「ぬぅぁぁあ!」
ガートラント領から北西に広がるオルセコ高地から更に西、古代オルセコ闘技場の内部では既に戦いが繰り広げられられていた。
黄色い肌に大盾と剣をもつ「りゅうき兵」が迷い込んだクワレー一行を襲っていた。
「ちっ、面倒ね!」
「ギール!大丈夫か!?」
「全然よ!うわっ」
りゅうき兵の猛攻をかわしながらギールが石ころをクワレーに投げ付ける。もとはといえばクワレーが隠れもせずに堂々と闘技場内を歩いていたのが今に至る原因だ。勿論それは悪いと思ったクワレーだが、今さら謝罪も襲い。ギールに続いてマイユも石ころを投げる。
「だぁあ!もうこれで許してくれよ!ぬん!」
ビッグブレードⅡを前に構え、一気に頭上に突き上げる。刹那、ビッグブレードⅡが巨大な氷刃となり足元からも小さな氷刃が無数に突きだし、りゅうき兵を次々と貫く。
「ぉおおおお!」
パキィィ!
甲高い氷の砕け散る音と共に氷刃に貫かれたりゅうき兵が鮮血を噴き出して絶命していく。辛うじて生き延びたりゅうき兵は見逃し、ビッグブレードⅡを突き立てる。
「フリーズブレードって言うんだ。戦士は呪文を使えない脳筋だけど、こうして魔力を武器に移して攻撃力を増幅させる事くらいはできる。僕は昔から魔力だけは多いみたいだからこう言う攻撃は得意なんだ」
「へぇ、そうかい。思っていたよりも厄介だねぇ」
「「「!」」」
どや顔クワレーの前に突如として現れたマリーンがクワレーの頭を鷲掴み、闘技場舞台へと放り投げる。舞台までの高さは約5m、理解が追い付くよりも早く地面に落ちたクワレーは肺から空気を押し出され声も出せずに気絶。
「クワレー!」
「マリーン!アロルドはどこ!?」
質問よりも先に大きな腹に回し蹴りを食らわすマイユ。しかしマリーンは平然と見下ろし、クワレーと同じように脚を掴んで舞台に投げる。投げられた瞬間に体勢を立て直し、受け身で落下をやり過ごしたマイユにマリーンのハンマーが真っ直ぐ飛んでくる。
「うそ!?」
ズンッ!
回避も間に合わず舞台の壁に叩きつけられたマイユも堪らず気を失う。
「マイユ!」
「はっはっは。お嬢ちゃんはどうやって挑むんだい?」
「ぅっ・・・」
実力差を目の当たりにしたギールが本能的に距離を取る。以前戦った魔瘴竜とは違う、もっと危険なオーラを感じ取れる。
「賢明だね。そこで大人しく見てな、大事な彼氏がアタシの駒になるのをねぇ」
ズンズンと巨体を揺らし、2人が気絶している舞台に飛び降りるマリーン。着地したときの激しい地響きと共にハッと我に返ったギールが急いで舞台に行くまでの階段を探す。すると、先程クワレーが突き立てたビッグブレードⅡを中心に大きな亀裂が無数に走る。マリーンの起こした揺れとクワレーが刺した大剣で、脆くなっていた足元を崩壊したのだ。
「うわぁぁ!」
◆
「ふん、五月蝿いお嬢ちゃんだね。まぁいいさ、この坊やはアタシの物。悪いけど、マイユちゃんにはここで死んでもらうよ」
マリーンがハンマーを振り上げてマイユに叩き付けた。
砂埃と砕けた瓦礫が飛び散り、威力の大きさを物語る。
「呆気なかったねぇ」
「そうか・・・?」
「ん?・・・」
マリーンが謎の声を警戒する。砂埃で見えないが微かに感じる光の魔力がマリーンの背を擽る。
「誰だい!」
マリーンがハンマーを引く。が、何か強い力で引っ張られてびくともしない。
漸く砂埃が晴れると謎の声の主が姿を表す。
「馬鹿なっ、アンタはさっき確かに気絶した筈・・・!」
「そうか・・・?」
マリーンのハンマーをがっちり掴んで離さないクワレーが妙に脱力したような姿で立っていた。半目で据わった目からは生命力を感じない。
「っ、気味の悪い!」
ハンマーを手放し、2つの黒い玉を投げる。すると、煙と共にガートラント城で誘拐されたスピンドルとグロスナーが現れた。
「行けッ!アイツを押さえるんだよ!」
スピンドルが太った体に見あわない動きでクワレーに肉薄。素早い剣技で全身を斬りつける。
グロスナーも両手剣を豪快に振り回してスピンドルが離れた瞬間に叩き斬る。
ガィン!
鈍い金属音がしたと思うとスピンドルがマリーンの足元に転がってき、驚く前にグロスナーの両手剣がマリーンの頬を掠めた。
「くっ・・・アンタ・・・確かジュリアンテがやられた時も近くに居たそうだね。まさかとは思うけど、アンタが可愛い妹を゛!?」
グロスナーを気絶させたクワレーの拳がマリーンの腹にめり込む。まるで砲弾が撃ち込まれたような衝撃を耐えたマリーンはクワレーを殴り飛ばし、すぐさまハンマーを拾い上げて息を整える。
(なんだってんだいあれは・・・たかがウェディの坊やがこんな化け物じみた力持ってるなんて・・・それにたまに感じる光の魔力、もしアタシの考えが合ってるとしたら・・・)
「クワレーー!」
漸く舞台に着いたギールがビッグブレードⅡと投げられた時に落ちた形見の大剣を持ってきた。
「・・・っぁ、き、ギールか?どうしてここに・・・」
(!意識が戻った?魔力も感じなくなった・・・一先ず安心か)
「わ、悪いな。何が何だか分からないんだ・・・」
「頭打ったの!?大丈夫!?」
「何とかは・・・」
「これ!無いと戦えないでしょ」
「サンキュー!」
クワレーはビッグブレードⅡを持ち、ギールは盾と剣を、スラリンガルは皮のぼうしを深く被る。
「いくぞ!」
先ずはクワレーが先攻。地面スレスレを疾走し、注意を引いてる隙にスラリンガルがメラの詠唱。ギールが背後に回り込んで同時に攻撃する作戦。
「このぉ!」
顎目掛けてビッグブレードⅡを振り上げる。しかしそれはハンマーでガード。息をつく暇もなくスラリンガルのメラがマリーンの目を狙う。これはマリーン喝で消え、不発。
「背中がお留守よ!」
はがねの剣に炎の魔力を纏わせ、発現した炎の刃で敵を斬り裂く「かえん斬り」がマリーンの背中を掠めた。
(嘘ッ?確かに届いた筈!)
「どこを見てるんだいお嬢ちゃん」
マリーンは既にそこには居なかったのだ。
幻惑呪文「マヌーサ」がギールの目を眩ませ、マリーンに思わせてクワレーを斬りかけていた。
「あっぶねぇ・・・!」
「ご、ごめんクワレー!」
「ほらほらぁ!どうしたんだい!」
マリーンのハンマーがギールを飛ばし、クワレーを叩く。ギールは辛うじて盾ガード。クワレーもブレードガードの構えで直撃を免れる。しかし、いつぞやのゴーレムよりも重い衝撃がクワレーのビッグブレードⅡを容易く粉砕した。
「あ」
ゾブッ。
クワレーの左視界が激痛よりも僅かに早く真っ暗になった。
「ぃっぎぃ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!」
人語をかけ離れた酷い叫び声をあげながらのたうち回るクワレーから四方八方に鮮血が散る。ギールも急いで駆け寄り、傷を看た。
「うっ・・・」
思わず口を押さえた。左目にビッグブレードⅡの破片が深く刺さっていた。大量の血液と一緒に半透明のゼリー状の物が出てくる。眼球は完全に駄目なようだ。
「や、やだよクワレー。死んじゃやだぁぁッ」
「泣ぐな゛ぁ!眼ぐらいでぇぇ!死にやしっねぇ゛!」
眼窩の奥まで突き刺さった破片を取るのは難しい。そのまま刺しておいても止血作用はあるが、菌が入る恐れもある。兎に角、無闇にいじれない危険な状態だ。
「う゛う゛うう゛!!」
「ちょ、無理よクワレー!」
無理矢理立ち上がって形見の大剣を杖にヨロヨロとマリーンに向かう。片眼を失った事で距離感が失せ、まともに剣を振るう事すらできないだろう。
「ふん。そう言う立ち向かう意思と勇気は評価するよ。だけどね、力の差をいつまでも分からないのは気に食わないね!」
ハンマーが振るわれる。
クワレーの視界からハンマーが消える。
左半身に激痛が走る。
吹き飛ぶ。
立ち上がる。
そして再びハンマーで吹き飛ばされるの連鎖。
「もうやめてよクワレェェ!」
まだ立ち上がろうとするクワレーを羽交い締めて、スラリンガルに回復をさせる。壁に凭れたクワレーはピクリとも動かず、呼吸すらしてるのか見ても分からない。
「流石のアタシも怪我人をいたぶるのは好かないんだ」
「黙りなさい・・・!どうして、どうしてこんな事を、戦争を起こしたいの!?」
「アタシ達が求めていたのは戦争じゃない。コレクターって知ってるかい?集めるのが生き甲斐な妙な生き物さ。アタシ達姉妹は強いものを集めるのが好きなんだ。そして、その強い奴らで軍団を作って、各大陸の魔族たちに兵として派遣、金を得るのがアタシ達の大目的さ。こんな事になるのは想定外だった」
「どんな理由でも許さない!人々を欺いて、クワレーをこんなにして!」
大盾で身を隠しながら走る。
「無駄だよ!魔瘴のネックレスで増力したアタシに敵うわけないだろぅ!」
ゴッ!
マリーンのハンマーが大盾を凹ます。咄嗟に大盾を手離して身を翻しながらマリーンの懐に潜る。
「はやぶさ斬り!」
高速の剣技。X字に2回斬り込むこの技はかえん斬りと並んで有名な片手剣の技。しかし、はやぶさ斬りの威力はどちらかと言うと速さで決まる。このアストルティアにはあのはぐれメタルですら回避しきれない超・はやぶさ斬りも存在すると言う。
「ぐっ、しつこいお嬢ちゃんだね!」
「・・・ギ、ガ・・・ソォォォオドォォァア!!」
「「!!」」
突然凄まじい閃光と電雷が斬撃波となり、マリーンを襲う。ガードも意味なくハンマーは砕け、黒焦げになったマリーンが倒れる。
「な、っあ・・・この、雷光・・・魔力はっ・・・あ、が・・・」
絶命したマリーンから黒い玉が転がり落ち、今まで行方知れずになっていた人達が頭を押さえながら立ち上がる。
「お、俺達ぁ一体・・・」
「おい!人が倒れているぞ!」
「ギール・・・大丈夫、か・・・?」
「クワレー!さっきのは何!?いきなり電撃と光が」
「わか、んねぇ。だけど・・・1つ言えることは、咄嗟に思い付いた技が出せたこ・・・と・・・」
「誰か!誰かクワレーを助けて!誰かぁ!」
◇
「ギガソード?確かにそう叫んだのか?」
ガートラント城に戻ったギールは治療を受けるクワレーより先にグロスナーに呼ばれて諸々の報告をしていた。
「ええ。クワレーが突然叫んだと思ったら激しい閃光と電撃がマリーンをあっという間に黒焦げに・・・」
「ギガソード・・・その名を聞いたことがあります」
マグナスが顎に手を添えて考え込む。
「ここに来る前、私はグランゼドーラ城に居ました。そこでよく本を読んでいたのですが、伝説の英雄という本を見たことが。その中に、確かにギガソードという名がありました。かつて、この世界に我々人間以外の五種族が存在する前のはるか昔、『守護天使』と呼ばれる者が存在していたそうです。彼らは人には見えず、各村や町等をそれぞれ1人の天使が守っていたそうです。しかし、その中でも強大な闇によって天使の力の大半を失い、人間として、世界を巡り、『女神の果実』を集め、そして闇から世界を救った、『守護天使ナイン』がその技を使えたと記されていました。他にも「ギガデイン」、「ライデイン」など、まさに絵本の勇者が使うような強力な呪文も使っていたとも。そして彼は、大いなる闇との戦いで遂に命を落としたと、そう記されていました」
「守護天使ナイン・・・それも絵本とかでよく見聞きする元天使の人間?ですよね」
「えぇ。勇者という存在よりも遥か昔の、偉大な存在でしたのでしょう。しかし、まだ終わりません。その後、このアストルティアには魔瘴が活発になる時代に、その守護天使ナインと酷似した力を使う者が、災厄に立ち向かい、勇者を助力したという資料がいくつも見られました。今時代も魔瘴が活発になってます・・・つまり彼は」
「「守護天使ナインの血を受け継ぐ者」」
グロスナーとギールの声が合わさる。しかし、守護天使ナインは人間。クワレーはウェディである事が疑問として引っ掛かる。
「ご存知ないですか?異種族間に産まれる子供は9割母方の種族になるんです。そして最後に魔瘴が活発になった時代で受け継いだ者は人間、つまりこの何百年のどこかでウェディの血が混ざり、いつの間にか彼へと受け継がれていったのです」
「成る程」
「しかも今、レンダーシア大陸は魔瘴に覆われています。魔瘴とは言っても、人を殺すほどの力は無く、どちらかと言うと「迷いの霧」とでも言っておきましょう。それによって人間が主に住むあそこが孤立してます。何者かが、受け継ぐ者をまだ人間だと思って狙ったのでしょうか・・・」
「流石マグナスだ。その線は濃いかもしれん」
「ぇ、じゃあクワレーはいずれその災厄って言うのと戦う訳なんですか?」
「残念ですけど、恐らくそうなってしまいますね・・・」
(・・・クワレー・・・)
◇
「!」
赤茶色い天井が視界に飛び込んでくる。ランプの明かりが温かく感じる。
「ここ、は・・・」
「クワレー!良かった眼が覚めたのね!」
ずっと看病していたのか、隈が目立つギールがベッドに横たわるクワレーに抱き付く。大粒の涙を流し、嗚咽する。まだ意識が朦朧とするクワレーが慰めようと左手を伸ばした時、目をみはった。
「僕の左目・・・無いの?」
「・・・ごめんなさい、もう間に合わなかったみたいなの・・・」
「そっか・・・」
治療呪文で傷は治ったものの、瞼に残った傷跡はとれず、眼球も帰ってこない。戦士として、視力を失うのは大きなマイナスだ。間合いも分からず、攻撃すらかわせなかなってしまう。
「でも、ゴーレム襲撃の黒幕は死んだ。これで一先ず安心だ・・・」
「・・・それがねクワレー。あのジュリアンテは、ゴーレム襲撃に関係無かったんだって・・・」
「な」
「ただ男を選んでただけだって、死に際に言ってた・・・」
「・・・」
「ご、ごめんなさい。もっと早く言おうと思ってたんだけど・・・」
「取り合えず離れて」
いつまで抱き付くんだとクワレーが恥ずかしがり、ギールも頬を赤らめてクワレーを突き飛ばす。ふと宙にまった黒いアイパッチを見たクワレーが思い付いた。
「そうだ。ギール、ヴェリナードに行こう!そこのアクセ屋は腕の・・・いいか悪いか分からない知り合いがやってるんだ。このアイパッチも何か効果でも付けてもらおうかと思ったんだ」
「えー」
「ウェナだと岩塩が高く売れるんだ。きっと儲けるぜ」
「へぇー。いいね!行ってみようよ」
次の冒険は再びウェナ諸島。そこに待つのは試練か、安息か。