2日後。体調が良くなったクワレーとギールはグロスナーに呼ばれて王の間に居た。
「ほぉ、次はヴェリナードに向かうのか」
「はい。知り合いにこのアイパッチをいじってもらおうと思いまして」
「そう焦らなくとも、ガートラント国民はまだお礼をしていないと嘆いているぞ」
「・・・母との約束があるんです。必ず、レンダーシア大陸に向かった父を連れて帰ると」
「レンダーシア大陸は今も迷いの霧で覆われています。グランドタイタス号が復活したとしても上陸すら出来ないかもしれませんよ」
「それも旅を続けながら探してみせます」
すると、グロスナーが珍しく豪快に笑う。
「若いと言うのは活発でよいな!クワレーよ。お前さんのお陰でガートラントは救われた。その功績を称え、この赤のキーエンブレムを贈呈しよう」
キーエンブレム。それは一国を救うほどの功績を修めた者が貰うことが出来る英雄の証し。これがあるだけで、様々な国での信頼と協力を得ることが出来る。
「して、お前さんたち旅の路銀に困っておるそうだな。あまりおおっぴらには言えんのだが、これも持っていくとよい」
マグナスがキーエンブレムとゴールドの詰まった小袋を渡す。重さから最低でも20万ゴールドはある。しかも小袋の中から金属のプレートが1枚出てきた。
「あ!これってもしかして」
「大陸間鉄道パスです。これでガートラントを始めとしたヴェリナードやドルワーム等の乗り換えが可能になります」
「やったぁ!ありがとうございます!グロスナー王!」
「ふっ、行くのだ若い者達よ!その眼で様々な世界を見て、その耳で人々の声を聞き、その脚で海を越え、その手でアストルティアの未来を作るのだ!」
「「はい!」」
グロスナーに深く一礼したクワレーとギールは踵を返し、王の間を後にした。
「・・・グロスナー王、良かったのですか?彼に血の事をお話にならなくて」
「いずれはその事で困難に直面するだろう。その時、クワレー自身が気付き、その力で何をするか、己で導き出せる筈だ。今儂らが助言しても邪魔になってしまうだけになる。若い者達に任せるのだ」
◇
「こんなにいっぱい貰って、何だか此方が申し訳なくなっちゃうわね」
「ね。これだけあれば良い装備が揃えられるよ。あ、そう言えばアロルドさん達はもうガートラントを出たの?」
「うん。クワレーの意識がまだ戻ってない時にね。早くゾンガロンを倒すための情報を集めに今度はカミハルムイに行くみたい」
「ふぅん。お世話になったお礼が言いたかったな」
人混みを避けるように最短ルートでガートラント駅に向かったクワレーが鞄から世界地図を取り出した。
ガートラント国から南の方角に位置するヴェリナード国はウェディが多く住むウェナ諸島の大国。そこは女王ディオーレが統治する。華麗なる魔法戦士の転職クエストもそこで受けられる。
「ガートラントからヴェリナードまでは・・・1時間半くらいだな。さっさと向かって宿とろうよ」
「そうね。そろそろ箱舟も来るかも」
丁度良く箱舟の汽笛が駅内に響く。他の冒険者や商人、一般人がわらわらとプラットホームへの階段を下りていく。ここの駅から向かえるのは、クワレー達が向かうウェナ諸島方面か、レンドア経由のエルトナ大陸方面。どちらも人気の旅行スポットで、若干ウェナ諸島が勝っている。今日も水着の入った荷物を片手に若者達が箱舟に乗り込む。
『本日は大陸間鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございます。只今、ウェナ諸島方面ヴェリナード城下町駅行きが停車しております。ヴェリナード、ジュレットに向かわれる方は10時22分迄にご乗車、着席をお願い致します。現在10時20分でございます』
「ほらほらクワレー行くわよ」
「ちょっと待ってくれぇ」
「クワレーさん!夫を救っていただいて本当にありがとうございます!」
「あぁ、いえ」
「クワレーさん、どうか娘に会ってくだせぇ」
「す、すみません今ちょつ」
「クワレーさん!」
駅の階段で握手なりお礼なりで前に進めないクワレー。すると、ギールに気付いた数人も階段を駆け下りて感謝をのべたりお礼の品を渡したりと、どこかのスーパースターのようだ。
『まもなく発車致します。お乗りになる際はプラットホームとの間にご注意下さい』
「すみません、僕たちもう乗らないと・・・」
「またいつでも遊びに来てください!」
「クワレー!急いで!」
両手一杯に物を持って箱舟に乗り込む。ギリギリ車戸が閉じて汽笛がなる。
「んっしょ。皆さんお元気で!また遊びに来まーす!」
「じゃあねー!」
車窓を上げ、まだプラットホームに残る人達に手を降って叫ぶ。箱舟はあっという間にガートラント城下町駅を飛び出し、眩しい日光が照りつけられる。箱舟は高度な魔法技術で作られており、なんでも、天使を神の国に送る伝説の箱舟『天の箱舟』を模したとか、また一部の学者はその生まれ変わりだとか。どちらにせよ、トップスピードになっても揺れはほぼ皆無。燃料と呼べる物は特になく、1つの魔力のこもった石で動いているとの噂もある。
「あっという間にグレンに着くな。そっから1時間ちょいだね」
「・・・ねぇ、クワレー。もしも、もしも自分がとてつもなく強大な敵と戦う運命だとしたら、どうおもう?」
暫く無言が続き、クワレーが伸びをする。同時にギールが妙な質問をぶつける。
「ん?どうした急に」
「ちょっと気になって」
「んー。まぁ、しょうがないよな。ただ、戦うって分かってるなら目的がハッキリするし、あとはその時にならないと何も分からないかな」
車窓を閉め、膝で眠るスラリンガルを撫でる。
「隣いいかの?」
ふと見上げると妙な格好をした小柄な老人が駅弁を持って立っていた。不思議と落ち着くオーラを放つ老人に隣を譲り、あらためて格好が気になる。
「ホッホッホ。おぬし、ただの者ではないの」
「え」
老人が駅弁を膝の上に広げ、懐から箸を取り出す。
「おぉ、自己紹介がおくれたの。ワシは放浪の賢者ホーロー。このアストルティアに知らぬこと無い賢者の中の賢者じゃよ。そのワシの目にかかればおぬしが何者か一目瞭然じゃよ“天使の血を受け継ぐ者”よ」
「!」
ギールが驚きを隠せない。ホーローは確かにクワレーを守護天使ナインの血を受け継ぐ者だと一目で見抜いたらしい。しかし、そんなことは知らないクワレーは?を浮かべてホーローに聞き返す。
「天使の血?何を言ってるのかサッパリなんですけど・・・」
「ぬぉ、おぬし自分が何者か知らんかったのか。むー、ちょっと頭借りるぞい」
ゴチン。
ホーローの杖がクワレーの額に当たる。刹那、クワレーの頭に大量の映像が流れ込み、反射的に体をのけぞらした。
「っだぁ!はぁ、はぁ・・・嘘だろ・・・父さんも、僕も、あのおとぎ話の続きだって言うのか・・・」
「クワレー、大丈夫?」
「おぬしはクワレーか。クワレー、レンダーシア大陸が冥王によって闇に覆われたのは今ので分かった筈じゃ。冥王は500年前に海に沈み、そして今時代復活を遂げた。同時に500年前におぬしの先祖がウェディと混じり、今のおぬしへと受け継がれた。幸運にもそれを知らない冥王はレンダーシアを闇で覆った。まだ人間だと思っておるからな。今、あやつはおぬしの存在に気付いておらん。だが気付くのも時間の問題じゃ。そこでおぬしにはキーエンブレムを6つ、集めて貰いたい。それ頃になっておれば恐らく冥王に太刀打ちできる筈じゃ」
「で、でも急にそんなこと言われても」
「クワレー。おぬしの役目は冥王を倒すだけではない。レンダーシア大陸、グランゼドーラ王国で勇者が覚醒したのじゃ。その手助けをしなくてはならないのも知っておくといいの」
『次はグレン城下町駅。次はグレン城下町駅。お忘れ物がございませんようご注意下さい』
「!折角の駅弁を食べそびれてしもうた・・・クワレーよ、キーエンブレムを6つ集めたその時にまた会おうぞ」
「ちょ、いくらなんでも詰め込み過ぎですよ!」
駅弁を素早くたたみ、席を立ち上がる。クワレーが呼び止めるも「運命の路線が交差したときにまた会おう」とだけ返してグレン城下町駅に降りていった。
力が抜けたように座ったクワレーがため息をつく。
「クワレー・・・?」
「ギール。帰るなら今のうちだ」
「え」
「僕の・・・祖先達、継天使達の軌跡を知った。ある者は愛した者を殺され、ある者は共に戦った仲間が皆死に、ある者は故郷を消され、ある者は孤独に、ある者は力に溺れて実力を見誤ったが故にすぐに死んだ。皆負けることは無かったが、勝つことも無かった。そして、戦いの代償に大きな犠牲を払った・・・ギール、このままだと継天使達と同じようになってしまう。それこそ、いくつ命があっても足りないような戦いに巻き込まれる」
「クワレーの馬鹿!」
クワレーの頭にグワングワンと音が響く。頬に熱さを感じて漸く自分がひっぱだかれたと認識する。
「な、何だよ急に・・・」
「馬鹿っていてんの!なに勝手に決めつけてるの?私は自分の意思でクワレーについてきたの。だからこのパーティーを抜けるかどうするかは私自身で決める!」
「お前こそ馬鹿か!死ぬかも知れないんだぞ!」
「クワレーもおんなじてしょうが!勝手に自分を悲劇の主人公にしてるんじゃないわよ!私が居なかったら今まで何回死んでるのよ!」
「それは・・・」
今まで見たこと無いギールの気迫に負けて縮こまる。流石に怒鳴り合ってたからか、他の乗客達は席を移して、クワレー達の車両は人気がなくなってしまった。
「ここまで来て分かったわよ。クワレー、いつも無茶するんだもん・・・それこそクワレーが命足りないじゃん・・・」
「お、おい泣くなよ・・・」
「だから私が、クワレーのブレーキになってあげるって言いたいの・・・」
「ブレーキ・・・」
クワレーが立て掛けてある形見の大剣をみやる。
『本当の姿は知らないけど、メギストリスに行けば・・・』ふと脳裏に母親がいった一言が思い出す。自分が継天使だと言うことは、ただの大剣ではないと言うのはほぼ確実だ。ただ、本当の姿を知るのはまだまだ先そうだ。
(そう言えば、この大剣・・・名前とか)
バチッ。
大剣の柄に手を伸ばした時、静電気らしいのが走った。
(ん!?)
再び頭に飛び込んでくる大量の映像。クワレーが継天使と呼ぶ祖先達が神々しい大剣を振るい、邪なるもの達を一蹴している。時代が変わっていく度に継天使の大剣の姿形も変わっている。だが、継天使達は姿形は違えど皆同じ名前で呼んでいた。
「星のまたたき・・・」
「ん?」
「分かったんだ・・・この大剣の名前が」
「星のまたたき?変な名前ね」
『まもなく発車致します』
汽笛と共に多くの人達が箱舟に乗り込む。間もなく箱舟が岩の巨城から飛び出して日の光を浴びる。
「ギール。本当によかったのか?」
「いいの!その代わり、ちゃんと守ってよね」
「っは。・・・いいぜ、守り抜いてやるさ!」