ドールズウィッチーズライン   作:ロンメルマムート

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多分中編


基地へようこそ!(2)

 この基地は他に基地に比べてもかなり特殊な設備がいくつもある。

 他の基地の中には鉄血のハイエンドモデルと暮らしているという基地もあるというがこの基地にはある特殊な設備が3つ設置されていた、その一つが作戦室にある空軍と連動したC4Iシステム、これは空軍との作戦行動が多いという事情から空軍の発案で設置された物、そしてもう一つが150人が収容可能な映画館だった。

 

「気になっていたのですけどなぜこの基地は映画館があるんですの?」

 

「それ私も気になってたんです、それで副官、私が来たときは確かG36Cだったんですけど曰く『映画は人類の作った最も素晴らしい総合芸術だ、それを鑑賞する設備を作って何が悪い』って指揮官が言ったそうです。」

 

「…」

 

 ペリーヌが黙る。

 何せ相当深い理由があると思えばかなり単純な理由だったからだ。

 まさか目の前の自分の知っている映画館の20倍以上立派な設備がこの基地の指揮官の嗜好の結果だと思うと呆れてしまった。

 

「後から聞いたんですけど単に指揮官が映画が大好きなだけらしいです本当は」

 

「そうなのですか…」

 

「ここの映画館で流される映画も指揮官のコレクションですからね。

 今日の上映予定のショーシャンクの空にも」

 

 ガーランドが遠い目をする。

 ここの上映スケジュールはかなり適当である。

 映画館を作った理由の一つは映画オタクでありコレクターの指揮官が実家に置いていた映画のコレクション全てを指揮官になった後に送り付けられたため管理の為に作ったという事情もあった。

 だが映画の存在は士気の維持に一役買って職員にも戦術人形にも好評でこの日の上映もかなりの人が集まっていた。

 

 

 

 

「で、ここが大浴場です。

 右が女性、左が男性で両方ともサウナと岩盤浴付き。

 サウナは男女共用です。」

 

「男女共用」

 

 ガーランドが風呂場を説明する。

 風呂は典型的な日本様式の風呂だったが何故そんな仕様なのかは実は指揮官も知らない。

 サウナはフィンランド人職員の要請、岩盤浴は単なる流行に乗って増築したが何故風呂が日本様式なのかは誰も知らない。噂では社長か会社の幹部に日本人の血が流れている人間がいるかららしい、噂だが。

 

「稀にサウナから女湯を覗こうとする馬鹿がいますけどそうなった場合殺す以外何をしてもいいと指揮官から許可が得られてますので。」

 

「殺す以外何をしても」

 

「過去5回起きましたけど全て犯人はサウナ内で男女両方から袋叩きにされて半殺しにされてサウナに放置されました」

 

「半殺しにしてサウナに放置」

 

「気にしないでください」

 

 ガーランドが真顔で注意する。

 この基地では覗きと盗撮は殺人以上の重罪である、何せ殺す以外何をしてもいいというのが罰則である。

 基本全戦術人形と職員から袋叩きである。

 

 

 

 

「で、最後が連絡将校室です。」

 

「連絡将校室?」

 

「元々この基地はかなり特殊で設備の半分を空軍と共用してるんですがさらに空軍との空陸統合作戦が多いので各国の空軍から連絡要員が派遣されているんです。

 その連絡要員たちの部屋です。」

 

 色々と回った最後に案内されたのは司令部棟の連絡将校室。

 この基地には各国空軍と連携作戦を行う関係からロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、セルビア、ポーランドから連絡要員が各国から数名派遣、それらを纏めて管理するため司令部棟の階を丸ごと連絡要員のオフィスにしていた。

 

「それってあまり私に関係ないのでは?」

 

「まあ、そうなんですけど…将校たちがウィッチに興味津々なんです…

 ほら、ほぼ全員が空軍将校で…」

 

 ガーランドが案内した事情を説明し始めると大きな声で誰かが呼んだ。

 

「あ!ガーランド!」

 

「M14、なんでここに?」

 

 呼んだのは妹分のライフルのM14だった。

 M14に更に後ろから軍服を着た将校が追いかけてきた。

 

「仕事が無いからセレーニャ、じゃなかったオシポーヴィチ大佐に遊んでもらってました」

 

「はぁ、オシポーヴィチ大佐、妹がすいません」

 

「いやいや、どうせこちらも仕事が無いんだいい暇つぶしになったよ。

 そちらが例のウィッチかい?初めまして私はロシア空軍大佐セルゲイ・オシポーヴィチだ、よろしく」

 

 追いかけてきた将校がロシア空軍からの連絡将校セルゲイ・オシポーヴィチ大佐だった。

 階級を聞いてペリーヌは慌てて敬礼する。

 

「初めまして大佐、ペリーヌ・クロステルマン、自由ガリア空軍中尉ですわ。」

 

「うむ、で、一つ聞くが君はウィッチですかな?」

 

「はい、ウィッチですが」

 

「おお!実はだね、ウィッチというものに興味を持ってね、色々聞いてもいいかな?」

 

「え、ええ…」

 

「それは良かった。

 おい!ウィッチの話を聞けるぞ!」

 

「本当か!」

 

「嘘だったら口にクソぶち込むぞ」

 

「私が先だ!」

 

「私が先だモルドバ人!」

 

「落ち着け、逃げるわけじゃないんだからな」

 

「ちょっと待ってくれ、これが終わったら…」

 

「あのポーランド人、仕事中にボトルシップ作ってるがいいのかよ…」

 

 ウィッチの話を聞けると聞くとオフィスの連絡将校たちが色めきだった。

 それぞれのオフィスから飛び出すと我先にペリーヌの下にやってきた。

 

「えっと君がウィッチだよね?ウクライナ空軍中佐のイワン・ゼレンスキーだ。

 ぜひ私のオフィスで話を聞こう、コーヒーと紅茶のどちらが好きかい?私は両方好きだ」

 

「何口説こうとしてるんだ藪医者。エカチェリーナ・ブダノワ、ベラルーシ空軍少佐だ。

 そこのクソッタレは無視して構わない」

 

「君がウィッチだな(ですね!)ルーマニア空軍(モルドバ空軍)中佐(少佐)コンスタンチン・ラデスク(イリーナ・ラコヴィッツァ)だ(です)。

 ぜひ話を聞きたい(です!)」

 

「こらこら、一人ずつ話したらどうだい、セルビア空軍大佐のカラジッチだ。

 よろしく頼むよ」

 

「君がウィッチだね、ヴォイチェフ・マゾヴィエツキ中佐だ。

 ちなみにだが中佐という階級は各国軍で色々な言い方があって例えば陸軍では伝統的に連隊補佐という意味があって海軍だと航海長兼指揮官という意味もある。」

 

 連絡将校が集まりそれぞれペリーヌの話を聞こうとする。

 

「え、えっと…」

 

「はぁ、皆さん、クロステルマン中尉が困ってるじゃないですか。

 私が紹介しますね、まずその顔がいいけどジョークしか話さないのがゼレンスキー中佐、口が悪いけど美人なのがブダノワ少佐、喧嘩してる男の方がラデスク中佐で女性がラコヴィッツァ少佐です。

 でカラジッチ大佐、その変人がマゾヴィエツキ中佐です。」

 

「は、はぁ。ペリーヌ・クロステルマン中尉ですわ。」

 

 ガーランドに雑に説明されて何とかペリーヌは連絡将校の顔と名前を覚える。

 個性的な面々の連絡将校に圧倒されていた。

 

「ペリーヌというのはフランス語で女の道化師を意味するが道化師というのは古代エジプトから存在する最古の職業の一つで中世では持ち物という扱いであったが唯一王や諸侯に直接無礼な意見をぶつけられる存在でもあった。

 ある歴史学者は中世の宮廷道化師を一種のオンブズマンとしての役割もあったと主張している。

 ちなみにだが祖国ポーランドで有名な宮廷道化師でヤン・マティコの名画でも知られるスタンチクはアレクサンデル、ジギスムント1世老王、ジギスムント2世アウグストに仕えて王に意見していたと言われている。

 またクロステルマンという姓はフランスの中でもアルザス地方に多い特殊な姓だ、つまるところ君は民族的にはフランス人ではなくアルザス地方のドイツ系民族のアルザス人だ、でも君の英語には訛には北フランス特有、その中でもカレー周辺特有の訛りがある、つまり君はアルザス人だが北フランス、恐らくカレー周辺部出身だ。

 さらに見たところ仕草は子供の頃によくしつけられたらしいところがあり服の仕立ては高級テーラー、布も最高級品を使用してる、尉官クラスでこのような豪奢な軍服を着用できるとなると恐らく実家は大富豪が大貴族、また手のタコを見るとフェンシングの嗜みと銃器を使用してる、フェンシングは伝統的に貴族の嗜みとされているから恐らく君はカレー周辺の大貴族家出身、違う?」

 

 ペリーヌの名前を聞いてマゾヴィエツキが早口で言う。

 彼が変人と呼ばれる所以がこれであった。

 常に批判的で口を開けば本質に関係ない話をだらだら続ける変人であった。

 

「えっと…」

 

「クロステルマンさん、無視していいですよ。

 いつもの事ですから。」

 

 ペリーヌは益々混乱していた。

 ふとガーランドが気がついた。

 

「サヴィンコフ大佐はどこですか?」

 

「まだいるのですか?」

 

 連絡将校の一人がいないことに気がついた。

 それはロシア軍統合参謀本部から派遣されていた参謀将校で指揮官の兄の先輩だというゲンナジー・サヴィンコフ大佐だった。

 参謀将校ながら妙にガタイと運動神経が良い人物で強力なOts-01コバルト拳銃を使う男だった。

 ただ指揮官には信用されているようで基地内でもそれなりの信用のある人物だった。

 

「サヴィンコフ大佐という参謀将校が。

 どこ行ったんでしょうか?」

 

「サヴィンコフならコーシャといるんじゃないか。

 機密情報とかの処理の件もあるだろうし」

 

 オシポーヴィチが答えた。

 この基地にはロシア軍やその他各国軍の機密情報がそれなりに置かれていた。

 特にロシア軍はこの基地の地下にあるサーバーを参謀本部のバックアップ設備の一つとして借りていた、そのためこの基地には各種機密情報が秘密裏に置かれていたのだ。

 

「そうですね」

 

「で、クロステルマン君、色々話が聞きたい。

 時間をいただけるかね?」

 

「ええ、私の話でよければ」

 

 オシポーヴィチが改めて聞き了承した。

 だが数分後、彼女は後悔した。

 

 

 

「で、で、つまりネウロイって言うのは…」

 

「1940年の戦闘だが…」

 

「ウィッチというのは医学的に一般人とどういった差異が?」

 

「ストライカーユニットとやらの飛行原理が気になる」

 

「ウィッチはMG42のような我々特殊部隊員でさえ完璧に扱うのが難しい武器を軽々と使っていたと聞くが」

 

 ペリーヌは連絡将校たちから絶え間のない質問攻めにあっていた。

 彼女が解放されるのは数時間後、中々来ない連絡将校たちとペリーヌを探しに来たG36が来るまでだった。




(誰も得しない連絡将校設定)
・セルゲイ・オシポーヴィチ
ロシア空軍の連絡将校。35歳。大佐
元戦闘機パイロット。
出世コースからは外れてる。独身。戦術人形に気がある。

・ゲンナジー・サヴィンコフ(コードネーム:RR)
ロシア軍参謀本部からの連絡将校。45歳。大佐。
実際の所属は参謀本部情報総局(GRU)第5局。
GRUのエージェント、G&Kへの諜報活動を行っていた。
指揮官の兄とは軍士官学校の先輩後輩。
妻帯者。
得物はOts-1コバルトリボルバー

・エカチェリーナ・ブダノワ
ベラルーシ空軍の連絡将校。32歳。少佐。
見た目は百合のように美しいが口を開けば罵詈雑言。
喧嘩では一番強い。あらゆる面で男より強い。
合コンの負け犬。

・イワン・ゼレンスキー
ウクライナ空軍の連絡将校。40歳。中佐。
中々のいい男だがジョーク好き。ジョークと専門用語で話すと煙に巻く癖がある。
ロシア人だがロシア嫌い。
実は軍医。

・コンスタンチン・ラデスク
ルーマニア空軍からの連絡将校。38歳。中佐。
元駐英大使館付き武官。
参謀課程出身者。
モルドバ空軍の連絡将校のイリーナと仲が悪い。

・イリーナ・ラコヴィッツァ
モルドバ空軍からの連絡将校。29歳。少佐。
元ヘリパイロット。
ラデスクと仲が悪い。
見た目は大学生。
こっちはまだモテる。

・ミハイ・カラジッチ
セルビア空軍の連絡将校。52歳。大佐。
連絡将校では一番の年上。
妻帯者、子供もいる。
ツァスタバと仲がいい。
元特殊部隊員。強い。

・ヴォイチェフ・マゾヴィエツキ
ポーランド空軍の連絡将校。49歳。中佐。
ボトルシップ作りが趣味。
理論や屁理屈を並べて専門用語でまくし立てる変人。

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