とある憑依の一方通行(仮)   作:幸村有沙

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第七話 不幸少年

 振り返った先に居たのはごく普通の少年だった。平凡で平常な日常に埋没してしまっているかのような、そんな少年。特徴的なのは整髪料で整えているらしいウニのようなツンツン頭と幸が薄そうな雰囲気だけで、それ以外は十人並み。

 

 しかし、そんな何処にでも居そうな普通の少年に俺は特別な何かを感じた。

 

 特殊でも特異でもなく。

 

 異常でも異質でもなく。

 

 普般的で一般的な、普通の一般人。

 

 誰もが彼を見てそう感じるはずなのに何故か俺には違うように感じた。彼の姿に子供の頃に憧れたヒーローの姿が重なって見えた。彼の声に心を揺さ振られる何かを抱いた。彼を見て衝撃を受けた。

 

 そして俺は確信した。

 

 世界の中心で、物語の主役。

 

 彼こそが上条当麻だ、と。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「……いや、何でもねェよ」

 

 なるべく動揺しているのを悟られないように答える。まさかこの時期にこんな場所で上条当麻に会うとは思わなかった。もしも出会うなら原作と同じ時期に似たような場所か、もしくはスキルアウトに絡まれている時に介入してくる辺りだと考えていたのだが、こんな何でもない普通の日常の中で出会うなんて意外だ。

 

 ちらりとミサカを見る。変装は十分だ。知り合いじゃない限りはきっと気付けないと思う。だからこの段階で彼と御坂美琴が出会っているかは分からないが、今すぐにミサカと御坂美琴との関係を疑われたり、その所為で実験に関わってくるような急展開は多分ないだろう。

 

 今ここで俺やミサカと関わってもきっと上条当麻や物語には影響がないだろう。

 

 だからだろうか。突然のこととはいえ俺はあまり慌てることはなかった。

 

 少し動揺してしまったがそれだけで、挙動不審な姿を晒すことはなかった。

 

 しかし、財布を落としたか。やはり上条当麻はこの世界でも不幸らしい。

 

「それで財布って、どんな財布なンだ?」

 

「あー、その、マジックテープ式の……」

 

「バリバリー、とミサカはここぞとばかりにボケます」

 

「やめて! とでも言えばいいのかァ?」

 

「いや、お二方。やめて欲しいのは上条さんの方なんですけど……」

 

 そんなにマジックテープってダメなのかな、と上条当麻が愚痴を零す。

 

 それから仕切り直して上条当麻が話した財布の詳細は小学生が使いそうなイメージがある財布だった。しかも中身も小銭ばかりらしく、更に小学生が使っていそうな印象が強まってしまっている。誰かが拾っていたら確実に勘違いしていることだろう。

 

「なンて言えばいいか、わざわざ捜す意味があるのか理解に苦しむ財布だなァ。新しいの買ったらいいンじゃねェの?」

 

「いや、でもカードとか入ってるし……」

 

「遊戯王のレアカードとかですか? とミサカはこれまでの話から想像します」

 

「銀行のカードとかだよっ! なんですかなんなんですか、そんなに上条さんは小学生っぽいのですか!? これでも今年から高校生になる予定なのに!」

 

「マジックテープをバリバリする高校生は見たくねェな。やっぱり新しい財布買ったらどォだ? いい店知ってるぞ?」

 

「ふっふっふ、上条さんにそんな財力はありませんことよ! 財布なんて買う金があれば食費に回します!」

 

 何故か自慢げに胸を張る上条当麻。それを見て俺は転生したのが一方通行で良かったと心底思った。しかしまだインデックスと同棲前だというのに貧乏学生っぷりは変わらないのか。この場合は恐らく学生らしく遊興費の所為で生活が苦しくなる自業自得パターンなので同情の予知はないのだろうが、それでも少し同情してしまう。

 

 しかし、それでも。

 

「貧乏を自慢されてもなァ……」

 

「変なことを威張るのですね、とミサカは不思議なものを見る目で見ます」

 

「くっ……! 財布を落としてしかもデート中のリア充二人にここまでバカにされるなんて今日も不幸だーっ!」

 

「デート中でもリア充でもねェけどな」

 

 頭をバリバリと掻き毟って叫ぶ上条当麻に俺は冷静に勘違いを訂正した。

 

 思春期という時期で美少女(見た目は)と誤解されているというのに、自分でも吃驚するくらいの冷静っぷりだった。

 

 冷静で平静で、冷淡で平淡で。

 

 少しは恋愛漫画のツンデレヒロインを見習えと自分でツッコミたくなるくらいに。

 

 ここまでさっぱりと否定してしまうと正しいことでも一緒に誤解された相手を傷付けてしまうかもしれない。好意がなくても完全に否定されると何故か苛立つというのは俺だけに限った話ではないだろう。

 

 綺麗過ぎる正論は切れ過ぎる刃物と同じだ。意図せず人を傷付けてしまう。

 

 少し後悔しながらミサカの様子を窺う。しかしやはりミサカはミサカだったようで心配するだけ無駄だったようだ。無表情から変化せず、無神経を気にせず、無感情であるかのように佇んでいる。

 

「一方通行の言う通り有り得ないです、とミサカはどうしてそのような関係に見えたのかと理解に苦しみながら答えます」

 

 逆に俺が傷付いた。

 

 別にミサカなんて知り合い以上友達未満としか思っていないし、好きどころか少し不気味とすら思っているような相手だけれど、それでも完全否定は傷付く。

 

 しかし、そうなると俺は愛情ではないとしても友情のような情がミサカに対して沸いているのだろうか。仲良くなりたいくらいの気持ちはあるのだろうか。

 

「それにこの人はリア充どころか友達と呼べる存在がミサカしかいない可哀相な人ですからね、とミサカは自分のことを棚に上げて一方通行を馬鹿にします」

 

 ……いや、ないな、うん。

 

 こんな性悪クローンに対して仲良くなりたいと思うはずがない。

 

「オマエは友達じゃねェし俺は可哀相な人でもねェよ」

 

 一瞬頭に浮かんでしまった馬鹿な考えを消しながら吐き捨てる。するとミサカはやれやれと言いながら肩を竦めた。

 

「一方通行はツンデレですね。別に照れなくてもいいんですよ? とミサカは素直になれない一方通行を諭します」

 

「誰がツンデレだ、誰が」

 

「あなたですよ、とミサカは即答します。何故なら一緒にゲームをしたり二人きりで何時間も過ごしたり買い物を楽しんだり食事をしたり……そんな関係を友達と呼ぶと教えてくれたのは一方通行なのですから、とミサカは付け加えます」

 

「…………」

 

「どうかしましたか? とミサカは首を傾げます」

 

「いや、別に」

 

 ただ、恥ずかしいことを言うヤツだなぁと思っただけだ。あまりに恥ずかし過ぎて言い返す気になれなかっただけだ。

 

 そんな言葉を俺は飲み込んだ。

 

「……あのー、お二人さん? 俺の財布のことを忘れていたりしませんか?」

 

 ――と、そこで俺は上条当麻の存在を忘れていたのを思い出した。

 

「そォいえばそォだな、悪い」

 

「完全に忘れていました、とミサカは悪びれもせずに答えます」

 

「やっぱりね! 上条さんはわかってましたよ、だって完全に二人だけの世界に入っちゃってたもんね! なんかいい雰囲気だったもんね! リア充爆発しろ!」

 

「だから悪かったって言ってンだろ。財布を捜すの手伝ってやるから許せ貧乏人。あ、あと別にリア充じゃねェって」

 

「さりげなく罵倒してんじゃねぇよ! ……って、手伝ってくれるのか!?」

 

 俺の言葉に上条当麻は目を輝かせる。

 

 それに俺は小さく頷いた。

 

「おォ、今日は世間知らずのこいつに社会勉強の為に街の中を案内してただけだからな。予定らしい予定もねェし」

 

「おお、あなた方が神かっ!」

 

「私だ、とミサカは名乗ります」

 

「オマエだったのか……ってだからオマエは何処でこォいうのを覚えてくるンだよ」

 

「マジで助かるよ! 暇を持て余してくれていてありがとう、神々よ!」

 

「いや、オマエもオマエでちょっと乗ってンじゃねェよ」

 

 はしゃぐ上条当麻に少し呆れる。

 

 本来ならこの時期に逃亡中の俺や厄介事の塊のようなミサカと彼が関わるのもどうかと思ったが、もうそれなりに関わっているし、一応二人とも変装はしているし、それに何より彼と話す時間は楽しかった。

 

 だから俺は途中から彼の財布捜しを手伝うつもりになっていたのだが、ここまで喜ばれるとは思っていなかった。まだ財布が見付かっていないというのにもう見付かった後のようなはしゃぎっぷりだ。

 

 これで見付からなかった時はどんなテンションになるのだろう。少し気になる。

 

「ありがとな、えーっと……そういえばまだ名前聞いてなかったよな? 俺は上条当麻。それでそっちは?」

 

「俺は一方通行でこっちは鈴科ミサカだ。ちなみに外国人なわけじゃなくてただのあだ名みてェなもンだ」

 

 ミサカが散々自分や俺の名前を出していたので俺の名前は誤魔化せないが、流石にミサカをそのままミサカと名乗らせるのはまずいので、適当に苗字を付けてそれとなく御坂美琴とは関係ないことを匂わせる。

 

 俺の名前をミサカが呼んでも何も反応しなかったことから彼は学園都市第一位の名前を知らないのだろうと思っていたが、どうやらその通りらしく、彼は、

 

「一方通行に鈴科か。よろしくな」

 

 と特に驚いたりはしなかった。

 

 これならなんとか誤魔化せそうだ。

 

「いえ、ミサカは鈴科なんて苗字ではありませんが、とミサカは否定します」

 

「よォしっ! さっさと迷子の財布ちゃンを見付けてやろうぜ!! なっ!?」

 

「え? 今鈴科が何か……」

 

「いやいや、こいつ苗字で呼ばれるのを嫌がるンだよ! あたしを苗字で呼ぶのは敵だけだとか言って! だからミサカって呼んで欲しいって言ってたンじゃねェか!? いや、きっとそォだ、うん!」

 

「いや、それ完全に別の人だろ!? ていうかそんなこと言ってたか?」

 

「細けェことは気にすンな!」

 

「あの、ミサカは……」

 

「上条がミサカって呼ンでくれるってよ! 良かったな! これで財布捜しも気合いが入って捗るってもンだよな!」

 

「いえ、ミサカの苗字は……」

 

「わかってるって! いいからオマエは黙ってろ! そして空気を読みやがれェ!」

 

「……わかりました、とミサカは一方通行の気迫に押されて渋々引き下がります」

 

「わ、わかればいいんだよ……」

 

「そんな呼吸で大丈夫か?」

 

「い、一番いい酸素ボンベを頼む……って疲れてンのにボケさせんじゃねェよ!」

 

 ハァハァと乱れた呼吸を下を向いて整える。ミサカの経験不足による空気の読めなさをうっかりと忘れていたおかげで何度も声を張り上げる羽目になってしまった。

 

 しかしまあ、自分がクローンということまで言わなかったのは良かった。そういう話の流れになったら暴露しそうな不安はあるが、まだ言っていないなら後で言い聞かせておけば問題ないだろう。

 

 ちゃんと注意しとおくことを忘れないようにと心に刻み、俺は顔を上げた。

 

「こうなったらさっさと財布を見付けて上条の奢りで飯でも食いに行くぞ!」

 

「ですね、とミサカは同意します」

 

「えっ、なにそれ聞いてな……」

 

「細けェことは気にすンな!」

 

「上条さんの経済状況では全然細かいことじゃないんですよ!? え、冗談だよな!? そうなんだよな!?」

 

「よォし、捜すぞォ!」

 

「そういえば財布らしきものをコンビニの近くで見たような気がします、とミサカは有力な情報を提供します」

 

「え、マジで? ……ってさっきのは冗談なんだよな!? なぁ、おい! 答えてくれよ! 一方通行さーん? ミサカさーん? おーい! 待てってば!」

 

「オマエ食いたいもンとかあンのか?」

 

「一方通行と同じものがいいです、とミサカはかわいこぶって答えます」

 

「イチャついてんじゃねぇよ! ちくしょおぉぉ! やっぱ不幸だぁぁぁ!!」

 




 更新遅れて申し訳ないです。昔の書き方で書いてみようとしたら全然書けなくて、しかも調子が狂ってしまって何度も書き直していたらかなり遅れました。

 待たせてしまってすみません。
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