「わぁー……フィオー、ティア―、いい景色だよー!!」
「はいはい。いいから早く荷物の確認しなさい」
「俺はもう終わったぞー。よしよし、いい構図だ……」
パチリ、と使い捨てカメラが音を立てて、ベランダに出てはしゃぐスバルとあきれながら荷物を整理するティアナ、二人の光景を撮影した。
上手いこと一枚の写真に収められた……と思う。現像しないと結果はわからないが。期待しよう。
駅の撮影後、のんびり三人で歩いて旅館に到着。荷物を受け取って宿泊部屋にいる。
三階の部屋なので結構見晴らしがいい。自然あふれる山をバックに近くにある川も見えていて絶景だ。後で一枚撮っておこうかな。
「ところで、これからどうするかね?実は宿泊先以外は行き当たりばったりの予定だったから完全にノープラン」
「「えええぇぇ?」」
二人の驚いた声が重なる。その反応が見たかった。
「現地に行って遊ぶ場所探す開拓者スタイルとかかっこよくね?そう考えた俺はパンフレットとか観光雑誌一切読んでないし持ってなーい」
「ちょっとは計画立てなさいよ!?」
「温泉に入りたい!俺の計画は以上!」
「えーっと……美味しいもの食べたい!あたしの計画は以上!」
「事前に観光雑誌とか読んでたのが馬鹿みたいなんだけど」
「頼んだぞガイドブックティアナ!俺たちがこの旅行を楽しめるかどうかはお前にかかっている」
突然投げられた枕がボフッ、と音を立てて顔にぶつかった。
てかやべえ、あきらかなガチギレモードだし。思わず正座してそのまま土下座した。
「……はぁ。とりあえずお昼はもう食べたし、とりあえず商店街の探索にでも行きましょうか。
ほら、二人共準備しなさい。入浴セットも一応持っていきましょう。時間は待ってくれないわよ」
「はーい。やったねフィオ、許してくれたよ」
「え?許したつもりないけど。この分は後々返してもらうから」
ですよねー。
カーラルナ商店街。温泉に併設される形で存在する商店街。
いわゆる温泉街と呼ばれるやつであり、基本的にいつでも観光客でにぎわっている場所だ。
カーラルナ商店街は一番通りから三番通りまであり、それらの特徴は――
「土産屋や飲食店が多いのはさっき私たちが通ってきた南側の一番通り。
記念館等の歴史施設が多いのは東側の二番通り。で、服や雑貨などの食べ物以外の店が多いのが西側の三番通り。
そして、それらの通りが交わる中心部がこのセレンラルナ温泉よ」
ティアナの紹介を聞きながら、俺は目の前にある建物に目を奪われていた。
その建物はカーラルナにおいて最古の歴史を誇るセレンラルナ温泉だ。
「写真で見たことはあったけど、生で見るとやっぱり違うな。歴史を感じさせる古めかしい作りだが、しっかりと手入れされていて建物の装飾も新品同様。
まるで教科書で見たベルカの神殿みたいで見ていて飽きないな。時間つぶしにもちょうど良さそうだ」
「あっ、あそこ!屋根の下の壁画、よく見たら狼がいるよ!もしかしてザフィーラと同じ種類かなー?」
「ザフィーラ?誰のことだ?」
「機動六課の隊長の使い魔のことね。あの壁画の狼は額に宝石が入ってるみたいだし多分一緒の種類じゃないかしら。
ああいう狼ってそんなに種類がなかったはずだし」
「なるほど、そういうことか」
「さて、壁画鑑賞はその辺にしておきましょうか。あたしから提案なんだけど今日は一番通りで時間潰さない?
ここに来るまでに通ってきたからわかると思うけど、結構お店が多かったでしょ?お土産を選ぶのにも一苦労しそうだし、今のうちに回っておきたいのよね。
もう少ししたら夕方だから夜になるまで散策して、夜になったら温泉。そして帰りに一番通りで食事……どう?」
「それでいこう。それじゃ、明るいうちに温泉前で一枚撮るか」
「あ、じゃああの壁画撮ってよ!帰ったらザフィーラに見せたい」
「あの壁画をか?うーん、難しいんじゃないか?」
セレンラルナ温泉は三階建ての建物で、狼の壁画は一番上にあった。
地上から肉眼でギリギリ見えるが、さすがに厳しいか。一応使い捨てカメラのファインダー越しに確認してみるが……
「ダメだな。撮影すると結構小さくなりそうだ。写真で見て狼だってわかるかどうか微妙だぞ。
使い捨てカメラにズーム機能があれば良かったんだがなぁ」
「えー、撮ってみないとわからないよそんなこと。いいからいいから」
「しょうがないなぁ……」
仕方なくカメラを手に持ち、少しでも大きく写るように背伸びして手を伸ばして壁画にカメラを近づける。
そしてシャッターを切り、一枚撮った。この写真がどうなったのかはまた後日語るとしよう。
一番通りを三人でぶらぶら歩きまわる。
そして、良さげなお土産屋を見つけては立ち寄っていく。例えば、木彫り細工の店とか。
「見て見てー、木彫りのクマ!これちょっといいよね。お父さん喜んでくれるかな?」
「ゲンヤさんならニコニコしながら磨いてそうなイメージがあるわね……いいんじゃないかしら。
でもあきらかにかさばるでしょ。買うなら最終日にしなさい」
「はーい」
「本当ティアナってお姉さんだよな。さすが委員長」
「誰が委員長か。私委員長になったこと一回もないんだけど」
例えば、着物の店とか。
「このハンカチいいわね。触り心地もいいしおしゃれな柄だし、隊長たちのお土産にしようかな?」
「着物店来て買うものがそれか。着物買え着物」
「うっ……やっぱりこういうとこの着物って本格志向だから高いのよ」
「フィオーっ、ティアーっ。ジャーン!せっかくだから試着させてもらったんだけどどうかな、可愛い?」
「似合ってるぞスバルー!……お高い分美しさはお墨付きだぜ、ティアナ?」
「見とれながら瞬時にカメラ取り出して撮影するとかアンタ無駄に器用ね……」
例えば、お酒の店とか。
「ほほう……いい香りだ。これはきっとうまい酒だな。うちの両親のんべぇだしよさそうだな。
上司にも勝ってくついでにゲンヤさんにも買っとくかねぇ……なぁ、ティアナ。お前の兄貴こういうの好きか?」
「……そうね。きっと喜んで飲むんじゃないかしら。私が自腹で買うから心配しなくていいわよ。ありがと」
「フィオとティア大人っぽい……いいなぁー。あたしも早く大人になりたいなぁ」
「スバルはそのままの方が可愛いぞ」
「んー……なんかヤダ。二人に置いて行かれてる感じがするし」
「……ティアナ。スバルが可愛すぎて辛い」
「はいはい、そうねー」
とまあ、様々なイベントを挟みつつ一番通りを回っていく。温泉に合わせたのか、通りの雰囲気はやや古めかしい。
店舗の商品は新しいものから懐かしいものまで様々だが、建物は歴史を感じさせる作りが多かった。
「さすがに当時の建物は残っていないけど、どれも築三十年はザラらしいわ。一番古い建物は八十年は越えるそうよ」
「なるほどねえ。通り一帯が一種の博物館状態だな。建物好きにとってはたまらんだろうな」
「こういうのとか写真で撮ったら結構良さそうだよね。撮る?」
「いや、やめておくよ。フィルムが二十七枚撮りだから一日当たり九枚しか撮れないんだよな。今日は残り四枚しか撮れない。使い捨てカメラだから仕方ないんだがな」
「そっかー……あっ、ひらめいた!ねぇねぇ、撮影役を一日おきに交代しない?
今日はフィオが撮って、明日と明後日はあたしかティア。どうかな?きっと面白いよー」
「撮影役交替か。ふむ……よし、やろう。ティアナもそれでいいな?」
「あたしはパス。写真はあんまり撮ったことがないのよ。上手く撮れる自信がないし二人に任せるわ」
「大丈夫大丈夫、写真はピントとタイミング!
だけど、使い捨てカメラはピント合わせの必要はないから気にするのはタイミングだけなんだ。
これなら初心者のティアでもいい写真が撮れるよ」
ピント合わせがいらないというのは俺も初耳だった。
操作できるダイヤルは確かになかったから気にしてなかったが。
後日聞いたところ、使い捨てカメラのレンズは調整なしでも焦点が合う距離がとても広いレンズんだとか。
是非使い捨てカメラが手元にある人はお試しあれ。
それはさておき、スバルの説明を聞いたティアナはしばらく考え込んでいたが、答えを出す。
「……そうね、せっかくだしやってみましょうか。何事も経験っていうしね」
「よーし、言質撮った。どんな写真を撮るか期待してるぞ」
現像した時にブレブレだったりしないかな?その時は盛大に笑い飛ばしてやんよ。
どうからかってやるか今から考えていると、通りを抜けてセレンラルナ温泉の前に出ていた。
そして、空を見上げるとそこには暗い闇の中で月が光り輝き始めていた。腕時計を確認するともう7時だ。
「もうこんな時間か。時間がたつのは早いねぇ」
「楽しい時間は過ぎるのが早いっていうし。そろそろ温泉に行きましょうか。
ふふっ、あたしもちょっと楽しみなのよ。セレンラルナ温泉は名湯だってよく聞くし」
「……あっ。えとー、そのー……」
「どうしたんだスバル?なんか忘れ物でもしたのか?」
「う、うん……下着、旅館に忘れちゃった」
「「何やってんの」」
こうして、俺たちは旅館にUターンすることになった。
あのまま温泉に入りたかったんだけどなぁ。ま、仕方ないか。
「ねえ、わざわざ二人が付いてくる必要あったの?」
「あんた一人にすると何やらかすかわかったもんじゃないわよ。迷子になるのに一票」
「俺も同じく」
「二人共酷い……!!」
四枚目:「早朝のはしゃいでいる&準備している姿ー。」
五枚目:「例の狼の壁画。ちゃんと見えるのかこれ……」
六枚目:「着 物 ス バ ル」
「……六枚目こっそり部屋のどこかに飾ろうかな」