第97管理外世界の赤い球   作:破壊光線

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 最終章突入


超時空の決戦地

 ガタノゾーアはフェイトの機転によって死闘の末に『赤い欠片』封印された。本来なら時空管理局が保管しておくのが道理だ。しかし『赤い欠片』の特殊性、手にしたものを操ってしまうという特性があった。

 そこで、リンディは『赤い欠片』の本体である、『赤い球』を『時の庭園』で消滅させたこと。ガタノゾーアを封印した功績から考えてフェイトに預けることにした。

 こうして『赤い欠片』はフェイトのネックレスになり、彼女の胸辺りで深紅に輝いている。

 

 今はこうして『赤い欠片』に収まったが、邪神を封印するために管理局、守護騎士、フェイト組とバラバラになっていた三つの勢力が一度に集まり、それも力を使い果たしていた。

 結果、フェイト組と守護騎士達は時空管理局局員に拘束された。さらに管理局が得た『闇の書』が暴走するという新情報を受けて衝撃を受ける。事情聴取もままならないほど意気消沈したシグナム達が、生きるのに必要なルーチンワークに慣れた頃。

 フェイトやシグナムが時空管理局地球支部で待機していると、音もなく一人の宇宙人が現れた。

 

「みなさん、お久しぶりです」

「メフィラス星人!」

 

 メフィラスと彼の後ろに控えているグローサム、デスレム、ベムラー。ウルトラマンきっての悪役にクロノが警戒態勢に入る。同時に、家中の警報が鳴り響いた。赤いランプが回り、サイレンと共になのはや管理局員の緊張が高まるが、メフィラスは全く気にしていない。ベムラーは赤いランプにビビっていたが。

 張り詰めた空気の中、メトロンは友達に会うような感覚で近づいた。。

 

「やあ、メフィラス。元気そうで何よりだ。遠い異次元から来てくれたのに、歓迎のファンファーレがサイレンで申し訳ないね」

「お気遣いありがとうございます、メトロン。本来我々は侵略者。登場のBGMとしてはこれ以上にふさわしいものはありません」

 

 はっはっはっは。愉快に笑うモノクロとカラー。

 大胆不敵な宇宙人たちを前に、リンディも負けずに皮肉を交えて問いただす。

 

「異次元からこんなところに何の用です? もしかして自首でもしに来たんですか? でしたら檻の中と言う素敵なホテルを用意しますよ」

 

 この一言でグローサムがブレードを伸ばし、デスレムが扇形の腕を構えた。しかし、メフィラスは二人を制止する。

 

「自首したい気持ちもありますが、その前に我々もやるべきことがあります」

 

 こちらです。メフィラスが指を鳴らすと、大きな本を手にした。古ぼけた一冊の本はリンディたちの注目を浴びる。忘れもしない、あれが『闇の書』だ。

 

「『闇の書』。それで何をしようと言うのです?」

 

 リンディたちの警報レベルは一気に跳ね上がり、守護騎士たちがメフィラスの元に集まった。

 

「まあ、みなさん落ち着いて。この本の中を見てください」

 

 メフィラスが『闇の書』のページをめくっていく。古ぼけた紙には古代ベルカという魔法文字で書かれた。なのは達の使っている魔法とは違う系統なので、何が書いてあるかは分からない。

 それでもメフィラスがパラパラとページをめくっていくと、文字だけだった本に挿絵が付いた。しかもそのページは古代ベルカ文字ではなく、なのは達にも読める日本語で書いてある。

 

『超合体怪獣 ファイブキング

身長、75メートル。体重、5万5千トン

超古代怪獣ゴルザ(強化)、超古代竜メルバ、宇宙海獣レイキュバス、奇獣ガンQ、宇宙戦闘獣超コッヴの五対が合体した怪獣』

 

 以下、ファイブキングに関する情報が書いてあった。ちなみに挿絵はフルカラー。さらにページをめくると必殺技が書いてあり、動画の再生機能も付いている。レイキュバスが小躍りしているが今は関係ない。

 

「なんだこりゃ」

 

 あまりの変貌にヴィータが間抜けな声をあげた。

 なのはは魔法を記録する魔導書が『闇の書』だと聞いていたので、怪獣図鑑に生まれ変わってしまった事に驚きを隠せない。ヴィータはメフィラスから『闇の書』を取り上げるとページをめくり続けた。

 怪獣図鑑はまだ続き、『ゲオザーク』、『ブラックピジョン』、『グランドキング』、『ティグリス』とさらに続き、白紙を合わせた666ページ中の100ページにまで及んだ。

 怪獣図鑑が終わったかと思えば、今度は『美味しいハンバーグの作り方』や『あったか天ぷらそば』などの料理のレシピが20ページほど書いてある。こちらも動画の再生機能付き。

 

「シグナムぅ……何のためにアタシ達戦ってたんだ」

 

 ヴィータの声が震えている。目じりには涙を浮かべ、今にも泣き出してしまいそうだ。シグナム、シャマル、ザフィーラもショックを受けている中、メフィラスが追い打ちをかけた。

 

「シグナムさん達から伺いました『闇の書』は本来、魔法を記録するための本だと。ですが御覧の通り、魔法が書いてあるのは最初の250ページほどで、残りの120ページに関しては怪獣図鑑と料理のレシピ本になっています。

 以前シャマルさんに内緒でこのレシピの通りにコロッケを作ってもらいました。美味しかったです。ごちそうさまでした」

 

 ヴィータ達は命を懸けて、はやてのために怪獣達と戦い、魔力を集めてきた。悲しきかな、使われた先が怪獣の紹介と夕飯の作り方になってしまった。シャマルの料理の腕が上がったらしいが、命を懸けてきた対価としては不釣り合いすぎる。

 まさかの結末にクロノが頭を抱えた。

 

「君たちはわざわざそれを伝えに来たのか」

「違います。みな様もご存知のようにヒロシ君は怪獣が大好きです。そして『闇の書』の主、八神はやてさんはお料理が得意だったようです。そうですよね? ヴィータさん」

「そうだよ! はやてのメシはギガうまなんだ」

 

 ヴィータ、号泣。よしよしと頭を撫でて慰める、なのはは良い子。

 シャマルも一緒になって慰める。

 

「ヴィータちゃん、機嫌直して。ハンバーグなら私がまた作ってあげるから」

「ちげーよ、はやてのハンバーグが食べたいんだ。シャマルのじゃねぇ」

 

 シャマルに飛び火し、落ち込んでしまう。そんなシャマルの背中をさする、フェイトもやっぱり良い子

 吸い込まれた子供たちの趣味と書き換えられた『闇の書』のページは一致するが、それは本来の目的とは全く異なっている。奇妙な偶然にリンディが気付いた。

 

「もしかして、ヒロシとはやてっていう子が『闇の書』を意図的に書き換えたと。メフィラス、あなたはそう言いたいのね」

「はい。八神はやてとカシマ・ヒロシは生きている。そしてヒロシ君は『闇の書』本来の使い方を否定してまでページを書き換えた。主であるはやてがそれに賛同している。これは我々に対するメッセージかもしれません」

 

 メフィラスはとあるページを開いた。

 そこに書いてあったのは邪神ガタノゾーア。少し前になのは達が戦った相手だ。

 身長体重、得意技。図鑑として必要な情報はもちろん記載されている。しかし、最後のページにはガタノゾーアに関係のない一文が添えられていた。

 

『がんばれフェイト。応援してるで、シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータ』

 

 ガタノゾーアとの死闘を本の中から見ていたとしか思えない。さらに次のページをめくる。

 そこには大きな日本語のフォントで、『至急、プレシア・テスタロッサ 求』と書かれてあった。

 

「私?」

 

 もちろんプレシアに心当たりなど無い。それでもプレシアを名指しで呼んでいるということは何かしらの意味があるはずだ。怪獣図鑑と料理のレシピからは何も読み取れない。プレシア本人も首を横に振った。

 

「正直分からないわ」

 

 それでも何かヒントは無いかと、プレシアは腕を組んで、顎に手を当てて熟考する。

 

「でも推測すると、現段階で『闇の書』の内容を書き換えられる。つまり、『闇の書』自体に干渉して、バグを治してしまえるかもしれないって事」

「しかし、今まで『闇の書』のバグを治そうとした結果が今じゃないのか?」

 

 シグナムは状況は変わらないと嘆く。そんな彼女の意見をプレシアは否定した。

 

「そうね、人間だけなら。でも今回は違う。不可能とされていた死者蘇生術も過去へのタイムトラベルも、彼ら怪獣はいとも簡単にやってのけた。今だって私の目の前に無駄に頭がいい宇宙人がいるじゃない。ね、メトロン」

「え、私かい? 無駄に頭がいいのはお互い様だとは思うが……なのはちゃんはどう思う」

「ええっ、どっちもど……って、今はそんな話じゃないと思います」

 

 プレシアの視線を感じて慌てて話を戻した。重要な話し合いの中でもマウントを取り合うのは、仲が良いのか悪いのか。そもそも、敵同士だった勢力が一堂に合わさって話し合っているだけでも奇跡に近い。

 

「確かに。敵対関係だったから分かるが、君たち宇宙人の科学力は管理局の科学をはるかにしのぐ。それに僕たちの力だけで『闇の書』に立ち向かうとしたら転生させるだけで精一杯だろう。

 敵とはいえ、『闇の書』をどうにかするのが先決だ。もし協力してもらえるのならありがたい」

「そのために我々はやってきました。ヒロシ君を助けていただけるのであれば協力は惜しみません」

 

 管理局と宇宙人たちの利害が一致し、正式に協力関係になった。

 メフィラスが発光器官を光らせた。

 

「我々の切り札、『第97管理外世界の赤い球』は『闇の書』にあるでしょう。それに今後、『闇の書』のバグが解明される可能性があります。勝負はここからですよ」

 

 八方塞がりともいえる『闇の書』に微かな光が見えはじめた。いや、ようやく役者がそろい始めたと言うべきか。

 

「分かった。『赤い球』の力はこの前のガタノゾーア戦で思い知った。たしかに、あれほどの力があれば『闇の書』のバグに対抗できるか……」

 

 シグナムはヴィータ達に視線を送った。仲間たちは力強くうなずいた。守護騎士たちも覚悟を決める。

 

「君たちには散々迷惑をかけた。それでも仲間に入れてくれると言うのであれば、協力させてください」

「ありがたい。調べたとはいえ、『闇の書』を一番知っているのはおそらく君たちだろう」

 

 シグナム達ヴォルケンリッターとクロノが握手する。

 

「また大変なことになったな……しかし、これだけの実力者が揃ったことも事実だ。何とか行けるのか?」

「大丈夫だよ、クロノ君」

 

 なのはが笑って見せた。

 先日まではいがみ合っていたが、実力は確かなもの。話し合えば分かり合えるし、人語を解せぬ怪獣達ともコミュニケーションが取れる。対して『闇の書』は未知数だ。しかしそれに対抗するのは魔法と科学。人間と怪獣。善と悪。本来決して混ざらない者たち。協力した先にあるのもまた未知。荒唐無稽くらいがちょうどいいだろう。

 

「ええっと、『闇の書』の修理や改変は私たち管理局の施設を使うとして」

「私たちにバックアップは任せてください。科学力には自信があります。ここにバルタンが居ないことが心残りですが」

「『闇の書』に関して私たちで無ければ分からないこともあるだろう。シャマルを預けておく」

「戦いになったら私たちに任せてよ」

 

 リンディ、メフィラス、シグナム。各勢力の代表が意見を出し合い作戦を立てていく。なのはも自分に出来ることとして、戦闘意欲を見せた。それに反応して、今まで黙っていた怪獣達が一斉に吠えだした。戦闘は任せろと言っているようだ。

 メフィラスは満足そうに笑うと、プレシアに話しかけた。

 

「とすれば、プレシアには『闇の書』へ入ってもらいますか。この先に何があるかは分かりませんが、ここからスタートですから」

「いいわ。その代わり、出られなくなったらリニスかフェイトに倒されるわよ。いいえ、私直々に本の中から魔法を使ってあげるわ。大気圏に送った後に、どす黒いビームで消し飛ばしておくから。それも全国中継付きで」

「構いません、バリア貫通機能を付けておくこともオススメします。まあ、その時には地球が滅んでいるでしょうから」

「冗談にしては下手ね。地球の文化をもっと学びなさい」

「ええ、そのつもりです。思いついたネタは『闇の書』にでも書き込むとしましょう」

 

 プレシアは大胆不敵に笑みを浮かべ、メフィラスは飄々といなして、お互いに皮肉を言いあう。言葉には棘があるが、お互いの実力を理解しているからこそ言えるのだろう。

 

「ほんとに冗談が下手だな。『闇の書』は自由帳じゃないんだぞ」

 

 ザフィーラが真顔で静止した。メトロンが缶コーヒーをテーブルの上に置いた。クワンとまだ液体が残った缶の音が部屋に響いて冗談タイムは終了。

 

「それでメフィラス、『闇の書』の機能を開放できるほどの魔力をどうやって集めると言うのかい?」

「戦うのはダメだよ」

 

 至極真っ当な課題に、なのはが戦闘で魔力を集めることを禁止する。頼みの魔力カプセルはガタノゾーア戦で使ってしまった事もあり、半分もある『闇の書』のページを埋めるのは難しいだろう。

 

「もちろん、用意してありますよ。とっておきの場所をね」

 

 動揺もせずにメフィラスが話始める。おとぎ話でも語るように。

 

「そこはかつて、趣味の悪い立派だけが取柄な建物に恐ろしい魔導士が住んでいました。ですが、今はすでに更地となって人はいません。更地になった理由は大規模な戦闘が原因です。

 一人の少年が破壊を願って生み出した怪獣、それに立ち向かった勇敢な少女たち。無意味な戦いだと知ってもなお続き、物語は建物自体が崩れて幕を閉じた。そう、戦いで崩壊した故に魔力に満ち溢れている」

 

 記録には残っていない。存在も封印されたと言っていいだろう。しかし、記憶には残っている。瞼を閉じれば三体の怪獣が吠えて、夢の中では破壊光線が全てを焼いた。魔導士たちと怪獣軍団の最終決戦となったあの場所。

クロノの表所が驚きへと変わる。

 

「まさか、その場所は……」

 

 メフィラス星人の表情が変わらない。いや、変わっていたとしても地球人のなのは達には分からない。でも、なのはの目に映るメフィラスは不気味に笑っていた。

 そうして、微笑んである場所をあげた。

 

「はい、『時の庭園』です」

 

 キングオブモンスが暴れた地。全ての元凶、『赤い球』が消え去った場所。

 だが、果たして『赤い球』は消えたと言えるのだろか。少年が怪獣を生み出して、魔導士たちが戦いを挑む。ガタノゾーアも、守護騎士たちと怪獣達の戦いも、全ては『赤い球事件』の焼き回し。異次元に飲み込まれた少年の姿は、今でも少女たちの心に深く刻まれている。

 

「ヒロシ君だけ助けられなかった。大切なモノを守ろうとして、また戦って……私たちは『赤い球』の事件を繰り返そうとしていた。みんな仲良くなったはずなのに、そこにヒロシ君や『闇の書』の主がいない。まだ、『赤い球』の呪いは解けていないのかな」

 

 なのはの呟きのとおり、全てが終わっていたようで、何も終わっていなかった。

 破壊と復讐によって滅ぼされた土地で、破滅を与えてきた本と狂気に飲まれた少年を助けてようやくすべてが終わる。

 

「うん、ヒロシ君を助けて『闇の書』を元に戻す。復讐や戦いは何の解決にもならない。みんな、無茶かもしれないけど、協力して助けよう」

 

 なのはの言葉に管理局から守護騎士達、宇宙人に怪獣。それぞれがそれぞれの形で同意を示した。

 物語は守護から復讐、復讐から協力、協力から救済へと進んでいく。ハッピーエンドというゴールを目指して。

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