「猫AR-15こそ至高」と書かれた赤リュックの不審者は私でした。
戦術人形には数多くの生体パーツが使われる。それ故に、2か月に一度は全身のパーツの点検や交換が必要となってくる。と、いっても、大半は異常なしであり、交換すると言ってもごく一部の人形の生体パーツのみに済むことが多い。
DSRはメンテナンスの為にIOPのメンテナンスを担当する事業部ビルに来ていた。
主要なメンテナンスは既に終わり、現在はDSRの名前の元である己の半身のメンテナンスとプログラムの調整をしているところである。
その間、肉体である人形は同じビル内で指定された待機ルームで待機しているか、1Fのカフェエリアでのんびりしているかのどちらかとなる。DSRはカフェエリアでのんびりコーヒーを飲みながら本を読んでいた。
ペラリ、ペラリ、と今時珍しい紙の本を読んでいく。DSRはライフル、それ故に遠くを見ることに適した視覚センサーと眼球ユニットが嵌められている。そのため、近くの物を見続けるには少々つらいところがあるために、DSRは赤縁の曇り眼鏡をかけて読んでいたのだった。
手元の本、読んでいるのは半世紀と少々前のミステリー小説。指揮官のオダスが「暇だろうから持って行って読むといい」と言って貸してくれたものであった。
今しがた読んでいるシーンでは、主人公がオークションの終盤で7年前に起きた連続首なし殺人事件と、今乗っている列車で起きた殺人事件が同一人物によるものであり、真犯人が目の前にいることを証明している場面だ。
「あら、今日は同じモデルの人形もメンテナンスだったのね。」
突然、声を掛けられたDSRは目の前にいた人形を見て少々驚いた。なにせ、目の前にいたのもDSRだったのだから。
「相席、よろしくて?」
「ええ、どうぞ。」
一言声をかけてから座ってきた他基地のDSR。その左手には銀色の指輪が嵌められていた。
「今時紙媒体の読み物を持っている人形、というのは珍しいですわね。」
「指揮官が暇だろうから持って行けと言って貸してくれたので…半世紀前に流行っていた小説、というのもなかなか興味深い物でして。」
「ふぅん…指揮官とはいい仲なのね?」
「いい仲、というよりはまだ新人扱いといったほうが近いと思いますけどね。」
しおりを挟んで本を閉じる。同モデルと話をする機会など滅多にないので、DSRは今ばかりの出会いを楽しむことにした。
「貴方は指輪をもらっている、という事は指揮官と誓約を?」
「ええ。それに…自分の人形として購入もしてるからある意味グリフィンに居なくてもいい身分になりつつあるわ。名前ももらっているくらいだし。」
「物好きなのか、真摯なのか…どちらにせよ、悪い人ではなさそうね。ちなみに、もらった名前を聞いても?」
「『ティナ』という名前をもらったわ。そうした理由は恥ずかしがって教えてくれなかったけどね。」
テーブルに置かれているタブレットから飲み物を注文するティナ。ここのカフェは一部天然物があるため、それを目当てに来る人形も多いらしい。暫くタブレットとにらめっこをしていたが「これにしよう」といって、注文を確定させたようだった。
「さて、と。あとは物を待つだけだけども…ねえ、あなたは今の指揮官に手を出したの?」
突然のティナの質問に、DSRは思いっきり咽た。
▽▽▽▽
DSRという人形はその見た目からして完全に狙いが「色仕掛け」に傾いてる、と言っても過言ではない。特にその胸部は男の目を非常に引きやすい。さらにはメンタルの方向性も同じように設定されていることもあり…DSRという人形が所属している環境によっては男女関係なく「食われる」ことが多い。無論、無理やりではなく(ほとんど誘導だが)両者の同意あっての行為ではある。
しかし、F08に所属するDSRは民間出身という事もあり、戦術人形となった後でも他のDSRよりはマイルド、というより全くと言っていいほどに「その方向」に疎い。どころか話を聞くだけで赤面するレベルで初心なのだ。
大して、今目の前にいる他基地のDSR、固有名持ちのティナは割と有名なDSRであった。今でこそ大人しくはなっているが、それまでは配属された基地の指揮官を(性的な意味で)頂いていたのだ。その手管に下った人間の数はいざ知れず、今となっては噂程度に遊んでいるのでは?というレベルの危険人物である。
もし、そんな危険人物の目の前に、反応が楽しそうな相手がいればどうなるか?
「______4つ目の基地の指揮官ちゃんはね?【自主規制】と【自主規制】をやった状態で【自主規制】をすこぉーしずつ撫でるとね…とてもいい声で鳴いてね…ふふ、あの時は嗜虐心が擽られたわねぇ。」
「は、はうぅ…」
「あそこの指揮官君はねぇ…理性と性欲の間で結構揺れててね。襲うまいと必死になって我慢しているところをすこぉーしずつ、溶かして、壁を壊していくのが楽しかったわ…。」
「あうあうぅ…」
答えは明白、反応を楽しまれるだけのおもちゃと化す。
周りにはぎりぎり聞こえない程度の声の大きさ、それでいて聞かせることのできない単語ばかりが並ぶ会話である。かといって止めさせるために声を出そうにもそれが原因で周りの目を引けば困る。
つまり、F08のDSRはティナの話を聞くしかないのだ。最初は良かった、がしかし。次第に方向性が怪しくなったと思えば、気が付くとこの有様。DSRには刺激が強かった。
「…あっははははは!!まさか、私と同じモデルなのに、ここまで初心なDSRは初めて見たわ!」
「…ううぅ…私は民間出身なので…メンタル構成が他の同モデルと少し違うんですぅ…。」
「んっふふ、そうね、その様子だとちょっとこれ以上は可哀相ね。うんうん、反応がおもしろかったから今日はこれで勘弁してあげる。」
ティナはひとしきり笑った後、DSRの飲み物の領収書データと自分の領収書データを端末に入れて席を立つ。
「これは面白いところを見せてもらったお礼。それじゃあ、縁があったらまた会いましょう♪」
「うぅ…またいずれ。」
ひらひらと手を振って立ち去っていくティナ。一人残されたDSRはそのまま上半身をテーブルに預け、先ほどまでの会話を忘れようと記憶データに手をかける。が、整理しようとすれば自ずと確認作業が必要になるわけで…
「(あああああああ駄目です駄目です!!!なまじ同モデルである以上その手の話は経験によって余計に生々しくてああああああああ!!!!)」
このあと、中々メンテナンス終了時刻になっても来ないDSRを心配した職員に呼ばれるまで一人悶々としていたのであった。
DSR(F08産)
→メンテナンスに来て終わるの待ってたら巻き込まれた。ちなみに読んでいたのはロード・エルメロイ2〇の事件簿。件のシーンはアニメ見てたからそこ書きました。あだしもさんこわい
DSR(ティナ)
→別基地のやべぇDSR。サキュバスな方のDSRと思えばいい。
指輪を渡した指揮官を襲ったのだが、他の指揮官と違って流されず、逆にDSRにアプローチを掛けてきたくらいに強い指揮官なのでDSRは惚れた(ちょろい)
ちなみに食って来た指揮官(その他もいる)はざっと15人。隠れてつまみ食いとかもしてる。人形も食われてる。
小ネタ
→メンテナンスで交換するパーツ、一部の人形、というのは主に夜戦(意味深)が多い人形の下回りのパーツ関係である。