501との交渉から数日間、ロンドンは大騒ぎとなっていた。
突如現れた武装勢力との交渉だけでなくその武装勢力がMI6の幹部で政府高官の子息や駐ワシントン大使館一等書記官らがオラーシャのスパイであるという情報をMI5、MI6だけでなく外務省、首相官邸、労働党と保守党の本部と党首の邸宅、ロンドンにある主要新聞社に送り付けられたのだ。
更にはリベリオン大使館には同じく政府高官にスパイがいるという情報やルーズベルト大統領の健康状態、秘密裏に進められていたはずの原子爆弾開発に関する情報を送り付けられていた。
絶対に政府を交渉のテーブルに着かせるのに彼らが取ったのがこの衝撃的な情報を送り付けるという無茶苦茶な方法だった。
結果は成功、ブリタニア空軍の大将とリベリオン陸軍の大将が特使として派遣され501では交渉が開始された。
その頃、基地に一機のヘリが降り立ち、一人のウィッチが降り立った。
「ここがグリフィン&クルーガー社とやらですわね」
「ウェルカムトゥグリフィン&クルーガー社へ、歓迎しよう。
改めて、私は指揮官のアーチポフだ、コーシャと呼んでくれて構わない」
「私が副官のG36です。以後お見知りおきを」
「初めまして、自由ガリア空軍中尉ペリーヌ・クロステルマンですわ」
指揮官とG36が迎え入れる。
やってきたウィッチはペリーヌだった。
「まあ楽にしてくれ。
もう交渉もひと段落して今はみんなだらっとしてるよ。」
「ええ、ありがとうございますわ。
それにしても、大きいですわね」
ふとペリーヌが言う。
今の所この基地の外観を見た事があるウィッチはいない、そして空から見るとこの基地は非常に広大だった。
「まあな、空軍との協力作戦が多かったし最前線だったから要塞化されて10機程度のヘリを運用できる構造になっているからな。
本来は外郭施設に3000メートルの滑走路を有した共用飛行場と35の無人監視ポスト、7つの支部があるんだがこっちに来たのはこの施設だけだ。」
「それでも地下で連結された中央の司令部棟、12の兵舎、5つの格納庫、4つのヘリポート、倉庫6棟、人形整備管理棟、150人収容の映画館がありますから。
のべ100ヘクタールに合計400人の職員と戦術人形が勤務しています」
「100ヘクタール、巨大ですわね。
ただ大きさの割に職員の数は少ないのですね」
「120年という期間は大きいのですよ。
自動化でかなりの仕事が機械に置き換えられて少人数でも効率的なオペレーションができるんですよ。
それでも人の手が無くならないのは変わりないですが」
ペリーヌに二人が基地の説明をする。
この基地は辺境の最前線ながら彼の伝手で最前線とは思えない程広大且つ充実した設備を有していた。
というのも鉄血を陸軍以上に危険視する空軍が空軍大将の息子の彼と本社を飛び越えて協力、基地の設備を空軍と共用することで設備を充実させた背景があった。
そのため何人かこの世界に協力している各国空軍の連絡将校がいたが彼らは客人であるため空軍の支援が必要な作戦行動以外の意思決定の場には介在しないという規定から今の所首を突っ込んでいない。
「さ、行きましょう。ロシアよりマシとは言えブリタニアの冬も厳しいので」
指揮官はペリーヌを連れて基地に戻って行った。
「ま、改めてようこそG&K社へ」
基地内司令部棟内にある執務室に招かれたペリーヌに改めて指揮官が言う。
「交渉が完全に終わるまでの間、この基地で是非くつろいでいただきたい」
「ありがとうございますわ」
「俺とG36は色々と仕事があるから詳しい基地の案内はできないが代わりを呼んである。」
二人は部屋の真ん中に置かれたソファに向かい合って座る。
するとドアがノックされる。
「指揮官、入ります」
「いいぞ」
ノックして入ってきたのはブロンドのロングにベレー帽の戦術人形、M1ガーランドだった。
「紹介しよう、M1ガーランドだ。
みんなガーランドって呼んでるからそう呼んでおいてくれ。
どんなこともそつなくこなしてくれる優等生だ。」
「指揮官、そんなに褒めても何も出ませんよ」
彼女は簡単に言えば優等生であった。
あらゆることをそつなくこなすことから部隊には入っていない代わりに便利屋的存在として雑務に駆り出される役回りが多かった。
書類仕事が多ければ書類処理を、厨房の人手が足りなければコックの代理、カフェの手が回らないとウェイトレス、連絡担当もこなす何でも屋だった。
今回の客人の案内に抜擢したのも絶対に間違えないという確信からだった。
「そうでもないと思うぞ、じゃあクロステルマン中尉の事は頼んだよ」
「了解しました、では行きましょうか」
「ええ、お願いしますわ」
ペリーヌは立ち上がりガーランドについて部屋を出た。
ガーランドに連れられて司令部棟の廊下を歩き最初に案内されたのは食堂だった。
「ここが食堂です。
大体500人ぐらい収容できます」
「500人!大きいですわね…」
ペリーヌは食堂の大きさに驚く。
501の食堂と比べれば100倍以上はある程の巨大な食堂だった。
何せこの基地の食堂はカフェ以外はここだけ、なので一度に全職員が食事できる巨大なものとなってしまった。
その代わりに集会場的役割もできるようになっているのだが。
「ええ、でもいつも食事の時間帯でも半分ぐらいしか入らないんですよね。
だから実際そのぐらい入るのはパーティの時ぐらいですね、」
「パーティ?」
突然軍隊(ではなくPMC)とは思えない単語が出て聞き返した。
「この基地では気分転換で時々パーティをやるんですよ。
基本的に月一で誕生日のパーティと後は新人歓迎会ですね。
最前線だったんで気分転換として」
「そうなのですか」
この基地のパーティは一種の福利厚生である。
何せこの基地の指揮官は「飯・待遇・上官の三つが軍における反乱の最たる原因」と親から学んだので他の基地で多いセクハラはしないし食事に最大限気を遣いガス抜きとしてパーティを定期的にしているのだ。
「一応今日の夜もパーティの予定ですよ。
クロステルマンさんの歓迎会で」
「私もですか?」
「ええ。
それと、ここの食堂は一応毎日食事のメニューが決まってますけどそれとは別に軽食メニューが常時提供されてますので小腹が空いたらどうぞ。
食堂の説明はこんな感じですかね。」
食堂の一角にはセルフサービスの軽食コーナーが置かれていた。
こじんまりとしたサラダバーとソフトドリンク、パンとトースター、スープバー、ご飯とカレーというファミレスのような設備だが軽い食事を摂ったり朝食メニューとしては人気だった。
ふとペリーヌは食堂の一角で見間違いかと思える程大盛のカレーを食べている人に気がついた。
「ところで、あそこで大皿の料理を食べてるのは…」
「え?ああ、SPASですね、気にしないでください」
「はぁ…」
食べていたのは基地内では大食いの中の大食い、エンゲル係数を跳ね上げさせ係、食事担当の涙すべき存在ことSAPS12だった。
ガーランドは勿論基地内に人間は見慣れているので無視するがペリーヌは困惑気味だった。
「ここがカフェです。」
「いらっしゃい、あら」
次に案内されたのは基地内で一、二を争う人気スポット、カフェであった。
カフェはカウンター席とテーブル席がのこじんまりした設備だが片隅にはカラオケマシンが置かれていたりキッチンの奥にはピザ窯があったりと設備としては食堂のキッチン以上に充実していた。
二人はカウンター席に座りメニューを見る。
メニューは一般的なカフェと全く同じ、違う点があるとすればピザメニューと低糖質メニューがある程度だった。
「何にしますか?」
「あの、お勧めは何ですか?」
「そうですね、いつもならペパロニのピッツァなんですけど今日はお出しできないんです。」
スプリングフィールドが残念そうに答える。
「そうですか、なら紅茶をお願いしますわ」
「姉さん、私はコーヒーで。」
二人が注文するとスプリングフィールドは手慣れた手つきで紅茶とコーヒーを用意する。
「あの、先程姉さんと言いましたが姉妹なのですか?」
「姉妹、というか同じメーカーなんで勝手に姉さんって言っているだけです。
私も姉さんもスプリングフィールド・アーモリーですから」
「ん?そうでしたわね、戦術人形でしたわね」
「はい、紅茶とコーヒーです。
今日は特別ですよ、天然物のダージリンとブルーマウンテンですよ」
二人の前に紅茶とコーヒーが出される。
どちらもこの世界に来てから調達した天然物のコーヒー豆と茶葉の代物であった。
何せ元の世界では農作物は大打撃を受け必要は発明の何とやららしく品種改良や耕作技術、農業生産技術の向上、人口そのものの激減から食料自給率自体は悪くないが茶葉やコーヒーといった嗜好品となれば質の良い物は中々手に入らない、ブランド物ともなれば不可能に等しかった。
そんな超高級な代物をさも当然のように飲める現状に感謝しながらガーランドはコーヒーに口をつける。
「ん…!美味しい…」
「この紅茶も悪くないですわね」
「ふふ、ありがとうございますわ」
二人が感想を口にする。
特にガーランドにとっては今まで味わったことのない程の美味だった。
二人はしばらくカフェで色々な事を話しながら過ごしたのだった。
長くなりそうだから前後編に