「・・・どうするの姉さん。彼、生き返リストって例外じゃないの?」
「いや、違うわ。あの力はあくまであの大剣の物。あれを奪えば良いような気もするが、どうやら厄介な魔法で護られてるみたいだね。しかしあの大剣・・・あたしはどこかで見た記憶があるんだよねぇ・・・」
「ふぅん。私は見たこと無いわ」
「当然だろ?あんたは先週までカジノで働いていたんだからさ」
「案外“人”の娯楽も楽しいわよ?」
「あたしは興味無いね」
高く聳え立つ大岩の上から夜道を歩くクワレーを眺める白いベールの女と巨漢で如何にも悪い目付きの女が話している。
「で?どうするの?」
「取り合えず放っておくのが良さそうだね。あのゴーレムを倒した感じから、あたし達に勝てそうにも無さそうだ」
「分かったわ。ここには生き返リストも居ない事が分かったし」
「帰るよ」
2人の謎の人物は黒い靄に紛れながら姿を消した。
◇
翌朝。まだ朝霧が濃く残るグレン城下町では、ゴーレムに破壊された店やアーチ等、人で溢れかえる前に軽く修復していた。
「ほぉ、こんなに沢山ありゃ夕方には出来そうだな」
グレン城内の1階にある鍛冶ギルド。早朝から職人達が汗水流して良い武器防具を作るためにハンマーを振るっている。其処に上半身裸で赤熱した金属を水に浸けたオーガの男がクワレーが持ってきた重たい袋を前に話していた。
此処のギルドではよく素材とお金を受け取り、依頼品を作る職人が居る。この男もその1人で仕上がりが早いと有名な職人だ。
「銅の鉱石から銀の鉱石まで一杯あります。途中で拾った宝石の欠片も少々。あと、この銅の大剣も素材として使ってもらえませんか?」
「おう、良いぜ。依頼品はこの6点で合計1850Gになるが良いかい?」
「お願いします。夕方取りにきます」
「おうよ。あ、そうだ。これ女用に作るんだろ?身長とか分からねぇかな?」
「身長161、バストはトップ84のアンダー68のC、ウエスト62、ヒップ89の体重52,4kg」
即答。どうやら知り尽くしているようだ。
「ウエストは引き締まってる感じか・・・やるなぁ、兄さん。名前は?」
「・・・レーンの村のクワレー・・・」
2人の男は拳と拳をあわせ、男は鍛冶に取り掛かり、クワレーは睡眠をとる・・・それぞれの使命に取りかかった。
◇
「すぅぅ・・・起きろぉぉぉ!!」
「どぅわぁ!?」
ドテ。
大型魔物の咆哮にも劣らぬ大声がソファに横たわっていたクワレーを跳ね上がらせた。やわらかいソファから一転、硬い岩の床に背中で着地したクワレーは痛む脇腹を押さえながら重たい瞼を持ち上げた。
「なぁに瞼にズッシードかけて寝てるのよ。観光するわよ観光」
「あぁ・・・」
「ん?結局寝るの遅かったのね?凄いわよ隈」
「あぁ・・・大丈夫だ」
ヨロヨロ立ち上がったクワレーは水道から水を捻りだし、コップ一杯に注いで飲み干した。
「あぁー・・・眠っ」
「ほらほら、行くわよ準備して」
「おう、待ってて」
綺麗に洗った皮の鎧を装備し、父の大剣を背負う。
いつ昨日のような事態に陥ってもいいように現状での最強装備。本来、町や村等では魔物が入ってこれぬように聖水をばら蒔く。それで町や村の安全は確保されるのだが、昨日はゴーレムの団体が、しかもグレン領西の南部に離れた場所に居る筈なのに襲撃してきていた。例外が多すぎる。
それはつまり、通常とは違う“何か”の力が働いているということだ。少なくともそれに気付いたクワレーは表面上感付いていないようにしているが、本心は黒幕に強い怒りを抱いていた。目の前で仲間が殺されそうになったのだ。無理もない。
「さて、行くか」
(旅の目的が増えた・・・まずは黒幕を見付けてぶちのめしてやる・・・)
◇
先ずは情報が無いのでは話にならない。アガペイもそうだが、それよりも町に何か手掛かりが残されてないか眠たさが残る鋭い目付きで視線を泳がせる。端から見れば関わるのは避けたい対象だ。
しかし、1時間回っても何も得られなかった。撒かれていた聖水がただの水の可能性も考えた。しかし、聖水は毎朝ヴェリナード城から送られてくる大量の水に教会の僧侶達が祈りを捧げ、聖なる力を得た水が聖水として使用される。そして直接、僧侶から衛兵に渡される。昨日も僧侶から手渡しで衛兵に渡された聖水はちゃんと撒かれていた。
では僧侶か衛兵が?それも考えた。だが僧侶はアズランで厳しい修行を終えた者のみがなれる。そう簡単に魔物の仲間に堕ちたりしないだろう。では衛兵は?残念ながら聖水を撒くとき、バグド王が同伴しており(祈りを捧げる時から同伴している)偽装も無理である事から可能性は非常に低い。考えれば考えるほど分からなくなる。
「ねぇクワレー?武器防具を買いたいんだけど」
「んぁ・・・買うのは止めとけ・・・荷物が増えるぞ。それに他にやってみたいのとかないのか?」
「んー、それもそうね。あ、酒場に行ってアガペイさんの情報収集とか?1度やってみたかったの」
確かに、酒場は常に冒険者等が集まる交流所。大概の奴は酒が回っているので良いことから悪いことまでペラペラ喋ってくれる。更に共に冒険する仲間を探し、パーティーを組めるので必ず寄っておきたい場所である。
「なかなか良いこと思い付くな」
「誉めても何も出ないわよ」
「別に期待していないけどね」
チリンチリン。
酒場の入り口が開いたときは全世界共通のこの鈴の音が鳴る。
「ガハハハ!」
「んでよぉ、俺が言いに言ったら泣きべそかきやがってよぉ」
「そらウケるわな!ガハハハ!」
行ってしまえばお仕舞いだが、真っ昼間から酒を片手に頬を赤らめているのは感心出来ない。しかし、このお陰で高い情報をタダで手に入れることもあるのだから何とも言えない。
「いらっしゃい。何か飲んでいくかい?」
カウンターのオーガの女が片肘を支えにカウンターから少し身を乗り上げる形で聞いてきた。クワレーの目的は酒ではない。てゆうかまだ19才歳だ。
「ちょっと情報収集をと思いまして」
「へぇ、情報収集ねぇ。何の情報なの?」
「昨日のゴーレム襲撃についてです」
「ほぉ」
「ちょっとクワレー。アガペイさんの情報じゃなかったの?」
「アガペイさんも探してるの?ゴーレムの件との関係が?」
アガペイは関係ない。今欲しいのはゴーレムについて。そう答えると昨日此処で耳に入った事を話してくれた。
「昨日、ちょっと関係がありそうな事を話してるのを聞いたわ。ちょうど・・・あの角のテーブルだったわ。特徴的な白いベールの女と男が話してた。その時に聞こえてきた言葉があったの」
「そ、それは?」
「『この次はガートラントの番』」
「・・・男は?」
「分からないわ。なんでも若い男が1人死んだって話だけど、私はあの白いベールの女がヤバイ奴だと思うわ。今回のゴーレム襲撃も恐らく奴よ。それに協力した男は口封じのためにゴーレムに殺させた。そして次はガートラント。だけど変なのよ。どうして途中でゴーレムが退散したか」
「王と兵が居ない時を狙って襲撃し、1人死亡、町のダメージも少ない。と、なると目的はなかなか予想出来ませんね」
だが有力な情報を手に入れた。次はガートラントでその白いベールの女が現れるかも知れないのだ。目的は何か全く見当はつかないが、クワレーの次の目的地は決まった。
「レーニア、行こう」
「え、ちょ、まだ飲んでない!」
正直、酒の匂いが好まないクワレーはそそくさと酒場を後にした。
◇
夕方のグレン城はオレンジ1色に染まって美しい。昼間の姦しさも収まり、店も閉まる。
「ねぇクワレー。お店閉まっちゃったよ?武器防具買えなかった」
「そう言わない。最後に行きたい所があるんだけど」
「うん」
城へ真っ直ぐ伸びる階段を登っていく。昨日衛兵が数秒で駆け抜けたのがいかに凄いか身をもって知った。特に2人は傷が完治していない。散々観光させろと言っていたレーニアも流石にこれで最後なのが安心していた。
「お?おお来たか」
グレン城入り口に腕を組んで待っていた鍛冶の男。レーニアは何をしたのかとクワレーを見やる。
「案外早く仕上がってな。待ちくたびれたぜ」
「ありがとうございます。1850Gですね・・・」
「クワレー何それ?」
「旅立ち祝いだ、中身は後でな。では」
「おう。また依頼してくれよな」
大きな袋を背負い、再び長い階段にのぞむ。レーニアは中身が気になるようで宿に着くまで落ち着きがなかった。
◇
「さぁ、旅立ち祝いだ!受け取れレーニア!」
バサァ!
袋の口を一気に広げ、ついに中身を明かした。
「これ・・・私に?」
「おう。だから買わせなかった訳だ。レーニア金無いしまともな装備もしてなかったからな」
ーー鉄のツメ
扱いやすさに長けた頑丈な鉄製のツメ。
ーーくさりシリーズ
此方はくさりかたびらを始めとした鎧。はちがね、かたびら上下、あみごて、あみぐつの5点セット。
比較的軽く、安価でありながら期待できる防御力を誇り、素早い動きをメインとする武道家は基本的に布製の装備が勧めれるが、これなら機動力を失わず防御力を手にできる。
「そのツメとかにさ、僕の銅の大剣も素材に回してあるんだ。そして約束だ」
「な、なに?」
「今度会うときまで、互いに強くなるんだ。どちらが強いか、競争って感じだ。そして、その分のお金、返せよな」
つまり、それは無事にまた会おうという意味なのだ。どこでこんな回りくどいやり方を覚えたのか。
「・・・あ、当たり前よ!次あったら私が勝つからね!」
「どうかな・・・着替えたら駅まで送るわ」
「ぁ、うん」
クワレーは先に部屋から出てレーニアが着替えるのを待つ。
「・・・」
「・・・」
腕に抱いたスラリンガルも沈黙を保つ。
ガチャ。
「お待たせ。凄いピッタリよありがとう。さ、行きましょ」
(スリーサイズ測ったとは言えない・・・)
宿を出て階段を下りる。何人かが走って駅に入っていく。どうやら箱舟が来ているようだ。
「急がなきゃ」
「レーニア。次はどの町に行くんだ?」
「1度ジュレットに戻るわ。そこにヤーンって言う武道家の凄いのがいるらしいから会いに行ってみるわ」
「ヤーン!?え、あの黄土色っぽいロン毛の語尾伸ばす奴か!?」
「そ、そうらしいけど・・・」
「そ、そうか・・・じゃああいつにあったら伝えてくれ。デスバトラーは死んだって」
「デスバトラー?」
「気にするな。絶対に伝えてくれ」
「わ、分かった」
ピィィィ!
駅員の笛の音だ。もうすぐに箱舟が出る。
「ごめん行かないと。ヤーンに伝えとくわ」
「あぁ。またな!」
駆け込み乗車でジュレット行きの箱舟に乗り込むのを確認したクワレーは窓から顔を覗かせるレーニアに手を振り、グッと親指を立てた。
((また会うその日まで!))
シュゥゥウ!
箱舟が発進。あっという間に箱舟は離れていく。
「・・・さて、行くかスラリンガル」
「ピキー」
如何でしたでしょうか。