鍵音が起きた次の日。
「……なんでいるんだ」
鍵音がベッドから体を起こすと椅子の上であぐらをかいて座っている天羽奏が居た。
どうやら弦十郎にこっぴどく叱られたらしく、むすっとした顔で鍵音を見ている。
「弦十郎のダンナがお前を家まで送って行けってさ」
「別にいい」
鍵音はベッドから降りて、医療用の服を脱ぎ始める。
「わあ! お前こんな所で脱ぐなよ!」
「着替えないといけないだろう。そんなに言うなら出ていけばいいじゃないか」
奏は半裸になった鍵音を見やりため息をつきながら出て行く。
そして待っていたら中から鍵音が出てきて、この建物から出ていき始めた。
「待て待て! お前出口わかってんのか?」
「……そういえば……分からん」
奏は鍵音に対し、少し天然が入ってるのか? と思った。
とにかく、奏は鍵音を出口まで連れて行き、そのまま歩いていく鍵音についていく。
「……なんでついてくるんだ」
「だから言ったろ? ダンナにお前を家まで連れて行けって言われたんだ」
「別にそこまでしなくていい。さっさと戻れ」
鍵音は少し焦った様子を見せる。
そう、鍵音がこのまま天羽奏を家まで連れて行くと少し困るのだ。
天羽奏の新作CDでついてきた特典ポスターを部屋中に貼っているのだ。
訳あって一人で暮らしている鍵音の部屋は狭い。
故に、玄関先までびっちりと天羽奏グッズで埋め尽くされている。
そう、鍵音は絶対に天羽奏を家まで連れていってはダメなのだ。
家に連れていった後の奏の様子は想像できる。
笑われるか引かれるかのどっちかだ。
そして、鍵音は天羽奏を撒くために足早に帰路に着いた。
──ー
「へー……へー……」
結論から言おう。
鍵音は奏を撒くことが出来なかった。
なんやかんやありながらも、最後まで天羽奏は付いてきた。
そして、部屋の前で帰るかと思いきや、鍵音が鍵を開けた瞬間、奏が割り込むように部屋に入る。
その時の鍵音の顔は大層、とんでもない顔になっていたという。
「……」
死んだ目で虚空を見つめている鍵音に対し、奏は勝ち誇ったかのような顔でニヤニヤしていた。
「ほー? こんなものまでー?」
「っあ!?」
奏がニヤリという顔をした後に出してきた本は天羽奏のグラビア。
水着をきた天羽奏が満面の笑みでそこに写っていた。
天羽奏のグッズがよりどりみどりの中、本物の天羽奏が鎮座する。
ファンにとっては天国、鍵音にとっては地獄!
羞恥心を通り越して、鍵音は死んでいた。
そう! 死んでいたのである!
「も、もういいだろ……」
鍵音が掠れるような声で、懇願する。
そして鍵音が視線を挙げた先にいたのは、ベッド下を物色する奏だった。
「おおおおおい!!??」
鍵音は独り暮らしであるため、ベッド下にはやましい物は何一つ無い。
しかし! 天羽奏に関するやましい物なら腐る程ある!
「えーっと、アタシの写真集10冊に限定ソロCDが55枚、そしてちょっと過激なアタシのグラビアが……! なん……だと……? 同じ物が70冊以上……だとっ!?」
「あああああああ!!」
奏の中の鍵音に対するイメージが変わる。
「お前、アタシの事大好き過ぎるだろ──!!」
「ぎゃああああああ!」
そう、鍵音は天羽奏オタクなのである!
──────
そのような事件から1日。
鍵音はデータを取りに二課へ赴いた。
「本当にウチの奏がスマン……!」
どうやら昨日の惨状が弦十郎に伝わったようで、来た瞬間頭を下げられた。
どうやら同じ男という事で「君の気持ちは痛い程よく分かる!」と司令室にいた男全員に同情された。
(なんで知っているんだ)
そこからはカウンセリングのようなものを受けて、櫻井了子という出来る女(自分で言っていた)の元で検査を受けた。
「そーして、貴方の健康はどこも問題はないわ」
了子からレントゲン写真を見せられる。
破片が残っていた右手は置いておいて、体にはどこも異常は見られなかったらしい。
「良かったな」
弦十郎もまるで自分のように喜んだ。
何故、この人たちは優しいのだろうと、鍵音は疑問に思ったが、この世界は広い。
こういう大人がいてもおかしくはないと、そう考えることにした。
そして、次は鍵音の話だ。
「さーて、貴方の不明な部分なんだけど、聞かせてもらえるかしら?」
「君の父親は軍人で、とある紛争に巻き込まれ、君が生まれる前に戦死したとデータには残っている、しかし君の母親に関してなんだが……不思議なことに情報が隠蔽されたかの様に何処にもないんだ。無理にとは言わないが、知ってる事があったら教えてほしい」
鍵音は一拍置いて口を開き始める。
「……俺の母親は……俺の目の前で死にました。これが、俺の母親の写真です」
鍵音は首に下がっていた、ロケットペンダントと赤いペンダントを取り出す。
二人は赤いペンダントがギアに酷似していたため、驚きの表情を隠さなかったが、それ以上にロケットペンダントの中に入っていた写真に驚愕した。
「っ! これは!」
「響ちゃん?」
その写真には成長して大人になったらこんな姿なんだろうなと思わせる、響に酷似した人物が当時小学生低学年の鍵音の肩に手を置いて、響らしい笑顔でピースをしていた。
「…………これが俺の母親の……黒森
二人はその赤いペンダントと写真にどの様な共通点があるのかも気づいてしまった。
次回!過去編( ◠‿◠ )!