「ひ、ひぃ・・・」
腰を抜かしたウェディの女の子が震える全身に鞭打ち必死に後ずさる。
ズシン・・・ズシン・・・。
厳つい甲羅を背負った亀のような巨大な魔物がゆっくりと迫る。
ーーデンタザウルス。
非常に高い防御力を誇り、全身が刺で包まれたこの魔物、明らかにここら辺の地域の魔物とはレベルが違う。世界にはこう言ったような例外な魔物配置もあり、このウェディの女の子のように不意に強力な魔物に襲われて命を落とすケースもあるのだ。
「た、助け・・・」
「グルルル・・・」
「誰か助けてぇ!」
「ピキー」
「・・・へぇ?」
デンタザウルスがウェディの女の子に食い付こうと刹那、甲高い鳴き声がその動きを止めた。
ぴょんぴょんと跳ねる青いボディ。この魔物も此処では見ることは無い筈、ウェディの女の子は混乱しながらも注意が逸れたデンタザウルスから四つん這いで離れ、銅のツメを拾い構えた。
「グルルル!」
「ピキー!」
笑顔で必死に威嚇する青い魔物。
(どうして此処にスライムが居るの・・・?)
「大丈夫かスラリンガル!」
「!」
スライムの後に続いて現れた既に満身創痍気味のウェディの青年。ウェディの女の子は、彼を知っていた。
「クワレー!」
◇
「クワレー!」
彼女はそう叫んだ。
それに反応した青年は同じく叫んだ。
「レーニア!?」
クワレー、それが青年の名前だ。
ミストグレーの瞳に後頭部が全体的に跳ねたパールの短髪。背負った銅の大剣は年期が入っている。
「なにやってんだよ!そんな軽装備で!」
「五月蝿いわね!誰のせいでこんなことになってると思ってるのよ!」
「はぁ!?」
「ピキー!」
スラリンガルがクワレーの腹に突撃。
激痛で腹を抱えて悶絶するすぐ上をデンタザウルスの牙がガチリと音を立てた。
「あ、ありがどうズラリンガル・・・」
折角塞がった傷口が広がったが、スラリンガルの咄嗟の判断は正しい。デンタザウルスは何度も空を噛み砕いている。
これはチャンスとクワレーは背の銅の大剣を抜き、しゃがんだ体勢からデンタザウルスの顎を斬りあげた。
当然、硬い体に傷をつけるのは容易ではない。斬りあげたと言うよりも叩きつけられたデンタザウルスの顎はほぼ無傷でギョロっとクワレーを睨んだ。
「スラリンガル!」
「ピキー!」
クワレーの肩に飛び乗ったスラリンガルが小さな火の玉を飛ばした。
ーー攻撃火炎呪文メラ
対象単体に圧縮した火球をぶつける魔法使い初心者がよく使う呪文。
今のスラリンガルではこれが最強の攻撃だ。
しかしどう考えてもデンタザウルスにダメージなど無さそうだが、スラリンガルは眼を狙った。ほぼ零距離で放たれたメラは寸分の狂いもなく右目を焼いた。
ジュウウと音を立てて焼ける右目にもがき苦しむデンタザウルス。
「行くぞレーニア!」
その隙にレーニアを連れてデンタザウルスを撒いた。
◇
「はぁ、はぁ」
「キュゥー・・・」
なんとか空洞を脱出した2人と1匹はミューズ海岸でへばっていた。暗い空洞からでてすぐの為よく見えないが、地元コルット地方の海岸とはまた一味違う雰囲気を感じる。
「ったく・・・もうへばったの?ほら、ジュレットの町はすぐよ」
相変わらず腰に手を当てて仁王立つレーニア。一方のクワレーは銅の大剣と父の大剣を背負って走った為ヘトヘト。更にダメージも癒えてなくとてもすぐに歩き出せる状態ではない。
「はぁ、はぁ」
返事がない。疲れきっているようだ。
「んもぉ、分かったわよ。ほら」
レーニアがクワレーから2本の大剣を取り上げ、首根っこをつかんで立ち上がらせる。
(重っ!こんなの振り回してるの!?)
「はぁ、悪い・・・はぁ、はぁ、ありがどう・・・」
「ほら、さっさと歩く」
予想外の重さに我慢しつつ、クワレーを庇いながらミューズ海岸を進む。そこら中にしびれくらげやスライムベスが居たが、不思議と襲ってくる事は無かった。
「ほら、もうすぐだってば」
町の入り口のアーチにたどり着くと、町の入り口を守る衛兵が心配して駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?すぐに治療出来る者を呼んできます!」
「お願いします!」
他の冒険者たちも心配そうに見てる中、クワレーの意識は衛兵と数人が走ってきた所で沈んだ。
如何でしたでしょうか。