2年前
どうしてこんな事になってしまったのだろうかと鍵音は考える。
そうだ、立花響が俺の家に来て、ツヴァイウィングのコンサートを見に行こうと言ったのを鍵音は思い出す。
幼馴染の小日向未来がコンサートに行けなくなったと、大声で泣きついてきたのだ。
「うわーん! 未来がぁ! 私どーしよー!」
「うるさい、落ち着け」
そんなこんなで鍵音は仕方なく、名も知らないツヴァイウィングというユニットのコンサートを見に行った。
鍵音自身は、今日はどう立花響を倒すかというイメトレをやろうと思っていたのだが、本人が来たので辞める事にする。
今日は偵察の日というのを決め、立花響の弱点を探す事に力を注ぐ事に決めた。
今のところ戦歴は950戦中950敗。
立花響は女子ながら、類稀なる運動神経を持っており、他の男子に混じっても遜色はない。
今や学校では運動神経だけなら鍵音と響の2トップとなっている。
なぜ鍵音が響に固執するのかと思うと、昔の因縁なのではあるが響は完全に忘れている。
「大丈夫かなぁ……楽しめるかなぁ……」
「おい、その台詞は俺の台詞だぞ」
半ば無理矢理連れてこられたので、鍵音は不機嫌だ。
そしてライブが始まる。
大盛況で赤い髪の女の子と青い髪の女の子がステージに上がる。
曲を披露すると、会場のボルテージも上がっていき、会場全体の空気が震えていた。
初めは不安がっていた響も楽しそうにしており、コイツ……! と青筋が頭に浮かぶ。
「イエーイ!!!! あははは!」
「はあ……」
鍵音自身あまり騒がしいところは好きではない。
だが、二人の歌は心の中で熱く、クルものがあるということは理解はしている。
歌自体は好きなので後でゆっくり聴こうとCDを買おうかと思っていたその時だった。
ヒュンと一つ鍵音の目の前に何かが落ちる。
鍵音が視線を下に向けると、そこには黒い灰になったものが落ちていた。
この現象はよく知っている。
昔、鍵音を絶望のどん底に落とした、人知を超えた生物。
いや、生物と呼称するのも怪しい、絶望が目の前にあった。
「ノイズだあああああ!」
一気に人々の絶叫が耳に突き刺さる。
隣にいた響は完全に腰が抜けているようで、走れない状態だ。
鍵音はすぐに脱出できそうな通路の方に目をやる。
しかし、それは人が人を押しのけ、我先に逃げようとする人間達だけだった。
子供も関係なく、大人達の圧に押しつぶされる。
母親の絶叫も聞こえ、子供がまた一人死んだことがわかった。
「ちっ、立花! 一旦隠れるぞ!」
「え、う、うん」
恐怖に怯えた響を見ていると鍵音はイラつくのが分かった。
なぜ、俺より強い奴が、こんなに怯えてやがるんだ。今までの威勢はどうしたと思ったが、無理もない響はいくら強かろうがただの中学生だ。
鍵音みたいに壮絶な過去は経験はしていないし、普通の家庭で育っている。
二人は身を寄せ会うように岩陰に隠れる。
ノイズは二人に気付かずに素通りしている。
「ここなら、一先ず大丈夫だろう」
「え、うん」
限界ギリギリまで気配を消し隠れる。
その時、歌が聞こえた。
それは力強く心を熱くさせる歌。
「この声は」
『うおおおおお!』
赤い髪をした先程のステージに立っていた女が謎の鎧かどうかも分からないコスチュームを身にまとい、槍でノイズ達を殲滅していた。
奥の方では青い髪をした女も鎧のようなものを着て戦っている。
「す、すごい……」
響も鍵音の横にいつのまにか居て、この光景を目に焼き付ける。
しかし夢中になり過ぎたのか、響は身を乗り出しすぎて、ノイズに見つかってしまう。
「おい! 馬鹿、下がれ!」
「きゃっ!」
鍵音が響の肩を掴み、引き寄せるも時すでに遅し。
ノイズは完全に響と鍵音に標的を定めた。
赤い髪の女も気づいたみたいで、鍵音達に向かって叫ぶ。
鍵音は必死でなにを言っていたか聞こえなかったが、それでも響を守るように庇う。
ノイズは身体を細め、飛びかかろうとした。
鍵音は死を覚悟する。
(くそっ……)
しかしいつまでたっても体は炭化せず、死も訪れない。
振り向いてみると、そこには赤い髪の女が手の槍を回転させてノイズ達を防いでいた。
「生きるのを諦めるなっ!」
『絶対に諦めちゃダメだよ』
そんな言葉が脳裏に過ぎる。
それは鍵音に課せられた呪いの言葉。
その言葉がある限り、鍵音という男は絶対に死ねはしないのだ。
そうだ、諦めてはダメだ。
絶対に諦めてはダメなのだ!
「立花ァ! 立てるかっっ!!」
「え!? う、うん!」
この場から離れるために二人は立ち上がる。
しかしその時だった。
ノイズの攻撃により女の槍の破片が飛んでくる。
響に向かってくる破片を鍵音は腕を伸ばし、防ごうとして血飛沫をあげるがそれだけでは被害は治らない。
響の胸に破片が突き刺さる。
血飛沫が鍵音の体半分にかかり、赤く染まる。
「おい! 立花ァ!」
「…………あ」
「死ぬな! 絶対に死ぬんじゃねぇ!」
鍵音が響の肩を揺らし、なんとか響の意識を保たせようとする。
後ろから、赤い髪の女がやってきて、その手に持っていた槍をギュッと握りしめる。
「……鍵…………音……く」
「ああ、死ぬな! お前が死んだら俺は……っ」
────生きる目的を失う。
鍵音にとって響の死というものはそれ程重いものである。
「っ」
後ろの女は生きている響を見てホッとする。
先程の生きるのを諦めるなが響の胸に届いているのである。
「……すまねぇ」
「……」
「この責任は……とる!」
「……? あんた何を」
鍵音が振り向くと、女は槍を上に掲げ、歌を歌い始める。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
「っ!? この歌は」
「いけない奏! 歌ってはダメぇ!」
命を燃やす歌がある。
ここが最後のステージだと言わんばかりに、綺麗な声で歌っている女を見たら鍵音は無性に腹が立った。
なんでこいつは死のうとしてやがる。
鍵音はこの歌に聞き覚えがある。
それは最愛の人が最期に歌った歌だから。
鍵音を守るために歌ってくれた歌だから。
死してなお、鍵音の胸の中に残る呪いだから。
鍵音は気がつくと、目の前にいた女にタックルをかましていた。
「歌わせるかァァァァ!」
「なっ!? お前っ!?」
二人は縺れて転がる。
鍵音は馬乗りになって、女の襟を掴む。
「テメェ! 勝手に死ぬつもりか!」
「な! こうでもしなきゃ、助からねぇだろ!」
「知るか!」
「知るかって…………お前死にたいのか!」
女は馬乗りになった鍵音を突き飛ばす。
思ったより力が入りすぎたみたいで、鍵音は壁にめり込んで、血反吐を吐いた。
「ああ! おい! 待ってくれ、死ぬな!」
顔を真っ青にして女は鍵音の元へ駆け寄る。
どうやら死んではいないらしく、必死に女を睨みつけていた。
「んだよ、まだそんだけ力があるなら、頑張れるだろ」
「でも!」
「…………悔しいが、ここじゃお前等以外に頼れる人間なんていねぇ、ノイズを倒せんのはお前等以外に居ねえんだよ」
「!」
鍵音は血を吐きながら、言う。
「だから、俺等を守るために生きてくれ。生きて生きて、もう二度と俺等みたいな奴等を出さないでくれ。それが出来んのはお前等だけだ。一人でも欠けちゃあダメなんだよ!」
「んだよお前……、アタシのファンかよ」
「生憎、今日初めて観た」
「………………どうだった」
「………………ちっ、最高だったよちくしょう」
そして、最後の力を振り絞って鍵音は言う。
「……だから、そっくりそのまま言葉を返すぜ。『生きるのを諦めるなっ!』」
「……おう! 諦めないっ!」
そこから先の記憶は鍵音にはない。
だが、無事に病院のベットの上で包帯ぐるぐる巻きにされて目を覚ましたと言うことは辛うじて生きているのだろうと鍵音は思った。
基本的には本編世界とかけ離れた並行世界だと思ってください。