緋色の流星   作:名無しのブラッドユーザー

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今話はカースドプリズンの鎧とロックピッカーのおじ様呼びに妄想を拗らせました。多量の妄想設定が入っています。語彙力なくて気分を害してしまった方はすみません。GH:C編すこすこのすこ。どぞ。


オマケ

ジンジャーブレッドマン

 

クリスマスには飾ったりする?外国の風習なんだけどね。

 

そのお菓子に纏わる昔話を聞いたことはある?

 

ジンジャーブレッドマンは足の速いクッキーで、クッキーを焼いたおばあさんの家から逃げて行くんだ。見かける動物達も食べようと追いかけるのだけれど、ブレットマンを捕まえることが出来ない。食べれれないことでブレットマンは自分の足の速さを自慢したんだ。

 

でも行く手を川で塞がれて八方塞がりなとき、横からキツネが現れて助けてくれる。その甘い言葉に唆されてキツネの背中に乗ったが最後、向こう岸で食べられてしまう。

 

これは好奇心から真実を知ってしまった。

そんな話。

 

 

△▼△▼△▼

 

自己紹介、まだだったよね。

私の名前は「」。

 

天を貫くケイオースタワーがシンボルのケイオースシティに住んでいる。

 

2段アイスがトレードの、トラックで売られているマロンアイスを片手に通学する少女。

 

幼少から英才教育された私の舌は他の味のアイスなんてNG。栗きんとんしか受け付けられない。色彩豊かなアイスを食べる人はロ端の雑草ぐらい魅力を感じない。

 

魅力を感じないのはこの学校もそう。The校舎と言える普遍性。変化の乏しい授業風景を送る先生。この書き取りもその日のノルマを達成する為に取っているような単純な作業になってきた。昔は……どうだったっけ……

 

自然と筆圧が弱まり、ペン先を間近で見つめる。確か小さい頃に勉強していたときはお母さんがいつも教えてくれて、外出したときに溢れる疑問を一緒に考えて、それで……

 

『ミス「」!」

「はい!お母さぁ……」

 

勢いよく立ち上がってしまった。

 

抑えきれない笑い声が周りのあちこちから聞こえる。自分の口元は縮れた風船のように引きつっているだろう。顔の中央が暖房のように暑い。

 

『はぁ、ここは赤子のゆりかごではありませんよ?座って下さい。』

 

ゆっくり自然といつもようにおずおずと座る。早く終われ。早く終われ。早く終われ。

 

─キンコーン─

 

『ミス「」は残って下さい』

 

……終わった。

 

△▼△▼△▼

 

笑うといい。

 

自分が変わらずに他人の変化を望み、そして自分が周りから変なヤツだと思われる機会を作ってしまったこの欲しがりを笑え。

笑ってくれ。

 

秋風が吹き木の葉が舞い散る夕方。

ボール遊びに夢中になっているスポーツマンらを遠くに眺め、スモールバイクを押す背中は知らず知らずのうちに曲がってしまう。

 

『やぁBaby?マンマとの思い出作りは楽しんかったか?』

 

前言撤回。

この下品な笑いを携えるプレイボーイを正当防衛と謳って殴打してもいいと自分を許してしまいそうだ。というか何故隣に来てまで伝えに来たこのマフラー男。

 

『今日は早く帰って寝るんだな。寒い夜はマンマにホットミルクでも作って貰うといい。って危ねぇ!』

 

──ゴッ──

 

という擬音を使うのが相応しいだろう。顔にぶつかる衝撃に立ちくらみ、地面からボールと水滴が跳ね返る。

 

地面に伸びる影は自分に差し伸べる手を写す。駆け寄ってくる地面を蹴る音が増えてくる。

 

謝罪、罵声、野次馬、どれも自分とは離れた出来事のように実感がわかない。騒ぎの中心はボールを蹴ったであろう人物と先程隣にいた嫌味野郎。

 

あぁ、うるさい。

 

勿体つけてエンジンを立て走り出す。

この夕暮れに沈む空の色が嫌いで羨ましい。

世界が幻だったらいいのに。

 

△▼△▼△▼

 

同じ空色の下で「ごわすっ!」

 

体から煙を噴き上げ真紅に染まる身体を腰を据え瞬時に放出し、ぽっちゃりとした体型から予想もつかない見事なワイヤーアクションを繰り広げる空飛ぶ力士。

 

「るせぇ!リキシオン、テメェはちゃんこ鍋で満足しやがれっ!あの羽虫を落とさせろ!」

 

空中を摺り足する山に挑むように相対するのは、歪な機械の部品を鎧のように纏い着こなす堅牢な鎧の怪物、カースドプリズン。

 

今まさに、氷上で全てカメラ目線の3回ひねり半トゥループを決め力士の頭突きが決まる。

 

「早くドロンするのでごわザルのニンニン!」

「まだ妖精郷への扉が開くのに時間が必要!」

 

力士の叫びに応える可愛らしい、けれども凛と澄んだ声を張り上げる子供サイズの羽妖精、ティンクルピクシー。

 

虚空に両手を掲げ、蜃気楼のように揺らめく空間は異なる世界の扉を造る途中のようだ。

 

「っは!この五指が掴み取る物、ソレは必然!捕れねぇモノはありゃしねぇ!『凶星引力(フォドゥングラビティ)』!」

 

掌に凝縮されたエネルギーを中心に大地に含まれる鉱物が磁力に反応して絨毯のように引き伸ばされる。

 

妖精を抱えながら力士が、右へ左へ飛来する等身大以上の落石にワイヤーで立体機動する。

 

「まだ時間がかかるでごわザルか!?」

「無理!この重力圏内じゃ妖精郷とはまた違う異世界異次元にすら飛んでしまうわ!私たちの大きさでは無理よ!」

 

「……つまりキューブの大きさならば次元跳躍ができるでごわすね?」

「でも此処と妖精郷の間は虚無の世界よ!?」

 

「その何者にもなれる無限を秘めた可能性を凶星に使われることは避けなければならないでごわす!永久に利用されることが無くなるだけで十分でごわすよ!」

 

「分かったわ!でも跳ばすにはこのキューブを粉で和えないと!」

「理解!痛快!拙者の躍動暫し待たれよ!」

力士のワイヤーで妖精が重力に引っ張られながらも遠くへ飛ぶ。その反動で力士は重力の元へ一直線に突き進む。

 

「その引力、利用するでごわすよ!」

「残念だったな!その程度でこの鎧に罅が入ることはない!退きな!」

「ごわっ!」

 

重力が解かれる。右手に凝縮した重量のある塊を上空へ投げる。身体のホイールが煙を上げ唸り声を響かせ、飛んでくる巨体を背負い投げの要領で地面に刺す。

 

「フットボールは嗜むか?ボールの球を交換しようぜ!」

 

そして重力に従って戻って来た球を熱いエンジンそのままにオーバーベッドキックを決める。

レーザーボールは妖精の額にぶつかったが、仰け反った頭を戻したティンクルな瞳は猛禽類のように獰猛に輝いている。

 

「……ざんねん!でした!」

 

妖精は劣勢であるが勝ち誇るようなドヤ顔暗黒腹黒ティンキーを決める。

力士は地面から生え直立不動、鎧は踵を返しエンジンを吹かして鋼鉄の比翼を空へ広げる。

その勢いに迷いはなかった。

 

「リキシオン!これからどうするの!」

「開いたゲートのチャンネルは保持しているでごわすか?ならば以前のように精神体でサーフィンするでごわす。」

 

力士の背中のバックからボトル瓶がひとりでに開き、中から虹色の蛍光色に包まれた粘度の高い液体が流れ落ちる。

 

7色の層に別れたカフェイン濃度が織り成すプリズムのような輝きが地面へと吸い込まれのどごしの音だけが響き渡る。

 

飲用方法が特殊であるその飲み方はうがい薬に通ずるモノがあるが、いや、それ以上はいけない。

 

たとえ目の前の全身スーツのぽっちゃり系アスリートが、喜怒哀楽の感情をマスク越しから判断出来そうな表情を地面から生えたまま浮かべていても、その方法を経ることで私は1度彼に助けられたのだから。

 

たとえ目の前の相撲取りに対して、え、コレに昔助けられたの?と思ってはいけない。

思ってはいけないのだ。

 

△▼△▼△▼

スモールバイクを横付けする。

海風が体の隙間を塗って行くのは心地が良い。

車がお構い無しに通り過ぎていく。

 

夕陽は都市を1色に染め上げ、つまらない現実をまるでおとぎ話の世界に変えるような黄昏時に彩る。

 

この橋から見える写真の中に自分は住んでいるのだと考えると、自分もフィクション作品の登場人物の1人に思えてくる。

 

ため息をついた。

 

見上げて架け橋の鉄格子が空にそびえるのを眺めて、眺め……ん?流れ星?違う!ひゃ!

 

ソレは真っ直ぐに落ちてきた。手のひらサイズで、夕陽を貝殻のように虹色に反射する結晶体。その立方体が鋼鉄製の地面をラグビーボールのように跳ねる。

 

その結晶体が煌めく軌跡を残して自分に吸い込まれる。吸い込まれてしまった。異物が、よく分からないものが、身体の中へ服を透過して入ったのだ。

 

……幻覚を見るなんて。ボールで頭も揺らしたことだし早く体を休めた方が良いのだろう。

 

帰路に向かう。

 

△▼△▼△▼

 

スモールバイクを止め、ぐったりとした足取りで扉に触れて鍵をあけ玄関に入る。忘れずに鍵はしっかり手で閉める。

 

ただいま。

 

と言っても返事はない。

飾られた写真立てに女性と顔が認識出来ない男性、そして今より幼い私が写ってる。

 

母は私が小さい頃に亡くなった。

車の爆発事故に遭った。今でもその日帰って来ない冷たい部屋で電気もつけずただ暗くなるのを過ごしていたことを思い出す。

 

父は蒸発したようだ。ようだ、と言うのは私もよく思い出せないからだ。

 

記憶の奥底に封印されたように閉ざされて思い出そうとすれば霧がかかったように大切なことが薄れていく。

 

両親はいない。収入もない。疑問は浮かぶ。どうしてこの家にどうして住めるのか。学校に行けるのか。ご飯が食べれて、お風呂も入れる。服もある。

 

不思議なことに支払われているのだ。そして、用意されている。まるであしながおじさんみたいに知らない人が見守ってくれている。

 

私は甘んじてこの不思議を受け入れている。そして誰かが確かに存在したんだと思える非現実に守られてる。

 

なんとなくフィクションを現実に求めるのはこの歪を解き明かしたいからなのだろうと自分を分析してみるのだけど。

 

ぐったりと体をベッドに沈め、全身の筋肉が動きたくない信号を発信する。

 

「……もしも願いが叶うなら、私に家族がいるのなら、父さんがいるのなら、彼に遭う一錠の鍵が欲しい、なんてね。」

 

そっと天井に伸ばした腕を額につけ、深まる眠りに誘われる。その右手に淡い輝きを放ちながら。

 

△▼△▼△▼

 

起きる。

伸びる。

欠伸をする。

鏡を見て酷い髪型。

身支度を整える。

服は〜。

斧がトレードマークのコップで温かい白湯を飲み、ソファに沈み込む。

今日は何もない休日。

どこかに遊びに行こうか……な?

 

自宅の鍵が、帰った時はいつも入れている籠に入っていない。疲れ過ぎていたのか昨日のことがあまり思い出せない。どうして、どうしてと部屋中の物をひっくり返して気づく。

 

出かける時は財布に……あった!

自宅の鍵を片手に昨日の記憶を遡る。

確かこうやって手、を!?

 

ひとりでに鍵が開く。

もう一度手で閉める。

開く。

手で閉める。

開く。

手で閉める……

 

朝起きたら鍵を使わずに鍵を開けられるようになっていたけれどどうしよう?

って題名が始まりそうじゃない?

どこまでできるの?

 

引き出しの鍵

扉の鍵

玄関の鍵

自宅の金庫の鍵

手品で使えそう!

 

好奇心のままにガレージキットへ跳ねるように移動する。スモールバイクのハンドルをそっと握り、エンジンのロックを外すように念じる。

 

カチッ

 

と小気味の良い音を立てハンドルを少し捻ればタイヤが回り、程なくして鍵は閉じる。

 

時間制限があるのだろうか。ずっと開いた状態をイメージ。

 

エンジンのロックを解除、この状態のイメージを固定したままにして、スモールバイクを動かす。そして曲がり角を注意して、

 

カチッ

 

ファーストキスはコンクリートと鉄の味。

 

物事を同時に考えるって難しい。ならば考えず感じればいい。つまり、当たり前だと思えればそれでいい。

 

特訓事項

①鍵を開くイメージ

②種類別の鍵の理解

③鍵の解錠持続時間

 

①は授業中に行えるようにシャーペンにロック機能をつける。開かないと書けない、そんなシャーペン。

 

②はネットサーフィンで調べる。金庫の仕組みを調べるってなんだかいけないことをしているみたいだ。

 

③は①の時に測るって感じで。

 

△▼△▼△▼

 

……時は来たレり!

 

あの後休みを挟んだ学校だったから心配されたり嫌味野郎もまとわりついて来たりしたけどそんなことはどうだっていい。

 

今は自分だけのことで精一杯。できることが更新されていきお腹いっぱい。頭をリラックスする為にエナドリで至福の1杯。

 

ヘルメットを被りゴーグルをつける。これだけでなんだかヒーローになったような気がしない?

 

スモールバイクに乗り込む。安定して鍵は取り付けていない。安全性ばっちこーい。

 

今日はケイオースシティの大通りをドライブする。これで1周できればこの能力も使いこなせたことだろう。

 

△▼△▼△▼

 

……Ti,Ti,Ti,Ti.

 

ウィンカーの音がリズムを刻む。赤信号で止まる時はエンジンが止まっているから燃費もいいかもしれない。素人考えしながら、目の前を力士が通り過ぎていく。そろそろ通行も終わり、青信号になるだろう。

 

vi,vivivivivivivi!

 

ハンドルを捻りタイヤを走らせる。私のトキメキはバイクレーサーのように風になることを欲している。並走する力士にも自然と笑顔を向けられる。

 

……Why is here Japanese God?

(どうしてここに力士がいるの?)

 

「Ready……GO!(はっけよい のこった!)」

 

「怖っ!?」

 

ハンドルを思いっきり捻り前輪を浮かす。その下をスケートリンクを膝立ちで滑るように力士が通り抜けていく。

 

ありのまま体験したことを話すよ。

バイクと並走する白目を剥いた力士がフラフラと突進してきた。私も何を言っているのか分からないけど、今砂煙で覆われた空間から見られている気がする。今までに味わったことのない恐ろしさをヒシヒシと感じている。

 

「……Ready,」

 

呟きが怖い!?なんで!?なんでこんな変なトンデモが起こってるのに誰も騒ぎを起こさないの!?普段通りにアイスクリーム食べてのんびりしてんの!?マロン味でしょうよ!?

 

「Go!!」

 

バイクを横付けして人通りの多い道へ転がり込む。突然の来客は息絶えだえで、私を見る人は珍客のような眼差しで見つめてくる。

 

後ろでは衝撃音と爆発音。次の準備完了まで対策をしなければならない。建物と建物の間のその先、マンホールの蓋。

 

この力はマンホールにも使えるの?蓋を開く。鍵を開ける。どっちもOPENだけど仕組みは違う。今もあの巨体が扉を壊し……て……

 

扉を吹き飛ばす。扉をこじ開ける。破壊する。破壊力のあるものは。

 

思考と共に走らせる足を早める、だが後ろから「準備」の声に驚いて足がもつれて倒れ込む。

 

不幸中の幸いか、縮んだ等身上を力士が抱きしめる。身体はその勢いのまま前転、飛び上げた体ごと想像した斧で焼き切る。

 

暗がりを駆け抜ける。木霊する足音は自分か敵か。マンホールを壊したのが警察沙汰になったらなんて考えられない。今はあの変態ジャパンから逃げないと。

 

手に灯り揺らめく輝きは小さくなる。

 

カチッ

 

金属の擦れる音が響く。これは自分のものでは無い。この道の曲がり角から。

 

ゆっくりと顔を覗くと、そこには蜥蜴がいた。ただの蜥蜴ではない。体長が自分と同じぐらいの大きさの機械生命体が動いている。

 

なぜこんなものが。どうしてこんな時に。いつからこういうモノが蔓延っていたのか。疑問は尽きないが運良く向こう側へ歩みを進めている。反対側の通路には地上に繋がる梯子。そこから登れば。

 

ア〜ヨイヨイ♪ヨヨイノヨイ♪ア〜ヨイヨイ♪ヨヨイノヨイ♪

 

私が来た道から追って来たのだろうか、音痴な音程でリズムが通路にエコーがかかる。

蜥蜴が反応を示した。

自分の喉の通りが悪く感じる。

内心で悪態をつく。

 

前門の蜥蜴、後門の関取。選ぶは逃げの真上。

コモドドラゴンのように追跡されるが構わない。そんなことより梯子を上りマンホールを押し上げようとするが想像していたよりも重い。

 

下から蜥蜴が飛び上がり襲いかかる。鋭利な爪が壁をガリガリと削り、梯子を落としていく。

焦りながらマンホールを壊すイメージと同時に蜥蜴が想像した斧に触れ、

 

爆発音が遠くから聞こえた。身体のすぐ側で凹んだ蓋がぐらついている。いつの間にか外に出ていた。体は重い。

 

悲鳴と射撃音と爆音と火薬の匂いだけが五感を支配している。自分のスモールバイクは無事のようであることを確認し、後は家に帰ったことしか覚えていない。

 

△▼△▼△▼

 

『……昨日起きた事件は今尚激化しており声明を発表した機械群(メカニタン)と名乗る組織は……』

 

夢じゃなかった。

怪我の名残らしき服の破れと焦げ。

そして極めつけは

 

──ピンポーン──

この扉の向こうにいるコスプレ野郎だろう。

──コンコン──

窓ガラスを叩く音

「開〜け〜て」と

中にいるのは分かってるとダメ押ししてくる。

 

仕方なく窓から対応する。

「何か用?」

「初めまして拙者第一印象大切に思ってるんでごわすよ!名刺でごんす〜。あ、忍者なのでどこでも潜めるでごじゃるよ。やぁ。リキシオンでごわす。

 

某は仲間と共に無限の可能性をもち、どんな願いも叶えると言われるケイオスキューブを求めて来たのであったが、肝心のキューブは完全に姫君に同調しておるため、お役目御免ドロンなのでござんすよ。」

 

「待って、貴方の風貌からしてヒーローのようにも見えるのだけれど……」

 

「今回主役ではござらんのでサラダバーなのですよ。そろそろ効力が無くなってきたので未来の役者へ乾杯!力の使い方はもうわかっているハズではでは……」

 

力士が消えた。待って、待って、待って。

どう考えても今居なくなる場面じゃないよね。

自分の力に助言くれるところだよね。

 

『……我々の理念はこの時間軸からの脱却。見ているか世界を操る支配者よ。我らの超越機構で貴様の箱庭を破壊されたくなければ、即刻、次元廻廊を解除し、銀河の空間を元に戻すのだな。限界は本日中だ。我々が本気であると手始めに、ケイオースシティを破壊する。……』

 

今までの肉声から無機質な機械音がスピーカーから響く。今なんて言っ……どうして普段通りのニュースを続けて放送するの!?皆がみんなオリハルコンの精神なの!?昨日の蜥蜴の仲間だよね!?

 

……知識があるのとないのとでは想像力に違いが表れる。そもそも今のが悪戯に放送されたモノって認識なのかもしれない。

 

放送事故がありましたのテロップを挟まないのはどうかと思うけ、ど!?

 

両耳にモスキート音の真逆のような重低音が響く。そして爆発音と風圧が窓を叩く。

 

空に浮かび始める宇宙艦隊。一つ一つが雄大で現代よりオーバースペックな兵器。そのスペースシップから隕石のように降り立つ鉱物が、変形させ蜥蜴や甲虫、鳥などさまざまな機械生命体が地上に陣を張り始める。

 

その落ちてくる鉱物が庭に落ちてきた。

スラリと骨格が伸び左右に鋼鉄の羽を広げる。

地獄の釜を開くように赤く光る目のついた頭を上げる。

 

すぐに自分の体を隠すように家具の後ろへ背中をつける。

 

窓の割れる音。入ってきたようだ。金属が床を擦る音がする。近くにあるのは朝ご飯用に使ったフライパン。首のフレームを動かすウィウィウィという音はすぐそこまで来ている。

 

フライパンを手に取る。抜き取る音に鳥が反応する。振り下ろした底に鳥の嘴が突き刺さる。フライパンごと私を突き刺そうというのかその勢いは力で押し負ける。

 

両手を離して鳥は後ろに通り抜けていくのを確認せずスモールバイクに乗り込み走り出す。

 

追いかけてくる鳥は数を増す。

正面から来る鳥を避けようとして横転する。

道路の真ん中で、周りは敵だらけ。

 

気がつけば正面の鳥が回す嘴に貫かれ

 

「おいおい、キューブの波長がこの銀河にまだあるってんだから追いかけてみれば、発信源はガキンチョ、オマケに有形無形の雑魚共にバカンスにもってこいの遊覧船。クリア後のボーナスゲームにはまだ早ぇんじゃねぇか?」

 

私が倒れている目の前に、どこかともなく落ちてきた。HEROとは言い難い重量感のある鎧の骨格と機械のエンジンを掻き混ぜたようなガレージフレームは悪役を彷彿とさせる。

 

先程まで恐怖を感じていた鳥が簡単に捕まっている。周りを取り囲む機械群も警戒を強める。

 

「おう、ガキンチョ。」

「が、ガキンチョじゃない!」

「うし、ちみっ子、ルービックキューブみてぇな四角い箱持ってんだろ?まだ願ってねぇよな?」

 

「なに、それ。結晶みたいなモノなら最近。」

「結晶?それは砕けてんのか?おいおい、未使用の前に傷物になっちまったんならこの鎧を解呪出来そうにもねぇな。」

 

目の前の怪物は興味を無くしたように、それこそクリスマスのプレゼントがなかったかのように明らかに気落ちして、

 

「帰るか」

 

その言葉が真冬に放置された鉄棒のように冷酷に聞こえた。

 

「待って!」

 

思わず叫ぶ。叫んでその手を両手で掴む。ただ助けてほしくて必死で掴む。振りほどかれる前に願う。解呪がどうなのかなんて分からない。けど最後まで家族の顔を思い出せないのは嫌だ!

 

自分の両手が光る。同時に色んな情報が頭に流れ込む。「」「」「」「」「」色んな場所で自分の名前が呼ばれる。その声が酷く懐かしくてそして居心地がいい。混乱する頭痛に意識が薄れる。

 

触れた両手がすり抜け、その手に再び鎧が収まる。鎧は不自然にそっと少女を抱え、戦地を出る。

 

△▼△▼△▼

 

最初に感じるのは冷たいフローリングのような固さと聞いた事のある誰かの呟き。

 

「……お父……さん?」

「いつ誰がガキンチョの親になったよ。俺様はカースドプリズン、だ。よく眠れたか?で、家族は?」

 

確かに認識はただの鎧の塊。でも頭はこいつを

蒸発したお父さんを思い描いている。

 

どうしてか自分の経験した事のない記憶が入り込んでくる。

 

このケイオースシティに似た場所で一緒に過ごした記憶から、彼が紅の暴風になる前までの少女の記憶。

 

その全てが今までの記憶に滑り込むように既存している。この記憶の中の少女は自分と瓜二つで、それでもなんとなく自分とは違う。

 

この少女の記憶の方が、思い出が鮮明で情動を掻き立てるようで、愛しさが零れるようで。

 

「ったく、おら、これで顔拭いとけ、移動中に汚しちまったからよ。そのまま聞いとけよ?俺様はギャラクセウスというクソ野郎にこの鎧に閉じ込められ、来る日も来る日も解呪方法を探している。今までにもいくつか候補があったが、どれもこれも1回こっきり。だがガキンチョ、お前の能力は何度でも可能。違うか?ここで交渉だ。俺様はガキンチョを守る。ガキンチョは俺様を解呪する。」

 

「……それ解呪したら私用済みじゃない?取引になってないよね?それにこの世界は支配者がいて安易に外に出られないらしいよ?」

「どういう事だ?」

 

「あの機械群(メカニタン)は宇宙に出ようとして出られないから暴れてるらしいの。その支配者とやらを何とかするしかないんじゃない?」

 

「ほう?で、その検討はついてんのか?」

「わかんないよ。この能力も最近分かったし。変な力士には追いかけられるし。」

 

「リキシオンか。ギャラクセウスよりタチが悪い。よく逃げられたな。お前の能力は解呪の類か?」

「……たぶん鍵を開ける。」

 

「運が逃げそうな顔すんな。そのうち分かんだろ。果報は寝て待てってな!」

「待って!?髪型が!?って、その自信はどこから来んのよ!」

 

「俺様の行動は俺様が決める。俺様が判断したことに躊躇ってる時間なんて必要ないね。キューブは結晶に別れてんだろ?全部集めればその見えない支配者の壁とやらも処理落ちして抜けれるだろ。きな臭ぇ創造された世界に不和があんなら、キューブの欠片を受け取った奴らだ。回収してスタコラサッサ。そんでもってギャラクセウスをぶちのめす。以上。質問は?」

 

「ないけど……」

「契約成立だな?」

 

「待って!?どこ行くの!?」

「決まっている。お色直ししてくんのさ?」

 

△▼△▼△▼

 

「ねぇ?」

 

「レストルームはこの先ないぞ?」

 

「違うわよ!なんで私も一緒なの!?」

 

「まだ能力に慣れてないんだろ?実戦積むのが1番だ。」

 

「実践だよね!?ひゃぁ!!」

 

フェンダーが金色に光り輝く黒塗りのバイクがエンジン音を響かせハンドルが急に曲がる。

 

「ところでガキンチョ、サイドカーってなんの為にあるか知ってるか?」

 

「何!?知らないよ!!」

 

「先に飛んで行け!」

 

バイクのサイドカー部分が分解される。カースドプリズンは先行してタイヤを急勾配に傾け円を巻く。

 

私の乗ったカプセルのようなサイドカーを変形させた大きな掌で掴み、ハンマー投げのように遠心力の乗った投擲。

 

見事宇宙艦隊に侵入した。

 

△▼△▼△

 

「……私、生きてる。」

 

そう零さずにはいられない。

豪快だ。豪快過ぎる。行動が奇想天外すぎる。

もう死んだなって思った。

何回も。

 

当たりを見渡せばコンピュータ、コンピュータ、コンピュータ。詳しくは分からないけどカタカナ語で溢れる世界が想像できる。

 

「侵入者、よね?」

 

無機質な機械音に呼び止められる。

 

冷たい空気に同調するような無機質な流線型、汚れ1つない装甲は羨むような綺麗な肌に見える。右手に構えるガンランス、左手に長剣。凛と伸びた姿勢は戦場の戦乙女(ヴァルキリー)を彷彿とさせる。冷たい眼光が私の一挙動を見逃さない。

 

「私は帰還せねばならない。歪な私の魂が、記憶が、訴えかける。あの戦場こそ、私の在処だと。この異変に貴方が来た。私の招待状に応える側?それとも私と同じく天から結晶を賜った招待状を送る側?」

 

「……ぇ?」

 

「簡単なことよ。私の知っている宇宙とこの歪んだ世界線は異なりを見せている。箱庭で遊ばれる人形に命を吹き込んだ欠片はその人形の願いに答える。オリジナルになりたい、と。」

 

「待って、分からないよ。」

 

「欠片が入り込んでから私は、私の命題を実行する。創造主達に抗う。この使命を。偶然にもこの虚構の現実は造られたモノ。オリジナルにはなれなくともオリジナルに近い目的を果たすことが出来る。」

 

「どうして自分が虚構だって、言いきれるの?」

 

「私は、人間ではないからよ。」

 

ガンランスの穂先から弾が発射され、弾の後方から炎が吹き出し、回転力を上げる。

 

咄嗟に右手を上げ庇うように斧を出す。いなすように滑らせ、パーツを解錠し、後方でバラバラになる。

 

「鍵のような形をした斧。モノを分解する能力。色んな物事を解き明かす万能な鍵。それが貴方の望み?だったら私の記憶の真偽を確かめて欲しいわね。」

 

「違うわ!私の願いは!」

 

 

──ドンッ──

 

「おいおい、ガキンチョ無事か?ん?」

 

「そう、あなたは人形ではなさそうね。ということはこの世界の支配者?縁者?」

 

「何寝ぼけたことを、俺様はテメェのキューブを頂きに来た。それだけだ。」

 

「待って!?争わなくても!?」

 

2人は臨戦態勢を取る。ヴァルキリーの穂先は私に照準を合わせ、一瞬雰囲気を穏和にした後、突然砲発する。

 

気がつけば風を切り、地面に降ろされる。

「あっちで死合おうや!!」

 

2人は艦内を移動する。

 

△▼△▼△

 

2人を追いかける。

 

この世界が虚構?

私はこの世界の支配者に造られた人形?

自我が確立されたのはケイオスキューブのせい?

 

何が正しいことなのかさっぱりだ。

でも信じたいと願うのは鎧の解錠の際、流れ込んできた記憶。鮮明な思い出。鎧に蓋されていた宝箱の中身。

 

2人の姿を目に写す。

既に戦いは終幕。

着こなすパーツはそれぞれがヒビ入り、戦乙女はオーバーロードを起こしたように限界を超えている。

 

戦乙女は見逃さず、私に1拍遅れて発砲。

カースドプリズンに回収されるのを、意図して行ったように見える。

 

「ガキンチョ何しに来やがった。」

 

彼の声を無視して、鎧に願う。

私は知りたい。

私の全てを。

 

強制解除

 

カースドプリズンの胸に当てた掌から鎧が浮き上がり、ボトボトと落ちてくる。

その断片から覗く緋色は記憶の欠片のように私の頭に語りかけてくる。

 

閉じられていた記憶の鍵が開けられる。

 

再び蘇る記憶。

徹頭徹尾異なる記憶。

私と同じ姿の私。

 

私の知らない父の顔。

私の知る父の顔。

 

機械の彼女は次元が歪んでいると言っていた。カースドプリズンは私と世界線が異なるのだろう。

 

呪われた鎧は力を封じる。思いが力になることがある。この鎧は記憶も封じてしまうのか。彼と関係性をもつ者達の記憶も封じてしまうのか。

 

彼の緋色が鎧に閉ざされた時の記憶の欠落は、彼に湧き上がるモノを鎧は固く堅牢に閉ざしてしまう。

 

──あぁ、今頃お前ぐらいだろうな──

呟きが風に消える。

その手は私を置いていく。

 

「これで最後にしましょう。」

 

左手の長剣を捨て、右手の長槍のギアを回転させる。駆動しながら気圧を上げるように蒸気が噴出する。

 

相対するは跳躍し、脚に紅い粒子が収束し煌々たる輝きを宿す。

 

 

「槍よ、私の信念に応えよ!」

 

「この一撃は銀河の駆ける箒星!!」

 

限界を迎えた槍は削れていく。そして臨界点を迎える。

 

「ふふ、私の命題を受け入れるわ、でも覚えてなさい。創造物は創造主に見られていることを。」

 

緋色の閃光が収束する。

 

鎧は再収容される。

 

静寂。

 

しばらくして彼は動き出す。そして彼女が捨てた長剣に小細工を施す。

 

「取っとけ。お前用に改造した。使いこなせるようにしとけよ。」

 

放り投げられた元長剣は未来技術が使われているように見える。自衛用としてだろうか。

 

ぶっきらぼうな癖に面倒見のよいそのその無骨な鎧に手を添える。たとえ利用されていたとしてもどうだっていい。私と私がカースドプリズンとどんな関係性を持っていたとしても、私が幻で鎧の記憶封印が通じなくても、

 

「絶対、この世界から脱獄してね。おじ様。」

 

「誰がおじさんだ。おらっキューブの破片取っとけ。残党共で移動用ポッドでも作る。ガキンチョはさっさと早寝しな。明日からキューブの破片を集めんぞ。」

 

「また明日、ね!それとガキンチョじゃなくて『ロックピッカー』、よろしく。」

 

その後ろ姿から嫌がるように右手を左右に動かしている。

 

ええ、たとえ私が虚構でも、私に残った温もりは本物だ。この思いは彼の次元の私のために。

 

It is soon,I say hello to you.

 

キューブが完全になった時、私は……

 


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