見慣れない天井。
鍵音が目を覚ました時には数人の大人がそばにいた。
「黒森鍵音さん、目を覚ましました!」
「早く二課に連絡を!」
鍵音は慌ただしくなる病室の中で聞き慣れない歌が聞こえた。
目線だけ横に向けるとそこには何度も見たリディアンの校舎が見えた。
(そうか……生き残ったのか)
鍵音は自分がまだ生きてる事を実感する。
それと同時に、まだ生きてる事へ感謝する。
(まだ……母さんの元へ行けない。すまんが、もう少し待っててくれ)
そうしてまた鍵音は眠りについた。
──ー
あれから数日。
鍵音は未だに病院のベッドで横になっているが、歩くくらいまでは回復できた。
あれほど酷い症状だったにも関わらず物凄い回復スピードだ。
これもガングニールのお陰だろうかと考える。
あの後弦十郎からはこってりと絞られた。
『未だ分かっていない力を行使して、あまつさえ絶唱を歌うとは言語道断!』
そしてその後。
『君はまだ一般人だ。我々二課とは協力関係ではあるが、それでも一般人の君を戦わせるわけにはいかない』
とも言われた。
鍵音は大人から叱られた事があまりない。
なので、叱られたという実感が未だに湧いてこない。
そう思いながら鍵音は自分で買ってきた奏の新曲を聴きながら窓の外を見ていた。
その時だった。
「何聴いてんだ?」
奏が鍵音のイヤホンを抜き取り、自分の耳につける。
突然のことで心臓が止まりそうになった鍵音に追い打ちをかけるようにニヤリと奏が笑う。
「やっぱ、アタシのこと大好きだろ」
ニヤニヤと鍵音の方を見る奏。
それを見た鍵音は不服そうな顔を浮かべ仕返しをするようにこう言い放った。
「ああ、大好きだが?」
「えっ」
「まず、天羽の歌声。アンタの歌声は最高だ、力強いながらも透き通るような歌声、俺はこの歌声に何度も勇気づけられた。それにアンタのルックス。そんじょそこらのアイドルとは比べ物にならないくらいの美貌の持ち主だ。少なくとも俺はそう思っている。世間では風鳴の方が云々とか言われているが、そんな奴らはクソ喰らえだ。確かに風鳴も大したものだが俺は天羽の方が好きだ。大好きだ。それもツヴァイウィングとして活動している時のアンタの笑顔。眩しすぎた、とんでもなく眩しすぎた」
「も、もうやめて……」
鍵音がオタク特有の早口で天羽奏の素晴らしいところを羅列していく。
それは奏の大ファンだという事を本人に知らしめるため。
奏が顔を真っ赤にして両手で顔を抑える。
まるで乙女のような反応だと鍵音は思ったが、奏はれっきっとした乙女である。
そこらへんはまだまだな鍵音であった。
そんな時だった。
「奏? また黒森鍵音の所にいるの?」
と病室をノックもせずに翼が入ってきたからだ。
病室の中には顔を真っ赤に抑える涙目の天羽奏と勝ち誇った顔の黒森鍵音がいた。
「貴様! 黒森鍵音! 奏に何をしたっ!」
「おいおいおいおいまてまてまて」
翼が狼狽え、すぐさま鍵音に詰め寄る。
手には携帯用の小刀を持っていた。
病人にすることではない。
事の重大さに気づいた奏によって翼は何とか止められた。
しかし、翼は鍵音を睨んだままだ。
「なんで、あんなに睨まれてんだ」
「し、知らねえ」
奏と鍵音が小声でヒソヒソと話す。
するとそれを見た翼が足をダンッと床に叩きつけ、鍵音を睨む。
「何をコソコソしている」
「いや、すまん」
なぜ翼が鍵音を睨んでいるのか。
その答えはこうだ。
(いつも奏は黒森の所へ行って私に構ってくれない。何故だ? 何故奏は私に構ってくれないのだ!)
悔しさからか翼が唇を噛む。
奏に構ってもらいたいお年頃であった。
──ー
点滴を打ちながら杖をついて鍵音は廊下を歩く。
少しでも、回復するために歩いているのだ。
鍵音の頰には少しの汗が滲んでいた。
(はは、また数年前に戻った気分だぜ)
それをたまたま通りがかった看護師が止める。
「黒森さん! ICUを出たばかりなんです、これ以上は」
「ぐっ…………さーせん」
鍵音が苦痛に耐えかね、窓に体を預ける。
ふと外を見ると、響と未来がグラウンドで走ってる姿を見かけた。
響は何か考えながら走ってるようで沈痛な趣で走っていた。
──ー
「毎回毎回、人の病室に来やがって暇なのかアンタらは」
「口の聞き方に気をつけろ黒森、私達は年上だぞ」
「まあまあ、鍵音はこんな奴なんだから仕方ねぇだろ」
鍵音の病室にはまたツヴァイウィングの二人がやってきていた。
目的は奏は鍵音にちょっかいを、翼はその監視だ。
トップアーティストがこんなので良いのかと1ファンの鍵音は頭を抱える。
「とにかく、病人に見舞いに来たんだよ。ほらりんご剥いてやってアーンしてやるから」
「いらねぇよ」
「貴様、奏のアーンが要らないだと? それでも防人か!」
「ダメだ、この人の言ってる事が一ミリも理解できない」
奏がりんごを取り出すと、それを翼が奪って帯刀していた小刀で斬る。
ものの見事にりんごは細かくなり、皿の上に四角型に小さく切られたりんごが並べられた。
「りんごが見るも無残な姿に……」
「マジかよ」
奏と鍵音が戦慄する。
どこでこんな戦技を覚えたんだとも同時に思った。
そんな時だった。
「お邪魔します!」
響が病室に現れたのである。
──
「はい! 鍵音君!」
「……ありがとう」
響が改めて剥いてくれたりんごをつまんで食べる。
「へー珍しい、鍵音が素直に礼を言ったぞ」
「何が珍しいんだ」
「そうですよ奏さん! 鍵音君ってたまにお礼を素直に言ってくれる時があるんです」
マジかよと奏が驚愕する。無理もない、奏が鍵音と知り合ってまだ二年。響とは八年だ。
また病室が騒がしくなったと鍵音は思った。
「それと、はい。師匠からこれを渡してくれって」
「師匠?」
「私たちの司令官、風鳴弦十郎のことだ。ここ最近おじ様の所で立花は師事を受けている」
そんな事をやっていたのかと鍵音は響を見た。
やはり、母親に似ている。そう鍵音は思った。
そしてあることに気づく。
「そういや、俺のロケットは……」
「ロケット?」
「あ、ペンダントならここに」
響が鍵音にロケットペンダントを渡す。
どうやら一時的に響が預かっていたようだ。
「……よかった」
鍵音はペンダントを受け取り安堵の表情を浮かべる。
響は知っていた、そのペンダントが鍵音の命よりも大事なものだと。
だから無くさないように預かっておいたのだ。
「へーそんな顔も出来るんだなお前」
「や、やめろ」
奏がニカッと笑って鍵音の頭をわしゃわしゃと撫でる。
鍵音が顔を少し赤らめて抵抗した。
その横で悔しそうな表情をした翼がいる。
そんな光景を見て響は思わず吹き出した。
「っぷ! あははは!」
「何がおかしい立花響」
「いやー、もっと鍵音君のこと知りたいなって!」
「……っ」
響のまっすぐな瞳を見て鍵音は思わず顔をそらす。
その時だった。
鍵音が目をそらした先にいたのはリディアンの図書室でこちらを見ている小日向未来の姿。
その表情はとてもショックを受けたような顔をしていた。
それを見て鍵音は察する。
「なあ……立花。お前」
「え? 何?」
「……いや、なんでもない」
これは当人達で解決しなければならない。
そう思い、詳しいことは分からないが鍵音は何も言わないことにしたのだった。
何故かここ最近仮面ライダーオーズを見始めました( ´∀`)
なんでなんだ( ◠‿◠ )
誤字とか見つけたら教えてくれると嬉しいです!