「ヌーク草って凄いな。さっきまで寒がってたのが馬鹿みたいだ」
「私達オーガは寒さにも暑さにも強いから特にこれくらいなんとも無いけど、他の種族は大変そうね」
「んー、まぁそうだろうね。気候に強いのは羨ましいかな」
「ねぇ、クワレーの大剣さ、どう見ても『退魔の太刀』にしか見えないんだけど・・・それってそんなに強かった?」
ギールがクワレーの背中で歩く度に上下する大剣を退魔の太刀と呼んで鞘から引き抜いて見る。確かに、見た目は退魔の太刀であることにはかわりない。だが、どう考えても昨日、ドラゴンクローで鱗が薄い腹を攻撃したのに薄皮しか剥げなかったあの魔瘴竜の首を落としたのはおかしい。異常である。
「それに、ブレスは竜のおまもりで軽減出来たのは納得するけど、ほぼ無効にさせるのは無理なのよ?この太刀が盾の役割を果たしてたみたいだけど、あの高熱に耐えるなんて、それも異常よ」
「母さんは『元の姿は知らないけど』って渡したんだ。多分、これは見た目が変えられてるんだ。だからその事も調べたいんだ」
「ドレスアップじゃない?」
「ドレスアップ?」
「そ。ドレスアップって言うのは武器や防具の性能をそのままに、見た目だけを他の物に変えられる超特殊な魔法の1つよ。メギストリスにドレスアップ屋って言うのがあるみたいだから、其処に行ってみれば?」
「おぉ!頼もしい」
ギールから太刀を受け取ったクワレーは白刃に写る自分の目と視線が合う(当たり前)。すると、ふとあることを思い出した。
「ねぇ。村を覆っていた魔瘴だけど、僕が近付いたら消えたって本当?」
「そうよ。風に流れて消えてったわ」
「まさかとは思うけど・・・それもこの太刀の力なのかな」
「どうして?」
「魔物ってさ、魔瘴が力の源なんでしょ?つまり、この太刀が村を覆っていた魔瘴を拒絶して消し去ったと仮定するなら、同じ物で出来ている魔物も拒絶してあんな簡単に倒せる。そうとしか考えられないんだ」
あくまでこれはクワレーの仮定であり、真実ではない。だが真実に近い。答えが出るのはまだ先だ。
そうこう話ながら歩いていると、いつの間にか獅子門が目と鼻の先に見えた。
獅子門の名の通り、集落の入り口の上には大きな獅子の顔が対に削り出されており、見る者を圧倒させる。
「凄い・・・まさに獅子の門」
「ここは元々ガートラントとの戦争が起きて、グレン城が落とされた時の一時避難場所だったんだけど、もう戦争も起きないし今じゃすっかりランガーオとグレンの中間の休息所になってるわね」
此処獅子門は寒冷地であるランガーオ山地と比較的乾燥地であるグレン領を二分する場所。この2地域は気候差が激しい為、オーガ程気候に強くなければ寒暖差で体調を崩す種族が多い。
クワレーはヌーク草を食べてしまった為、此処を抜けるとあっという間に倒れてしまうだろう。やむを得なく効果が切れるまで待つことに。
「ちょっと暑い・・・」
ランガーオ山地と比べて比較的寒くない此処ではヌーク草の効果が仇となっているようだ。皮の鎧を脱ぎ捨て、汗だくの上半身を手でぱたぱたと扇ぐ。
(・・・意外と良い筋肉ついてるじゃない)
筋肉と言えば皆オーガを想像する傾向があるらしい。それは確かにそうだろう。だがあの可愛らしいイメージのプクリポにも可愛くない、それこそ笑えないレベルのゴリマッチョもいるのだ(メギストリス在住)。そう考えれば、大剣一筋のクワレーだってかなりの筋肉がついていても別段不思議な事ではない。明らかに常人のウェディよりも筋肉質な体に思わずドキッとしたギールは自分の腕をチラリと見てみる。
魔瘴竜戦でもそうだったが、彼女はそれほど大剣の扱いが上手い訳でもない。オーガとは言えど全員が全員ムキムキでもないし、ましてや女の子となれば大剣を扱う筋肉をつけるのは難しい。故に扱いに慣れておらず、彼女の腕は其処らのオガ娘とかわりない。と少し安心したようにホッと息をついた。
「クワレーはさ、大剣振り回してて辛くないの?」
「うーん。1度斧も使ったことあるんだけど、大剣の方が断然マシだね。斧ってガードに向かないし、遠心力でやたら体を持ってかれるから好きじゃ無いなぁ。そりやぁ大剣も遠心力凄いけど、やっぱり斧の方が先端重たいせいで余計そう感じちゃうんだよね」
「ふーん。私も大剣使って戦ったけど、何も出来なかった。大剣を持ち上げようとしても、力が入らなくて、凄い重たく感じたの。そう考えると、大剣は諦めた方が良いのかな?」
「無理に使わなくても良いと思うよ。例えば・・・片手剣はどう?結構軽いしスピードも落とさないで戦えるよ」
なるる。と納得するギール。既記のように実際、彼女に大剣を扱う筋肉をつけるのは難しい事から、斧も無理。となれば片手剣でいるのが一番安定するだろう。
「まぁ取り合えずグレンに着くまで考えておくわ。クワレーもあっちに着いたらもうちょっとマシな防具買ったら?」
「そうだね。考えておくよ」
正直、クワレー自身はあまりお金を短期間にバカバカ使うのは好きじゃないが、焦げたり抉り取られていたり、もうこの皮装備も長くもちそうにない。これを機にもう少し頑丈な物に買い換えるのも良いだろう。
何を買おうかな。と、ふと獅子門内を見渡すと、丁度集落の真ん中を2つに分断する崖が横たわっていた。其処からまっすぐ空に向かって光が溢れるそれは、クワレーが今まで見たことのない物だった。
「ねぇギール、あれは何なの?」
「ん?あぁ、あれ?あれは『光の河』よ。詳しい事はちょっとよく分からないから、あそこの人にでも聞いてみたら?」
ギールがバザー・預かり所の小屋の後ろで『光の河』をジッと見つめるオーガの男が居た。かぶと以外のげんぶの道着一式を身に纏った彼からはなにか他とは違うオーラを感じ取れる。流石にクワレーはこのまま話し掛ける訳にもいかないので、皮の鎧を装備してから。
「・・・あの、すみません」
「ん?おぉここでオーガ以外の人を見るのは珍しいな。私になにか用ですか?」
「この『光の河』が何なのか知りたいんですが、何かご存知ありませんか?」
「『光の河』に興味が?ならば私の知っている事を教えよう。この『光の河』、世界の大陸のいたる所に存在していてな。特に深いものでもなくて、洞窟が下にある場所もある。そして、この力は魔瘴を抑えるものでもあり、今はその力が弱まっているのだ」
「力が・・・?」
「そして私達“聖使者”は、きたるべき“災厄との戦い”に備え、強者をさらに上へと導く者だ。青年よ、アストルティアは今、暗黒の時代を迎えた。このままでは大いなる闇の根源がアストルティアを暗黒へ突き落としてしまうのだ。君が強くなった時、私の元に来なさい」
自らを聖使者ホウガイと名乗った彼は君が強くなった時、再びここに来なさい。と言い、ランガーオ山地に歩いて消えた。『聖使者』『災厄との戦い』『大いなる闇の根源』・・・胸中で何回も反芻するクワレーに心配したギールが駆け寄ってきた。
「クワレー大丈夫?」
「あ、あぁ。ギール、大いなる闇の根源って知ってる?」
「なにそれ?」
「・・・大いなる闇の根源がアストルティアを暗黒へと突き落とし、災厄との戦いが始まる・・・」
「ど、どうしたのクワレー?」
「ギール。はやくグレン城下町に行こう。暗黒の時代が始まったんだ」
頭に?を浮かべて悩む仕草。さっきのホウガイが何かしたのかとランガーオ山地への方をみたが、とっくに姿はみえない。
「行こう。ヌーク草の効果も切れたよ」
「あ、うん」
◇
一方、遠く離れたジュレットのレーニア。彼女は一足早くヤーンから本格特訓を受けていた。
「お~お~。張り切ってるじゃんレーニア。流石クワレーの友人じゃ~ん」
「はぁ!はぁ!」
ジュレー島上層には奥に行くにつれて魔物が強力になっていく。今の特訓では強い魔物から兎に角逃げて、足腰を鍛えると言う無茶苦茶な特訓だ。
「いや~オレも超天道士になって時間があまりないが、特訓つけるのも楽じゃないよな~」
「ねぇ、ヤーン・・・そう言えばクワレーが言ってたんだけど、デスバトラーは死んだって(今思い出した)」
「デスバトラー・・・そうか、死んだのか・・・」
急に暗い表情になったヤーンがその場に腰を下ろし、レーニアも腰を下ろした。
「・・・デスバトラーってのは、オレと同じ超天道士を目指していた武闘家の端くれだったウェディのバトラーって奴のことだ。そいつはオレとクワレーとの3人でよくつるんでたんだが・・・2年前に、悪魔に魂を売ったんだ」
「悪魔に魂を?」
「そ。んで、バトラーはちょ~スゲェ力を手に入れたって訳だ。そしたらそいつ、オレがジュレットの町に引っ越した後にコラとレーンの村の奴らを皆殺しにするってさ。知ってたか~?」
「いや、バトラーは少し思い出したけど、そんなのがあったとは聞いてないわ」
「だろ~な。だって悪魔から手に入れた力で村に復讐するって聞いたクワレーが独りで立ち向かったんだからなぁ」
空を仰いだヤーンが更に話を続けた。
「・・・クワレー、バトラーを殺しちまったのか・・・」
如何でしたでしょうか