ボォオォオ!
魔瘴竜から絶えず灼熱の炎が吐かれ続ける。あの炎はそこら辺の魔物が使うブレスとは桁が違う。しかもあんな長時間(15秒以上)食らえばもう骨も残っているか定かでは無い。
「ギール・・・ぅう・・・俺が不甲斐ないばかりに、無関係な旅人まで殺してしまった・・・クッソォォオ!」
リングを怒りのままに殴った。手に届くブレスの熱が、ジリジリと皮膚を焼いていく。
「!?」
ズシン、ズシン。
魔瘴竜がブレスを中断して目を皿にした状態で1、2歩後退した。パチパチと火の粉が舞うリングに、異様に燃えていない箇所、ブレスの攻撃範囲の筈なのに焦げ1つ付いてない箇所が存在していた。
「・・・?どういう・・・」
「ゴガァァァア!!」
ギージスの理解も間に合わない中、魔瘴竜は威嚇するかのように激しく咆哮した。
「・・・ぁ、あぁ・・・」
その燃えていない箇所に涙で良く見えないが、2人の人影が見えた。考えなくても分かった。ギールとクワレーだ。
腰を抜かしたギールを魔瘴竜に背を向けて抱き締めた形で庇ったクワレー。皮装備の所々が焼けているが、クワレー自身にら明らかにあの灼熱のブレスが効いていない。ギージスは更に混乱した。だが何より、ギールが生きていた事に涙が止まらなくなっていた。
「く、クワレー・・・?」
「・・・焦った・・・まさかあれに耐えられるなんて思いもしなかった・・・」
熱による汗か、命の危険を味わったことによる冷や汗か、ダラダラと額が水浸し状態だ。
「だ、大丈夫なの・・・?」
「えぇ、まぁ」
クワレーが無事だった理由は驚くものだった。
まず、背中の大剣が異常なまでに炎に強い事だ。リングも融解する熱にも軽く耐え、盾となっていた。この大剣はもはや普通の大剣ではない。
そしてクワレーが母から貰った竜のおまもりだ。これはなかなか有名なアクセサリーで、光や炎属性の攻撃をほぼ無力化(ゲームでは25%)できるとても有名で希少なアクセサリー。もっとも、クワレーはこの竜のおまもりが素晴らしい物だと気付いていない。
「取り合えず身を隠して!僕が注意を惹きます」
「ちょっと待って・・・腰が抜けて・・・」
「グギャァア!」
魔瘴竜もいつまでも待っている奴ではない。長い尾を利用してテールスイングと呼ばれる攻撃を行う。迫る尻尾から再びギールを庇うが流石に無理があった。2人共々リングの外に凪ぎ飛ばされ、魔瘴竜がとどめと灼熱の炎を吐きだそうとする。
「ぉぉおお!」
雄叫びをあげる、注意を逸らすためだ。そしてそれに見事にかかった魔瘴竜は向きを変え、クワレーに灼熱の炎をフルパワーで吐いた。
とてつもない、さっきとは比べ物にならない熱線のようなブレスがクワレーを襲う。だがクワレーは大剣を盾とし、1歩ずつ確実に魔瘴竜に踏ん張り歩いた。時々押し返されそうにもなるがダメージ自体は皆無に等しい。クワレーに防がれY字にわかれたブレスが観客席をドロドロに溶かしていく。
「ぐぅぅう!」
ゴォォォォオオ・・・ボッ!
ブレスが一瞬弱まった。人で言うところの息切れを起こしたのだ。それを逃がさないクワレーが闘争本能のままに一気に駆け出した。リングの溶けた箇所を踏まないようにやや弧を描いて魔瘴竜の首元に肉薄。反応が遅れた魔瘴竜は咄嗟に動けない、急ブレーキをかけて滑り込む!
「いっけぇえ!クワレー!」
「ぬぅぅぅうあぁ!!」
ーー!
リングごと切り裂く形で、吸い込まれるように魔瘴竜の首に刃が伸びていく。そして、まるで空を斬ったのではないかと錯覚させる手応えの軽さと静かさ。
「はぁ、はぁ!」
「グ・・・ギ・・・」
ブシュッ・・・ドチャ!
数秒の沈黙の後、重力に引っ張られた魔瘴竜の頭が大量のどす黒い血を撒き散らしながら血の海に沈む。
「や・・・やったの・・・?」
「お、おぉ・・・」
「やった・・・やったぁぁ!」
大袈裟にガッツポーズで跳ね喜ぶクワレー。
「やった!やったわよ兄さん!」
「おおお!やったなクワレー!」
怪我で痛い筈のギージスも興奮してクワレーに駆け寄る。
「ありがとう!ありがとうクワレー!本当にありがとう!」
涙を流し何度も頭を下げるギージス。ギールもまた大粒の涙を流してお礼を述べる。彼らのこれまでの苦しみは今の戦闘で分かったつもりでいたクワレーだが、2人の姿を見ると改めて大変だったんだと思わされる。
「さぁ、帰ろう。皆にこの吉報を」
ーーお待ちくださいーー
「ギール?」
「いや、私は何も」
「僕も何も」
ーーお待ちください我が主、ギージスーー
「・・・お、お前は」
ーー私の名はメラリ。我が主ギージス、ご迷惑をお掛けしましたーー
どこからともなく聞こえる声、ギージスはメラリと名を聞いた途端、目を見開いて魔瘴竜の死骸に駆け寄った。
「お前、やっぱりメラリだったんだな・・・すまない・・・俺のせいでお前を!」
ーー我が主のせいではありません。あの時、私が我が主を護れたのは何より嬉しい事です。そしてあの悪鬼ゾンガロン・・・奴の魔瘴に呑まれた私は我が主を襲いそうでした。だから私はゾンガロンから逃げ出しました、しかしどこへ行こうとゾンガロンの魔瘴がまとわり、遂には奴の命令に逆らうのが難しくなって気付けば此処に居ました。私にはほとんどの記憶がありません。ですが、何をしたのか予想がつきます・・・我が主、無事で良かった・・・ーー
「メラリ!すまない!すまない・・・!」
ーー聞いてください我が主。悪鬼ゾンガロンはもう魔瘴を出すことも、誰かを自分の手駒にするのも不可能でしょう。ゾンガロンは私に封印を破壊するように何度も命令をしてきましたが、抵抗して破壊は免れましたーー
「ゾンガロン・・・!」
シュゥゥ・・・。
魔瘴竜、メラリの死骸が黒い靄となって霧散していく。
ーー時間が来ました・・・。我が主、もう一度言います、悪鬼ゾンガロンはもう暫くの間は何も出来ないでしょう。ですが、奴はこの村に、オーグリード大陸に必ずや災厄をもたらすでしょう。その時まで、力を付けて下さい・・・そし・・・て、私が愛したこの村・・・守っ・・・
それを最後に声は聞こえなくなった。膝から崩れ激しく嗚咽するギージスをクワレーとギールの2人はあえてそのままにして武闘場を後にした。
◇
「ありがとう・・・貴方のお陰でこの村の皆の命が救われたわ。お礼してもしきれないわ」
武闘場から村に降りていく途中、ギールはもう一度深く頭を下げた。
「あれは・・・僕の実力じゃないです。この大剣のお陰ですよ。僕が感謝されるのは間違ってると思うんです」
「確かに、貴方の大剣が大きく働いたのは事実よ。けどね、それ以上に貴方は私達を救う為に命を懸けてくれた。大剣はあくまで武器、それを使う人に責任があるの。貴方の大剣はとても強い、けれど、その力を使った貴方が村を救ってくれた。貴方に感謝しないのも間違ってると思うけど?」
「・・・じゃあ、ギールさんもギージスさんもこの村の英雄ですよ。何より、僕1人じゃ勝ててなかった筈ですから」
「ピキー」
「ふふ。分かってる、スラリンガルも英雄よ」
「ピキー(ニヤニヤ)」
ギールに抱き撫でられてなにやらニヤつく(元々そんな顔してるが)スラリンガル。クワレーもつい視線がいってしまうが、スラリンガルとギールの豊満な胸がモニュモニュと押し合っているのだ。
「・・・(あいつ、ムッツリスケベだったのか)」
相棒の意外な1面を知り、ちょっと悲しくなったクワレー。溜め息つきかけた其処にベガザンが驚いた顔で駆けてきた。
「お、おぉ、お前ら・・・あのドラゴンはどうしたんだ?」
「全て、終わったみたいだな」
ベガザンの後ろから現れた大きな影、レッドの目尻が垂れた瞳、黄緑の髭アフロと奇抜なルックスのオーガ。彼が、ランガーオ村の長、村王クリフゲーンだ。
「村王!怪我はもう大丈夫なんですか!?」
「心配するな。年はとったが、体は丈夫だ。それより、君がクワレーだね」
「あ、はい」
「村を救ってくれてありがとう。なんと礼を言えば良いのか分からなくてな。こんな事しか言えないが」
「いや、決して僕1人でやったんじゃありません。ギールさんとギージスさんが居たお陰で勝つことが出来たんです」
「ははは。そう謙遜するな。今日は村をあげて皆で祝福しないとな!ベガザン、皆に伝えろ。村の危機はさったと!」
「はい!」
大急ぎで村の皆に知らせに走ったベガザン。クリフゲーンもクワレーとギールを担ぎ上げ、「英雄誕生だ!」と豪快に笑いながら村へと下って行く。
「おぉ、そうだ。ギージスを忘れちゃいかんな」
そう言うと2人を担いだまま武闘場へ向かい、落ち着いたギージスを連れて村へと再び下った。そのあと、村人総出の祝福パーティーが開いたのはまた別のお話。
如何でしたでしょうか。
最後に、ずっと武闘家と変換していた筈が武道家になってましたすみません。