ドールズウィッチーズライン   作:ロンメルマムート

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交渉

「では早速だが実際に話し合いの場を設けていただき感謝する。

 改めて私はG&K社P‐38地区基地指揮官のアーチポフだ。」

 

「G&K社上級執行官へリアントスだ」

 

「G&K社社長のベレゾヴィッチ・クルーガーだ。」

 

「P‐38地区後方幕僚のトム・ラングドンだ。

 今日は話し合いの場を設けていただき感謝する。

 どちらも納得する結論を出したい。」

 

 数分後、クルーガーら4人と基地の幹部3人はある一室に集まっていた。

 部屋の外ではウィッチ達と護衛の戦術人形が一触即発ともいえる空気になっていた。

 そんなことを気にせず話し合いを進める。

 

「私が隊長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、こちらが戦闘隊長の坂本美緒少佐、ゲルトルート・バルクホルン大尉よ」

 

「よろしく」

 

 ミーナが他の2人を紹介するが不信感と警戒心を丸出しの表情で見つめる。

 

「では、お三方、話し合いを始めてもよろしいですかな?」

 

 この会談ではこの手の話し合いに慣れたトムが話を仕切る予定でありその通り動いていた。

 トムの問いに3人は無言を貫く。

 

「沈黙は肯定と判断しますよ。

 まず、我々が何者か?というところから始まるでしょうね」

 

「ええ、何者ですか?連合軍ですか?」

 

「簡単に説明すれば120年後の会社員です。

 まあ世界を巻き込み大戦争が3回も起きて人類が滅びかけてる状況ですが。

 あんまり聞きたくないでしょうからこれ以上の説明は避けますが。」

 

 ミーナの問いにトムが簡潔に答える。

 その答えにやっと3人は納得がいったようだった。

 

「120年後のか、ならば彼女達の説明が全て筋が通るな」

 

 坂本が呟く。

 

「そうでしょうね、うちの連中が迷惑をかけたようで。

 まあこの事は今回の話し合いでは大したことではないのでこれ以上はしませんが。」

 

「一つ聞きたい、お前らの目的はなんだ?」

 

 バルクホルンが聞いた。

 

「私達の目的は簡潔明瞭です。」

 

「安全の確保、ただそれだけだ」

 

 クルーガーが一言答えた。

 だが坂本が返す。

 

「安全の確保?あんな訓練された部下がいれば十分保証されているだろう」

 

「確かに、そうとも言えるかもしれないが我々は民間企業です。

 政府の後ろ盾がなければならないのですよ。

 もしも、我々がどこかの政府にテロ組織と認定されればその時点で終わりです。

 だからブリタニア政府との交渉を仲介していただきたい。」

 

「は?」

 

 指揮官が丁寧に事情を説明し要請を伝えた。

 だがその要請に全員が唖然とする。

 

「そのままですよ、政府と交渉したいのですよ。

 その前提としてまず捕虜を交換したい、いいですね?」

 

「ま、待ってください、話が見えません。

 仲介をして欲しいのですか?」

 

「ええ。刑事的責任については後々詰めるとしましてまずは今すぐ交渉したいのです。」

 

 慌てるミーナにトムが事情を説明する。

 彼らは必死だった、何とかして早く接触を持たないと死活問題だからだ。

 

「わ、分かりました。」

 

「では最初に、まず捕虜の即日交換、ただし次に述べる条件を書面で確約していただいてから。」

 

「条件?」

 

「厚かましいにも程があるぞ」

 

 トムの言葉にバルクホルンが不快感を露わにして言う。

 彼女からすれば突然襲撃され、仲間を誘拐され、その上返してほしければ取引しろなど厚かましいにも程がある。

 無論そんなことは彼らも承知であった。

 

「ええ、重々承知していますとも。

 だから交渉と言ったんです、口約束でも取引(ディール)でもなく交渉(ネゴシエーション)と」

 

「交渉に関しては基地がこの基地から数キロほど東にあるが森の中で一切のインフラが無い。

 よって交渉の拠点としてこの基地を間借りしたい。

 なので交渉担当の事務と職員数名の駐在させたい、勿論基地業務には一切関与しないことを確約する。

 そしてそちらからも連絡将校を最低一名派遣していただきたい。」

 

 へリアンが条件を提示する。

 条件は設備の間借り、そして連絡将校の派遣だった。

 何せ今基地がある場所は森の中、最寄りの道路まで一キロはある、電力もなければガスもない。

 なので基地では非常電源の発電機でシステムを維持していた。

 つまるところ交渉しようにも行けないのである。

 

「間借りと仲介と連絡将校派遣ですか。」

 

「ええ。交渉担当は私とへリアンに一任されているので私達二人と事務・接客担当を数名ですね。

 人数は5人程度でしょう」

 

「こちらの連絡将校は一名だけですか?」

 

「何人でも構いませんよ?ただ基地業務に差し支えの無い範囲であれば。

 後例の二名以外にできればしていただきたい。」

 

「分かりました、しかし拒否します」

 

「ミーナ!」

 

「ほう」

 

 ミーナはきっぱりと拒否した。

 その反応にG&Kの面子は驚く。

 

「私はあなた方を信用できません。

 突然襲撃し、誘拐し、その上交渉を行うなど無礼にも程があります。

 一歩間違えばテロリストです」

 

「ミーナ中佐、我々も必死なのですよ。

 さっきも言った通り後ろ盾がない所属不明の武装組織、それがこの世界での今の我々の立ち位置です。

 しかし、だから言えることがあります。

 我々は非常に多くの情報を持っています、その中の一つがロンドン市の上下水道システムです。」

 

 トムがミーナと交渉しようとある話を持ち出した。

 

「それが?」

 

「この時代の最新のセキュリティ、というのは我々からすれば子供用のおもちゃの金庫のようなものです。

 なので我々の部隊は簡単に侵入できるでしょう。

 我々は以前の世界では治安維持だけでなく場合によっては暗殺や潜入工作といった行為も行っていました。

 そして現在、我が部隊のある部隊がロンドンを目指して準備中です」

 

 トムの言葉はある恐ろしい可能性を示唆した。

 そしてその可能性を何のためらいもなく言い放った。

 

「つまり、その、政府要人の暗殺を…」

 

「さあ?それはどうでしょう?

 ダウディング街10番地やウェストミンスター宮殿の潜入も恐らく可能でしょうから。

 それに我々の技術では水にたった一グラム混ぜるだけで1万人を殺せる毒物なんていうのもありますからね」

 

 トムは更に恐ろしい可能性、上水道への毒物混入というとんでもない事態を想起させるようなことを言い放った。

 もしも上水道に混ぜられれば大変なことになる、一グラムで一万人なのだからもしも1キロや10キロも混ぜられればロンドン市全域の生命が危ういどころではない、世紀の大量殺人が起きるのだ。

 

「その部隊を指揮しているのがこの指揮官だ、彼の一存で全てが決まるがね」

 

 もはや選択肢はなかった。

 

「わ、分かりました…この条件で…」

 

「中佐が物分かりの良い方でよかった。

 こちらが書面です」

 

 ミーナが屈すると待っていたかのようにトムがバッグから書類と万年筆を取り出す。

 ミーナはゆっくりと一番下の署名欄にサインし崩れ落ちた。

 

「ありがとうございます、第一回交渉は大成功の様で」

 

「ええ…」

 

「これが交渉だと?これは脅迫、恫喝だ!」

 

 すると坂本が声を上げた。

 それにバルクホルンも同調する。

 

「ああ!お前ら!人の命をなんだと…!」

 

「君達、何か誤解していないかね?」

 

 すると指揮官が言い放った。

 

「誰が“ロンドンの上水道に毒物を流す”や“政府要人を暗殺する”を言ったのかね?

 ただ“上水道設備の情報を持ち浄水場にも潜入できる”、“ウェストミンスターやダウディング街にも潜入可能”、“強力な毒物が開発されている”と言う情報を提供しただけじゃないか。」

 

 いい笑顔をして指揮官が言う。

 そう、全てブラフであった。

 それらしい情報を与えて勝手に推測させて恐ろしい可能性を勝手に思い起こさせただけだった。

 彼女らが想像したような事実は一切なかった。

 

「まあ、ロンドンにある部隊を向かわせる準備はあるけど最も平和的な任務さ。

 それと、あんまり固い人間に思われるのは嫌かな」

 

 彼の言葉にウィッチ達は拍子抜けし座り込んだ。

 数分前までロンドン市の900万以上の人々の命が係っていると思っていたのがただのブラフだったのだ。

 急にどっと疲れが押し寄せてきた。

 それは交渉が終わり緊張が解けた指揮官たちも同じだった。

 

「ふぅ、終わった…」

 

「終わりましたね、クルーガーさん」

 

「だがまだ始まりに過ぎない、その事は忘れるなよ」

 

「そのぐらいは分かってますよ。

 すまないがミスヴィルケ、コーヒーを貰えるかな?できれば砂糖を入れて」

 

 トムがミーナにコーヒーを頼む。

 指揮官はネクタイを緩め椅子に深く腰掛ける。

 

「ええ、トゥルーデお願い」

 

 バルクホルンが立ち上がりコーヒーを取りに行こうとするとトムがバルクホルンに耳打ちする。

 

「できれば砂糖を入れてくれ」

 

「砂糖?ああ…」

 

 バルクホルンが出て行く。

 その間に指揮官が話しかけた。

 

「ヴィルケ中佐、色々と迷惑をかけた。

 これからお互い仲良くやろう」

 

「ええ、そうね」

 

「ということで、ここの基地の皆様と会食会なんてのはいかがですか?」

 

 指揮官が提案した。

 ミーナは少し考える。

 

「それは魅力的な提案ですが…」

 

「別にすぐ返答していただなくても構いません。

 こちらも準備や今後しばらく忙しいでしょうし。

 ただ相互の理解の為にもそのうちしないといけないでしょうからね」

 

 指揮官とミーナが話しているとドアが開きバルクホルンと一緒にM570が入ってきた。

 

「お、コーヒーか…ゲ」

 

「おじさん?お医者さんから言われてませんでした?

 糖分厳禁だと」

 

 M570が養豚場の豚を見るような目でトムを見下ろす。

 M570の目を盗んで砂糖入りコーヒーを飲もうとしたトムの企みは潰えた。

 

「ミスターアーチポフ、一つ聞きたいがこれが日常なのか?」

 

 トムに説教するM570を指差して困惑気味にバルクホルンが聞くと彼はさも当然のように答えた。

 

「ええ。戦争しかない世界のほんの少し平和な日常ですよ」

 

 彼はそう言ってコップの水を飲んだ。




シリアスはこの回で終わり!
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