立花響に勝利したい   作:うみうどん

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十五話

 響との戦いから数日。

 鍵音は二課の職員と共にある所へ来ていた。

 どうやら犯罪者が寝ぐらとしている場所らしい。

 弦十郎が鍵音に伝える。

 どうやら、特別戦闘要員枠で行かせてもらえるようだ。

 

「俺たちの任務は雪音クリス君の保護だ、それと同時に調査でもある」

 

 弦十郎が車で移動途中にそんな事を言っていた。

 そこで鍵音は初めて、クリスのフルネームを知る。

 

(ハーフか)

 

 鍵音自身も、幼少期は米国で暮らしており、父親が外国人だと言われてきた。

 本当ならミドルネームもあると、しかしその事を鍵音は知らない。

 そして鍵音自身、クリスに親近感を抱いていた。

 クリスを見ているとまるで昔の鍵音を見ているかのような感覚になる。

 

(それに、名前に“音”が付いているしな)

 

 そんな事を思っていると、目的地に到着する。

 大きな屋敷で、豪邸だ。

 職員と共に中に入ると、血の匂いがした。

 どうやら先に何者かが殺されたようだと弦十郎が鍵音に伝える。

 

 屋敷の中でも一際広い場所に出る。

 そこに広がっていた惨状は軍人と思われる人間が血を流しながら地にひれ伏していて、その中心に立っていたのは雪音クリスだった。

 

 鍵音は一瞬クリスがやったのかと思ったが、クリス自身どうしてか分からない表情を受けべているのですぐに違うとわかった。

 

「違う! あたしじゃない! やったのは!」

 

 クリスが言うと、弦十郎がクリスに近づき頭を撫でる。

 

「誰もお前がやったなどと、疑ってはいない。全ては君や俺たちの側にいた彼女の仕業だ」

 

 弦十郎が言うとクリスは覚えがあるようでハッとした顔になった。

 

 鍵音は屋敷の調査をしており、死体の上に置かれた一つの書き置きを見つけた。

 それは【I Love You SAYONARA】と書かれた文字。

 鍵音はそれを捲り上げる。

 すると仕掛けが作動し、屋敷が爆発した。

 

「っち! 罠か」

 

 鍵音は既に纏っていたガングニールで、迫り来る爆風から職員を守る。

 弦十郎は発勁で衝撃をかき消し、クリスを守った。

 

「あー……すみません」

「全く……今度から一言入れてからにしろ」

「おい! どうなってんだよこれ!」

「衝撃は発勁でかき消した」

 

 発勁って何だろうと鍵音は思った。

 しかしそれはいくら考えても仕方ない事なのでこの際は無視する。

 

「なんでギアを纏えない奴があたしを守ってんだよ!」

「俺がお前を守るのは、ギアの有る無しじゃなくて、お前より少しばかり大人だからだ」

「大人ぁ? あたしは大人が大嫌いだ! 死んだパパとママも大嫌いだ! 夢想家で臆病者! あたしはアイツらと違う! 戦地で難民救済? 歌で世界を救う? いい大人が夢なんか見てるんじゃねぇよ!」

 

 それを聞いた鍵音は思わず、クリスの胸ぐらを掴む。

 

「な、なんだよ」

「確かに、大人はクソだ。クズばっかだ。でもな、理想を追い求めて必死に戦い続けた親を大嫌いだなんて言うんじゃねぇよ!」

 

 鍵音にもいた。

 そんな親が。

 我が子を命懸けで守りたいという夢を追い求めて、必死になって戦って、最後には命を落とした。

 だがそんな親を惨めだなんて思わない、大嫌いになんてなれやしない。

 ちゃんと夢を鍵音に見せてくれたからだ。

 そんな親を鍵音は心のそこから愛している。

 だからこそ、クリスにも親が大嫌いだなんて言って欲しくなかった。

 

「っ! 離せ!」

 

 クリスが鍵音の手を払いのける。

 

「大人が夢を……ね」

「……本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴を片っ端からぶっ潰していけばいい! それが一番合理的で、堅実的だ!」

「それがお前の流儀か、なら聞くが、本当にそれで戦いを無くせたのか」

 

 クリスが言葉に詰まる。

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな……そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか? 違うな。歌で世界を平和にするっていう夢を叶えるため、自ら望んで、この世の地獄に踏み込んだんじゃないのか」

 

 鍵音は思った。

 響華もそうだったのだろうかと。

 響華も鍵音という重石を抱きながらも、守るという夢を叶えるために地獄に足を踏み入れたのだろうかと。

 親というのはそういうものだ。

 いつだって子供に平和を見させてあげたい。

 その夢を叶えたいだけなのだ。

 

「なんで、そんな事を」

 

 そして……

 

「お前に見せたかったんだろう、夢は叶えられるという揺るがない現実をな」

「!」

「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親はきっとお前の事を大切に思ってたんだろうな」

 

 弦十郎がクリスを抱擁する。

 その優しい抱擁に、クリスは大声で泣き始めた。

 

 職員の一人が鍵音の肩に手をやる。

 鍵音が振り向くと、そこには笑顔で親指を立てていた職員たちがいた。

 鍵音もそれに答え、中指を立てた。

 

(((なんでだよ)))

 

 職員全員思った事だった。

 

 ──ー

 

「やっぱりあたしは……」

「一緒には来られない……か?」

「大丈夫ですよ、弦十郎さん。俺が付いておきます」

「はぁ!? なんでお前が!」

「一人にさせるのは流石に危ねぇだろ」

「ははは、まあ、鍵音君の言う通り、一応な?」

「……わかった……」

 

 クリスが不貞腐れたような表情で答える。

 鍵音と弦十郎が一緒に肩をすくめ苦笑した。

 

「お前は、お前が思っているほど一人ぼっちじゃない。お前が一人道を行くとしても、その道は遠からず、俺達の道と交わる」

「今まで戦ってきたもの同士が、一緒になれると言うのか? 世慣れた大人が、そんな綺麗事を言えるのかよ」

「まあ、それは分かる気がする」

「だろ?」

 

 弦十郎がそんな事を言う鍵音とクリスに対して苦笑する。

 

「本当、ひねてんなお前ら」

 

 そう言うと弦十郎がクリスに鍵音にも渡した端末を渡した。

 限度額内なら公共交通機関が使え、自販機でジュースも買える代物だ。

 そして、弦十郎がエンジンを回した、その時にクリスが言う。

 

「カディンギル! フィーネが言ってたんだ、カディンギルって。それが何なのか分からないけど、そいつはもう完成してるみたいな事を……」

「カディンギル……ワイルドアームズで聞いたことあるけど、本来はメソポタミアのバビロン市の古代名じゃ……」

「カディンギル……後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる」

 

 そう言うと弦十郎と職員達は車を走らせ、二人の前から去っていった。

 

「さて、どうする?」

「……取り敢えず、街に降りよう」

「案外素直なのな」

「うるせぇ! 置いてくぞ!」

 

 そんな事を言うクリスを鍵音は急いで追いかけていったのであった。

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