あれから数日。
俺はこの家でセレナに世話になりながら暮らしていた。状況を纏めると、月のカケラの爆発に巻き込まれた俺はそのままアメリカに落ちてしまった。おそらく携帯もその時に無くし、端末もない状態だった。
ああ……これが詰みって言うんだろうなぁ。
「はあ……」
「なぜ溜息を?」
「……いや、呪われてるとしか思えなくてな……」
あの後、体の傷は完治して満足の歩けるようにもなった。
そして、この街を散歩して思ったが、のどかな雰囲気が心地いい田舎街だった。
空気をうまいし、食べ物もうまい。
……しかし、本当にセレナには世話になりっぱなしだな。
「このまま、食っちゃ寝してたらダメだな」
「え?」
「なんか手伝える事とかないか? 薪割りでもなんでもやるぞ」
セレナは病人にそんな事させられません、と言っていたが、傷はもう完治してあると言ったらお客様といい直した。存外、頑固な性格らしい。
しかし、頑固な性格なのは俺も一緒だ。どうにか頼み込んで今夜風呂に使う用の薪を割ってくれと、渋々ながら了承してくれた。
「もう……本当にしなくていいのに……」
「諦めろ、俺はこういう性格なんだ」
俺は斧を持って、薪を縦に割る。しかし、結構これが難しい。ドラマとかアニメとかでは一刀両断みたいな描写があるが、あれは嘘だな。一刀両断できない。必ずどこかでつっかえてしまう。
あれから少し時間が経ち、セレナは買い物に出かけた。
未だに薪が綺麗に割れる気配は一向に無い。
俺のやり方が悪いのか? と思い、薪を割る角度を変えて再度挑戦してみるが、やはりうまく割れなかった。
「まあ……不格好だが、一応割れてるしな」
俺が独り言を呟くと、後ろから肩を叩かれた。
振り向くとそこには銀髪のメガネをかけた男が立っていた。彼はこの街の医者兼研究員らしく、名前をウェルという。
俺の傷を治してくれた張本人であり、俺はドクターと呼んでいる。
「どうですか? ここ最近の調子は」
「まあ……順調と言えばいいのかな? 元気ですよ」
「そうですか、それは良かった。やっぱり僕の作った薬のおかげですね」
ドクターは髪をかきあげ、フッと笑う。
この人は……なんか最初に会った時から変だなとは思ったが、まあ優しい人ではある。
「この薬で、僕は英雄に……」
なんか危なさそうな事言い始めた。さっさと離れよう。
俺が薪を抱え、セレナの家に戻ろうとしたその時だった。
「前々から思っていたのですが……貴方のその首に下げているペンダント……もしや聖遺物ですか?」
俺には少し無視の出来ない単語が出てきた。
振り返ると、ドクターはにこやかに両手を振って害はないことを俺に伝えた。
「いえ、昔、聖遺物の事を調べていたものですから……それに、この街の住人は全員そうですよ」
「……この街の人たち全員研究者なのか?」
「……昔はそうでした。FISという機関が国により発足され、聖遺物の研究やシンフォギアを作成したりしていましたからね」
それからドクターはポツリポツリと話す。
昔、FISという機関で聖遺物の研究を国の主導の元行なっており、そこでシンフォギアの開発と装者の育成を行なっていた。
もっとも装者の方は何か別の目的があったみたいだが、詳しいことはドクターにも分からないらしい。
装者に必要な適合者を見つける為に、身寄りのない子供たちや研究者の子供などを集め、その子供達はレセプターチルドレンと呼ばれていたらしい。基本的にはアジア系の子供達が多かったと言った。
「その中でしたね……あの人が現れたのは」
研究者の協力者、いわば民間協力者から適合者が出た。
それは子供達ではなく、一人の女性。
年齢は20後半であり、真紅に燃ゆるシンフォギアを纏っていた。
そこから次々と適合者が現れた。FISの保有するシンフォギアは5つ。それのどれもが国の制御から離れ、FISが秘密裏に作ったものだった。
そしてセレナもその一人で、アガートラームというギアの装者だったらしい。
今では研究中の事故で、破損し行方不明になったらしいが……。
……俺は少し、この時分かっていた。
これで気がつかないバカはいないだろう。
「……ええ、貴方の名前を聞いた時、もしや……とは思いましたが」
「……帰って来る場所に帰ってきた……という訳か……」
「偶然……で片付けるには些か無理がある話ですよね」
俺は昔、FISにレセプターチルドレンとして隔離されていたのだ。
今となっては記憶は本当に曖昧ではあるが、母さんの存在がいたという事はそういう事なのだろう。
「完全聖遺物の暴走。それが僕たちに襲った悲劇でした」
その完全聖遺物を鎮めるために、母さんは命を燃やす歌を歌った。
その場にいた人間を全員守るため、子供達の未来を守るために。
「そして、僕たちは二つに分かれた。もうこんな研究は辞めようとFISを抜ける者と研究を推し進める者と」
そして、研究所を抜けた者同士、身寄りのないものが集まって出来たのがこの街だった。
その中で、ドクターは町医者として働きながら、唯一聖遺物の研究は辞めなかったらしい。
「言ってやるんです、残党に。お前らの研究はこんなに危ない事なんだぞと、堂々と」
ドクターは顔を顰め、怒りで拳を握る。
「僕は英雄になりたかった。しかし、あの日燃え盛る炎の中で本物の英雄の姿を見ました。彼女が、僕にその道を示さなかったら……狂気に落ち、英雄にとは程遠い存在になっていたと思えるほどに」
この街の大体の人間は母さんの最後を見ていたのだろうか。
……もっと、母さんの事が知りたい。あの日、何が起きたのか。何故、残党は研究を続けているのか。
その事を、俺は詳しく知る義務があるように思えた。