイト達が温泉旅館外れの森にたどり着くと、シグナムとゴモラが戦いを繰り広げていた。守護騎士たちの目的は魔力収集で、標的としてゴモラを選んだようだ。
先日はラゴラスエヴォと一緒にザフィーラと戦ったゴモラだが、シグナム相手でも頭の角を上手く使い、シグナムのレヴァンティンと渡り合っている。
シグナムが距離をとれば超振動波で追撃し、シグナムの大技は地中に潜ることでやり過ごしていた。シグナムもゴモラの攻撃をバリアで防いだり、回避したりしてうまく立ち回っている。両者五分と五分。
「グローサムさん、攻撃していい?」
「ああ、他の連中が来ても俺たちに任せろ。キングジョーとタイラントはお前に預ける」
グローサムから攻撃の許可が下りる。
フェイトはシグナムが一人であることを好機にキングジョーを従えて突っ込んだ。
「何!?」
フェイトは音もなく一瞬のうちにシグナムの背後を取ったが、攻撃は空を切る。大鎌の一撃は地面を捕らえて、穴が開く。ゴモラはフェイトが引き連れたキングジョーを見て、味方だと判断したのか、シグナムに追撃するべく超振動波を放った。
「テスタロッサが来た。キングジョーとゴモラも敵に回った」
シグナムが呟くと、ヴィータとザフィーラが現れる。もちろん、フェイト達は想定済み。すぐにグローサムとラゴラスエヴォ、アルフが駆けつけ、数の有利は覆らない。
『フェイト、シャマルのバックアップは私とアリサで妨害します。戦いに集中してください』
守護騎士と向かい合うフェイトにリニスから心強い念話が入った。ゴモラは先日の恨みがあるのか、ザフィーラを標的と決めると、バシバシと尻尾を叩いて威嚇する。
「アルフ、ゴモラに協力して」
「……分かった」
アルフはフェイトの味方をしたかったのか、若干納得できていない様子。それでも主の命に従おうとする姿勢は崩さない。ゴモラと一緒にザフィーラを迎え撃つ。
「俺はあの生意気そうなクソガキを潰す。ラゴラスエヴォ、お前も来い」
グローサムは手から氷の槍を生み出すとヴィータを対戦相手に選んだ。パートナーは同じく冷気を操るラゴラスエヴォ。ヴィータも敵意をむき出しにグローサムとラゴラスエヴォを睨みつける。
「全員散れ!」
リーダーシグナムの号令の元、守護騎士たちはそれぞれの相手が決まったと、お互いに距離をとる。前回は三人かたまったところを集中砲火されて倒されている、今回は反省点を活かして個人戦に持ち込んだのだろう。
対戦カードはゴモラ対シグナムからゴモラ、フェイト対シグナム。フェイト率いる怪獣軍団対守護騎士、そして個人戦へと目まぐるしく戦況が変化したが、この場に残ったのはフェイトとキングジョー、そしてシグナムだった。
「シグナム、あなたは私の大切な友達を傷つけて、大切な人を奪っていった。あなたを捕らえて仇をとる」
「……訂正をしておきたい。ヒロシを奪ったのは私たちじゃない」
シグナムは少し困った顔で弁解しようと歩み出たが、フェイトは俯いたままでシグナムと視線を合わせようとはしない。フェイトのポケットから赤い光が漏れた。
「うるさい!」
心の底から叫ぶように吐き出した言葉。それは森中に響き渡り、何物にも受け止められることも無く消えていく。
フェイト自身、自分の口から出たとは思えないほど憎悪と悲しみに満ち溢れていた。仇を前にしているはずなのに、フェイトの頬は濡れていて、赤くきれいだった瞳は怒りに満ちている。それだけ友人を失ったことが自分を追い詰めていると分かった。
「あの日、あなたと出会わなければ、私たちは……」
フェイトの怒りが強くなる。歴戦の戦士が一歩後ずさりをする。フェイトはバルディッシュを握りしめ、そして叫んだ。かつてシグナム達を倒した怪獣軍団のうち一体の名を。
「暴君怪獣タイラント! シグナムを、守護騎士を倒して」
綺麗な青空が捻じ曲がると雄たけびを上げて、合体怪獣が登場。タイラントも両腕を振り回し、歯茎をむき出しにして怒りをあらわにしていた。フェイトの怒りに反応するように炎を吐いて花を焼きつくす。
かつて浩がプレシアとアリシアを殺せと命じ、大暴れした、あの暴君が甦る。合体したキングジョーがフェイトの隣に立つ。金色のロボットの装甲はフェイトの顔を映していた。その赤い瞳には復讐の二文字がはっきりと見て取れる。
フェイトのポケットの中は、お守りだったはずの『赤い欠片』が強い光を放っていた。
「シグナムっ!」
少女のものとは思えない、歪んでエコーのかかった邪悪な声。憤怒に顔が歪み、力任せにバルディッシュを振るった。タイラントもキングジョーもフェイトに合わせて暴れまわる。
対してシグナムは冷静だった。三対一とはいえ、攻撃があまりにも大振りかつ単調。からめ手も無く、連携も取れていない攻撃には簡単に対処できた。しかし、攻めに転じるのは難しいのか、防ぐだけで精一杯。デバイスのレヴァンティンを握る手は汗で滲んでいる。
防戦一方のシグナムだが、狙いはメフィラスからの援護。あらかじめ、管理局もしくはフェイト達と遭遇したときは戦闘を控えるように言われている。適当に時間を稼いだらメフィラス達に転送してもらうことになっていた。
彼女たちの目的はあくまで『闇の書』であり、はやてと浩の救出でフェイトや管理局、怪獣達と戦うことではない。
『シグナム、転送の準備が整いました。一度フェイト達から距離をとって下さい』
メフィラスから待ち詫びていた通信が入った。
キングジョーのパンチをいなして、タイラントにぶつけた。二体の怪獣はもつれて体勢を崩す。残るフェイトが突っ込んでくるが、ギリギリのところでバリアが張れた。
流石はフェイトといったところか、シグナムのバリアは一瞬にして引き裂かれ、鎌と剣での鍔迫り合いに突入する。フェイトのバルディッシュにカートリッジシステムが搭載されたのか、それともポケットで光っている『赤い欠片』の力なのかは分からない。だが、見た目に反してフェイトの力は強く、両者の力比べは拮抗していた。
憤るフェイトにシグナムは弁解のチャンスだと思って、言葉をかける。
「フェイト、わたしの主も浩と一緒に消えてしまった。だから私たちは二人を取り戻そうと」
もちろん、フェイトは聞く耳を持たない。初めてフェイトと戦った時、シグナムがそうだったように。無駄だと知り、シグナムが真横に視線をずらすと、タイラントが起き上がって口を開けている。火炎放射でも放つのだろう。
フェイトとシグナムが鍔迫り合いをしている真横からの火炎放射。たしかに両手が塞がれているシグナムに避けるすべはない。しかし、彼女達はお互いの息がかかるほど接近している。つまり、タイラントがここで火を吐けばシグナムはもちろん、フェイトにも直撃することになる。
フェイトに視線を戻してもタイラントの火炎放射に気づいている様子はない。
「クソッ、お構いなしか」
シグナムはあえて力を緩めることで、フェイトの斬撃を受けながらも何とか踏みとどまり、フェイトを蹴り上げた。体格差もありフェイトを後退させることに成功。その直後タイラントの炎の餌食になる。
「ぐうぅぅ……たの、んだ」
シグナムは爆炎放射を受けて、吹っ飛ばされながらも、メフィラスに転送されていった。転送されていく彼女は苦しそうだったが、どこか満足していた。
フェイトが上体を起こすと、すでにシグナムの姿はなく、キングジョーとタイラントが突っ立っているだけだ。
「……タイラント、戻って」
虚空に向かって呟くと、タイラントが消えていく。それからフェイトはフラフラと立ち上がると、無事だった木まで歩いて木陰に座った。季節は冬で北風が冷たいが、さっきまでの戦闘と燃え盛る炎のおかげで寒くない。
「どうしたんだろう……急に怒りが溢れてきて。タイラントも、キングジョーも闇雲に暴れだして」
シグナムとの戦いを振り返る。今まで戦った中で一番、醜く、悲惨な戦いだった。かつてデスレムとグローザムを倒した時のように戦略を練ったものでもなければ、海の上でキングジョーとなのはを追い詰めたものでもない。ただ怒りに身を任せて、それこそ怪獣のように力に任せて暴れまわるだけの戦いだった。
「キングジョー、私ね聞いてたよ。シグナムの言葉。居なくなった主のために戦ってたって。たぶん、シグナムにとって大切な人なんだろうね」
となりにキングジョーが座った。
シグナムと会話をしなかったとはいえ、フェイトに耳にはちゃんとシグナムの言葉が届いていた。
「それだけじゃない、最後のタイラントの火炎放射、シグナムは絶対に分かっていた。……まるで、私を助けるように攻撃を受けて」
自分は攻撃を仕掛けたはずなのに、相手に助けられる。怒りに任せて戦った。相手の事情も聴かないで、自分の主張を押し付ける。気に食わない他者を力で排除したいという欲望。それはまるで……。
「力任せの邪悪な願い」
フェイトの大切な人を傷つけたシグナムは敵。『闇の書』の完成という自分たちの都合で、他者を傷つけ魔力収集を行う守護騎士たちは敵。侵略者を倒して地球の平和を守るウルトラマンのように、フェイトも悪い敵を倒して平和を守りたかった。守護騎士たちを倒して平和な日常に戻るはずだった。
だけど、現実は違った。抑えきれない怒りに襲われてフェイトは戦った。
「どうしちゃったんだろう」
自己嫌悪を抱きながら膝を抱える。キングジョーはフェイトのすぐ隣で佇むだけ。キングジョーから発せられるグロロロロという独特な機械音と、パチパチとタイラントの火炎放射で草が燃える音がする。
フェイトが仲間たちとの合流を忘れて落ち込んでいると、人の気配を感じた。
「フェイトちゃん、帰ろ」
聞き覚えのある優しい声に反応して、顔をあげる。
「……なのは」
フェイトのもう一人の親友、高町なのはだった。