2年前、悪魔に魂を売った男が居た。
その男は常に2つの村に復讐心を抱いていた。
昔、男の父親はコラ村で魔物使いだった。魔物と心を交わし、魔物をパートナーとして共にする職業だ。
だがある日、男の父親が連れてきた魔物が暴れ、コラとレーンの村人に大怪我をさせてしまったのだ。魔物は殺され、男の父親は深く傷付いた。そして村は男の父親を避けるようになった。
それから暫くした時、男の父親は行方不明となった。妻と息子を置いて。
だが両村は男の父親を探そうとも、気にしようともしなかった。そして男の母親もふと姿を消し、2人は骨として帰ってきた。残された男は強く生きた。そして、待っていた。
「そうだ・・・お前達は俺の父を、母を死に追いやった。だから力を手に入れた俺が、今度はお前達を死に追いやる番だ」
男は真っ黒な眼を持っていた。とある悪魔と契約し、己の魂を売った男は人の枠を越え、その見返りに強大な力を手に入れた。その力を使う度に、男は肉体が魔瘴に染まって行く。そして最期には死ぬのだ。
「フゥ、フゥ、ありがたいぜジウギス・・・これならあの村の野郎共を殺せる」
「ジウギスか・・・お前はどうしちまったんだ」
男の背後から聞きなれた声。
「・・・よぉ、クワレー。ヤーンはどうした?」
「昨日引っ越した。悪いけど、お前には皆を殺させない。お門違いの復讐野郎」
「お前に・・・お前に何が解る!お前ら、てめぇらせいで、俺の家族が死んだ!そのてめぇらに死を与える!それが俺の復讐なんだよ!」
「それは違う!確かに2つの村はお前の両親が居なくなかろうが気に止めようとしなかった。だけど、それでお前が皆を殺すのはおかしい!」
「黙れ・・・黙れぇぇえ!!」
男、バトラーは球状に地面を凹ませ、怒りを露に。口から冷気を溢れさせ、ユラリと立ち上がる。
「・・・」
「お前らの言い分は聞き受けねぇ!俺はこの力で・・・ぅぶ!?」
力を行使した反動で体が魔瘴に冒され、吐血。バトラーの予想を遥かに越えるスピードで体が侵食されている。
「俺はもうじき魔物になる・・・もしかしたら魔物にすらなれねぇかもしれない」
「・・・」
「そうだとしても!」
「どういう事だよ・・・バトラー、クワレー・・・」
いつから2人の話を聞いていたのか、木の陰から引っ越した筈のヤーンが出てきた。
「ヤーン!どうして」
「忘れ物を取りに来たんだけど、どういう事だよバトラー、皆を殺すって!」
「もう、遅い!」
ゾワ!
ヤーンとクワレー。2人の肌をまるで蟲が這いずり回ったような寒気が襲った。バトラーを大量の魔瘴が取り巻き、みるみる彼を異形の魔物へと姿を変えていく。
『ハッハッハ!アーハハハ!見ロ!コノ溢レルパワーヲ!強靭ナ肉体ヲ!』
例えるなら、悪魔へと変貌を遂げたバトラー。額の皮膚を突き破って大きな角が伸び、筋肉で膨れ上がった皮膚はウェディの青白い皮膚の色から紫へ。脚も獣のように趾行型になってウェディの面影など全く無い。
『俺ハ、デスバトラー!誰ニモ邪魔ハサセネェ!』
「くっ、もうじき母さんが帰るって言うのに・・・」
「こんなの親に言っても信じやしない!ヤーン、お前は帰れ!他の人には言うな、信じるわけないからな!」
「何言ってるんだ!オレだって武闘家の端くれ、戦える!」
「良いから帰れ!お前の父さんはジュレットで闘病中だろ!お母さんの方も体調が良くないんだろ!?だったらお前が2人の側に居てやらないと!」
「でも!」
『ゴチャゴチャ五月蝿ェエ!』
咆哮にも聞こえる怒号と同時にデスバトラーが駆け出した。1歩1歩が地面を抉り、2人に食らわせようとして振った拳。しかし避けられたものの、風圧だけで2人に腰をつかせる事ができた。
「これはヤバイ!クワレーどうするよ!」
「兎に角逃げろ!こいつに背を向けて逃げるぞ!」
「お、おう!」
2人はデスバトラーに背を向け、駆け出した。だが、クワレーは急にUターンし、デスバトラーに立ち向かった。武器は背の銅の大剣。
「クワレー!?」
「此方だノロマ!皆を殺す前に僕を殺してみろ!」
『ナメルナァァア!』
理性がほとんど飛んだデスバトラーはクワレーの挑発に乗り、人気の無い所に誘導するクワレーについていく。
「ヤーン!逃げろ!無事だったらまた会うぞいいな!」
◇
「そんな事があったんだ・・・で、ヤーンはそのあとどうしたの?」
「当然助けたいから村の皆に言ったさ。ものの見事に信じられなかったね。悪魔と契約なんて本の中だけだ。って・・・んで、オレは母親に連れ帰られたって訳。そのあとクワレーから連絡ないし、村の事を何も聞かなかったし、怖くて行けなかったんだけど」
「じゃあクワレーは本当にそのバトラーってのを殺しちゃったのかな・・・」
「そういう事になるな。まぁ、アンタのお陰で安心した・・・お~し、じゃあ特訓再開するぞ~」
「え、そろそろ朝ごはん・・・」
「ほ~ら、走った走った~」
ヤーンがレーニアを置いて走り出すといつの間にかストーンマンが追いかけてきていた。
◇
同時刻、グレン城下町のレストランでポテトサラダを頬張るギールとグランドタイタス丼をチビチビ口に運ぶクワレーが居た。スラリンガルはまさかの聖水がぶ飲み。因みに聖水は魔物にとって害である。
「凄いよねスラリンガル。聖水を何ともなく飲んでるよ・・・」
「その内いきなり死ぬなよ?」
「ピキー」
「大丈夫だ」とピョンピョン跳ねる。因みに、スライム族はそもそも魔のものではないのだ。例を挙げるなら、はぐれメタルはもともとバブルスライムで、妖精(エルフとも言われる)が毒の沼に特別な(金の鏡とも言われる)鏡を落としたのを必死に探し、見付けた際に天上界の話を聞いて、「僕達も其処で暮らしてみたい」と願った所、ある精霊が聞き入れ、彼らバブルスライムを浄化し、体は銀色に、そして身軽くなった彼らは天上界に昇って行ったと言う。彼らは純粋なのだ。その純粋さ故に、他の魔族の邪な心に影響され、人を襲うのだ。
これはよくある話たが、何処かの大陸でホイミスライムが怪我をした旅人を助け、町までスライムの群れで送ったと言う話がある。
聖水はあくまで邪の心を秘めた魔物を近寄らせないだけで、スラリンガルのような人と行動を共にする魔物には効果は無いのだ。その証拠に酒場の地下にはモンスター酒場と呼ばれる場所がある。
「さて、ギール。今回アガペイさんを探しに来た訳だけど」
「アガペイさん、エルトナ大陸に行っちゃったらしいわね」
実はこの1時間前、酒場でアガペイの情報を手にしたのだが、彼は昨日エルトナ大陸の王都カミハルムイに行ってしまったとの事で、仕方がなく一行は次の目的地、ガートラントに向かう事に。
「よし、じゃあ行くか。ごちそうさまでしたー」
「ごちそうさまでしたー」
立ち上がったクワレーの装備は皮から数段とレベルアップしていた。
頭と胴はギールと同じ銀のシリーズ。しかし、予算が足りなかった為、腕、腰、足は青銅シリーズに変更。見た目はあまりバランス良いとは言えないが、予算が無いのでは仕方ない。武器は退魔の太刀?でも良かったのだが強すぎる力を持っても成長しないのでビッグブレードⅡを購入。
ギールは上手いこと値切って真紅の鎧、戦士の鎧を購入。魔瘴竜のブレスの熱波(クワレー自身には熱波は殆ど届いていない。竜のおもりの効果)で銀の上下が半溶解したから。武器ははがねの剣と戦士の大盾。それ以外はそのままだ。
「さて、ガートへはここから東に出て、ゲルト、そこからランドンフットを越えてザマ峠・・・」
「結構遠いから早く行こ」
「OK!」
先ずは白いベールの女が行くと思われるガートラントへ。
如何でしたでしょうか