立花響に勝利したい   作:うみうどん

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十話

 それから数日。

 鍵音は櫻井了子のメディカルチェックを受けていた。

 

「絶唱の負荷による傷も全て無くなったわ、おめでとうこれから退院ね」

「そうですか」

「もーあんな無茶これから絶対しちゃダメよ」

「……すいません」

 

 了子が持っていた電子機器で鍵音の頭をコツンと叩く。

 そういえばと鍵音は話を続けた。

 

「あの、俺のペンダントは」

「あーアレね、ごめんなさいまだ分かってない事が多くて、アレがなんの聖遺物かも分からないのよ。だからもうちょっとだけ、ね?」

「……分かりました」

 

 見るからにがっかりしたような表情を浮かべる鍵音。

 それを見たい了子がふふっと笑う。

 

「鍵音くん、前に比べて表情が柔らかくなったわね」

「……そうですかね、実感が湧かないのですが」

「前は鬼気迫る表情をしてたもの」

 

 了子がニッコリと微笑む。

 大人がそう言うのならそうなんだろうと鍵音は思うことにして、メディカルルームから出た。

 

「融合症例第2号の黒森鍵音の絶唱……彼もまたあの時にとてつもないフォニックゲインを発していた。そして絶唱の負荷もそのフォニックゲインで減少させ一命を取り留めた……だったら完全にシンフォギアを纏える立花響だったら……」

 

 ニヤリと悪どく笑う了子を置いて。

 

 ──ー

 

 すっかり日も落ち、鍵音は家路を急いでいた。

 帰り道の公園に差し掛かった時に一人の少女が歩いているのを見かけた。

 

「なんでだよ……フィーネ」

 

 それはあの時、鍵音と死闘を繰り広げた少女だった。

 

「こんな所で何をしている」

「……! 死に損ないか」

 

 鍵音と少女が対峙する。

 しかし、少女の顔は憔悴しており、とんでもなく悲しそうな顔をしていた。

 

「待て、俺は今は戦う準備をしていない」

「はっ! だったら今、死んどくか!?」

「俺は病み上がりだ、万全な状態ではない。それにお前とは万全な状態で決着をつけたい」

 

 鍵音は少女を前に戦わないという選択肢を取った。

 その理由はお前も俺も万全な状態ではないから。

 なんとも戦闘狂な発言だった。

 

 それを聞いた少女が戦いの意思を解く。

 どうやらお互い戦ったらどちらかが確実に死ぬことは分かったようだ。

 そんな時だった。

 

「うえ──ん」

「おい泣くなよ! 泣いたってどうしようもないんだぞ!」

「だってぇ! だってぇ!」

「おいコラ! 弱い者を虐めるな」

 

 泣いている女の子を男の子がさらに追い打ちをかけたように見えて少女が止めに入る。

 あんな行動もするんだなと鍵音は内心驚いていた。

 

「いじめてなんかいないよ、妹が」

「ああ〜〜ん!」

「虐めるなって言ってんだろうが! 

「まてまてまて」

 

 少女が男の子を殴ろうとした手を鍵音が急いで止める。

 

「んだよ! 離せよ!」

「まずは話を聞こうじゃないか」

 

 あくまでも冷静に、そう鍵音が少女に伝えるといじけたように「んだよ」と言って手を振り払った。

 

「んで、どうしたんだ? こんな時間に」

「父ちゃんが居なくなったんだ、一緒に探してたんだけど、妹がもう歩けないって言って、それで」

「迷子かよ、だったらハナからそう言えよな」

「オメェが聞かなかったんだろうが」

「うっせ」

 

 少女が口を尖らせて鍵音の頭をポカリと殴る。

 それにブチ切れる鍵音は肩に手をやりケンカのポーズをとる。

 

「テメェ! よくも殴りやがったな!」

「ああ? だったらこの場で決着をつけるか?」

「上等じゃねぇか!! 泣かしたる!!」

 

 そう言って臨戦態勢に入る二人、しかしそれを良しとしない二人の兄妹によって阻まれる。

 

「「ケンカはダメ!」」

 

 間に入って両手を広げる二人、それを見た鍵音と少女の頭に登ってた血が急に冷めるような気がした。

 

「……ガキに言われちゃしまいだな」

 

 鍵音が頭を掻いて臨戦態勢を解く。

 それを見た少女も臨戦態勢を解いた。

 

「うう〜」

 

 それを見た少女がまたべそをかきはじめる。

 それを見た少女が。

 

「あー! もうめんどくせぇ! 一緒に探してやるから大人しくしやがれ! おい! 行くぞ!」

「俺もかよ!」

 

 こうして、夜の迷子のお守りをすることになった鍵音だった。

 

 ──ー

 

「ふんふふんふん♪」

 

 少女が女の子の手を引きながら綺麗な鼻歌を歌う。

 それを鍵音はボーっと見てしまい、その視線に気づいた少女に睨まれた。

 

「何見てんだよ」

「いや」

「お姉ちゃん、歌好きなの?」

 

 言葉に詰まった鍵音をフォローするかのように女の子が聞く。

 そう言うと少女がどことなく暗い顔をして答えた。

 

「……歌なんて大嫌いだ。特に……壊すことしか出来ない私の歌はな……」

「……」

 

 少し暗い空気になった中歩く。

 そして交番の前に差し掛かった時に二人の子供の父親を見つけた。

 

「父ちゃん!」

「お前たち、どこに行ってたんだ」

「お姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒に迷子になってくれた!」

「違うだろ? 一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

「い、いや成り行きだから……その……」

「当然の事をしただけですから。なあ?」

「うっせ」

 

 照れる少女をからかうように鍵音が問いかける。

 先程までの殺伐とした空気から一変、あたりに暖かい空気が漂っていた。

 

「ほら、お姉ちゃんとお兄ちゃんにお礼は言ったのか?」

「「ありがとう!」」

「……仲良いんだな、そうだ、そんな風に仲良くするにはどうすればいいか教えてくれよ」

 

 少女が二人に聞く。

 本当ならこんな事言わないんだろうと自身で思っていても、何故か言葉が出てしまったのだ。

 

「そんなの分からないよ、いつも喧嘩しちゃうし」

「喧嘩しちゃうけど、すぐに仲直りするから仲良しー!」

「へえ、喧嘩するほど仲が良いってか、立派だなお前らは」

 

 鍵音が二人を撫でる。

 すると女の子がこんな事を言い始めた。

 

「だからお姉ちゃんとお兄ちゃんも仲良し!」

 

 二人して顔を見合す。

 間を置いて少女と鍵音が同時に首を振り始めた。

 

「「いやいやいや、そんな事あるわけ……真似すんなよ!! ……あ」」

 

 それと同時に同じ言葉を言う。

 そして恐る恐る女の子の方に顔を向けると、女の子は満面の笑みを浮かべて。

 

「やっぱり仲良しー!」

 

 と、無邪気に笑った。

 それに釣られて、男の子も父親も笑い始め、二人して顔が赤くなっていくのが分かったのだった。




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