『闇の書』の内部を絶賛放浪中の俺たちだが、前も後ろも右左、真っ暗闇。どこに行っているのかすら分からない。バルタン星人と『闇の書』のマスターこと八神はやて、あと『闇の書』の管理プログラムさんっていう頼りになる三人がいるから心配していないんだけど。
俺たち四人とその後に続く怪獣達。ダラダラうだうだしながら進んでいくと、管理プログラムさんが教えてくれた。
「もうそろそろ記憶領域に着くはずだ」
はやての車いすを押しながら管理プログラムさんが教えてくれた。
俺たちはただ彷徨っているわけではなく、『闇の書』のデータが集まる部分を目指して歩いている。
『闇の書』の記憶領域にたどり着いたら、『闇の書』のページ自体をいじる。この本、完成すると暴走してしまうと言う厄介な性質があった。
魔力や魔法をため込んで、暴走しているとそれらを乱発する。これを外にいる連中に伝えるためにページをいじることにした。
「そのために、ページをいじって絵とか付けたらさ、嫌でも気づくよね」
「……それ以前に使える魔法が無くなってしまうのではないでしょうか」
管理プログラムさんが言うには、どうやら記録した魔法しか使うことができないらしい。なら魔法について書かれたページを書き換えることで、その魔法が使えなくなるのでは?
強力な魔法を放つはずだったのが、魔法陣から出てきたのは美味しいハンバーグ。そんな展開もあり得るかもしれない。この推測に現、『闇の書』のマスター八神はやてがノリノリでOKをだして、管理プログラムさんも渋々ながら承諾した。こうして『闇の書』ハッキング計画が実行されたわけだ。
第一弾はファイブキング、ガタノゾーアなどの強い怪獣の解説に始まり、はやてのコロッケのレシピで終わった。夏休みの読書感想文は全然字数を稼げないのに、怪獣図鑑を作り始めたら一瞬で100ページ埋まった。なんでだろうね。
ともあれ、合計120ページを無駄にすることに成功。第一弾は見切り発車ということもあって、その辺の魔力を使ってページを埋めていった。以外にも上手く言ったので、第二弾は本格的にやろうと記憶領域でやることになり、移動中だ。
「ヒロシ、次何つくろっか」
「えー、チャーハンの模範解答が知りたい」
最近食べてはいないが、母ちゃんがよく休みの日とかにチャーハンを作ってくれた。マズいか上手いかで言ったら割とイケるという微妙な答えになってしまう。そんなわけだから、一度上手いチャーハンと言うのを食べてみたい。
ちょうどいいところに八神はやては小3のくせに料理スキルがプロ並みに上手い。ステータスという概念があったら、俺は怪獣に全振りし、はやては料理に全振りしたくらいに。
車いすの上で具材を考えているはやての隣で、俺は次に創る怪獣を探す。
とりあえず、『闇の書』のバグと戦う可能性があることも考えて強い怪獣が欲しいな。あと、ありとあらゆる魔法を収集するだけあって、混ざり合ったものが多い。この空間は合体怪獣が創りやすそうだ。なので、候補は合体怪獣か。
「主、危ない!」
ガゴン、とショッピングカートがぶつかったような音がすると、はやての乗った車いすが倒れていた。管理プログラムさんが間一髪のところではやてを引き上げたから無事だったのものの、車いすは完全に壊れている。
俺もはやても熟考していたから気が付かなかったが、真っ白な床にくぼみができている。こいつに引っかかったんだろう。
「大丈夫かよ」
「私は平気や。ありがとうな」
「いいえ、私の不注意が原因です。すみません」
はやては微笑んで、申し訳なさそうにしている管理プログラムの頭を撫でた。俺が見た感じ、はやてに怪我はない。車いすが大破した割にかすり傷一つ付いていないのはおかしいとは思うが、『闇の書』が主を守ったんだろうか。なら暴走するなって話だよな。
「んー、私は無事やけど、車いすが壊れても―た。歩けんよぅ、困ったなぁ。誰かさんに抱っこかおんぶしてもらいたいなぁ」
コイツ、露骨に甘え始めたぞ。語尾を伸ばしてまでアピールしている。人がいいのか本気で心配しているのは管理プログラムさんだけだ。俺を含めてバルタンも怪獣達も白い目ではやてを見ている。違う、見下している。
「分かりました。さあ、我が主、私が抱っこしてあげます」
「ホンマか、ありがとうな」
美人でボインな管理プログラムさんの腕の中にすっぽりと納まってしまった。はやてはコアラのように抱き着いて、ユーカリの葉ではなく二つの大きなメロンに顔をうずめている。はやて、幸せそうなんだけど、よだれ垂らして笑みが邪悪なんだよなあ。管理プログラムさんは我が子のように愛でているし。
俺は記念にとスマホを出してカメラを起動、そのままパシャリと撮影した。タイトルは……『悪魔を抱いた聖母』。
「ヒロシ、あの壊れた車いすで何か作れないだろうか」
あー、確かに。二人には車いすを好きにしていいと許可が下りたので、バルタンの提案に乗ってみることにした。暇だしね。
俺は『赤い球』を取り出すと、何の怪獣を創るか考える。
車いすを素体に使うから、メカっぽい怪獣がいいな。恐竜戦車、ロボネズ、ガラモン、レギオノイド……どれも捨てがたい。でも今回の目的は記憶領域を探し、『闇の書』のバグの原因を見つけて治す。
つまり探索が目的だから、探索で使われた怪獣にしよう。あとは元が車いすだから移動用に使える奴がいいな。
「というわけで、車いすを地中鮫ゲオザークにしてください」
『赤い球』の光に照らされた車いすは、粘土のようにねじ曲がって、形を変えていく。赤い光は鮫のシルエットへと変わり、俺の知っている怪獣になった。
地中鮫ゲオザーク。
ウルトラマンティガに登場した怪獣だ。マサキっていう人が創り上げたのがこのゲオザーク。地中鮫との二つ名がり、地面の中を進む。地中に潜った後はジョーズのごとく背ビレを出して地上を突っ走り、おまけに建物を破壊できる。空中を飛んで体当たりとか、鼻からは『青色破壊光線』を放つ。また、背ビレからは機械のシステムを初期化できるリング光線も撃てるんだ。
……あれ、リング光線って『闇の書』も初期化できるのかな。あ、でも転生した後って初期化されているのか。もしかして、ここでリング光線うったら俺たち消える? 創って早々、ゲオザークの武器が封印された。ごめんね。
「ゲオザーク、車いすの代わりになるものを創ったというわけか。いいセンスだ」
感心してくれるのは君だけだよ、バルタン。そんなゲオザークの大きさは体高100センチ(背ビレ込み)、全長は170センチくらい。脳内イメージで作ったから大きさが若干不安だが、俺とはやてを乗せて進むくらいは問題ない。
ゲオザークはキョロキョロと回りを見渡した後、車いすだったころの事を思い出したのか、はやての方に歩いていった。今もなお、管理プログラムさんのメロンに顔をうずめている主に、ゲオザークが背中に乗ってくれとアピールする。
「うーん、ごめんな。とげとげで痛そうなやし、私はこのままがいい」
主の建前を見抜けなかったのか、ゲオザークはショックを受けていた。しばらくポカンと口を開けていたが、突如背ビレが光りはじめた。
「やばい、リング光線撃つつもりだ! お前らなんとかしねーと、『闇の書』ごと初期化されて俺たちも消されちまう」
怪獣軍団総出でゲオザークを止めた。その後はやてを説得し、俺と二人でゲオザークの背中に乗った。
「んじゃゲオザーク、出発進行!」
はやての号令の元、ゲオザークが意気揚々と歩き出した。
そこまではよかったんだよ。でもね、ゲオザークが遅い。いや、トロい。ティガに地上に引っ張り上げられた時、背後をとられたトロさは伊達ではない。
地面の中なら速いのだろうが、残念ながらここは『闇の書』。地面など存在せず、地中に潜ることができない。
結果、はやては管理プログラムさんに抱きかかえられ、俺がゲオザークの背中にまたがって、ゲオザークが空中体当たりヨロシク飛ぶことになった。地中鮫とはいったい。
俺が宙を泳ぐ地中鮫にまたがって、女の子がおっぱいを堪能していると、目的地に着いた。
記憶領域はガラクタみたいなものがいくつにも積み重なって、巨大な山になっている。真っ白な箱、ひび割れたモニター、先端に赤い宝石が付いた杖。ゴミの山か宝の山かは分からない、まさに玉石混合。俺は全く感じないが、管理プログラムさん曰く、魔力で満ち溢れているらしい。
「はやては『闇の書』のページを埋めてくれ。俺は面白そうなものを探してくる」
『闇の書』のページを怪獣で埋めると、怪獣の必殺技が放たれそうだ。スターライトブレイカーみたいな脳死バカ力ゴリ押し砲よりはましだが、ガタノゾーアの石化光線みたいな厄介なものがある。だから俺ははやてのクッキングレシピでページを埋めさせることにした。
その間俺は怪獣の素材を探すことにする。何度でも言うけど、めっちゃ強い機械って、最後の最後で暴走して結局戦う羽目になるだもん。ソースはアニメとゲーム。そのための戦力補給だ。
「管理プログラムさん、ここって記憶領域じゃなくてゴミ箱では?」
「そんなことはないはず……」
いやだって、照明ライト、鳩のはく製、レイキュバスのソフビ。魔法とは全く関係のないものがゴロゴロ出てくるんだけど。もちろん魔法を記録してある紙みたいなものもあるんだけどね。
リサイクルショップじゃね、ここ。困惑している俺のとなりをゲオザークが横切って、そのままガラクタの山へと突っ込んでいった。掘り進めていった。もぞもぞと背ビレが動くと、ひょっこり顔を出して戻って来る。ゲオザークは俺の足元にノートを置いた。
「ノートじゃん。どうしたのこれ」
A3の大学ノートにはびっしりと文字が敷き詰められている。ページをめくってみても、堅苦しい文章で書かれていたので読めたとしても理解はできない。
それでも諦めずに頭掻きながらページをめくっていくと、折り紙のツルと折りたたまれた模造紙が落ちてきた。この二つはノートに挟まれていたようで、折り目が付いてぺしゃんこになっている。
模造紙を広げてみるが、文字すら書いて無く、点やら線がぐしゃぐしゃに書かれていてちっとも分らない。図書館の常連のはやても、『闇の書』のことなら大体わかる管理プログラムさんも分からないと首を横に振った。
結局、分からずじまいのまま、俺がチンプンカンプンなノートの最後のページに目を通すと、謎の単語が記されていた。
「大戸島伝説? まさかね」
とはいえ、俺はこのノートと折り鶴、模造紙に不思議な魅力を感じている。ガラクタの山から引っ張り出してきた、かろうじて使えそうなリュックの中にしまった。
それから俺たちはここが目的地であり、お宝もといいガラクタの山になら何でもあると踏んで、活動拠点にした。便利なゴミの山からテントを引っ張り出してきて、怪獣達に設置させる。テレスドンがバーベキューセットを掘り出して、ガラクタの山の前にキャンプ場ができた。
「必要な物を足していきますか」
しばらくはここで暮らすと予測して、生活に必要な物を足していくことにした。便利な『赤い球』に願って、穴の鳴いたバケツを水が無限沸き出来る池へと変える。タコ糸を電線に、割れたCDを発電機にして電気と水を確保した。
はやての要望もあって、シンクや包丁など料理道具を揃えていき、キャンプ場なのにキッチンが完成。さらに暇になる事も考えてゲーム機を作り、ウルトラマンのDVDも量産した。これで退屈とはおさらばだ。
「おお、すごいな。これ、錬金術師もびっくりやわ」
はやては『赤い球』の力に興奮気味。『赤い球』のおかげだとは分かっているのに、有頂天になった。次は賢者の石でも作ってやろうか。
そんな俺の『赤い球』が作った家具の最高傑作はテレビ。ゲーム機と接続すればゲームができるし、DVDもブルーレイも見れる。最高傑作の所以となるのが外の様子が分かること。チャンネルを合わせれば海鳴市へと画面が切り替わる。
「最高かよコレ」
晴れて快適な『闇の書』ライフを送ることになった俺たち。
ためしにテレビを付けると、デカい画面には海が映った。だけど、海鳴市の海なのに空は真っ黒い雲に覆われていて、波は嵐の時みたいに荒ぶっている。海面上空をなのは達が飛び回り、巨大な何かと戦っていた。
「ガタノゾーアだ!」
俺が切り札として作った邪神。『赤い欠片』といっしょに封印したはずなのに、どうして。
禍々しい邪神にはやても管理プログラムさんも釘付けになってテレビを凝視している。二人ともウルトラマンには詳しくないはずなのに、ガタノゾーアの強さは見た目で分かるみたい。
自分で創ったとはいえ、暴走するガタノゾーアに地球を滅ぼされたら俺たちは助からない。それは困る。俺は急遽、ガタノゾーアの弱点を管理プログラムさんに伝えて、追記してもらえるかを頼んだ。
「なあ、私もみんなにメッセージを送ってもええか?」
管理プログラムさんは快諾してくれた。はやてのメッセージも付け加えられて、俺たちはガタノゾーア戦を見守ることにした。
結果を伝えよう。なのはのスターライトブレイカー、つまり俺のトラウマが炸裂し、ガタノゾーアが轟沈。フェイトが持っていた『赤い欠片』によって封印された。
「ああああ、まただ。またなのはに倒されたあ。あーもうやだ、あの女」
ベムラー、デスレム&グローサム、ギマイラ、バジリス、キングオブモンスと今回のガタノゾーア。怪獣軍団、通算六度目の敗北。俺、発狂。クソ、覚えてろよ。
とはいえ、俺たちを助ける前に地球が滅ぶという最悪の事態は免れた。
「まあまあ、地球が滅びなかったと思えばええやん」
「四面楚歌の中、ガタノゾーアはよくやったよ。本当にあと一歩だったんだから」
俺ははやてとバルタンに慰められた。なのはが負ければ俺たちは助からないし、ガタノゾーアには高町なのはを倒してほしかった。複雑な心境を抱えて、俺は立ち上がる。
「もういい、寝る」
そうしてテントの中に潜り込んでふて寝した。夢の中でバクゴン創って高町なのはを倒すんだい。
どれほど寝ただろうか。俺の頬が叩かれている。誰だよ人が気持ちよく昼寝しているのに。
眠い目をこすりながら瞼を開くと、ぼやけた視界に黒い服の女性が入った。
「人を呼んでおいて自分はお昼寝とか良い身分ね」
不機嫌オーラ全開で俺を見下ろす一人の女性。
フェイトと逃げ込んだ『時の庭園』で出会った人。大魔導士と言われて、俺の怪獣達を本物に近い偽物と言ったアイツ。そして、『闇の書』ハッキング計画には欠かせないと判断した人物。
プレシア・テスタロッサ。
プレシアはフェイトとアリシアの教育に悪そうな、きわどい黒のローブを身にまとい、フェイトと色違いのマントを羽織っていた。この辺は初めて会った時と変わらない。でも髪型は片目が隠れていた無秩序に伸びていた昔と違って、綺麗に整って両目が見える。少し優しくなった気がする。
でも、メフィラスやメトロンと喧嘩するし、個人的には好きじゃないんだけどね。
プレシア本人が俺の目の前にいるってことはメフィラス、管理局がメッセージに気づいたことになる。そして、プレシアを送ったとならば、『闇の書』を何とかするために動きだした証拠だ。
「それで、何をすればいいのかしら?」
プレシアがため息をついた。さて、何から始めてもらおうか。まずは『闇の書』のバグの解析からか。
絶望的な状況だったのが、確実にいい方向へと進んでいるのが分かる。プレシアという心強くも苦手な味方と一緒に俺はテントを出た。
読者アンケート怪獣よりゲオザークです。
あと、先に謝っておきたいことが。
書いているうちに戦闘シーンが必要なくなって、今後の怪獣達が活躍しにくくなりました。ごめんなさい。