「各部隊、状況報告。」
『こちら第一部隊、異常なし。
間もなく森を出ます』
『こちら第二部隊、海岸線に到着した。』
探索が開始され作戦室には各部隊からの情報で息をつく暇もない程の忙しさとなっていた。
各部隊は基地を中心に放射状に展開、それぞれ情報を集めていた。
「了解、第一部隊は森から出ると例の空軍基地を監視、逐一情報を報告せよ」
『第一部隊了解』
「うむ、しっかりやってくれてるなアーチポフ君は」
「ええ。流石大将閣下の息子です。」
作戦室の壁際にはクルーガーとへリアンが立ち指揮の様子を眺めていた。
その仕事ぶりはベテランの二人を納得させるには十分だった。
「皆さん、森を抜けます。
ヴィーフリさんは左、G36Cは右、私とAUGが正面を警戒、あの小屋まで急ぎます。」
その頃第一部隊は森の端にまで到達していた。
各自木の陰に隠れて周囲を警戒、ハンドシグナルを使って慎重に進んでいた。
G36が手を振ると前進、少し離れたところにある崩れた廃屋を目指す。
G36とAUGが小屋の扉まで近づくと警戒しながらゆっくりと扉を開け中に銃口を向ける。
中には崩れた棚や打ち捨てられた本、埃をかぶった漁の道具が放置されていた。
「漁師の小屋、かしら」
「ええ」
中を確認したG36は床に落ちている一冊の本を拾った。
埃を拭うとそこには地図帳と書かれていた。
「それは?」
「地図帳です、中身は…海図ですね。
ドーバー周辺と英仏海峡、それに北海です」
G36がパラパラとめくりながら中身を確認する。
「連絡します?」
「お願いします」
「こちら第一部隊、小屋の廃墟にて地図帳を発見。」
『了解、でかしたぞ』
AUGが報告しているとWA2000が入ってきた。
「どう、中は」
「見ての通りです。雨風程度ならしのげるでしょう」
「ならいいじゃない、何か情報はあったの?」
「地図帳を見つけたわよ」
「かなり重要ね、そこの窓から基地は見えるわよね。」
WA2000は小屋の窓に愛銃を置く。
窓の外には例の空軍基地があった。
「それにしても、アレが空軍基地とはね。
モンサンミッシェルにしか見えないわよ」
「ええ、それに滑走路も片方だけで危険です」
「飛行機を運用するには不自然ですわね。」
WA2000がふと思ったことを口にする。
3人とも空軍基地にしては妙な違和感を感じていた。
「それに報告だと輸送機だけだったんだよね?
そんな事ってあるの?」
更に入ってきたヴィーフリも会話に加わる。
「すごいわよ、あの基地。
ここから見えるだけで大砲が1、2、3、4つもあるわ。
それに唯一の連絡路の橋も警備で一杯よ」
スコープで基地の様子を見始めたWA2000が呟く。
基地の警備は厳重で重要な基地という事がよく分かった。
そうなるとさらに違和感があった。
「重要な基地、という割には防空戦力が乏しいような…」
G36Cが漏らす。
するとWA2000が何かに気がついた。
「ん?何かしら?」
「どうかしましたか?」
「格納庫から人が出てきてる、出撃かしら」
スコープで格納庫を観察していたWA2000が格納庫の周りが騒がしくなったのに気がつく。
何やら全体的に騒がしくなり何かを出そうとしていた。
「なんでしょうか…?」
「こちら第一部隊、ご主人様、例の基地に動きあり。
現在監視中」
『了解、逐次報告を』
「変ね、出撃の割には飛行機が動いてない…
ん?」
するとWA2000が妙な人影に気がついた。
「何かしら?」
「何?変な物でもいたの?」
「足にパイプ?みたいなのを履いた人が出てきて…」
ヴィーフリに答えながら覗いていると彼女は絶句した。
ありえないことが起きた。
「は?な、何あれ…急加速し始めたんだけど…車と同じぐらいの速度で…」
突如監視していた“人”が急加速し始めたのだ。
突然車と同じぐらいかそれよりも速く動き始めて絶句する。
そしてそれ以上の出来事が数秒後起きた。
「う、うそでしょ…」
「え?何あれ?」
「あ、あり得ませんわ…」
“人”が宙に浮き飛び上がった、その動きだけはスコープを使わずとも焦点調節機能が低いG36以外その視覚センサーで見ることができた。
常識外れが連続して起きていてもこれは絶句する他なかった。
「これは…大変なことになるわね」
ぽつりとWA2000が呟いた。
「冗談も程々にしたまえ」
「へリアン君、戦術人形は正直者だ」
「それ、本当かい?だとすれば興味深いな」
午後三時過ぎ、基地のカフェでクルーガーらと指揮官、G36が見たものをありのままに報告していた。
「G36、俺は君を心の底から信頼して君に殺されても構わないと思えるぐらいには惚れてるつもりだけどさ、それでも疑わざるを得ないよ?
こう見えても元は空軍のヘリパイロットだし今でもライセンスは持ってる、何より親父は空軍のナンバー4だ。
信じられない」
あまりに突拍子もない報告に指揮官は困惑しながらドーナツをかじる。
口の中に甘さが広がるがG36の報告を理解するので殆ど味わうことなどできない。
「ですが本当に見ました。」
「分かってるよ、ドローンの情報と対空レーダーでも確認した。
回収した地図も確認した。
地理的なものは大体一緒だが中国が無くアメリカが星のような形になっている。
南太平洋に大きな島もある、その上国名も違う。」
指揮官は回収された地図帳を見ながらコーヒーをすする。
さっきのドーナツよりは落ち着いてもなおまだ味覚はおかしいようだった。
「我が祖国ロシアは帝政オラーシャ、G36と45の故郷ドイツは帝政カールスラント、ポーランドもベラルーシもウクライナもハンガリーもバルチックステーツも存在しない、代わりにオストマルク、オーストリア帝国じゃないか。」
「フランスはガリア、イギリスはブリタニア…」
「M4達の故郷のアメリカはリベリオン、日本は扶桑かぁ」
「イタリアは二か国に分裂、イベリア半島はヒスパニアだけ。
南米だとアルゼンチンがカールスラント領だ」
世界情勢は全く異なっていた。
まさに異世界としか言いようがなかった。
「こうなると例の空飛ぶ人間が気になる。
潜入は予定通り、ただし、ヤバいと思えば即逃亡だ。
緊急時には戦闘も許可する。
最悪の場合は制圧するぞ」
「分かりました、ご主人様。」
「ARと404にも同じことを伝えておいてくれ。
追加で陽動で第二部隊と第三部隊に正面で騒ぎを起こさせる。
その隙にゾディアックボートで海側から侵入、書類等を確保、離脱しろ。
何度も言うけど安全が最優先だ。
だから作戦に備えて休んで、後は全部俺がするから」
「しかし、まだ色々とやらなければならない事が…」
作戦に備えて休むよう勧めるとG36は渋る。
指揮官は静かにG36の手を取る。
「G36、何時も言っているけど君は働きすぎ。
ちゃんと休んでよ、僕もいるしG36Cもいる。
スプリングフィールドもワルサーも、ナガンもSVDとSV-98もいるんだからさ」
そう言って肩を叩く。
G36はゆっくり頷き立ち上がった。
「全く、見せつけられて困るぞ」
「へリアンさんも早くいい人見つかるといいですね」
「余計なお世話だ」
日没後、例の空軍基地の中の一室に赤毛の少女がいた。
だが彼女の姿は不相応とも思えるものだった。
「はぁ」
「ミーナ、悩みか?」
「ええ美緒。相変わらず上は戦果を挙げろの一点張りよ。
このままじゃ予算も削られそうよ」
「全くだ」
ミーナと呼ばれた赤毛の少女と美緒と呼ばれた眼帯をつけた黒毛の少女が話していた。
「それに、なんだかものすごく嫌な予感がするの」
「嫌な予感?」
「気のせいで済めばいいのだけれど…」