「母さん。あの、話があるんだけど」
翌日早朝。青年は台所で野菜を刻む母に言い難そうに打ち明けた。
「ん?何?」
「・・・あの」
「んー?」
「旅に、出ようと思うんだ」
カタ。
その一言で母の動きは止まった。
包丁まな板に起き、少し項垂れたまま動かない母。青年は知っている。今の母は寂しいのだ。一家の大黒柱である父がレンダーシア大陸から帰ってこれず生死不明。そのショックも癒しきれていない中、今度は息子である青年が旅に出てしまうとなれば、どうなるかは目に見えている。
「・・・旅に・・・?」
「うん・・・だけど、僕の旅の目的はレンダーシア大陸の父さんを探しに行くことなんた。大丈夫、父さんを見つけて来るから」
「・・・駄目・・・私を独りにしないで。あんな思いは嫌・・・あなたまで行ったら、私はどうすれば良いの!?」
「落ち着いて母さん。僕は絶対に帰ってくる、父さんを見つけて来るから!」
泣き崩れて約5分。漸く落ち着いた母は右手首につけたあるものを青年に渡した。
ーー竜のお守り
「これは?」
「・・・お守りよ・・・あなたとお父さんが無事に帰ってくるようにね。それと・・・」
ーールーラストーン(レーンの村記憶)
「良い?行くなら必ず、お父さんを見付けて、そのルーラストーンを渡しなさい。それと、これはあなたに持たせるわ」
ーー両手剣???
「?」
「それはお父さんの大剣・・・本当の姿は知らないけど、メギストリスに行けば・・・」
よく見ると大剣は奇妙な形をしている。
形状は見たことがない。大剣と言っているが、銅の大剣と比べると明らかに細身で絶妙なカーブを描き、鞘から抜き出すと白い刀身がキラリと煌めき、異国感溢れている。
「兎に角、旅に出るならしっかりと準備していきなさい」
「母さん・・・分かった!必ず父さんを見つけて帰ってくる」
◇
ギュッ。
青年は皮の手袋を装備し、銅の大剣を背中に収めた。
自分の部屋を綺麗に片付けて旅立つ準備を整える。
「・・・」
黙って自室を後にし、寝室で眠る母に「行ってきます」と家を出た。
今は深夜。青年がこの時間に旅立つ理由はいくつかある。
1つは母が辛いであろうからだ。母は昼間、見送るのがとても辛いと言っていた。恐らく旅立つ姿を見るとまた精神が不安定になってしまうからだろう。
もう1つは実は夜の方が魔物と遭遇しにくいからだ(青年の感覚的に)。
そして最後に、昼間に出るとある人物がついてきてしまうからだ。その人物は後に説明する。
「・・・またね、皆」
「ピキー」
「あ・・・」
青年が村を出た直後、目の前に小さな影が躍り出た。
青いボディに死んだ魚のような目、笑っているようなU字カーブの口。お馴染みの魔物だ。
「スラリンガル・・・」
スラリンガルと呼ばれたスライム、このスライムは青年が数年前に訳あって仲良くなった変な魔物。そいつが青年に何かを訴えるように跳ねている。
「ついてくるつもりなのか?」
「ピキーピキー」
頷く(?)スライムは退く様子も無い。折れた青年はスラリンガルを撫で、皮の帽子を被せた。
「じゃあ行こうスラリンガル!」
「ピキー!」
青年とスラリンガルは夜のコルット地方を駆け出した。
如何でしたでしょうか。