初めまして。俺はフィオ・レオーネ。しがない管理局員の一人だ。
この記録を見ているということは……俺の旅行の話を聞きたいってことだよな?
見てくれてありがとな、礼を言うぜ。さてさて、前置きはこの辺にしておいて本題に入ろう。
あれは俺が15歳の頃、管理局の災害担当課で働いていた時のことだ――
ふと寮の自室を掃除していたら懐かしい代物が出てきた。
親父が昔買ってきたお土産の『使い捨てカメラ』だ。決められた枚数撮影するとそれ以上は使えないらしい。
しかも付きっぱなしの値札見たら割と安い。なんでこんな物を買ってきたのか聞いてみた所、
「キャバクラで使いこんでしまい土産代が足りなかった」からだとか言いやがった。
翌日母親がブチ切れてた。当然すぎるわ。何やってんのさ親父ィ?
「もっとも、そんなものを後生大事にとってる俺も俺か……」
「いつかきっと役に立つから、取っておけ」そう言われてずっとこうして大切にしている。
だが、もういらないな。そう思ってごみ箱に捨てかけて親父の言葉が頭をよぎる。
「これの使い道?旅行とかにつかうといいぞー。使い捨てカメラで撮った写真はその場では確認できない。
だから、現像しなきゃどんな写真が取れたかわからないんだ。それが面白いんだよ。ま、実際にやらんとわからんわな。
お前も大人になったら好きな女と一緒に旅行に行くかもしれないだろ?その時に持って行ってみな」
好きな女と旅行、か……そう考えた時、脳裏に浮かんだのは一人の少女の姿だった。
青紫色のショートヘアで、明るく活発能天気なアイツの姿。後ついでにオレンジツインテールの苦労人。
貯金の余裕はどれくらいあっただろうか。通帳片手に素早く計算したところ、十分に余裕がある。
部屋の片隅にあるくたびれたカレンダーを見ると、来週の週末が空いていた。
にやりと笑って慣れた手つきで端末を起動して、チャットアプリを起動。文字を打ち込む。
<おーい、ティアスバー!
突然だけど 旅 に 行 こ う ぜ !
旅費は俺が持つけどどうする?
ピコンピコーン。しばらくすると聞きなれた着信音と共に返事が届いた。
何それ面白そう!行く行くー!!>
待ちなさい二人共ォ!>
「よぉし釣れたぜ!!」
この直後、俺は近くの喫茶店に呼び出された。なんでだよ。
「当たり前でしょうが。いくらなんでも急すぎるわよ。なんで突然そんなことを言い出したの?」
向かい側に座っているオレンジツインテールの苦労人、ティアナ・ランスターは若干眉間にしわを寄せて問い詰めてきた。
彼女が俺をここに呼び出した張本人である。訓練校時代の同級生で、いわゆる委員長型。なので口うるさい。
「なんか言った?」
「いや、何も。旅行に行こうと言い出したのは、部屋を掃除してたらこいつが出てきたんだよ」
「あっ!これレンズ付きフィルムだ!珍しいなぁ……最近見かけないんだよね」
「ん?レンズ付きフィルム?使い捨てカメラって俺聞いてるんだけど」
「それは通称だよ。本当の名前はレンズ付きフィルムっていうんだよー」
なるほど、それは知らなかった。若干得意げなのはティアナの隣に座っているスバル・ナカジマ。
青紫色のショートヘアなアイツである。俺との付き合いは結構長くて気心が知れている。
色々と一緒にやってティアナを苦労させたことはあるが……別にいいだろう、うん。
「で、このレンズ付きフィルムなんだけど、親父が買ってきた代物でな。
詳細は正直言うとグダグダしてるから省くが、旅行に行くときに持っていくといいって親父が言っていてな。
こうして見つかったのも何かの縁だし、二人を誘って旅行に行こうかなーって思ったんだが、どうだ?」
「なるほどね……詳しい予定は?」
「来週の週末ミッド南部、アルトセイムで一泊二日かな?ただどうせなら一日フルで遊びたいしなぁ……なんとか二泊三日にできないか考えてる」
「あたしも賛成ー。せっかく旅行に行くんだったら遊びたいよね」
「スバルの気持ちはわかるけど、二人分かつ三日も休み取れるかしら……」
「そうか、そういえば二人は今機動六課所属だっけな。忙しいんだろ?」
機動六課。正式名称は確か古代遺物管理部機動六課。
今年設立されたばかりの新部隊だが、保有戦力には管理局のエースと言ってもいい人材が多い。
そんな部隊にティアナとスバルは所属している。俺も聞いた時は驚いた。
え、俺にお呼びはかからなかったのかって?ただの一職員に声がかかるわけないだろう。
「まぁまぁね。任務も訓練も大変だけど、やりがいはあるわ」
「そうそう。ティアもあたしも大分強くなったし、訓練校の頃とは大違いだよ~?今度勝負する?」
「面白そうね、やりましょう。シミュレーターの使用許可取っておくから今度休みの時に六課に来てみない?」
「おう、いいぞー……って待て待て待て。俺訓練校時代に戦闘訓練でお前ら二人に勝てたことないだろうが。いじめか?ん?」
「割と。訓練校時代色々と後始末任されたこと未だに許してないから。この借りはきっちり払ってもらうから覚悟しておきなさい」
「わぁ、ティア怖ーい」「アンタも一緒にいろいろやってたから同罪よ」「えっ」
「とりあえず俺は今回の旅費全部出すんで勘弁してください。で、結局どうする?休み取れそうか?」
そういうと、二人は考え込み始めた。来週の予定を思い出しているのだろう。
「……まぁ、難しそうなら別にいいよ。俺も突然言い出したからな、無茶なのはわかってるよ」
「それもそうね……というか、旅行に行きたいとか言いだすならもう少し前に言いなさいよ。アンタのそういうところ訓練校の頃から変わってないわね」
「そういうティアナは説教癖変わってないよなー。もうちょい肩の力抜けよ。その方が楽だぜ?」
「誰のせいでこうなったと思ってんのよ!?」
「スバル。俺、何もしてない」
「えっ、あたしのせい?となると……今のティアをこうなるように育てたのはあたしってことかぁ。いいかも」
「いいわけないでしょうが!」
うがー、とキレるティアナ。
どーどー、と落ち着かせようとするスバル。
そんな二人を我関せずといった表情で見つめる俺。なお、数十秒後に巻き込まれる模様。
これが俺たち三人。子供の頃から続く、俺たちの関係だ。
『いや、マスターもまだ子供だろうが。なのに子供の頃とか何言ってんの?』
「俺もう車の免許とか持ってるし。十分に大人でしょ」
『やかましいわ15歳』
お前本当厳しいよな。彼はインテリジェントデバイス『ジャック』。俺の仕事の相棒だ。
ほこりを被ったスーツケースを掃除しながら「暇だから雑談しようぜー」って言ったらこれだよ。
『15歳なんてまだまだ子供だっての。マスターの親父だってそんなもんだったよ』
「親父は仕方ない。あれまだに中身は子供だし……いや、子供だったらキャバクラ行かないか。
というかお前も止めろよ。あの頃はまだ親父のデバイスだったろうに」
『当時置いて行かれたんだから仕方ないだろ。マスターなしじゃ役に立たないデバイスに期待されても困る』
「ですよねー……全くあんの馬鹿親父め」
今でこそ両親の関係修復できてるけど当時は大変だった。子供だった俺にとってあの空気は地獄だったぞ。
あまりにも酷かったから隣のスバルの家に避難したことあったし。
……あのおかげでスバルと仲良くなれたんだから結果オーライか?うーん、悩ましい。
「よし、掃除はこんなもんだろ。さて、そろそろ寝るか。おやすみ、ジャック」
『おう、寝ろ寝ろ。寝る子は育つってなー』
相変わらずの憎まれ口を叩くジャック。お前本当に変わんねぇな。
俺もスバルもティアナも変わってないけど、おまえもそうだなぁ……いや、こいつ機械だった。
変わってたらそれはそれでおかしいだろ、自分よ。寝ぼけて思考がまとまってねぇなぁ……
そんな時、電源を切り忘れていた通信端末が着信音を奏でた。
『おやおや、通信だぜマスター。相手はランスターの嬢ちゃんだな』
端末とリンクしているジャックが要件を教えてくれた。端末を手に取り、通話モードに切り替えて耳元にあてる。
『こんばんは。夜遅くに申し訳ないわね』
「別に構わないさ。で、何の用だ?旅行の話か?」
『そうよ。結論から言うと、休暇は取れなかったわ。私もスバルもね』
「マジかー……やっぱり急すぎたか。本当にすまん」
『当たり前でしょ。いくらなんでもそう簡単には取れないわよねぇ……。というかそれはアンタも一緒だったんじゃないの?』
「俺上司に「旅行行くんで有休使っていいすか?」って聞いたらあっさり承認された。土産よろしくなーってお金ももらえた」
『何そのすごくアットホームな職場』
「防災課。お前も来るか?クラッカーとクリームパイで盛大に歓迎してやろう」
『その歓迎はいらない』
ちっ、面白くねぇ。その整った顔をクリームまみれにしてやろうと思ったのに。
ちなみに俺もその洗礼を受けている。自由にも程がある。上層部が許しているのが不思議である。
『なんか急にイラっと来たんだけど』
「気のせいだ。夜遅いからじゃね?寝不足は肌の天敵って昔から言うし。お前も早く寝ろよ?」
『はいはい、そうしておくわ。あ、一つ聞きたいんだけど、どうして旅行に私を誘ったの?』
「お前を誘った理由?そりゃあお前も一緒に来てほしいからだけど」
『……はぁ。連れて行くのはスバルだけでいいんじゃないか、って私は言いたいのよ。
アンタ、恋愛的な意味でスバルのこと好きなんでしょ?私がいたら邪魔でしょうが』
「ブフォッ!?ちょ、お前なんでそれ知ってんの!?」
『俺がランスターの嬢ちゃんにバラした』
ジャック貴様ァ!人の恋心をなぜティアナにばらすか!!
『というか割とわかりやすいんだけど。私ジャックから聞く前にすでに気づいてたし』
「おいおい、冗談だろ……マジ?」
『マジよ。そういえば、訓練校の同級生は大体気付いてたわね』
マジかー……そんなにわかりやすいか、俺。結構ショックなんだけど。
『あ、ギンガさんも気づいてるわよ』
『ゲンヤのおっちゃんも知ってるぜー。ちなみに「結婚するならもうちょっと年取ってからにしろ」とのことだ』
「好きな女の姉も父親も知ってるとか普通に恥ずかしいんだけど!?」
俺を殺す気か貴様ら!?
『私もスバルがアンタとくっつくのは賛成だし応援するわよ?
もし休暇が取れてたら急用が入ったことにして二人きりの旅行にするつもりだったし』
「やめて。やめてください本当。アイツと二人きりで旅行とか死ねる」
『は?どういうこと?』
「俺が思うに本来女性って高嶺の花みたいな感じでちょっと距離開いてる感じなんだよ。
なのにあいつとの距離めっちゃ近すぎる。あれだ、長年一緒に暮らしたワンコみたいな感じ」
『実際その通りじゃない。アンタとスバルの関係って私よりも長いし。気を許してるとこもあるんでしょ』
「それな。そのせいでアイツ俺が男だってこと多分意識してないし……
ふと「俺はスバルのことが好きなんだ」って気づいてからすごくアイツとの関係に気を使ってるのにアイツはそれに全然気が付かない様子で接してくるし……
そんなスバルと二人きりで旅行に行ってみろ。スバルが可愛すぎて死にたくなる未来が見える」
『とっととマスターがナカジマの嬢ちゃんに告白すりゃ済む話だろうが』
「その勇気があればもうとっくに告白してるっての!出来ないからこうして困ってるんだよ……!」
『『このヘタレ』』
俺の親友と相棒が辛辣過ぎて辛い。
めちゃくちゃ酷かったときはスバルの顔すら見れなかったんだから成長してるでしょうに。
『大体告白する勇気がない癖によく旅行に行こう、なんて言い出せたわね』
「ティアナもセットで誘えば結果としてある程度気が楽になって問題ないんだよ。
後スバルの構ってオーラの矛先がお前に向くし。恋愛オーラの中和剤?」
『次に会った時一発殴らせなさい。いや、殴る』
「上等だ、そのツインテールむしり取ってやる」
「ってことがあったのよ」
「えー、いいなぁティア。フィオと夜遅くまで電話してたのはそれだったんだ」
機動六課隊舎、食堂。目の前には相変わらず朝から大量の朝食をとる私の相棒、スバル。
昨晩フィオと何を話していたのか聞かれて会話していた内容を教えていたところだ。
ちなみにアイツの恋心については全く語ってない。さすがにそれくらいの慈悲はある。
「にしても休暇が取れなくて残念だよね……あたしもフィオと旅行行きたかったなぁ」
「そうね。ちょっと残念かな」
たまには旅行もいいかなー、なんて私も思ってたし。
機動六課の日々は厳しい訓練や任務でてんてこ舞いで忙しいが、成長できている自覚はある。
それでも……たまには休みたい、とか思ってしまう。こんなことを考えるから私は未熟なんだろうか。
「……ジーっ」
「何?私の顔に何かついてる?」
「ううん、ティアも結構残念なんだなぁ、って。やっぱり好きな人と一緒に旅行に行けないのって残念なんだねぇ」
「……はぁ?もう一度言ってくれる?」
何を言ったこいつ。今とんでもないセリフが聞こえた気がするが。
「え?やっぱり好きな人と一緒に旅行に行けないのって悲しいんだねぇ。って」
「……あのさ、確かにあたしアイツのこと好きだけど、ただの友人関係としてだから。あんた勘違いしてるわよ」
「またまたー。あたしにはわかってるよー?」
そういって頷きながらニヤつくスバル。迷わずスバルのデザートを奪ったあたしは悪くない。
「あーっ、あたしのイチゴーッ!」
……というか、まさかのそっちパターンか。あいつが哀れすぎて脳内で手を合わせる。
好きな相手を勘違いされてるパターンって……これあの二人がくっつくのかなり時間かかるじゃ?
「ふふっ、二人共朝から元気やなー。何の話をしとるん?」
「あっ、おはようございます八神部隊長」
隣失礼するでー、と朝食のプレートを手に座ってきたのは八神はやて。機動六課の部隊長である。
といってもそんなに厳しい人ではない。割と気のいいお姉さんの様な人だ。
それでも数々の実績を持つ人だから接するときは緊張するけど。
「ティアが好きな人の話です。ティアはフィオっていう同級生のことが好きなんですよ」
「ほほう……!!詳しく聞かせてもらおうか」
「ち が う!」
「とか本人は否定してますが訓練校時代からすごく仲良かったし十中八九事実です」
さらに八神部隊長の瞳が輝く。違うんだけど、本当に……!!
「大体あいつとの関係はアンタの方が長いでしょうが!5歳くらいの頃からの付き合いでしょ!?アンタはどうなのよ!」
「えー、あたし?確かにフィオとの関係は長いけど、フィオかぁ……うーん。好きだけどなぁ……
でもフィオってやっぱり友達だし。なんかそういう目で見れないね、うん。」
……おおもう……。あいつ本当に哀れすぎるんだけど。
どうしてこんなレベルになるまで友人関係を継続していた、フィオ。
「……あー、なるほどそういうことか。ティアナ、大体察した。そういうことやな?」
「そういうことです」
苦い顔をしたあたしを見て八神部隊長もようやくフィオが好きなのはスバルであることを察したようだ。
どこかに向けて手を合わせる八神隊長。気持ちはわかる。それを見て首を傾げるスバル。
アンタ変な時に勘がいいくせに普段がそれってどういうことなのよ。
「……あ、そうや。昨日言ってた休暇の話やけど、なんとか都合付けたから。ゆっくり休むんよ?」
「はい、わかりました……え、休暇!?取れたんですか!?」
八神部隊長の休暇が取れた発言に驚くスバル。私も驚いた。
昨日の夜聞いた時はしばらく忙しい時期だからちょっと無理って言われたのに。
「機動六課では厳しい任務や訓練が多いし、上司としてこれくらいはしてあげんとね。
その代わり今週の仕事の量がちょっとばかり多くなるから頑張ってな?」
「了解です!ティア、あたし食べ終わったしフィオに連絡するね。三人で旅行だーっ」
「あ、うん。ってアンタいつの間に食べ終わった!?」
いつの間にかあれだけあった料理が空に……!本当どんな胃袋してるんだ。
端末を取り出してフィオとの通信を始めたあいつの姿にため息を吐くと八神部隊長にポン、と肩を叩かれた。
「苦労しとるなぁ」
「ええ、まあ。訓練校の頃からそんな感じですし……」
「やろうね、見てて予想できるし。ところでそのフィオ君とやらについてもっと詳しく。
めっちゃ面白そうやから気になるんやけど?あ、部隊長権限で黙秘権はないからそのつもりで」
「あ、はい」
これ、後々スバルとフィオがいじられるフラグとみた。ごめん、二人共。
……あ、でも別にいいか。普段はあたしが二人にいじられてるし、たまにはいじられてしまえ。
内心ニヤつきながら、二人のエピソードを思い返す。さて、どこから話そうか……
「ふぇっくし!」
『わ、風邪?大丈夫?』
「問題ないよ、どうせ誰かが噂してるだけだし。あ、そうだ。
旅行先は温泉近いところにしていいか?体を休めるのにもちょうどいいしな」
『賛成ー!旅行楽しもうね、フィオ!』