街に来て最初に俺がミサカを連れていったのは洋服屋だった。当然、自分の好みの服を着せたいからとか、そんな邪な気持ちからの行動ではない。いや、多少そういう気持ちがあることは否定出来ないが、そうではなく、そのままのミサカを連れ立って歩くには御坂美琴は有名過ぎるからだ。学園都市の看板のような彼女にそっくりなミサカは御坂美琴本人か、もしくは関係者にしか見えない。
だから俺はそんな彼女に少し変装を施す為に洋服屋へとやって来ていた。
「どれが似合うと思いますか? とミサカはファッションなどはまだよくわからないので素直に一方通行に尋ねます」
「店員にでも訊けよ。俺は女物の服とか全然知らねェから訊いても無駄だ」
「いえ、せっかくあなたに貢い……ごほんごほん、買っていただくので、あなたの好みに合わせた服装にしてさしあげようかと思いまして、とミサカは危うく本音が飛び出すところだったと焦ります」
「……イイ性格してンよなァ、オマエ」
言いながらも俺はなんとなく彼女に似合いそうな服を選び、それを手渡した。ニット帽、ダッフルコート、ミニスカート、タイツなど。冬のファッションとしては無難で、それでいて俺の趣味に合う服装を選んだつもりだが、原作一方通行と違ってファッションに詳しくない俺にはこれがオシャレなのかどうかには自信がない。それに他人の服を選ぶ時は何故か妙に自信がなくなるというのもある。
だから渡した後は少し挙動不審な態度になってしまったのだが、ミサカは何も気にせず試着室に入っていった。それを見ていた店員が何故か生暖かい目を向けてきたが、彼女に服を選んであげている彼氏にでも見えていたのだろうか。
そう思うと少し気恥ずかしい。
「どうですか、一方通行。似合っていますかね? とミサカは感想を求めます」
試着室から出てきたミサカはくるっと一回転してみせた。無表情なのが微妙だが、見た目だけは良いのでよく似合っているように見えた。しかしそのまま褒めるのは癪なので、本音は飲み込む。
「まァ、さっきの制服よりはいいンじゃねェの? でもそのローファーが浮いてるよォな気がするな。この後は靴屋にでも寄ってブーツでも買うとするか」
「…………」
「なンだよ? 何か文句あンのか?」
「いえ、知らないと言っていた割には何やらとても詳しそうな様子なので、もしかしたら女装癖でもあるのかと少し考えてしまいました、とミサカはメイド服姿で微笑む一方通行の姿を想像します」
「そンなもン想像すンじゃねェよ! それとなンでメイド服なンだよッ!」
「一方通行はメイド服が好きそうだからです。ちなみにメイド服を着て欲しいのであれば素直に言ってくだされば着てあげますよ? とミサカは上から目線で答えます」
「誰がそンなこと言ったよ!? 大体そンなもンが普通の服屋にあるわけねェだろォが……って、え? あるンですか店員さン? いや、いらねェです大丈夫です。俺にはメイドさンの隣を歩く勇気はないンで」
そう言って俺は何故か熱心にメイド服を勧めてくる女性店員さんを遠くに追いやった。置いてあるメイド服が装飾が少ないロングスカートのヴィクトリアンメイド型だったのには少し心が惹かれたが、メイドさんを連れて街を歩くのは俺にはレベルが高すぎる。周囲の視線が気になって案内や買い物をするなんて絶対に無理だ。
「良かったのですか? メイド服ですよ、メイド服、とミサカは一方通行が後悔しないように忠告しておきます」
「勝手に俺をメイドマニアにしてンじゃねェよ! ……会計してくるからオマエは試着室を借りて値札を取ってこい」
財布を取り出しながらそう言うと、ミサカは少し不満げな顔をしながらも店員に一言告げて試着室に入っていった。その間を見計らって俺は会計を済ませる。
「彼氏さん、もしアレならフレンチメイド型の方もありますよ? プレイ用にどうですか? 露出が激しいのとか……」
「いらねェよバカ! さっさと会計させやがれ、この色ボケ店員がァ!」
なんなんだよ、この店は……。
◇◆◇◆◇
少し変わった洋服屋を出て、靴屋に寄ってブーツを買って変装を終えた俺達が次に向かったのは、ミサカの希望によりアクセサリーショップだった。どうやらこの女はとことん俺に貢がせるつもりらしい。テレビや雑誌が悪い影響を与え過ぎたのだろうか。教育方針を見直す必要があるかもしれない。いや、かもではなくあるな。
店の中でアクセサリーを無表情に見つめるミサカを見て俺は考える。一応高級店ではなく中高生向けのこの店に連れてきたが、このまま貢ぎ続けていることはミサカ自身にも悪影響になることだ。
なんて、何を俺は子育てに悩む親のようなことを考えているのだろうか。子供がワガママに育たないか心配する親そのものな思考だった。ミサカと過ごす時間は俺にもおかしな影響を与えているらしい。
「言っておくが、無駄なもンまで買ってやるつもりはねェからなァ」
「……ケチセラレータ、とミサカは小さな声で呟きます」
「聞こえてますよォ、ミサカちゃァン?」
「失礼、口が滑りました、とミサカはとりあえず謝っておきます」
「とりあえずって、オマエなァ……」
俺は大きく溜息を吐いた。
やはりミサカは悪い影響を受けている気がする。このままでは性悪個体の名で呼ばれる日も遠くはなさそうだ。まさかこれは俺の責任になるのだろうか。
俺はもう一度溜息を吐いた。
「一方通行は溜息が多いですね。そんなに悩みがあるのですか? とミサカは一方通行を気遣ってみます」
「悩みの主な原因はオマエだよ、オマエ」
「……なるほど、恋患いですか、とミサカは一方通行の悩みに気付きます」
「どでけェ勘違いしてンじゃねェよ。どんだけ自惚れてンだオマエは……」
頭が痛くなりそうだ。こういう会話のキャッチボールでナックルボールを投げてくるような天然の相手は苦手だ。キャッチするだけで一苦労で、おまけに投げ返さなければいけないのですごく疲れる。
まあ、天然な友達が出来た時の為の予行練習とでも思っておくか。
「ところで一方通行、これを見てください。どう思いますか? とミサカは唐突にネタを振ります」
「すごく……可愛いです……、とでも言っておけば満足かァ? そォいうことを何処で覚えてくンだよ、オマエ」
呆れながら俺はミサカが指を指したペンダントを見た。可愛いとは言ったが、うさぎの形をしたそれは俺を馬鹿にする為に見せたように思える。そしてそれはきっと間違いではないだろう。
ミサカはそのペンダントを見ながら、
「ぷぷっ、うさぎ……そっくり……」
などとぶつぶつと呟いていた。
「これ欲しいです。買ってください、とミサカは上目遣いでおねだりします」
「ふざけンな。必要ねェだろそンなもン」
「いえ、他の個体と見分ける為に必要です、とミサカは熱弁します」
「熱弁っていうには熱が全然こもってねェと思うンですけどォ?」
「それにデート中にプレゼントするのは男の甲斐性ですよ、とミサカはテレビで見たうろ覚えの知識を語ります」
「デートじゃねェし、そもそも服とか靴を買ってやっただろォが」
「ミサカはこれがいいです。なんならこの後行く下着屋では一方通行の好みの下着を着てあげますからお願いします。ちょっと過激なものでもいいですよ? とミサカは妥協して提案します」
「下着まで買わせるつもりだったのかよオマエは!? 行かねェよそんなとこ!」
「でもミサカは今ノーブラですし、とミサカは恥じらった振りをします」
「その平らな胸には必要ねェよ!」
ここまでワガママになっていたのか、と俺は内心呆れる。何処に興味を持ったのかは知らないが、ミサカはそのペンダントが欲しい欲しいと連呼した。
周りの視線が徐々に買ってやれよそれくらいみたいなものに変わっていく。
しかしそれでも俺は頷くわけにはいかなかった。うさぎで俺を連想しているのが腹立たしく、同時に恥ずかしいというのもあるが、それ以上にここでワガママを許してしまうと、これからもこういうことになるかもしれない。それを思うとなんとしても頷くわけにはいかなかった。
「どうしてもダメですか? とミサカはしつこく粘ります」
「絶対にダメだ。他のやつならまだしもそんなもンを買ってやるつもりはねェ」
「……そうですか、ならばこちらにも考えがあります、とミサカはペンダントを掴んでレジまで歩いていきます」
「あン?」
最終手段として居場所をバラすなどの脅迫をしてくると思っていた俺はミサカの突然の行動に驚く。まさか万引きでもするつもりなのだろうか。いや、レジに向かっているのだからそれはないか。
何をするか想像がつかないミサカを何をしても対処出来るように警戒する。
そして俺が見守る中、ミサカはレジの前に立ち、「これください、とミサカはペンダントを渡します」などと言って、そのまま財布を取り出して会計を済ませた。
「…………はァ?」
俺が目の前の光景を疑っている間にもミサカは止まらない。そのまま会計を済ませたミサカはペンダントを自分で付けながら俺の前で止まり、「どうですか? 似合いますか? とミサカは胸を張ります」などと言いながら無い胸を張った。
「……オマエ金持ってンじゃねェか!」
予想外の展開に思わずツッコミが遅れてしまった。まさかミサカがお金を持っているとは――いや、嘘を吐けるとは思っていなかった。
「ミサカは一方通行捜索の為に外出を許可されているのですから、少し多めの交通費くらいは持たされているのですよ。それより似合いますか? とミサカは再度感想を求めます」
俺は何も言えなかった。
完全にミサカに騙されていたらしい。
「ちなみにもう財布の中には帰りの交通費くらいしか残っていませんので、あとは一方通行の奢りでお願いします、とミサカは下手に出てお願いします」
図々しくそう言うミサカに対して俺は返事も出来ず、そのままミサカが店から出ていくのに着いていくことしか出来なかった。それだけ俺は生後数ヶ月のクローンに上手くやり込まれたことがショックだったらしい。いや、今までも何度かやり込まれていたような気もするけど。
「これでミサカも個性をゲットです、とミサカは胸元を見てニヤけそうになるのを抑えながら歩きます」
なんだかご機嫌なミサカとは裏腹に俺の気分は下降気味だった。まだ街を散策するのは始まったばかりだというのに、こんなことで大丈夫なのだろうか。
こんな時に何と言えばいいのだろう。
そうだ。
「「ああ、不幸だ」」
と、俺の呟きに誰かの声が重なった。
もしかしてこの声は……と俺は少し緊張しながら後ろを振り返る。
すると、彼がいた。
「すみませーん。この辺りで財布を見掛けませんでしたか? 落としちゃったみたいで捜してるんですけど……」
ツンツン頭の無能力者が。
最後の方に誰か登場してましたけどツンツン頭の無能力者ってシスコン軍曹でしょうかね?(すっとぼけ)
昨日はバレンタインデーでしたね。チョコを渡したり渡されたりとラブラブしちゃってましたか? 早速チョコのお返しに頭を悩ませていたりしちゃってますか?
ちなみにホワイトデーのお返しですが
、
マシュマロは「あなたが嫌いです」
クッキーは「お友達でいましょう」
キャンディは「あなたが好きです」
といった意味があるそうです。
せっかく勇気を出して頑張って作った本命チョコをあげたのに三倍のマシュマロで返ってきたら悲惨ですよね。