物事がうまくいっている時ほどミスが出やすいとは、よく言ったもので。
実際、スバルとティアナが休暇を取ってくれたおかげで三人で旅行に行けるようになった俺は盛大なミスをしていた。
「ちょっとどいてくれ!」
「おおっ!?あぶねーぞフィオ!!」
「悪い、急いでるんだ!!」
向かい側からやってきた同僚を避けて寮の廊下を全力疾走。最短経路で外に出ると、勢いそのままに走り続ける。
向かうのはミッドチルダ中央部のセントラルターミナル。そこはミッドチルダの各地へと向かうことができるレールウェイ――地球でいうところの列車――が通っている。
そこで三人と合流してレールウェイに乗って旅行先のアルトセイムに向かう予定だ。
「……よし、ようやく通信端末起動した!」
ようやく起動作業が終わった通信端末を操作してティアナへと通信をかける。
短い呼び出し音で向こうへと繋がった。そして開口早々――
『遅い!どこほっつき歩いてるのよアンタ!?集合時間もう過ぎてるんだけど!?』
怒鳴られた。いや、遅刻してるから当たり前だが。
「悪い、職場に通信端末忘れて引き返してた」
『はぁぁ?今日持っていく荷物はバッグ一つ分だけで他は全部旅館に送ったでしょ?それだけなのになんで忘れるのよ?
そもそもデバイスあるなら通信端末いらないでしょ?』
「ジャックはちょっとメンテナンス中で手元にないんだよ。
とりあえずレールウェイの時刻にはなんとか間に合うから大丈夫だ」
『ああもう……わかった、やっておくから事故に遭わないように気を付けなさいよ?それにスバルもまだ来てないし』
「え、スバルも来てないのか?アイツお前と同室だろ?一緒じゃないのか?」
『起こそうとしても起きなかったから置いてきた。目覚まし大音量でセットして置いてきたからそろそろ来るとは思うんだけど……』
ティアナがなかなかに酷い。この女昔から怒ったときは結構怖いんだよなぁ。
ちょうど交差点で赤信号に引っかかったから一息つきながら腕時計で時間を確認。よしよし、間に合う。
「あーっ!フィオーっ、おはよーっ!!」
右の方から大きな声がして振り向くと、先ほどまでの俺みたいに全力疾走しているスバルがいた。
しかもめっちゃ遠くから。よく俺が見えたな……そういや、スバルって地味に目が良かったな。
視力テストはいつも負けていた記憶がある。
「……ティアナ。スバル発見」
『通信越しにこっちでも聞こえた。あのバカこんな時間に大声出さないでよ……はぁ。とりあえず先に乗って待ってるから。また後で』
「おう、駅で会おうぜ」
通信を終えて端末をポケットにしまう。ちょうど走ってきていたスバルも俺の隣に到着した。
肩で息をしながら手を差し出してきた。意図を察した俺は少し笑みを浮かべてその手を叩く。
パシン、といい音が響いた。昔からハイタッチはよくやっていて、俺とスバルの間で通じる挨拶なのだ。
「ふうー。おはよう、フィオ。フィオも遅刻?」
「そんなところだ。お前は寝坊したってことはティアナから聞いたぞ。何やってんの?」
「あはは……ちょっと楽しみすぎて寝付けなくてつい……」
「ふっ、お前らしいな。さて、そろそろ走るぞ。早く着かないとティアナの奴もっと怒るぞー。
さっきまで通信してたけどそこそこのお怒りモードだったぜ?」
「ティアの怒ってる様子が目に浮かぶなぁ……それじゃ、行こっか!」
信号が青に変わる。それを確認した俺たちは同時に駅に向かって走り始めた。
ある程度走っていたところでふと気づく。
「……なあ、お前の方が足早いよな?訓練校の頃はそうだったし。
だったら俺より先に行った方がよくないか?多分ティアナの説教お前の方が長いと思うぞ」
「え、ヤダ。フィオと一緒に叱られた方が説教がまとめられて短そうだし。
それに、フィオと一緒にいたいんだよね。その方が楽しいから。……ダメかな?」
「……はぁ。好きにしろ」
なんでこいつこういう恥ずかしいことしれっと言えるんだよ……!?
しかもダメ?の時の顔のしょぼーんとした具合がもうめっちゃたまらないんだけど!
「フィオ?なんで急に顔をそらすの?」
「お前が可愛いのが悪い」
「えっ?なんで?」
「やかましい!ペースを上げるぞ、ついて来いスバル!!」
「ちょ、ちょっと待ってよー!フィオーっ!!」
「そして逃げるフィオをあたしが追いかけ続けた結果力尽きたフィオがこちらになります」
「どっちも馬鹿でしょ。旅行に行くのにその前から疲れてどうするのさ。」
「め、めんぼくない……」
レールウェイ、車内。向かい合うタイプの座席で一人横になっている俺。
予想以上にスバルが早くて思わず全力で走ってしまった……多分明日筋肉痛だな、うん。
「それにしても、景色が綺麗だねー。あたしレールウェイの景色結構好きなんだよね」
スバルの視線は窓の外を向いていた。そこにあるのは朝日に照らされて慌ただしく人々が動く街の光景だ。
レールウェイの速度はかなり早く、その光景はどんどん後ろの方へと流れていく。
「その気持ちわかる。ぼんやりと外を眺めているだけで充分楽しいよな。
こういう景色を楽しむのも旅行の醍醐味かねぇ。贅沢言うならおつまみ片手にのんびりと眺めたいんだが……」
「誰かさんが遅刻したせいでろくに買う暇なかったのよねー。アルトセイムに着くまで我慢しなさい」
本当にすみませんでした。
「それにしても皆で旅行かぁ……最後に行ったのどれくらい前かな。訓練校の時の合宿が最後だっけ?」
「だな。入学したての頃に訓練学校の生活を教え込むって意味で行われたやつ。あれ楽しかったなー」
「あれ楽しかった?あたし結構大変だったイメージあるんだけど。
山間の訓練場での戦闘とか結構苦戦したし、そこで疲労がたまったのにそこからのレポート作成に加えて座学。 眠気をなんとかごまかしながらやってたから本当に大変だったわね……」
「「え、そうかな?」」
キョトンとした顔で聞き返す俺とスバル。
そんなに大変だったイメージがない。山間の訓練も苦戦こそしたがちょっとした山登り感覚だったぞ。
レポート作成は俺の得意だし、座学も結構面白い内容だった。眠気なんて全然感じなかったな。
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「忘れてた、この二人体力馬鹿だった……!!」
「ちょっとティア、体力馬鹿ってどういう意味!?」
「そうだぞ、体力馬鹿はスバルであって俺ではない。
俺はそれに振り回された結果こうなっただけである。よって俺は悪くない」
「フィーオー?」
ジト目を向けて抗議してくるスバル。だが事実である。
俺とスバルは5歳の頃からの付き合いで、昔からよく遊んでいた。
まー、それはそれはスバルに振り回されたもので、そのおかげで体力もついた。
「痛っ、人の足を踏むなスバル!」
「ふーん!人を馬鹿にした罰だよっ」
あーあー、そっぽむいちゃったよ。
「……今から車内販売で弁当買うから、そのついでにアイス買うよ。機嫌直してくれるか?」
「プレミアムのやつ3つならいいよ」
「よし、契約成立で」
スバルやっぱりちょろい。
「……それができるのになぜ告白できないのよ」
「ティアの分は水だけでいいか?」
しばかれた。友人からの扱いがひどい。
「すみませーん、日替わり弁当三つとドリンク三つください。あ、後プレミアムアイス三つ」
席から離れて車内をうろつき、ようやく見つけた車内販売のおばさんに声をかける。
「すみません。日替わり弁当は三つあるんですが、アイスは残り一つしかないんですよ。それでもよろしいですか?」
「あらら、人気なんですね。わかりました、アイスは一つでお願いします」
財布から代金を取り出しておばさんに渡す。
ほほう、今日の日替わり弁当のメインはコロッケバーガーか。サブのサラダとポテトも上手そうだ。
これは期待が高まる。ドリンクを三本選び取って席に戻る。ふふ、どんな味か楽しみだな。
「えっ、プレミアムアイスもうないの?」
その時、ふと後ろから声が聞こえた。振り向くとさっきのおばさんと女の子が会話していた。
……あららー、がっかりしてるし……しょうがないか。
「おーい、そこの赤毛の女の子ー。ほれっ」
「へ?うわっ!いきなり何投げてるんだテメェ!……あれ、これってプレミアムアイスじゃねぇか!?」
「それ君にあげるから。じゃあなー」
「お、おい待て!!」
さて、めんどくさいことになりそうだし逃げますか。
どうせ一個しかなかったんだし、スバルには売り切れだった、って言っておけばいいか。
なお、スバルに事情を説明したところサラダとポテト献上することになった。
コロッケバーガーはボリュームたっぷりでソースが染みていて美味かったんだけどなんだか寂しい……
「ようやくついた……ここがカーラルナ。俺たちの旅行の目的地だ」
レールウェイに揺られること数時間。たどり着いたのは『カーラルナ』。
ミッドチルダでも辺境扱いされるアルトセイム地方の例にもれず、カーラルナは周りが山に囲まれている街だ。
しかし、この街にはには旧暦の頃から存在する温泉があり、それに併設される形で商店街が存在する。
そのためカーラルナは温泉と商店街はもちろん少し足を延ばすだけで自然を堪能できる便利な観光地として有名だ。
「すぅー……うーん、空気がおいしい。都会と田舎の空気は違うって言うけど本当だね」
「言われてみれば確かにそうね。心なしか体も軽いような……」
「ミッドチルダの排気ガス問題は解消されつつあると聞くが、ここは中央部と比べて人口密度はダンチだからな。 空気の質もかなり違うんだ。昔そういうことに関する本を読んだのを思い出したよ」
「フィオって訓練校の本の虫、だなんて呼ばれるくらいに本読んでたもんね。
ティアも結構図書館行ってたよねー」
「あたしは純粋な勉強目的で利用してたのよ。それでも座学の成績がアンタたちには及ばなかったけど。
いったいどんな頭してんのよ……」
「やりたいことをやりたいようにやって、なりたいもの、欲しい物をがむしゃらに追い続ける。そんな頭だな」
「だねー。あたしもフィオも難しいこと考えるの得意じゃないし。
目の前にあることに全力で取り組む。それくらいしかできないもん」
「……アンタらがお気楽で羨ましいわね。そういう生き方も悪くないとは思うけど。
さ、そろそろ旅館に行きましょう。事前に送った荷物も回収しないとね」
「だな。おっと、その前にー」
バッグの中からごそごそと取り出したのは、使い捨てカメラ。例のあれである。
「写真撮ろうぜ」
「そういえば今日の旅のきっかけってそれだったねー」
「というか今までカメラの存在忘れてたでしょ。列車内でも撮影しておけばよかったのに」
「二人が仲良く駄弁ってた光景はこっそり撮影済みだ。あ、あと駅前で待ってたお前の姿も撮ってる」
サムズアップしたら勝手に撮るんじゃないわよ、と叩かれた。
それを見たスバルがくすくす笑ってた。車内で撮影した写真のスバルは多分割とアホ面だった気がする。
後日反撃してやるぜ。
「じゃ、ちょうどいいし駅をバックに撮るか」
「じゃああたし撮影するー!かっこよく撮ってあげるね!」
「馬鹿、私たち三人写らないと意味ないじゃない。すみませーん」
たまたま近くにいた駅員さんに頼んで撮影してもらった。
さて、写真はまだ三枚目。フィルムは二十七枚撮りだからまだまだこれから。
ドンドン撮ってみますか!旅はまだまだ始まったばかり!!
一枚目:「駅前でまだかまだかと待っているティアナを撮った」
二枚目:「俺が弁当持って戻ってきた直後の仲良く駄弁っている様子をこっそり撮った」
三枚目:「俺たち三人が駅前に立つ姿を撮った」
「現像が楽しみだな」