この話は浩の創った怪獣が何なのか。これに関して近づく回です。そんなのいらねえよ。と言う人は別に読まなくても問題ないようになっています。
二話目はいつも通り、20:00に投稿します。
ガタノゾーアが復活する。これを知ったすずかの行動は迅速だった。
まず手始めに海にいるシグナムと管理局の双子に匿名で避難を促した。次に親友のなのはに海が大変なことになっていると念話を飛ばし、最後にメフィラスに報告すべく拠点へと戻る。デスレムとレイキュバスの二体をほったらかしにして異次元の中を走り、黒い宇宙人を探した。
『メフィラス』とネームプレートの下がっている金属製の扉の前で立ち止まる。すると自動でウィーンと横に開いた。すずかはためらわずに入った。よく分からない機械を傍目に突っ走り、凄そうな機械の前に鎮座している宇宙人に話しかけた。
「メフィラスさん、封印されていた怪獣はガタノゾーアです」
すずかは全力でダッシュしたのにも関わらず、息一つ乱れていない。メフィラスは、すずかから報告を聞くと、機械の後ろについているボタンを押す。すると、異次元内に警報が響いた。メフィラスもガタノゾーア出現は異常事態だと判断した。
「……そうでしたか。スコーピスとゾイガーからサンドロスかガタノゾーアと考えていましたが。邪神が来ましたか」
それだけ言うと、メフィラスは荷物をまとめ始めた。ラッキョウの詰まったビンにトイレ掃除をするスッポン、バルタン星人の目覚まし時計など、どこからともなく集めた地球の品々をカバンに詰めていく。
「何を……しているんですか?」
メフィラスはガタノゾーアという災厄をほったらかして、旅行に行く支度を始めた。すずかは不安になって訊ねると、メフィラスは作業をしながらもモニターを指さした。
画面には海が映し出されていて、そこにはシグナム達と管理局の双子が映っている。そのうちの一人が『赤い欠片』を海に捧げていた。
「残念ですが地球は終わりました。邪神は復活し、この星は滅ぶでしょう。大切なモノを守り続けた結果、自分たちの故郷を失う。人間にふさわしい素晴らしい結果じゃありませんか」
次の瞬間モニターにはガタノゾーアが甦り、管理局の双子が石に変えられていた。驚愕するすずかにメフィラスは続ける。
「『時の庭園』での戦い、怪獣総攻撃を経て管理局も我々も少しは学んだと思ったら、このありさま。なにも進歩していません。ヒロシ君は居なくなるし、怪獣達は言うことを聞かない。私はそんな状況に嫌気がさしました。いっそ邪神に便乗して滅んでしまえと思うほどにね」
メフィラスはモニターに憐れみを向けながら淡々と話している。
「あなただってそうでしょう? 仲間割れなんてしている場合じゃないのに、友人たちはバラバラになって、友達同士で争った。
あなたの言葉なんて何一つ聞いてくれない。友達とか言っておきながらも、心のどこかで嫌気を感じていませんでしたか?」
なのはもアリサも頑固で喧嘩をしたら徹底的にやり合っている。そもそもすずかと二人の出会いは喧嘩が最初だった。すずかをいじめていたアリサをなのはが殴って喧嘩に発展。最後はすずか自身が仲裁に入って友達になった。
そこから考えてみると、すずかは二人に振り回されている気がする。なのはを戦いから引き離そうと思った時もあるが、頑固な親友はすずかの言うことに耳を貸さないだろうと分かっていた。
あの頃と変わっていない自分に嫌悪感を抱いて、目をそらしてしまった。しかし、耳には宇宙人の言葉が入ってくる。
「貴方は素晴らしい人です。暴力による解決は悲惨な結末が訪れると分かっていて、我々に協力しました。ですが、残念なことに貴方の努力は徒労に終わるでしょう」
今回だって、対立した二人を和解できそうにもない。だからメフィラス達について、事件そのものを話し合いで解決しようとした。
しかし邪神復活によって、すずかの努力は水の泡となって消えた。だからこそメフィラスの言葉はすずかの胸を貫いた。メフィラスは鏡に映った自分の心だと錯覚してしまうほどに。
そして、いつの間にか心に侵入してきた侵略者を追い出すために叫んでいた。
「違います!」
「否定するのは構いません。が、ならどうして動揺しているのですか」
すずかの呼吸はいつの間にか乱れていた。額からは汗が噴きだし、心臓は助けを求めてバクバクと悲鳴を上げている。ここぞとばかりに真っ黒い人の形をした心は語り掛けてくる。
「しかし、貴方は素直です。どうでしょう、一緒に別の惑星に逃げませんか? 候補はすでに用意してあります。その星では戦争も、交通事故も無い。何百年何千年と生きられる天国のような星へ逃げませんか。
貴方は優しい人だ。あなたを受け入れてくれる人物は必ずいるはずです。宇宙は無限に広く、しかも素晴らしい」
少女の心は手を伸ばす。黒い、悪魔のような手はなぜか魅力的に感じた。少女は一度胸に手を当てて、目を閉じ、呼吸を整える。
そして、小さな白くきれいな手を伸ばした。しかし、天使のように白い手は、黒い手を掴むことなく振り払う。
「ごめんなさい、メフィラスさんの提案は魅力的です。でも、私はなのはちゃんの力になりたい。みんなで楽しく過ごしたい。そう思って貴方と協力しました。
でも今はっきり言えます。どれだけ凄い条件を付けても、お金で買えないほど素敵な物をもらっても、私は友達と一緒にいたい」
「……月村すずか、貴方は吸血鬼なのか? 人間なのか?」
拒絶をしてもてもなお、悪魔は少女の心に語り掛ける。かつて月村すずかという一人の少女を悩ませた疑問。人ならざるものとして宇宙人たちと協力できた吸血鬼という種族と、友達を救いたいという人間の心。どっちつかずの立場に立たされて、考え抜いた答えが今。
「その両方です。私は吸血鬼で、人間で、高町なのはの友達です」
―――だから―――
すずかはメフィラスを見つめた。サファイアのように青く、きれいな瞳には決意が満ちている。汚れた社会を知っても黒に染まらない輝きは、すずかの強さを示していた。
「なのはちゃんを助けて、邪神を止めてみせます」
メフィラスは観念したように頷いた。そうして発光器官を光らせる。
「では、ここからは独り言です。フェイトさんも高町なのはも魔力を消費しているでしょう。いくら二人が強いからと言って、このまま戦えば勝ち目はありませんね。やっぱり邪神は倒せないでしょう……魔力が回復すれば何とかなるんじゃないでしょうか。
あ、そういえば隣の部屋に魔力を溜めたカプセルがあります。『闇の書』のページを埋める用に溜めておいた魔力ですが、今となっては不要な物です。持って行かれてもどうでもいいですが」
「……あ、ありがとうございます」
すずかはメフィラスにお辞儀をすると、急いで振り返る。するとそこには二体の怪獣が立っていた。
一体目はレイキュバス、すずかと一緒に行動していた宇宙海獣だ。もう一体はエアロヴァイパー、時空を移動できる怪獣だ。
この二体が物を持ちにくそうな手にもかかわらず、両手でしっかりとカプセルを抱きかかえていた。
「……このカプセルを私にくれますか?」
すずかは怪獣達の持っているカプセルが魔力を溜めたものだと見抜いて、二匹にお願いをした。二体の怪獣はそれぞれがNOというリアクションをとると、戦うそぶりも見せず、すずかの隣に並んだ。
「もしかして、一緒に行ってくれるの?」
すると今度は二体とも首を縦に振る。YES、だ。
二体の持っているカプセルは、リレーで使うバトンくらいの大きさだ。すずか一人で持って行けるだろう。だが、そのカプセルを持って邪神の闇を抜けることができるかは分からない。時空を移動できるエアロヴァイパーが味方に付けば、裏技的に邪神の闇を突破できるだろう。すずかにとっては願ったりかなったりだ。
しかし、この二体の怪獣はメフィラスの配下。すずかに協力していいのだろうか。すずかは後ろを向いてメフィラスの顔色をうかがった。彼はこちらを見てるが、止めるそぶりも見せず、むしろ黒い指で入り口を指さした。
進め、と言っている。
少女は二体の怪獣を引き連れて部屋を飛び出した。目指すは邪神が暴れる海、きっとそこで友達が戦っている。
エアロヴァイパーの背中に乗って異次元を飛び出した。相手は邪神で人の心の闇が具現化したような大怪獣。死闘は必須で勝ち目すら分からない。だが、すずかの心には迷いも不安もなかった。
すずかが部屋を飛び出した後、メフィラスは片づけを止めて、椅子に座りモニターを眺めている。画面にはガタノゾーアが大暴れしていた。これが作りものではなく現実のものだから、普通の人間ではここまでくつろげない。しかし、メフィラスは心配などなく、休日に父親がテレビを見るような雰囲気で、画面を眺めていた。
そんなとき、空間が歪んでデスレムが現れた。
「いいのか? ガタノゾーアの目標は復讐だ。守護騎士たちと管理局を倒せば俺たちの言うことを聞く可能性だってある。そうすれば地球侵略なんて楽勝じゃねえか」
「いいえ、あの子たちがいる限り地球侵略なんてできません。私は今回も負けたました。ガタノゾーアは強い怪獣です。時空管理局、シグナム達は倒してしまうでしょう。ですが、そんな邪神にあの子たちは勝利すると思います。まあ、ご覧なさい」
「ほれ、お茶が入ったぞ」
メフィラスとデスレムが腰掛ける。するともう一人、グローサムも現れた。両手でお盆と、コーヒーカップが三つ、中身はオレンジジュース。グローサムは二人が囲んでいるテーブルのような機械のふちにカップを置いた。
「ありがとうございます。しかし、またオレンジジュースですか。コーヒーの一つくらいザラブ星人でも淹れられますよ」
「んだと、前に俺がコーヒー淹れてやったら、やれ冷めて美味しくないだの、シャーベットになっているだのケチ付けやがって」
悪態付くグローサムに笑いながらメフィラスはカップをとる。デスレムは腹を抱えて大爆笑。キンキンに冷えたオレンジジュースを飲みながら侵略者三人で地球の行く末を見守っている。
ふと、メフィラスの鞄が倒れて中身が散乱する。三人とも一瞥しただけで、誰一人として倒れた鞄に手をかける者はいなかった。
すずかとメフィラスが対話をしていた時、フェイトはなのはと別れて森の中をさまよっていた。
シグナムに勝てなくて、なのはにも負けた。だけど、彼女はどこか吹っ切れたよに前を向いて堂々と歩いている。一歩離れてゼットンが、二歩離れてタイラント、その隣にはキングジョーがグワッシグワッシと機械音を鳴らしながら付いてくる。
フェイトは三体の怪獣に気を使いながらも、ときどきサーチ魔法をかけて周囲の様子を確認していた。すると、ひときわ大きな反応があって、そっちの方へと進路を変える。森の中を進んでいくと、次第に霧に包まれていった。フェイトは視界が悪くなるのにも構わず、霧の中へと歩いていく。
しばらく歩くと、大人がうずくまったような大きさの岩を見つけた。真っ黒い岩にはびっしりと棘が生えていて、呼吸をするように大きくなったり小さくなったりと動いている。フェイトはそんな生物のような不気味な岩に対して。
「ギマイラ、探したよ。ゴモラも、ラゴラスエヴォも出てきて」
フェイトの呼びかけに反応して三体の怪獣が現れた。地面からはゴモラ、茂みの裏からはラゴラスエヴォ、そして岩だったものは立ち上がり、ギマイラになる。
三体ともフェイトに敵意を見せることなく、近づいてきた。三体はタイラントとキングジョーとの再会を喜んだ。
「シグナム達と戦っていた時の霧って、ギマイラだったんだね」
ギマイラはそうだ。と言わんばかりに胸を張った。それからギャアギャアと鳴き声を上げて説明しているようだが、フェイトにはちっともわからなかった。でも、得意げに鳴いているギマイラを見て、フェイトは嬉しくなる。
ギマイラが落ち着くと、フェイトは怪獣達に頭を下げた。
「みんなゴメン。私、負けちゃった。復讐は争いを生むだけだったし、友達も失いそうになった。だからこれから先、リベンジとかするつもりはない。なのはが言うには、アルフもリニスも管理局に連れてかれちゃったから、敵討ちは失敗かな。
私はこの後、友達が困っているから助けに行く。これ以上はみんなに迷惑をかけられない。だから、みんなも自分のやりたいことをして。みんなはどうしたいのかな、無かったら一緒に探すよ。メフィラスさんのところに戻る?」
フェイトの提案に怪獣達は一斉に首を横に振った。
「えっと……ここで暮らすの?」
もう一度首を横に振る。
それから怪獣達は円を描くと片手を突き出して、お互いの手に重ね合わせた。面白いことに、その円はきれいな円ではなく、一ヶ所かけている。その場所はフェイトの目の前だ。
「もしかして、私に協力してくれるの?」
怪獣達が首を縦に振った。それから早く円の中はいれと吠える。フェイトは走って怪獣達の仲間に加わった。
欠けたピースがはまって円が完成する。長い尻尾にゴツイ背中、お互いの見た目が特徴すぎて形はいびつだが、それは確かに円だった。
「みんな、ヒロシを助けるよ」
フェイトの手が怪獣達の手に重なって、円陣を組む。オーの掛け声も、重ね合わせた手も全く異なるが、確かに怪獣達と少女は団結した。
目指すは海。
タイラントがギマイラをおぶり、フェイトの腰にゼットンが抱き着いた。キングジョーが分離、腕のある部位がラゴラスエヴォの胴体を掴んだ。残った三基で三角形を作り、それぞれが網を垂らすと、そこにゴモラが乗っかって浮上する。
フェイトと怪獣達はそれぞれの能力を使って、空へ飛び立つ。
霧を抜けて森の上空に出ると、海が見える。いつもは青が広がって、水平線が見えるのに、今日は闇に包まれている。
フェイトと怪獣達は邪神の支配する海域へと飛んでいった。