「危ない所でした」
ジュレットの町、宿屋の一室でぐるぐる眼鏡に頬骨が浮き出た黒い肌の人間が静かに寝息をたてるクワレーに布団を掛けると安心したように言った。
「良かった・・・」
その一言にほっと胸を撫で下ろすレーニア。その頭の上のスラリンガルも安心そうに体を潰す。
「しかし、彼は随分長いこと下層の大空洞に居たようですね」
人間、水の羽衣を纏った僧侶は続けた。
「彼の体、どうなっていたかご存知ですか?」
「疲労じゃ・・・」
「違います。これを」
そう言うと布団を捲り、クワレーの右手を見せる。
指の第2関節から指先にかけて毒々しい紫の斑点が覆っていた。
「これは魔物、つまり下層のポイズンリザードの毒が身体全体に回った時に見られる症状です。この症状はあまり見掛けませんね。まず、ポイズンリザードもそうですが、魔物の毒に冒された時、皆さんキアリーの呪文か毒消し草ですぐに治療します。なのでこのような症状が見られる事が無いのです。ですが、彼の様子を見る限り、冒されてから数時間は放置していたのでこのような斑点が出てしまったのです。幸い、薬草に含まれる微量な解毒効果のお陰で命は救われましたが、あと1時間後いや、30分も遅かったら彼は死んでいましたよ」
「ぇ、でも毒は治ったんですよね?何でまだ斑点が?」
「心配は要りません。蚊に刺されて腫れたみたいにすぐにおさまります。あとは彼にご飯をたんと食べさせてあげて下さい。早ければ明日にでも旅を始めて大丈夫ですよ」
「あ、ありがどうございます!なんとお礼をすれば良いのか・・・」
「お礼は要りません。私たち僧侶は神に仕える者。これも神の使いの1つに過ぎません。それに何より、困っている冒険者同士、助け合いが当然ですから」
「キー」
「格好いい」とスラリンガルが目を輝かせる。もっとも、今回はスラリンガルの空洞での応急措置が命を繋いだのだ。と僧侶はスラリンガルを撫でた。
「では、貴女達の旅に神の御加護があらんことを」
最後に僧侶はそう言い残し、宿屋を去っていった。
◇
「・・・」
ジュレットの町の夜は非常に美しい。
目の前に広がる海が月の光を反射し、同様に白い砂浜もキラキラと煌めく。それを酒場の上の高台から脚をぶらつかせる1人のウェディが居た。
夜の潮風が彼女の髪を撫でる。
「はぁ・・・」
大袈裟に溜め息をしても回りには誰も居ない。すると、背後から人の気配を感じ、振り返った。
「なぁに溜め息ついてるんだよレーニア」
「クワレー!駄目だよ寝てないと!」
「ぅ、ご、ごめん。まぁ、あれだよ。取り合えず話でもしない?」
よいしょ。と隣に座ったクワレーはレーニアと同じように脚を高台の縁から放り出す。
「・・・話って何よ?」
「レーニアさぁ、どうして旅に出ようと思ったの?」
「さぁね。クワレーより強くなりたいからじゃない?」
「まだ言ってるのかよ・・・」
クワレーが忘れろよと言いたそうな表情で寝転がるとレーニアの腰に付いたら銅のツメが視界に入った。
「銅のツメ壊れてるじゃん。あーあ、50G勿体な」
「う、五月蝿いわね!クワレーの大剣も似たようなもんでしょ!」
「まぁね。あ、そうだ。ねぇねぇレーニア」
「何よ?」
「予定無かったらさ、グレン城下町一緒に行かない?」
「グレンに?嫌よあんな砂っぽい所」
「まぁまぁ。だってさ、グレン城下町って言ったら武器防具の町じゃない?良い武器見つかるかもよ」
「暑いのか寒いのかハッキリしない地方なんて嫌よ」
「・・・じゃあ独りで旅を続けて下さいねー。ま、どうせすぐに行き倒れるだろうな」
┐('~`)┌へっ。と見下したクワレーに容赦ないレーニアの拳がめり込む。鼻血がポタポタと垂れるクワレーにハンカチを投げたレーニアはプンスカ言いながら宿屋へと歩いて行った。
「ぶ・・・バイキルトかかってない・・・?」
如何でしたでしょうか。