テーレーテーレーテッテッテー♪
世の中には、盗賊と言う職業もある。職業柄非常に手先が器用で相手を欺くのを得意とする。
善悪様々な盗賊が居る中で、悪の盗賊が住宅等に侵入する場合、主に盗賊の鍵と呼ばれる道具を使う事が多い。しかし、盗賊の鍵もなかなか高価らしく、持ってるものはそう多くない。一方善の盗賊は対盗賊用に罠を作ったり、戸締まりの注意を促したりしてお金を稼ぎ、善悪共通で魔物の持っているアイテム等を頂戴して売ったりとまぁ、お金稼ぎが上手い。
そして今宵、1人の盗賊がある物を“拝借”しにグレン城下町の宿屋にお邪魔していた。
「・・・」
窓から侵入した大柄の盗賊は既に目標物を決めており、無駄に鞄等を漁る事はない。
「・・・見付けた」
壁に立て掛けられたある物に手を伸ばし、目標達成した。と思った時、不意に部屋のドアが開いた。
「何!?」
「・・・おい、誰だ?」
これは盗賊も予想外だった。まさかこの部屋に泊まっている主がこんな時間に半裸で彷徨いているとは思わなかった。
半裸の男は体から湯気が立ち上っており、風呂に言っていたのだろう事が分かる。
「・・・せ、清掃です」
「・・・」
「・・・」
沈黙。こんなみえみえの嘘に騙される者が
「おぉそうでしたか。すみませんね、今ランプつけます」
居た。
(こいつ・・・本当に信じたのか?)
月明かりの中、半裸の男はもぞもぞと着替え始めた。
皮のズボンを穿き、靴を履く。
(ん?何で皮の鎧を着るんだ?)
「清掃員さん・・・その剣から・・・」
(まさかこいつ!)
「手を離してもらいましょうか!」
刹那、半裸の男、クワレーが盗賊に体当たりを仕掛けた。壁とクワレーに挟まれて肺から空気が押し出される。
「ぐぬぅ!」
盗賊も負けずと押し返し、素早い動作で窓から逃げていった。
クワレーはすぐにスラリンガルに皮の帽子を被せ、鞄を担いで部屋を飛び出した。
「おばさん!お世話になりました!」
「え、ぁ、あぁ」
受付のおばさんに手早く挨拶をし、夜風が冷たいグレン城下町に駆け出す。階段をジャンプして降りるとグレン領東に逃げていく盗賊を発見した。
体格的にオーガであろう盗賊は筋肉で体が重いのかさっきの体当たりが効いたのか、疲弊した様子で大剣を持ち逃げていた。
「スラリンガルもっと上げるぞ」
「ピキー!」
グレン領には乾燥した大地が広がる。草木も殆ど枯れたまま突っ立っており、昔はもっと緑豊かだったのかな?と思わせる。道なりに進む男は追いかけてきたクワレー達を見付けると逃げるのを止め、腰についていたツメを装備した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・しつこい・・・後でこれは還すから・・・」
「うるせいやい・・・そんなの、信じられるか」
「くそ・・・ふっ!」
「!?」
一瞬でクワレーの懐に潜り込んできた盗賊。先程の疲労した感じは嘘だったのか、屈伸体勢からツメをX字に振り抜いた。刹那、風の刃がクワレーの皮の鎧を抉り取った。
ーーウイングブロウ
ツメを装備した時に使える技で、魔力を纏わせたツメを振り抜くことで風の刃を作り出し、相手にツメが直撃しなくても、大ダメージを与えられる。
「うわぁ!」
そんなに耐久力が高い訳でもない皮の鎧は簡単にボロ雑巾状態に。皮膚も切れた様で、血が垂れてきた。
「このぉ!」
激情したクワレーが盗賊を殴り上げた。大剣を振り回していた事でついた筋肉は素手での格闘でも大きな力を発揮する。盗賊の鳩尾にめり込んだ拳を捻り、地面に叩き付けるように振り抜いた。
「ごぶ!?」
盗賊の装備は黒い布製の装備。防御力は皮よりも遥かに低い。故に背中から地面に叩き付けられた盗賊は胃から逆流してきた物を思わず吐いた。強い酸で喉がやけ、目眩がする。
「はぁ、はぁ」
「ぬぅぉおお!」
ズドム!
今度は盗賊のでかい拳が皮の鎧の裂け目からクワレーの体を揺さぶった。生憎吐く程の威力は無く、クワレーが怯む程度だった。
「はぁ・・・はぁ、分かってくれ・・・必ず還す・・・」
「信じられるかっつんだ・・・とうしても・・・なら、僕を連れていけ・・・」
「はぁ、はぁ、分かった・・・ピィィィ!」
甲高い口笛。魔物を呼んだのか?そう思わせる間もなく、ガラガラと木製の車輪が回る音が近付いてきた。
「兄さん!成功した?」
馬が木製の馬車を引いて現れた。馬を操っているのは男と同じオーガだが、声が高い。
「え、ちょ、兄さんどうしたの!」
「すまないギール、こいつも連れて行ってくれ・・・」
バタ。
「よ、宜しくお願・・・」
バタ。
2人共白目を剥きながら気を失った。
◇
ガラガラ・・・。ガタン!
馬車が縦に跳ねたと同時にゴチッと痛々しい音がした。
「「・・・痛い」」
盗賊とクワレーが目を覚ました。まだ頭が回っておらず、暫く馬車の屋根を眺めているとだぁぁ!と跳ね起きた。
「うるせぇぞ・・・耳がいてぇ」
「スラリンガルは!?父さんの大剣は!?」
「焦るな。ちゃんと大剣はそこにある。そのスラリンガルってのは多分前だ」
「は、はぁ・・・」
「・・・すまなかったな。こんな事に巻き込んじまって」
盗賊がクワレーに深く頭を下げた。
「巻き込んだと言われても・・・何かあるんですか?」
「聞いてもらえるか?」
◇
事の発端は1ヶ月前、盗賊、名前をギージスが魔物使いとしてメラリザードをオトモとし、ロンダの氷穴で修行中の時、うっかり奥のエリアに踏み行ってしまったのだ。彼処は伝説の悪鬼ゾンガロンが封印されていた。封印されて以来、久々の“獲物”を逃すことを無く、封印された状態でも強力な魔瘴を撒き散らし、主を守るためメラリザードがギージスを庇い、強大な力を暴走させ、姿を消してしまった。
それからゾンガロンにも動きは無く、メラリザードも帰って来なかった。だが先週、突如巨大なドラゴンがランガーオ村の武闘場に降り立ち、村人を次々と遅い始めたのだ。この前、獅子門辺りで暴れていた魔物の群れもそのドラゴンが率いてきたらしい。
ギージスによると、メラリザードは姿を消す直前体が巨大化していたと言う。そしてメラリザードの尻尾に鈴をつけたらしい。飛来したそのドラゴンの尻尾の先にも、同じ鈴がついていたらしい。そこでギージスは意思の疎通を試みた。しかし、近寄るだけで逆鱗に触れ、それ以降朝起きてから村人を襲い、眠るまでそれを止めない。ただやられる訳にもいかず、村人は村の強豪で立ち向かい、少しでも早く疲れさせ眠ってもらうしか無かった。
何故村をでないか?移動したくても出来ないのだ。ドラゴンが来て以来ラギ雪原の吹雪が酷く、奥のラギレ村に行けず、更に村を出ようなら魔瘴が村の出入口すべてを覆い、食料の調達すらできなくなった。今回、この2人は川を利用して運良く外に出れただけ。無事に入れるか分からない。
「成る程・・・でも、どうして僕の大剣を?」
「何か力を感じたんだ。普通の大剣とは絶対的に違う何かをな。そこでお前を巻き込まないように借りようとした訳だが、本当にすまなかったな」
「その事は大丈夫です」
「兄さん着いたよ」
いつの間にか止まった馬車から顔を出すと、1面の銀世界に黒い靄がかかる村の入口が見えた。
「・・・魔瘴か」
「俺達はたまたま出られただけで入るまでの作戦は立ててないんだ」
ギュッ。
大剣を背に担ぎ、白い大地に降り立つ。すると、それに反応するように魔瘴が活発に蠢き、まるでクワレーを拒んでるようだ。
「なんだ?いつもと動きが違うぞ」
「・・・」
「どうした?」
魔瘴を凝視するクワレー。刹那、魔瘴がクワレーに襲いかかった。
「!」
フィン!
だが、魔瘴はクワレーの前で掻き消された。それだけではなく、村にこべりついてた魔瘴もただの煙のように風に流されて消え去った。
「・・・何が、起きたんだ・・・」
「兄さん、あれは一体・・・」
「・・・はっ!?僕は何を」
クワレーはドッと汗が吹き出した。何故か分からない。自分でも分からない何かが働いた。恐怖を感じ、そして妙な安心感を得ていた。
「と、取り合えず入れるようになったのは良かった!さぁ、入ろう!」
「は、はい」
初めて入ったランガーオ村は酷く荒れていた。
如何でしたでしょうか。