第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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 強くてカッコいい怪獣が大好きな人へ


脅威なる闇

 シグナムが転送された場所は海の近くだった。海岸ではなく、コンクリートに舗装されて、柵が付いてその下には消波ブロックが置かれている。特に建物らしきものは見えないが、街灯がいくつかと近くにはベンチがいくつか設置されていた。

 すでにシャマルやザフィーラ、ヴィータが待機していて、シグナムが来たことで守護騎士四人が揃った。三人は大した怪我はなく、それなりに上手く立ち回っていたようだ。フェイトを庇ったとはいえ、ダメージを受けたのはシグナムただ一人だった。

 

「シグナム大丈夫!?」

 

 シグナムの傷を見た瞬間、シャマルが駆け寄ってすぐに傷の手当てを始める。シグナムはすぐ近くにあったベンチに横になると、そのままシャマルの治療を受けた。緑色の淡い光は傷口を癒していく、次第に気持ち良くなって目を閉じた。

 

「おい、シグナム。どうしたんだよ、そんなに怪我して」

 

 ヴィータの口調はぶっきらぼうだったが、彼女なりに心配しているのだろう。

 

「ああ、フェイトと戦っていてな……」

「でもよう、シグナムがやられるなんて」

 

 相変わらずシグナムは目を閉じたままだからヴィータがどんな表情なのかは分からない。ただ声色から察するに、やるせない感情が伝わってくる。

 

「メフィラスさんからなんだけど、転送するときに妨害が入って、こんな場所になっちゃったんだって。でも準備中だからすぐに帰れると思う」

 

 シャマルが現状を伝え、待機することが決まった。この辺り一帯にすでに結界が張ってあり、よく調べないと分からないように巧妙に仕組まれている。凄腕の魔導士でない限りはバレないだろう。あるいは時空管理局の人物が偶然海にいれば別だが。

 

「アンタ達は!」

 

 リーゼアリアだった。片割れが見当たらないが、偶然にも時空管理局の局員が海にいた。これにはシャマルもメフィラスも計算外。とはいえ、このまま捕まってしまったら逃げ出した意味がない。シグナムが傷口を抑えながら立ち上がると、すでにヴィータとザフィーラが戦闘態勢に入っていた。

 しかし、リーゼアリアも守護騎士がいるとは思っていなかったようで、魔法を使う準備をしつつも困惑していた。

 両者が睨み合っている、そんなときに一人の少女から念話が入った。

 

『……えて……すか。今……逃げて……さい』

 

 シャマルの結界内に響き渡るぶつ切りの子供の声。守護騎士たちだけならまだしも、敵であるはずのアリアにも聞こえた。姿の見えない相手を探して全員が当たりを見渡した。

 

「おい、あれって仮面の男じゃねーか」

 

 ヴィータが海の真上にいる人影を指さした。確かに仮面の男、鹿島浩や八神はやてを『闇の書』へと吸い込ませた人物だ。アリアは真っ先に男の元へと飛んでいく。

 

 仮面の男はアリアなど気に留めることも無く、海面を見て佇んでいた。シグナムは二人の様子を遠目で見ていたが、アリアが身振り手振りで仮面の男に訴えている事くらいしか分からない。アリアは男の肩を掴むが、その手は男によって振り払われ、さらに付けていた仮面を自分で剥いでしまう。

 すると、変身が解けたのか男の身体が一瞬光ると、猫耳と尻尾が現れて、アリアと同じ姿の人物が現れた。

 

「あの男はアイツと双子だったのか!」

 

 守護騎士たちが驚愕するが、それだけでは終わらない。双子のうち、一人の胸辺りが赤い光を放つ。ソレは心臓のように、瞬きのように輝きを放っていた。

 

「いあ! いあ! がたのぞーあ、ふたぐん!」

 

 様子がおかしい。本来敵であるはずのシグナム達を放っておいて意味不明な言葉を連呼している。さっきの少女の念話も含めて考えると、異常事態だ。

 

「シャマル、今すぐここから脱出できないのか」

 

 ザフィーラも狂気を感じたのか、切羽詰まった様子でシャマルを問いただす。ヴィータはメフィラスと通信を試みているようだ。

 二人とも必死になって魔法を発動しているが効果はない。それは焦りとなって表情に出始めた。シグナムとザフィーラに向かって二人が放った言葉は。

 

―――外と通信ができない―――

 

 シグナムは本格的に緊急事態と判断した。だから守護騎士たちのリーダーとして命令を下す。

 

「全員戦える準備をしておけ、幸い外にはこの状況が分かっている者がいる。念話をした少女のようにな。彼女達も動いているはずだ。それまで私たちが何とかするしかない」

 

 三人とも首を縦に振り、シグナムに付いていくことを示した。仲間同士で団結できたと安堵し、シグナムは胸を撫で下ろした。後は、と奇怪な言葉を発している双子を見た。

 

「いあ! いあ! がたのぞーあ、ふたぐん!」

 

 ロッテは壊れたレコードのように同じフレーズを連呼する。奇妙なフレーズは何処の国の言葉でもなく、空耳で聞き取るとなんとかこう表現できた。

 ロッテの奇声に反応して次第に波が強くなる。渦を巻きはじめ、その中心から黒い霧のようなものが噴き出した。シグナム達の不安と同じように、それらは徐々に広がって海全体を包み込んでいく。

 

「ロッテ! どうしたんだよ」

 

 アリアが肩を揺するが効果はなし。ロッテはひたすらに気味の悪い呪文を口にする。それに合わせて胸元の『赤い欠片』が光りだすと、真っ赤な光線を放った。定規で引いたような真っ直ぐの赤い線は海へと延びていき、そのまま渦の中へと消えていった。

 

 それが合図だったのか。

 

 ボコボコと大きな泡立つと、轟音と共に荒れ狂う海から名状しがたい遺跡が浮上する。石の柱は海を串刺しにするかのように突き刺ささり、非ユークリッド幾何学的な外見のソレは地球に存在する遺跡のどれとも似つかない。遺跡の一部にはアンモ貝を背負った怪物の絵が描かれていた。

 青かった空は、分厚い雨雲のような黒い霧に覆われて日の光を奪ってしまった。シグナムは陸地立っているのに、まるで深海のごとく太陽の光は届かない。

 

「なんだ今のは」

 

 地鳴りのような鳴き声が辺り一面に鳴り響いた。海面はボコボコとした泡から水柱がへと変わる。その中心から巨大なハサミが現れて、遺跡の柱を貫いた。

 

 ガラガラと音を立てて崩れ落ちる柱と入れ替わり、灰色の巨大な何かが浮上する。それは遺跡に描かれてた、アンモ貝のような見た目をしていた。そこからは髪の毛のような触手が垂れ下がり、左右に二本ずつ計四本のハサミを従えている。

 巨大なハサミを持つ身体も、また大きく、体高は100メートルを超え、その腹には泡のような斑点模様が描かれていた。おぞましい姿の怪物には首が無く、左右のハサミの真ん中、巨大な殻の付け根に顔が付いていた。

 顎に目がついているのか、顔自体が逆さまなのかは分からない。だが、二つの赤い目は小さい者とシグナム達を見下して、ねじ曲がった口は嘲笑っている。

 ソイツは禍々しさと同時に神々しさを放っており、あえて一言で表すとしたらこれ以外はあり得ない。

 

 ―――邪神―――

 

 神の復活を喜ぶかのように、有翼の怪獣達が姿を現して邪神の周りを囲んだ。

 荒れ狂う波を受け、ゆっくりと揺れながらも、どっしり構えるソイツ。これこそがロッテが連呼していたモノの正体であり、鹿島浩が生み出した対『闇の書』への切り札。邪神ガタノゾーア。

 

 消えた主から受けた一つの命令を遂行するべく、ガタノゾーアが復讐へと動き出す。

 

 手始めに自分を召喚したロッテを巨大な爪で鷲掴みにすると、霧のような闇を浴びせて石に変えてしまう。興味を無くしたようにロッテの石像を捨てた。石像は壊れなかったものの、地面にめり込んで石となったロッテは動き出す気配がない。

 さらにゾイガーが周囲のものを手当たり次第に破壊しはじめた。それにスコーピスの軍団も加わり被害を増やしていく。今はシャマルの結界で何とかなっているが、これが壊れた瞬間、現実の街が瓦礫と化すだろう。

 

「……何なんだよ」

 

 アリアは相方がおかしくなった原因はこの怪獣だと分かった。

 ロッテの付けていた『赤い宝石』はガタノゾーアを復活させる『カギ』。ガタノゾーアはロッテを手駒として操った挙句石にしてしまった。

 むろん、アリアはロッテの宝石がガタノゾーアを呼び出すカギだと知らない。しかし、妹を石にされて姉として黙っているわけにはいかない。一刻も早く反撃したいだろう。しかし、アリアの身体は鉛のように重くなり、言うことをきかない。それだけ邪神の放つプレッシャーが強力だといえる。

 

 そしてそれが仇となった。海中から無数の太い触手が伸びると、アリアを締め上げんと襲い掛かる。

 金縛りが解けたのか、動けるようになったアリア。しかし、後手に回り、反撃どころか避けるだけで精一杯。何とか回避しているが、無慈悲にも触手は数を増してアリアを追い詰める。

 

「しまった」

 

 通算三十本目を避けたところでアリアは触手に締め上げられた。邪神は満足そうにアリアを自身の顔まで近づける。苦しそうにもがく猫の使い魔を見て、笑いながら闇を吐き出すべく口を開いた。

 

「い、やぁ……」

 

 アリアの表情が恐怖に染まる。力をこめて抵抗するが手足は動きそうにもない。ガタノゾーアの口から闇があふれ出したその時、締め上げていた触手の力が緩んだ。その隙を利用して脱出。

 ガタノゾーアから距離をとると、触手相手に奮闘するシグナムの姿があった。剣を振るって無数の触手を切り付ける姿を見て、アリアは敵に助けられたのだと理解した。

 なぜと疑問符を浮かべるアリアにシャマルが隣についた。

 

「相手はあのよく分からない怪獣です。たぶんだけど、アレは結界を破ったら地上に上がるつもりだと思うの。その目的は破壊かなって。そしたら街が一瞬にして無くなっちゃう。

 そんなときに、敵だから見捨てる、なんてできません。なんとかしてあの化け物を止めないと。力を貸してくれますか」

 

 拒否などできるはずもない。結界に閉じ込められ、敵はアリアを攻撃してくる。脱出するにしても時間はかかるし準備は必要だ。何よりあの怪物は妹を散々操った挙句、石に変えてしまった。許せる訳も無い。

 

「分かった。敵とはいえ、助けられた恩は返すよ」

 

 アリアはシャマルの提案に首を縦に振ると、ありったけの魔力を開放して弾幕を作り、ガタノゾーアへと仕向けた。

 全長200メートルを超える邪神の三分の一が爆炎に包み込まれた。これにはさすがのガタノゾーアも堪えたのか、鳴き声一つ上げない。息を飲んで見守る守護騎士たちとアリア。煙が晴れるの待っていると、灰色の中が一瞬光った。

 

「え」

 

 針のように鋭く細いレーザーが空を切り裂いたかと思うと、すでにアリアの胸部を貫通している。そして妹のように石像になって空中から落下して遺跡にぶつかった。

 後に残ったのはガタノゾーアの鳴き声のみ。裂けた口で満足そうに笑うと、次なる敵を守護騎士たちに決めて触手を伸ばした。

 

「レーザー、黒い霧、あの触手に捕まったら終わりだ。それに正面切って戦ったところで勝ち目はない」

「全員、救助を待ちつつ、怪物に攻撃。なんでもいいから情報が欲しい。様々な方向から攻撃を加えて弱点を探すんだ」

 

 ザフィーラが敵の攻撃パターンをまとめ、シグナムがそれを踏まえて指示を飛ばす。守護騎士たちはガタノゾーアを取り囲むように散って、一人に注意がいかないようにした。これは効果的だったようで、邪神もターゲットを絞れずにあたりを見渡している。

 

「盾の守護獣、ザフィーラ。参る」

 

 先制攻撃はザフィーラ。触手に対し刃を発生させてズタズタに引き裂いた。邪神の注意がザフィーラに向かい、シグナム達に背中を見せた。

 その身を使って盾となる姿はさすが守護獣。

 

「シグナム、いくぞ」

「ああ」

 

 一瞬の隙をついてヴィータとシグナムが攻撃に打って出る。ヴィータはグラーフアイゼンをひたすら巨大化させて振り下ろし、シグナムはレヴァンティンを剣モードから弓モードに変えて、遠距離からヴィータ、ザフィーラを援護する。

 カートリッジシステムを使った守護騎士たちの反撃は邪神の殻の部分に炸裂し、衝撃で巨体が揺らいだ。

 

「みんな、足を確認しました。あの怪物、見た目の割りに足は小さいです。早く移動することはできないと思います」

 

 シャマルから伝達が入った。後方支援が主な役割だから直接戦闘に関わっていないが、先程から外にSOSを送り続けている。それでも皆の役に立ちたいと、補助魔法使い、邪神の全体図を調べ上げた。

 とはいえ、守護騎士たちの連係プレーは成功。シャマルのおかげでガタノゾーア本体に機動力がないことまで分かった。

 だが、ガタノゾーアがそれで終わるはずもない。シグナムとヴィータの攻撃で多少は傷ついているものの、かすり傷程度。それどころか、海中を使って悟られないように触手を配置させていたようで、一瞬にしてザフィーラの周りを触手が取り囲んだ。

 

「レヴァンティン!」

 

 シグナムとザフィーラの二人係で触手を切断、ザフィーラを助けてシグナムが彼の手を握った時、巨爪が守護獣をかっさらう。

 巨爪は海中に引っ込むと、誰の攻撃を受けることも無くガタノゾーアの前へ。力をこめて爪を開いているザフィーラに対し、邪神が霧を吹きかけた。

 

「ザフィーラ!」

 

 ヴィータが叫んだ時にはすでに手遅れ。霧に飲まれ、守護獣の石像が三人の前に現れた。

 ガタノゾーアはあえてシグナム達に見せつけてから、遺跡に置いた。さらにアリアの石像、ロッテの石像と並べて、三体の像で遊びはじめた。遺跡の欠片や魚を使い、おままごとを始める。

 

「ザフィーラを、ザフィーラを返せよ!」

 

 もちろん、ヴィータが許すはずもなく、攻撃を加えるが気にも留めない。適当に触手を伸ばしてあしらうだけ。ひとしきり遊んで満足したのか、三人の方に向くと吠えた。

 

「シグナム、ヴィータちゃん! 助けて」

 

 今度はシャマルの周りを触手が取り囲んだ。ザフィーラの件で味を占めたようだ。シャマルを助けようと奮闘する二人を巨爪で叩きつけて、シャマルを触手で縛り上げてから石化させた。

 石像となったシャマルを並べて、コレクションを作り上げる。

 

 ガタノゾーアは四本の腕を広げ、海中からありったけの触手を見せつけた。それら数から考えて三人同時に捕らえることもできなくはないだろう。しかし、あえてそれをしないのは慎重でも確実性でも何でもない。ただの遊び。

 ガタノゾーアは一人ずつ石にすることでより残酷に、力の差を見せることでより絶望的に倒すことを選んだ。

 

「どうしてそんなことするんだよ! なんで、なんで一人ずつ」

 

 泣き叫ぶヴィータに向かって、吠えるとゾイガーとスコーピスが集合。二つの軍団は邪神の配下だったようで、等間隔を空けて規則的に並ぶ。

 しかし、よく見てみると、二つの軍団に一ヶ所ずつ穴が開いている。ガタノゾーアは一体分入りそうなそのスペースに、触手を使って円を描く。本来、この空間に一体ずつ怪獣が並んだことを示すように。

 

「……お前も、私たちの」

 

 シグナムが唇をかむ。

 元よりガタノゾーアは守護騎士たちを倒すために鹿島浩に生み出された。それにリーゼロッテの『闇の書』に対する怒りが加わり顕現。さらに原作で配下だったゾイガーが守護騎士たちによって倒されている。

 もはやシグナム達に対する邪神の感情は殺意と憎悪の復讐心しかない。キングオブモンスが破壊の権化なら、ガタノゾーアは復讐の化身と言ったところか。

 

 言葉にできない鳴き声が当たりに響き渡る。二組の怪獣軍団は地上を破壊するべく飛んでいく。シャマルという結界を維持するものが居なくなった今、この闇と怪獣軍団が地上を覆うのは時間の問題だ。そのくせ、闇はシグナムとヴィータを逃がすことを許してはくれない。

 すでに浩という主を失ったガタノゾーアはあの時のキングオブモンス同様、破壊の限りを尽くすだろう。目に映るもの全てが復讐の対象として。

 

 邪神を止める術は、今はまだ何も無い。




 邪神降臨

 強さとしてはキングオブモンスを超えています。このSSだと過去最強になりました。
 邪神の振りまく絶望と魔法少女たちの戦闘をお楽しみください。
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