大規模な戦いは終わった。しかし、その爪痕は街に甚大な被害を及ぼしており、完全に守れなかった人もいただろう。しかし、これ以上に犠牲を出さずにこうやってた戦えたのは奇跡的だった。
互いに無事を確認しあっていると、向こうから響が元凶のフィーネを担いでやってくる。
「このスクリューボールが」
クリスが呆れたように、しかし笑いながら響を変わり者だと言う。
鍵音もははと笑いながらその場に腰をかけた。
「みんなに言われます、親友からも変わった子だーって……もう終わりにしましょ、了子さん」
「……私はフィーネだ」
「でも、了子さんは了子さんですから」
鍵音はその光景を見ながら思うことがあった。しかし、夕日に照らされている二人を見たらそんな事はどうでもよくなった。ただ、この微睡みに任せて眠りたいくらいだ。
このまま、ギアを解除すればコロッと眠ってしまいそうで、鍵音はしっかりと意識を保つように、頰を叩く。
そんな時だった。
フィーネが月にネフシュタンの鞭を放つ。
「私の勝ちだァ!」
鞭は月に突き刺さり、そのままフィーネが背負い投げの要領で引っ張る。ネフシュタンの鎧はその衝撃でボロボロに砕る。
そして、月の一部分が割れ、地球に落下するようになった。
「月のカケラを落とす!」
「!?」
「私の悲願を邪魔する禍根は! ここで叩いて纏めて砕く! ……この身はここで果てようと! 魂までは耐えやしないのだからな! 聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る! どこかの場所! いつかの時代! 今度こそ世界を束ねるために! 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女! フィーネなのだァ!」
響がフィーネの言葉を聞いて、拳を胸に軽く叩く。
その瞬間、一陣の風が吹いた。
「うん、そうですよね。どこかの場所、いつかの時代。蘇るたびに何度でも、私の代わりにみんなに伝えてください。世界を一つにするのに、力なんて必要ないって事を、言葉を超えて、私たちは一つになれるって事を! 私たちは未来にきっと手を繋げるって言う事! 私には伝えられないから、了子さんにしか出来ないから」
母の事を思い出す。響華は歌っていた。子供を守るために、歌っていた。そこにはただの一つも力に訴えかける事なんて無かった。言語が通じない子供達にもちゃんと歌で分かりあっていた。響華は命尽きようとも伝えていた。みんなが手を繋げるという事実を。
「お前……まさか……あの女の」
「了子さんに未来を託すためにも、私が今を守ってみせますね」
「本当にもう……放って置けない子なんだから……」
フィーネの雰囲気が変わった。あの雰囲気は全員がよく知っている、櫻井了子だった。
了子は響の胸に指をトンと叩いて言う。
「胸の歌を、信じなさい」
そして了子は白い灰になってこの場から消えた。
初めての人の死を目の当たりにする鍵音。心中では少し切ない感情が渦巻いていたが。
(存外……何も思わないものなんだな)
そう思い、鍵音は月を睨んだ。
──ー
軌道によると、地球へ月のカケラが落ちるのは避けられないと言う事だった。
あんなものが落ちたら、地球が粉々に破壊されるのは必須だった。
しかし、それでも諦めない者が一人。
響が一歩前に出る……が、鍵音がその肩を掴んだ。
「……鍵音君?」
「まさか……お前が行くのか?」
「うん、アレを壊して未来を繋がなきゃ」
「だったら俺が行く」
「!?」
響の肩をぐいと後ろに押す。よろけた響の先に居たのは未来であり、しっかり響を抱きかかえた。
「鍵音……!」
「……お前らが居なくては、誰がノイズから人々を守るんだ?」
「……」
「未だにノイズの災禍は消えたわけじゃねぇ、いつ、何処で、ノイズが現れるのか油断も許されない状況で、何で戦力の要を失おうとしてんだよ」
「だったらお前も!」
奏とクリスが鍵音に叫ぶが、鍵音は一切聞く耳を持たない。
その顔は覚悟を決めた男の顔だった。
「鍵音君!」
「それに……まあなんだ。約束まだ果たせてねぇんだろ」
「!」
「何の約束か知らないけど、まあ俺は大丈夫だ、根拠は……お前を倒しに必ず戻ってく
る。これでどうだ?」
鍵音は響に宣戦布告をする。必ず次はお前に勝つと、だからこんな所で折れるわけにはいかないと。
響はそのまっすぐな視線に、戸惑った後、少し笑った。
そして、これまで口を閉ざしていた翼が口を開いた。
「やれるんだな?」
「当然」
「戻れるんだな?」
「無論」
「分かった……世界の命運。黒森……お前に託したぞ」
「……りょ──ーかいッッッ!!」
宙に浮いて、そして後ろにいたみんなに、指をさして叫ぶ。
「生きるのを諦めるな!」
そして、疾走するが如く、月にへと向かった。
下に残された人たちはその光景を見送りことしか出来ない。しかし、鍵音が帰ってくると言ったのだ。それを信じなくてはいけないだろう。
「あの人は……」
リディアンの生徒が口を開く。
するとそれに奏が笑うように答えた。
「世界一惨めで、宇宙一かっこいい男さ!」
──ー
「さて……アイツらにはああ言ったものの、俺もかなり限界なんだよな」
母さん……俺も、もしかしたらそっちに行くかもしれない。どうか、早すぎるとか言って怒らないでくれ。これでも俺……頑張ったんだぜ?
フィーネに切り裂かれた胸が痛む。
多分、レーヴァテインで辛うじて生きながらえている状態なんだなって俺は思った。
「壊せるか……いや、ここで壊せなきゃ! アイツは倒せねぇだろ!」
俺はレーヴァテインとガングニールに最後の力を送り込む。
赤色に灯った炎が緑、漆黒と色を変えていく、禍々しい色だと思った。しかし、俺によく似合う色だとも思った。
ガングニールを精一杯引き絞り、とんでもない長さまで引き絞る。
杖は超巨大な火球を複数作り出し、その後に剣に変形させ逆さに持ち、巨大化させる。
漆黒の炎が燃え盛る。
……まあ、俺はアイツらに会えて本当に良かった。
俺のやりたい事も見つけた、母の事も少し知れた。
後は──ー
「俺が! 恩返しをする番だああああああああああああ!!!!」
俺は一斉に月に最大火力をぶつける。
光に飲む込まれ、成功か失敗か、どうかすらも分からない。
しかし、これでいい……。
失敗したとしても、アイツらが後片付けを、成功だったら……嬉しい。
俺は光に飲む込まれ、目を瞑る。
暖かい、炎の温もり。
──まあ、これも、いいん、じゃあ…………ねぇの……………………………………。
俺は、塵となり、地球に降り注いだ。
──ー
あれから三ヶ月。
翼と奏は世界に羽ばたこうとしていた。
世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴと、日本の歌姫、ツヴァイウィングとの合同ライブが始まろうとしていた。
その控えには、奏と翼が肩を並べて座っている。
「あれから……私たち、アイツに声が聞こえるように歌ってきたんだけどな」
「……」
「……翼? 緊張してるのか?」
「……はあ、もう私がそんな緊張で体が動かなくなるとでも思ってるの?」
「いんや」
奏が笑いながら答える。
あの後、鍵音の消息は不明。二課も、あの後必至に探したが見つけることは叶わず、捜索は打ち切られた。
しかし、奏は今でも鍵音がどこかで自分の歌を聴いてるんじゃないかと、そんな淡い希望を抱きながらこれまで生きてきたのだ。
そして、自分たちの出番がくる。
今日のメインイベントである、三人での同時ライブ。
それは観客を熱狂させるには充分だった。
それはテレビ越しに見ていた、響やクリスにもしっかりと伝わる。
しかし、そんな中マリアが動いた。
「そして、もう一つ」
マリアの合図でノイズが突如として現れる。
会場に混乱の波紋が広がる。
「狼狽えるなっ!」
ノイズはその場で動かず、人間を襲おうともしない。
どう考えても誰かに操られているようだった。
奏と翼は思うように変身が出来ない。
それはライブの様子が全世界に中継されているからだった。
「私たちは、ノイズを操る力を持ってして、この星のすべての国家に要求する!」
「世界を敵に回しての口上? これはまるで」
「戦線布告じゃねぇか……!」
「そして……」
マリアが持っていたマイクを上に投げる。
そして、聖唱を歌い、その身に漆黒のギアを纏った。
「!? 黒!」
「まさか!?」
表示された波形パターンはガングニール。
そこに黒いガングニールを纏う少女が現れた。
そして、その色味は装者なら見た事があった。
「それは! 鍵音の!」
「私は……私たちはフィーネ! そう、終わりの名を持つ者だ!」
そんな時だった。
一陣の炎が燃え盛る。
「……この炎は!」
「ッ!」
マリアが少し動揺する中、その炎に見覚えがあった奏は瞳に涙を浮かび上がらせる。
テレビ越しに見ていた響もクリスも、その光景を見て、グッと手を握る。
「あーったく、イラつくぜ」
「……! お前は!」
「……ふっ、遅いぞ」
世界に男は姿を晒す。
三ヶ月前、世界を救った英雄として、政府から公表され、捜索願が発令されていた男。
その男が今宵、漆黒のギアを纏い、姿を現した。
「……テメェ、色が俺と被ってんだよ!」
ルナアタック事変の英雄、黒森鍵音が帰ってきた。
これで一期分終了です。
これから続けるか続けないかは自分の気分次第で決めます。
取り敢えず書きたかった所まで書けたので満足です!
ありがとうございました!