今回は前作で要望がきていたある人と知り合う回でございます。
前作とはかなり違いますが、受け入れてもらえるかな
あの決闘から早いことで一ヶ月。
私も身の回りの変化に漸く慣れてきた。とはいえ、知らない人からの異常な好意などには未だに慣れず少し恐怖を覚えることも少なくはない。
「それで、わざわざこんなところまで呼び出して何の用?聖ガラードワース学園の生徒会長さん」
「わざわざ来てもらって申し訳ないね。琴音」
目の前に立つ如何にも爽やかそうなイケメン。聖ガラードワース学園の生徒会長にして、序列一位でもあるアーネスト・フェアクロウ。
彼とは実家の家業の関係で知り合ったため、彼は私の裏の顔も知っている。他に六花で知っているのは、クローディアと夜吹くん、そしてこのアーネスト。あともう一人いるのだが、彼女の関しては私自身もあまりよくわからない。母さんとも異様に仲がいいし。
「それでわざわざ何の用?」
わざわざ呼び出したのだ、それなりの理由があるのだろう。
どこぞの女狐のようになんの用もなく呼び出す人も稀にいるが。
「用があるのは僕じゃないんだ」
そう彼が言うなり、物陰から出てきた陰に私は見覚えはなかった。ただどこかで彼女の雰囲気には覚えがあった。
「えと。どちらさま?」
雰囲気には覚えがあったが、覚えのない相手であることには間違いがなかった。
「あっ、ごめんなさい」
そう言うと彼女は変装を解いた。
髪は先ほどまでの茶色の髪から、まるでかの世界の歌姫のような鮮やかな色の紫色に変わった。
「まさか……」
「えっと、シルヴィア・リューネハイムです。初めまして、【影姫】……いえ、東雲琴音さん」
紛れもなく本物の世界の歌姫。
彼女のファンは全世界におり、もちろんここ六花にも大勢いる。ちなみに、私もその一人である。
「……本物っ!大ファンです!!」
私は考えるまえに、彼女の手を握っていた。
冷静に考えてみれば、我ながら恥ずかしい。
あまりにも突然の本人の登場にファンとしての気持ちが抑えられなかったのだ。
「あっ、、、ごめんなさい」
少し冷静になったところで私は手を離そうとした。
だが、それはかなわなかった。
「嬉しい!!あの時は本当にありがとう!!」
「……はい?」
シルヴィアさんに引き戻された手を見つめながら私の頭は混乱した。
目の前にいる世界の歌姫が言っていることが理解し難いことだったから。
少したって冷静になった私は、この場を提供したアーネストにどういうことか確認を取ろうとしたのだが。
「……アーネストっ……」
いつの間にか彼の姿はなくなっていた。
大方、自分の役割は終わったとか思ってそうそうに去っていたのだろう。
「(……アーネストめ)あ、あの……シルヴィアさん」
未だに私の手を握っているシルヴィアさんに事情を聞こうと私は落ち着かせることにした。
「あっ、ごめんなさい。私ったら……」
改めて落ち着いたシルヴィアさんの話によると、私のことを彼女は元々知っていたらしい。5.6年前にあった、反政府勢力による人質事件の解決を請け負ったときのこと。彼女は人質の一人として捕らえられていたらしく、その際助けた私のことを覚えていてくれたとのこと。だが、そんな現場で私も名乗っているわけもなく私が使っていた”黒影”だけを頼りに探してくれていたらしい。
そこでこの間の一ノ瀬先輩との決闘の映像をたまたまクローディアから見せられたアーネスト経由でシルヴィアさんが私を見つけ、今に至るとのことらしい。
「てことは、シルヴィアさんも知ってるんだよね……」
助けた相手とはいえ、私の裏の顔を知っている人が増えるというのはあまり芳しいことではない。
まして、人に褒められるような家業でもないため多くの人に知られるというのは私としてはあまり喜ばしくない。
「うん。でも、あなたが困るようなことはしないし、誰にも言わないよ!」
笑顔でそう言うシルヴィアさんの言葉は嘘を吐いているようには思えなかった。
「それで、お願いなんだけど……私と友達になって欲しいんだけど……だめかな?」
先ほどとは、打って変わってしおらしいシルヴィアさんの表情に私の中から断るなんて選択肢はなくなった。
元々、断るつもりなんて毛頭ないのだけれど。
「うん、こちらこそよろしく。シルヴィアさん!」
「やった!よろしく、琴音?」
喜んでくれたシルヴィアさんだが、なんだか不満そうであった。
「えっと、シルヴィア?」
これでもシルヴィアさんの表情は晴れなかった。
「……シルヴィって、呼んでほしいな」
そう言ったシルヴィアさんはとても可愛らしく、思い切って抱きしめたくなってしまったがなんとか留まることができた。
「うん、わかったよ。シルヴィ」
少し曇っていたシルヴィの表情もとても明るく晴れやかなものとなった。
こんな表情のシルヴィが見れた私は世界一幸せなファンであろう。
「それじゃあ、これからもよろしくね」
「うんっ!」
こうして、私の秘密を知る大切な友人が一人増えた。
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ではまた