ドラゴンクエストX ~父を探して~   作:ゴミ収集車

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奥義

 

 

 

 

ガートラントへの道は遠い。先ずはグレン領東から出て東南へ向かう。其処に洞窟があるのだが、クワレーは以前に1度来ているため迷うような事はない。

大きな壁の上を走る箱舟が汽笛をならす。どうやら線路上に小さな魔物が居たようだ。箱舟を回避した魔物がすぐ下のクワレー達の前に不時着した。

 

「あ、スライムベスだ」

 

スライムの肉食系と言われる赤い色をしたスライムベス。スライムの雌とも言われるが、実は魔物学的にもハッキリとは解っておらず、旅人が焼き肉をしていた所、沢山寄ってきた為肉食と呼ばれている。強さとしてはスライムに毛が生えた程度。

 

「キュー・・・」

 

「あぁ、あんな高い所から飛び降りるからだよ・・・ほら、アモールの水だ」

 

伝説の滝アモールの名を冠した癒しの水。魔力を回復させる魔法の小瓶と似たアイテムで、回復の魔力を含んだこの水を飲む事でホイミ以上の治療を施すことが出来る便利アイテム。ちょっと値が張るので瓶の3割程をクワレーがスライムベスに分け与える。

 

「どう?」

 

プル・・・プルプル。

 

「ピキー!」

 

体が小さいだけあってすぐに回復したスライムベスは元気に跳ね、まさに全身で喜びを表現する。

 

「ははは。良かったな。箱舟に興味を持つのは良いけど、次からはあまり近付くなよ?」

 

「ピキ」

 

ビシッと体を縦に伸ばして気をつけをするスライムベスとしばし戯れた後、ギールの一言で目的を思い出し、スライムベスに別れを告げてゲルト海峡を目指して歩みだした。

 

「ねぇクワレー」

 

「ん?」

 

「どうしてそんなに簡単にスライムと仲良く出来るの?私だって昔村の周りに居たスライムと遊ぼうと思ったんだけど、皆攻撃してきたわ。どうして?」

 

「んー?そうなの?僕は基本的にスライム達から攻撃された事なんて無いし、むしろ助けてもらったり、一緒に遊んでたもんなぁ・・・どうしてだスラリンガル?」

 

「ピキー?」

 

僕にも分からない」と首を傾げるように、やや体を斜めに動かすスラリンガル。

 

「取り敢えず此処を抜けないとね」

 

ゲルト海峡の洞窟はそこまで暗い訳ではないが、やや足場が悪く、滑りやすいので早めに突破したい所だがスラリンガルがたまにメラで足元を照らしつつ苔を燃やしてくれるので転ぶことはなかった。

1、2分歩くと波打つ音と潮の香り、眩しい光が外への穴から流れてきた。

 

「おお!外だ」

 

「やっとジメジメから解放されるのね」

 

洞窟を飛び出すと海で反射した日光が眩しく照らし、潮風が涼しい。4m程の幅の天然の岩橋は柵も何も無いので広がって歩くのは足がすくむ。途中すれ違う冒険者を見たが、何も気にしない様子で走り抜けていっていた。

 

「コワ・・・」

 

「ビビったかギール。僕は何も感じないぞ。恐怖なんて乳母車に置いt」

 

ビュウ!

一際強い風がクワレーの体を揺さぶる。押し落とされるような風ではものの、恐怖心を駆り立てるには申し分ない。

 

「・・・怖っ!早く橋上の宿に行こう!」

 

橋上の宿はこの岩橋の真ん中にある宿だ。小さいが教会もあり、ルーラストーンの記憶をさせておくとランドン山へ行くのが楽になるので登山家の人はよく利用している。

 

「ちょっと休憩してくか。バンジーとかやってくれば?」

 

「嫌。い、一緒にやってくれるなら良いけど・・・」

 

「無理無理w。糸切れちゃう」

 

「・・・あっそ」

 

不機嫌になったギールが嫌と言ったくせにバンジージャンプ台に向かう。

クワレーとスラリンガルは目を合わせるとニタァと邪悪な笑みを浮かべた。

 

「おー、姉ちゃんバンジーやってくか?」

 

半裸のオーガ男、バジエドが立ち上がって尻の埃を払う。

ここのバンジージャンプは1回50G。満天のスリルを味わいたければお薦めだ。

 

「お願いします。何Gですか?」

 

「はっはっは!姉ちゃんみたいに自分から飛びに来る女は久々にみたな!タダで良いぜ」

 

「本当ですか!?やったー!」

 

タダの言葉に女は皆弱いのか?はしゃぐギールを「いつまではしゃいでいられるかな?」と後ろから眺めるクワレーとスラリンガル。バジエドはギールにバンジーの装備を装着させ、安全確認をする。その時、ふと振り向くと何やら企んだ顔の1人と1匹に目が合った。企みを理解したバジエドもまたニタァと邪悪な笑みを浮かべグッと親指を立てる。

 

「そら、姉ちゃん。その台の先に立ってくれ」

 

「はい」

 

ギールか台の先に歩いた所でクワレーとスラリンガルが静かに駆け寄る。バジエドは再び親指を立て、クワレーも親指を立てて応えた。

 

「行くぜー。3・・・2・・・1」

 

「バn」

 

「バンジー!」

 

「ピキー!」

 

ドン!

刹那、ギールの背中を衝撃が襲った。不意の衝撃にバランスを崩し、足から落ちる筈の予定は崩壊。頭から落ちていく。その時、ギールはバンジージャンプ台で邪悪な笑みを浮かべるバジエド、クワレー、スラリンガルの姿を見た。

 

「ぎゃぁぁああ!!(((;゜д゜)))」

 

「だぁーはははは!!あははは!最高だわw!あははは!」

 

「ぎゃははは!あの姉ちゃんの顔、ぷふっ、ぎゃははは!w」

 

「ピキー!ピキー!w」

 

抱腹絶倒の2人と1匹はこの後、ギールのキレた姿を拝む事となるのをまだ知らなかった。

 

 

「ギール・・・許してくれよ・・・ほんの出来心だったんだ・・・」

 

物理的影響によって腫れ上がった右頬の痛みを気にしながらクワレーが前を歩くギールにもう何度目かの謝罪をする。バンジーのバジエドも1発食らい、もうしませんと誓った。ギールも納得し、事は治まったがギールの元凶に対する怒りは治まらない。

しかもバンジーで海水に頭が浸かり、ウルフにセットしていた髪の毛も可愛く丸まったボブに。ギールとしてはウルフが好きらしいが、クワレーとしては後者のボブの方が「接しやすい」とこちらに1票。どちらにしても海水でパッキパキに固まった髪を直すのに川かザマ峠までは我慢だ。

 

「ったく。仲間を突き落とすなんてサイテーよ。どうしてそういう事が出来る訳?」

 

「そりゃあ、仲間じゃなかったらやらねぇよ?あとあれくらいしないと面白くないし」

 

「意味分かんない。あと髪!固まって最悪」

 

「だから、僕はそっちのボブが良いんじゃないかって言ってるじゃん。ウルフだと近寄りがたいって感じするから・・・」

 

「もう知らない!」

 

ギールの怒鳴り声で腰を抜かしたクワレーとスラリンガルは行動不能に。ゲルト海峡を抜けてランドンフットに出た今、確実に強くなっている魔物が居る筈。そこで腰を抜かした獲物が居れば、襲わない魔物なんて居ない。

 

「ゲギャァア!」

 

案の定、獲物を発見したランドンクイナがクワレーとスラリンガルによってたかってきた。スラリンガルが動けるようになったが、クワレーはランドンクイナに啄まれて思うように動けない。

 

「あイテ!イタタっイテッイデ!」

 

「クワレー!」

 

慌ててUターンしてきたギールもランドンクイナに邪魔されて動けない。こうしている間にもクワレーの命は危険だ。

嫌だ、死んじゃ嫌だ!

 

「クワレェエ!」

 

ズム!

 

「グギィエ!」

 

刹那、重い音と同時に1匹のランドンクイナが放物線を描いて宙を舞った。くの字にひしゃげたそのランドンクイナは落下した時には既に絶命していた。唖然とするクワレーを見たギールはまさかとその隣に視線を移した。

スラリンガルが、小さな青いボディを目一杯後ろに引き伸ばし、プルプルと震えていた。

そしてーー

 

ズム!

また1匹のランドンクイナが吹き飛んだ。

体を引き伸ばし、元に戻った時の運動エネルギーを利用し敵に突撃する技。自身が高速の弾丸と化す故に耐久力、そして威力を高める為に限界を超えた『伸び』が使える柔軟力を必須とし、使えるスライムは滅多に居ないと言う、まさにスライム族の奥義。その名も・・・

 

ーースライム族攻撃奥義≪スラ・ストライク≫

 

「ェッゲェ!」

 

再び仲間が小さなスライムに殺されたランドンクイナ達はスラリンガルの強さを漸く本能で感じ取り、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

スライムとは言え、こんな奥義を持っていたら流石のクワレーもビビって声が出ない。

実はスライム族の奥義はこの世に幾つか在ると言われている。1つはこの≪スラ・ストライク≫。1つは≪イダテンの刃≫メタルスライムが使うと言われる超高速の斬撃ラッシュ。そして、スライム族の究極奥義、未だスライム族では出来た奴が10匹と居ないと言う伝説の奥義。≪レジェンド・ストライク≫詳細が一切不明だが、使うには死ぬ覚悟を決めなければならないと言う。

 

「す、凄いねスラリンガル・・・頼もしい」

 

「正直私達よりも強いんじゃ・・・」

 

「ピキー・・・」

 

「お、おいスラリンガル?」

 

≪スラ・ストライク≫の反動か、目を回して草臥れてしまっていた。雫型の体もバブルスライムのようにグンニャリだらしなくなってしまった。

 

「ピキュー・・・」

 

「ありがとうなスラリンガル。ほらこれ飲んで休んでな」

 

クワレーはスラリンガルが落とした皮の帽子を拾い上げ、スラリンガルを帽子に流し込むとアモールの水を残りの全てを与えた。

 

「さ、行くかギール。その髪の毛も早く直したいたろ?」

 

「うん、ザマ峠は此処から更に西よ。あの煙が目印」

 

ギールが指差す先を見ると、空高く灰色の煙が立ち上っていた。

 

 

 




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