ジュエルシード。
メフィラスの見解ではすごいエネルギーを持った宝石。猫を巨大化させることができ、効力が切れると元に戻る。また、ジュエルシード自体も元の宝石の形に戻る。それだけのものだった。
メフィラス自身、人を巨大化させてビルを壊させるくらいは造作でもない。しかし、これと同じことを小さな宝石が行えるとなると話は別だ。以前に自分が拾ったものが一つだけあるが、サンプルは多い方がいい。なのはに注意して後で回収しようと考えていた。そのためにベムスターをけしかけ、なのはを攻撃開始した。
一方でなのはは吹き飛ばされていた。猫を元に戻し、元凶であるジュエルシードを手に入れようとしたら別の方向から光弾が飛んできた。気を緩めたとこに一撃を貰い、そのまま木の幹に叩きつけられた。
一瞬訳が分からなかったが、特にケガはなく、まだ戦える。
「ユーノ君、大丈夫?」
「大丈夫だよ、なのは。それよりもあっちの方から敵意を感じる」
味方のユーノは無事だった。フェレットの前肢の先を見ると、平べったい怪物が現れた。
鳥のようで鳥ではないソイツは、なのはを見て鳥のような鳴き声を上げ、頭の角からビームを放った。
「わ、危ない! どうして攻撃するの?!」
先制攻撃に驚きながらも上空へと逃げると、例の怪物も空を飛んで追って来た。
「今ですベムスター!」
「誰?! いるなら姿を見せて! きゃぁあ」
茂みの中から聞こえる不気味な声に気を取られ、ベムスターと呼ばれた怪物の光弾を食らってしまう。空中でバランスを崩した隙をついてベムスターが体当たりを仕掛けてきた。
「もう! なんで攻撃してくるの」
なのはは怒気を含んだ口調で杖を振るう。するとなのはの前にピンク色のバリアが現れて怪物の体当たりを防いでしまった。
「今度はこっちの番だよ。お願い、レイジングハート」
『Shoot Barrett』
なのはの杖が言葉を発し、ピンク色の光弾を打ち出した。それらは複雑な軌道を描いて、飛行数ベムスターに直撃、地面に叩き落とした。
「そのままトドメ! ディバイン……バスター」
なのはの杖に先程、巨大な猫に放った。いや、それ以上の光が集まると光の束となってベムスターに襲い掛かる。
ベムスターは逃げるそぶりも見せず、お腹を光線に当たるように見せつけた。
「やった、直撃」
なのはは勝利を確信する。以前茶色い怪獣と戦い、倒した自分の必殺技が当たったのだ。その威力になのはは絶対の自信を持っている。しかし、ベムスターはいっこうに倒れる気配がない。それどころか。
「なのは! 吸収している」
ユーノが驚愕し、叫ぶ。ベムスターはお腹にある五角形の器官でなのはの必殺技、ディバインバスターを吸い込んでいた。腹で食事をするように飲み込むと満足げにお腹をさすり、再び飛び上がる。
なのはは必殺技が効かないと分かり、苦しげな表情を見せるがユーノを撫でると囁いた。
「ユーノ君ごめんね。残念だけど、私だけじゃコイツは倒せないかもしれない。だから先にジュエルシードを回収して。それまで私はなんとか耐えてみせるから」
「なのは……」
ユーノは心配そうに見つめ返す。なのははにっこり笑うと。
「大丈夫だよ。私の攻撃が効かないみたいだけど、アイツの攻撃も私には効かないから、ヘーキヘーキ。それよりも、ジュエルシードを回収して、二人でどうやって勝つか考えようよ」
「うん、分かった」
ユーノは力強く返事をすると、そのまま一番近い木に飛び移り、枝を伝って地面に降りた。そのままジュエルシードまで走っていく。
「ベムスター、敵の狙いはあの『青い宝石』です。あれを渡してはなりません」
再び不気味な声が茂みから響いた。二人は正体を知らないがもちろん、メフィラス星人の声だ。
ベムスターはその声に反応してユーノを追いかけ、角から光弾を発射してユーノ進路を妨害する。
「ユーノ君の邪魔はさせない、アナタの相手は私なんだから!」
なのはは自分の杖、レイジングハートを振るった。無数のピンク色した光弾がユーノを助けるべく飛んでいく。ベムスターは先程と同じようにお腹の器官で光弾を吸収する。ダメージは与えられなかったが、ユーノがジュエルシードにたどり着いた。
「よし、これを封印してっ」
「ダメ、それは渡さない」
茂みの中から黒服金髪の少女がユーノ前に立ちふさがる。
黒いレオタードをベースとして、腰にスカートのようなヒラヒラが付いてる。マントを羽織った彼女もなのはと同じくらいの年齢で、金属でできた黒い杖を持っていた。さらにそれでジュエルシードを回収してしまう。
なのはだけに負担させてしまった罪悪感からか、ユーノが吠えた。
「君があの怪物を呼んだのか!」
「違う、私はジュエルシードを手に入れるために来ただけだから関係ない」
黒い少女は少し怯えながらも、きっぱりと否定する。
「ベムスター、相手はあの黒い女の子です。アイツを倒してジュエルシードを奪いなさい」
ベムスターが標的を変えて突っ込んでいく。対して黒い少女は杖をカマ、デスサイズに変えて向かい打つ。ベムスターの爪と黒い少女の大鎌が交差し、火花を散らした。
なのはとユーノはジュエルシードを黒い少女に手に入れられた以上、撤退してもいい状況だが。
「ユーノ君、あの子に加勢するよ」
「分かった」
迷うことなく黒い少女の味方をした。
ベムスターが攻撃に転じようとするとなのはが光弾で牽制し、隙を作る。
「ねえ! この怪物は光線とかビームみたいな攻撃は効かないよ」
「分かった。ならこれで! アークセイバー」
黒い少女はカマから光の刃を生み出すとベムスター目掛けて振り下ろした。
「しまった!」
どこかでメフィラス星人が叫ぶ。だがもう遅い。ベムスターは刃の餌食となり、切り刻まれて爆発した。
ベムスターという怪獣は光線を吸収してしまう腹を持つ一方で、切断攻撃にはめっぽう弱い。
今回はなのはと戦うために創られた。確かに、なのは相手には善戦できたし、なのはの手札も晒せた。目的としては大成功。しかし、予想外の黒い少女には弱点を突かれて負けてしまった。ようは相性が悪かったのだ。
「すごーい、私には倒せなかった怪物を倒しちゃった」
「ありがと、それじゃ」
待って。なのはが黒い少女を止める。
「ジュエルシード、渡してもらえると嬉しいな。私たちも集めてるから」
なのはが優しく微笑んで話しかける。黒い少女はいきなり距離をとり、なのはにベムスターを倒した大鎌を向けた。
「ジュエルシードは私がもらうから」
「私は戦いたくなんかないよ。ねえ、お名前教えて、私は……」
なのはが名前を名乗ろうとした時、すぐ横の木がバッサリと倒れた。
「それ以上は近づかないでください」
「なんで皆お話し聞いてくれないの」
なのはは悲しそうに叫んだ。しかし、黒い少女には届かず、連戦で疲れた身体はいうことを聞かない。フラフラと歩み寄るなのはに対し、黒い少女がカマを振るう。なのははレイジングハートを構えて黒い少女の一撃を防いだ。
「私があの怪物を倒した理由はジュエルシードが奪われそうだから。別にあなたを助けたわけじゃない」
「でも、じゃあ、なんでジュエルシードを手に入れたのに立ち去らなかったの」
黒い少女は一瞬、申し訳なさそうに顔を伏せると、なのはを蹴とばして距離をとる。
「アークセイバー」
ベムスターを屠った刃が襲い掛かる。力を使い果たしたなのはに成す術は無く、そのまま直撃するとバッタリと倒れる。
薄れゆく意識の中、黒い少女の口が、ごめんね。と言っていたことをなのはは見逃さなかった。
この一部始終を見ていたメフィラス星人は大満足だった。
フェイトはどこかへ飛び立ち、なのはの相棒のユーノが助けを呼びに行った。残されたのは気を失ったなのはとメフィラス星人だった。
「いやー、面白くなってきましたね」
メフィラスはなのはを木に寄り掛からせて安静にすると、何処からともなく救急セットを取り出して怪我の手当てを始めた。
もちろん、なのはが可哀そうだからという理由ではない。今後に使えそうだと判断したからだ。
「あなたにはもう少し頑張ってもらわなければなりません。ベムスターを失った以上の働きを期待しますよ」
メフィラスはユーノが呼びに行った助けが来るまで待機してから、異次元に消える。
ベムスターを失ったことは痛手だが、それ以上の情報が手に入った。
まずは、なのはとユーノという二人組の戦士。少女とフェレットという妙な組み合わせだが、この二人がベムラーを倒したという情報、そして攻撃技は光線系を主軸とする遠距離タイプだということ。なにより、ベムスターを使えば必殺技を無力化できること。これだけで十分だ。ユーノの能力はまだ未知数だが、なのはに頼っていることから脅威ではないと判断する。
二つ目、これがメフィラスの機嫌がいい理由だ。彼の勘は当たり『ジュエルシード』を管理する人物とそれを奪う人物が現れたのだ。仮に間違ったとしても問題はない。肝心なのは、なのはと黒い少女が対立する構図さえあればいいのだ。
どちらか片方の味方をしつつ、用が済んだら裏切ればいい。メフィラスは地球侵略ゲームの駒が新しく増えたと、喜んでいた。
そして三つ目、敵であると考えられるのが二人とも少女だということ。年齢的には浩に近く、小学生と仮定すれば二人の行動範囲は広くない。よって、この近辺に住んでいると予測ができる。あとで、浩とメトロンに特定してしまえば手の打ちようはいくらでもある。
悪質宇宙人の名に恥じない卑劣な作戦が彼の頭の中で踊っていた。メフィラス星人の中でジュエルシードは猫を巨大化させるものから、『異世界人を自分の手駒に加える引換券のようなもの』に格上げされた。
この後、ベムスターを倒されたこと知った浩に怒られたのは言うまでもない。なお、バキシムは落ち込んでいたもよう。
さて、再び場所が変わってここは、とあるマンションの一室。そこにあの黒少女が住んでいた。
「ただいま」
彼女が消えそうな声であいさつすると、部屋からドタドタという足音と一緒にオレンジ色の髪をした少女が出迎えた。
「おかえり~フェイト。大丈夫だった?」
「うん平気だよ、アルフ」
アルフと呼ばれたのはオレンジ髪の女性の方だ。少女と言っても彼女はフェイトよりも年上で、人間でいうと十六歳くらいだ。しかし、彼女の胸を見る限り発育がよく、もっと上の年齢に見えてもおかしくない。そして特徴的なのは犬のような尻尾と耳が付いていた。
もし、メフィラス星人やメトロン星人がアルフをみたらこう言うだろう、異世界人。と。
「それよりもね、見て。ジュエルシード、手に入れたんだ」
黒い少女、フェイトは今日ベムスターを倒して手に入れたジュエルシードを取り出した。アルフと呼ばれた女性はそれを見てフェイトを抱きしめた。
「すごいよ、フェイト! 初日から大成功じゃないかい。この調子なら残りもすぐに集まりそうだね」
笑顔で喜ぶアルフに対してフェイトは暗い表情だった。
「……アルフ、ベムスターって知ってる?」
「べむすたあ? なんだいそりゃ、星座の一種か何か?」
聞きなれない単語に首を傾げるアルフ。最近どこぞの怪獣王が星座になった気がするが、残念ながらベムスターという星座は無い。
「あ、そーだ。フェイトさ、プレシアから『すまほ』っていうこの星の機械貰ったじゃん。それに何か書いてあるかもよ」
「そうだね、調べてみるよ」
フェイトはスマホを取り出してグーグルを開き、ベムスターと打ち込んだ。
そして検索結果に出てきた単語に驚愕する。
「う、宇宙大怪獣ベムスター……ベムスター! 怪獣!? どうしようアルフ。こんな怪獣がいる星に来ちゃったなんて」
正体を知って怯えていた。テレビ番組の設定だが。
アルフは実物を見ていないので、半信半疑といった感じでフェイトからスマホを貸してもらう。
「そんなわけあるか。どれどれ、『宇宙大怪獣ベムスター。身長46メートル、体重6万1千トン』……身長46メートル!? そんな生物がいるってホント?」
「だ、だってコイツまったく同じような怪獣を倒したし。それにそれに、何処からともなく声が聞こえて、それもはっきりとベムスターって言ってたよ」
「んじゃあ、フェイトの見たベムスターも身長が46メートルあったのかい?」
「うんん、違う。二メートルとかそのくらいだったと思う。は、もしかしてベムスターの子供だとか……あ、そしたら親が地球に来て」
私食べられちゃうよ~とアルフに泣きつく始末。アルフは、よしよしとフェイトの頭を撫でながらWikipediaを読み上げる。
「帰ってきたウルトラマン、18話に登場した。って書いてあるから劇か何かに登場した怪獣じゃないかな。怖くないよ。それにフェイトが倒しちまったんだろ、そのベムスター」
「うん……」
ぐすん。涙目のフェイトが顔を上げる。アルフは一度『帰ってきたウルトラマン18話』を見る必要があるなと思うのであった。