立花響に勝利したい   作:うみうどん

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十八話

 歌が聞こえる。

 命を燃やす歌が。

 

 鍵音が少し目を開けると、綺麗な月の前に桃色の蝶が羽ばたいていた。

 

(あれは……クリス……)

 

 うっすらと鍵音の中から響いてくる声が聞こえる。

 目を覚ませ、彼女が死ぬぞ。

 身近にいる大切なものを守るんだろう。

 

 寝ている暇は無いぞと、声が聞こえた。

 

「……!? 黒森鍵音……?」

 

 目を閉じたまま、鍵音は立った。

 そして、ガングニールを展開し槍を右手に構築する。

 それは、鍵音の無意識の中での行動だった。

 

「鍵音!」

「鍵音君!」

「黒森!」

 

 三人の声が聞こえる。

 しかし、誰の声なのか、鍵音には聞き分ける気力すらかった。

 なかった、筈だった。

 

 鍵音が人間を超越する速度で、塔を駆け上がる。

 落雷よりも速く、雷鳴よりも速く駆け上がる。

 そこで、鍵音の意識は完全に回復した。

 

【疾走・霹靂(かみとき)

 

「……バカな……奴はただの……人間だった筈!」

「か、雷……」

「雷……あんな技を未だに隠し持っていたのか……」

「……はは、心配かけさせやがって……」

 

 否、鍵音は最初からあんな技は持っては居なかった。

 あの時、フィーネに体を強く打たれた時に、脊髄のリミッターが外れ、脳震盪を起こした時に、脳が異常反応を示し、所謂、火事場の馬鹿力というものが発動したのだった。

 

 カディンギルを登りきった、鍵音はその勢いのまま、跳躍した。

 

「……!? あっ、か、鍵音?」

 

 クリスも鍵音の存在に気づいたようで、急いで武装を畳む。

 しかし、絶唱によるバックファイアで気絶し、クリスはそのまま落ちていく。

 それを鍵音が間一髪掴み取り、乱暴ではあるが響の方に向かってクリスを投げた。

 

「クリスちゃん!」

 

 響と翼と奏が三人がかりで受け止める。

 シンフォギアを纏っていたお陰で難なく受け止めることが出来たが、問題は鍵音である。

 カディンギルは既に充填が完了しており、月を穿つ程のエネルギーが放出された。

 

「がああああああ!」

 

 鍵音は雄叫びをあげ、ガングニールを構えた。

 そして一直線に放出されたエネルギーに向かって雷の如く、落ちる。

 ガングニールから発せられる雷、カディンギルから発せられるエネルギー。

 その二つは中和し、ガングニールがエネルギーを吸収して纏った。

 

 そのまま鍵音は、そのエネルギーを放出するかの様にカディンギルを上から槍で叩き割ったのだった。

 

「ああ……あああああ!」

 

 フィーネは絶叫する。

 そして、その光景を見た三人は驚きの表情を隠せはしなかった。

 

「守るんだ……俺は……身近なものを……まもっ」

 

 鍵音の腹部に何かが刺さる。

 鍵音が下を向くと、そこにはネフシュタンの鞭が深々と刺さっていた。

 

「……忌々しい……あああああ! 忌々しい! 真っ二つにしてくれるっ!」

 

 怒りに狂ったフィーネが、腹に刺さった鞭を振り上げる。

 鍵音は腹から肩にかけ切り裂かれ、大量の血飛沫をあげた。

 

「が……は……」

 

 鍵音はフラフラと蹌踉めきながら、その場に倒れこむ。

 誰がどう見ても即死だった。

 

 地下のシェルターで様子を見ていたリディアンの生徒や二課の職員たちも弦十郎も声をあげられなかった。

 その場にいた人間全員が世界を救った少年が無残に殺されているのを見ているしか出来なかった。

 

「……鍵音?」

 

 最初に声をあげたのは奏だった。

 変身を解き、足取りが覚束ない様子で鍵音に近づく。

 奏が見た鍵音の様子は、大量の血を口から吐き出しながら、光の無い瞳が虚空を見つめているだけだった。

 

「おい、鍵音……変な冗談はよせって……」

「か、鍵音……君……」

 

 悲痛な表情で鍵音を覗き込む響と奏。

 翼は離れた所で剣を落とし、愕然としていた。

 目を覚ましたクリスも重たい頭で鍵音の方を見る。

 

「……おい、嘘だろ」

 

 クリスも目を見開いた状態で、その場で硬直した。

 

「なあ、起きろよ。起きてまた、アタシのCD買いに行けよ……今度はな翼とのツーショットの特典なんだぞ……なあ………………辞めろよ……アタシから……これ以上奪わないでくれよ……」

「あ……ああ……鍵……音……君……」

 

 奏の目から溢れる涙。

 鍵音に覆い被さるように泣き始める。

 響は絶望した表情でその場にへたり込んだ。

 

「ああ! どこまでも忌々しい! 月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす! 惑星規模の天変地異に人類は恐怖し! 狼狽え! そして聖遺物の力を振るう私の元に帰順する筈であった! 痛みだけが! 人の心を繋ぐ絆! たった一つの真実なのに! ……それを……それをお前が!」

 

 フィーネが叫び、もはや動かない鍵音を蹴り飛ばす。

 奏と響を巻き込み、鍵音の遺体が宙を舞い、地面に血溜まりを作りながらその場に転がる。

 それを見た翼が、ブチ切れた。

 

「貴様ァ! よくも……! よくも! 世界を救った英雄を愚弄したな!」

 

 怒りに任せた突撃、しかしその火力は強大だった。

 フィーネがネフシュタンで何とか天羽々斬の攻撃を受ける。

 しかし、その場でネフシュタンが壊れ、剣でフィーネの身体を鍵音と同じように切り裂いた。

 しかし、完全聖遺物と融合したフィーネは再生する。

 

「!」

 

 フィーネが翼を弾き飛ばす。

 当たりどころが悪かったようで、翼の変身が解け、地面に突っ伏するように気を失った。

 

「! ぐっ……クソッタレ……! 体が思うように……がはっ!」

 

 その光景を見たクリスもまたもや変身しようとしたが、体の限界がとうの昔に来ており、吐血し倒れた。

 

 フィーネが蹴り飛ばした鍵音に歩いていく。

 

「まあ……それでもお前たち融合者は役に立ったよ。生命体と聖遺物の初の融合症例……お前たちという先例が居たからこそ、私は己が身をネフシュタンの鎧と同化させる事が出来たのだからな」

 

 フィーネが鍵音の髪の毛を掴み、響の方に投げる。

 鍵音が響の上に覆い被さるような体制になった。

 

 響は泣きながら覆い被さってきた鍵音の亡骸を抱きしめる。

 

「……うっ……あああ……そんな目で私を見ないでよ……いつも通りに勝負だって言ってよ……」

 

 そんな悲痛な叫びももはや鍵音の耳には入っていなかった。

 響は鍵音の血に塗れながらひたすらに泣く。

 

 響は鍵音に感謝していた。

 世界最悪のノイズ襲来事件以来、居場所が無くなった響を追い詰める人々の悪意。クラスメイトの侮蔑の視線。

 そんな中で、凛として立っていた男がいた。

 響と同じような目に遭い、そして同じように迫害された。

 

 しかし、ある日を境にピタリと響を非難する声が聞こえなくなり、そしてクラスメイトからは距離を置かれてはいたが、鍵音と未来は響を一人にはさせなかった。

 

 響は知っていた。何故、響が悲劇に遭わなかったのか。

 

 鍵音が全て、響のヘイトすらも受け止めていたからだ。

 

 その時から響もまた鍵音が向かってくるのならちゃんと向き合おうと決めたのだった。

 

「……翼さんも……奏さんも……クリスちゃんも動けない……学校も壊れて……鍵音君も居なくなって……私……私なんのために……なんのために戦って…………みんな」

 

 フィーネが響の横に来て、月を見ながら話し始める。

 バラルの呪詛によって唯一創造主と語り合える統一言語が奪われたこと。

 フィーネがその創造主に恋慕を抱いていたこと。

 数千年に渡り、バラルの呪詛を解き放つ為、争ってきたこと。

 

 その全てが恋をする女がした惨状だった。

 

「胸の……想い……だからって……」

「是非を問うなと!? 恋心も知らぬお前がぁ!」

 

 フィーネが響の髪の毛を掴み鍵音ごと投げ飛ばす。

 瓦礫にぶつかった響は、表情を変えず離れた鍵音を見る。

 そして、這って鍵音の元へ向かい、手を握った。

 

(……冷たい……)

 

 響は鍵音から奪われていく体温を少しでも温めるかのように手を強く握る。

 そして、響も鍵音の手に覆い被さるように目を閉じた。

 

「そうか……そんなにその男と心中がしたいか。良いだろう、もはやお前には何の価値もない。この身も同じ融合体だからな。私に並ぶものは全て絶やしてくれる」

 

 フィーネがネフシュタンで響にトドメを刺そうとした、その時だった。

 

『仰ぎ見よ太陽よ、よろずの愛を学べ』

 

 歌が聞こえた。

 それはリディアン音楽院の校歌。

 響の帰ってくる場所の暖かい歌だった。

 

「耳障りな……どこから聞こえてくる……なんだコレは……」

 

 地下でノイズからの襲撃から生き延び、地下のシェルターに避難した生徒の応援歌だった。

 

(響……私たちは無事だよ。響が帰ってくるのを待っている。黒森君の想いも全て束ねて……みんな……負けないで!)

 

「……どこから聞こえてくる……この……不快な……歌! ……っ! 歌……だと?」

 

 四人の手がピクリと動く。

 

「あったけぇ……この歌……」

「……私にまだ……負けるなと言っている」

「……はは……こんな所でへこたれてちゃ……鍵音に笑われるな」

「聞こえる……みんなの歌が……良かった……私を支えてくれるみんなはいつだって側に……」

 

 響、クリス、翼、奏の目に生気が戻ってくる。

 そうだ、負けるなと言っている。

 頑張れと応援してくれている。

 

 そしてそれに答えるのは四人だけじゃ無かった。

 

 響が握っていた手が軽く動く。

 そして、温もりを感じると、力強く響の手を握り返した。

 

「!! …………みんなが歌っているんだ……っだから、まだ歌える……頑張れる……」

 

 そして、少年の声と少女の声がシンクロする。

 

「「戦える!」」

 

 変身の衝撃波でフィーネが弾き飛ばされる。

 

「な!?」

 

 そして、ありえない光景を見た。

 先程、確実に自分が殺した男がそこに立っている。

 

「……何故生きている……!? それに……まだ戦うだと!? 何を支えに立ち上がる! 何を握って力と変える! 鳴り渡る不快な歌の仕業か……? そうだ……! お前たちが纏っているものは何だ!? 心は確かにおり砕き、殺したはず! なのに……何を纏っている! ソレは私が作った物か!? お前達が纏うソレは何だ? なんなのだ……!」

 

 それに呼応するかのように光の柱が天高く空へ駆け上がった。

 五人はシンフォギアを身に纏い、空を飛ぶ。

 

 そして、響が絶叫した。

 

「シンフォギヴァアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

 

「ラグナロクだ! 太陽に匹敵する業火によって、お前をヴァルハラに送ってやる!」

 

 最終決戦が今……始まった。




次回!最終決戦!( ◠‿◠ )
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