そして先に言っておきます。この作品はスバルがヒロインです。
……ヒロインなのになぁ。
「ぐふぅ……」
目が覚めた俺の第一声は若干つぶれた声だった。なんだか息が苦しい。
少しずつ意識が覚醒し、寝起きでぼやけ気味の視界が鮮明になる。
ゆっくりと体を起こそうとして、腹の上に何か乗っていることに気が付く。
「……すぅ……んんっ……」
頭を俺の腹の上に載せて寝ているスバル。あれ、なんでいるんだこいつ?
ああそうか、旅行に来てたんだった。で、宿泊する部屋は三人部屋だったから布団を並べて寝たんだったな。
……よくよく考えれば普通におかしいのでは。同級生とはいえ男とよく泊まれるな、二人共。
それだけ信頼されているってことなんだろうか。あるいは……男として見られていないのか?
なんだろう、泣きたくなってきた。寝起きだから実際に泣いてるし。目を擦ってぬぐい、腹の上のスバルをどかせる。
「ふむぅっ……」
良く寝てるなー、スバル。いい寝顔だ。このまま眺めていてもいいが、部屋の時計を見てみると時刻は午前五時半。
ベランダのカーテンを開けて外を確認すると、まだ辺りは薄暗かった。時間的には日の出前だしな。
ふむ、もうひと眠りしようか?……いや、せっかく目が覚めたんだ。ちょっとだけ散歩するか。
自分用のバッグを手に取り、備え付けのメモ帳に「少し散歩に行ってくる フィオ」と書いて目立つところに置いた。
これでよし。さて、行くか。
ところでスバルに顔面蹴られてるティアナは大丈夫なんだろうか。
面白そうだから放っておくけど。スバルのやつ寝相悪いな……
「おーおー、やってるねぇ」
一番通りを一人ぶらり散歩。あちこちで屋台の準備をしていた。ここは飲食店が多い通りだから屋台も食べ物関連が多い。
大抵が店の商品をセットで安売りしたり、限定商品を売っている。どれも魅力的だが……
「おっ、この屋台もうやってるの?」
「ええ。いかがです、カーラルナまんじゅう。美味しいですよ?今なら蒸したてを用意できますが」
「ほほう、それはいいな。三つ……いや、四つ頼む」
「毎度ありー」
こういう定番物が俺は好きなんだよな。こういう観光地に行くと大抵まんじゅうがあるんだよ。
地域によって中身はもちろん生地も全然違う。これを楽しむのが俺の観光地における楽しみでもある。
紙袋に入れられたまんじゅうを受け取り、一番通りを歩きながら一つ取り出してつまむ。
「あちちっ。はぐっ、はふっ……ふむ!」
かぶりついたら熱かったが、なんとかちぎる。そして咀嚼する。これは旨いな!
オーソドックスな白色の丸いまんじゅうだったからいい予感がしていたが、やはりな。
口に含んだ瞬間に熱さと共にほのかな甘みがした。マジで上手いまんじゅうの皮ってちょっぴり甘いんだよ。
素材特有の甘さが出ているっていうのかな?こういうところの白まんじゅうはこれをうまく出していることが多い。
期待して正解だった。そして、まんじゅうの中身はあんこなんだが、ただのあんこじゃないぞこれ。
甘みの中にやや塩味がする。初めての味だ……甘い中に確かにある塩味が舌を引き締めてくれる。
おかげで甘さがより際立っている。対極に位置する味を使うことでさらに引き立てる逆転の発想とでもいおうか。
「これは当たりだ。いいものを買ったぜ」
夜に祭りを回る時にも立ち寄ろう。これは何度でも食べたくなる味だ。
そして、ティアナとスバル用に買ったこのまんじゅうは……俺の朝食にさせてもらう。
こんなに上手いものを朝食にするなんて、贅沢だぜ!悪いな、良心と欲望の戦いは欲望が勝った!
「ふふふ、笑いがこみあげてくるな。これでなんか飲み物があればいいんだが。できれば苦い系。
何か探すか。時間は……ふむ、四十五分。六時までに帰ればいいか」
それじゃ、もう少しぶらりと通りを探索しますかね。次はどこへ行こうかなー。
「おい待てよ、そこの」
「ん?」
そう思った矢先、肩をつかまれて呼び止められた。
俺を呼び止めたのは俺やティアナと同い年くらいの赤毛の少女だった。見覚えは……ない。
「これ、やるよ」
少女から手渡されたのはミッドチルダでは有名なメーカーが販売している缶コーヒーだった。
ちなみに銘柄は地味にプレミアムのブラック。俺の好みではあるが……
「いや、まんじゅうにコーヒー合わねぇだろ嬢ちゃん。いらねぇよ」
「仕方ねーだろ、そこの自販機で売ってる苦い飲み物はそれしかなかったんだ。
借りの作りっぱなしってのはあたしの性に合わないんだよ。おとなしく受け取れ」
「借り?何の話だよ。アンタとは初対面だろうに。悪いが人違いだよ」
「……はぁー……仕方ねぇか……」
ため息を吐いた少女は魔法を展開する。この術式は調べた覚えがある。
確か、変身魔法の解除の魔法だったはず――
「ロリであることごまかすために変身魔法使うとか無駄じゃないですか?」
「うるせーな、一発ぶん殴るぞ。変身魔法は変装のためだっての。後あたしの方が階級上だぞ二等陸士。
おら、おとなしくまんじゅう一個よこせ、それで特別にため口はチャラにしてやるよ」
「はいはい」
少女……もとい、ヴィータ三等空尉と一番通りの休憩所で駄弁る。
自己紹介した時俺がティアスバの友人であることにちょっとだけ驚いてたけど、驚いたのはこっちだよ。
レールウェイでアイス放り投げた少女がまさか管理局員だったとは。しかも三等空尉って俺よりもめっちゃ階級上じゃねえか。
正直外見的に信じがたかったが、見せてもらった局員証は本物だった。ウソだろおい。
「へへっ、サンキューな……おっ、旨いなこれ。どこで買ったんだ?」
「ここから南に約200mくらいにあるマロソフト堂。ちなみに値段は一個300とリーズナブル」
「なるほど、あそこか。後で行ってみるかな。あ、忘れないうちに代金払うよ」
財布から硬貨を取り出して渡された。手がやはり小さいなぁ……やっぱりロリじゃねーか。
ってんん?
「おい、これちょっと多いぞ」
「多い分はお礼だよお礼。ま、これくらいはしないとな?」
「さいですか。ありがたく受け取っておきますよ」
ちょっとしたお小遣い気分である。まんじゅうをほおばるヴィータを尻目に俺もまんじゅうをもう一個食べる。
買ってもらったコーヒーもお供に……うーん、味としては悪くないがどうせならお茶系の苦みがほしかった。
それはさておき、気になることがある。
「それで、一つ聞きたいんですがスバルとティアナの上司さんがどうしてここにいるんですか?」
「ん?知ってたのか、あの二人の上司だって。お前あたしの姿は知らなかったのにそんなことは知ってるんだな」
「スバルから今度の上司はヴィータって人でロリって聞いてましたから」
「あいつ休暇終わったら締める……で、どうしてここにいるのかだったな。
それは……悪い、言えないな。仕事上の守秘義務ってやつだ。言えるとしたら本当ならティアナとスバルにも出動命令下るってことくらいか。
あいにく二人は休暇中だから呼ぶわけにはいかないけどな」
……なるほど。
「機動六課の極秘任務的な感じですか」
「そういうことだ。聞かないでくれると助かるし、アイツらにも内緒で頼む」
「了解しました……その、申し訳ないです。そちらの隊員をお借りしてしまって」
「なんだよ、急に敬語使うなよ気持ち悪いな。普通に戻せ」
「わかった、ロリータ」
「ふざけろとは言ってねぇよ馬鹿野郎」
やばい、マジでキレてやがる。そこまで気にしていたか。即座に謝った。
「ったく……そんなのは気にしなくていいんだよ。あいつらはまだまだ子供だし、お前もそうだろ?」
「そうは言うけど、俺もう15なんだが」
「あたしからしてみりゃ子供だよ。休めるときには休むべきだし、遊べるときは遊ぶべきだ。
その分の埋め合わせはあたしら大人がしてやるよ。こんななりだけど、こう見えてもお前より年上だしな。
大人に任せとけって、な?」
その時、俺はヴィータの表情に一瞬違和感を覚えた。
体は確かに子供なのだが、彼女が醸し出す雰囲気が体とは合っていない。
目の前にいるのは子供じゃなくて、立派な頼れる大人であるかのように思えた。
「……じゃあ、お言葉に甘えてそっちはお任せするよ。頼んだよ、ヴィータ」
そんな彼女に俺は笑みを浮かべながら答えを返した。不思議な人だな、この人。
だけど……なぜか頼れる。出会ってそんなに時間は経ってないのに不思議と信頼できるのだ。
……あの二人はいい上司の下に就けたな。ちょっとだけうらやましいよ。
「おう、任せときな。
ちなみにあたしはアイスが好きだ。後は……わかるな?」
「はいはい。セレンラルナ温泉名物のアイスを機動六課ヴィータ三等空尉宛に送っておくよ」
「へへっ、わかってんなーお前。気に入ったぜ」
……追記。やっぱりこの人子供じゃねえか。
「……最終的に子ども扱いされたまま別れた、と」
「おう。「子供なんだし引率者いるんだろ?これ渡しときなー」ってまた投げ渡しやがった。
で、それがこのまんじゅう。ギガウマだぞ、なのは」
「ありがとうヴィータちゃん、あっ、なんだか懐かしい味だ」
フィオがホテルに帰った数分後。
休憩所にはヴィータともう一人、栗色の髪の女性がいた。
髪型がよく知られているサイドテールではないためか気づく人はいないが、彼女こそエースオブエースと呼ばれている管理局員。
スバルとティアナが所属しているスターズ――機動六課内の分隊――の隊長でもある高町なのはである。
「それで、ヴィータちゃんから見たフィオはどうだった?」
「いいやつなんじゃねぇの?ちょっとデリカシー足りないけどあの年ならあんなもんが普通だろうし。
スバルには似合う男だと思うぜ、あたしは。ただの上司にしか過ぎないあたしが言うのもなんだけどな」
「そっか。私も同意見かな?昨日の行動見た感じでも結構仲良さそうだしね。
あの三人を見ていたらなんだか海鳴に久しぶりに帰りたくなったかも。アリサちゃんとすずかちゃん元気かなぁ」
彼女の脳裏に浮かぶのは子供のころからの親友の姿だった。
仲良く遊んでいるフィオたちの姿を見ていると、昔友達と遊んでいたころの記憶を思い返すのだろう。
「また今度休暇が取れたら海鳴に帰ろうぜ。あたしもゲートボールのじいちゃんたちに会いたいし」
「あはは、そうだね……ところで、今更だけどあの三人尾行して良かったのかな?」
なのはは昨日の朝のことを思い出す。
親友でもあり自分の部隊長である八神はやてに呼び出され、詳細を聞く時間を与えられることなく駅に行けと言われ、向かった先にいたのはスターズの副隊長であるヴィータちゃん。
そしてヴィータちゃんから告げられたのは部下二人の休暇をこっそり尾行せよというはやてちゃんの個人的な依頼。
なお、勝手に休暇を取られていたのでどの道仕事は三日間ないし、私服等の旅行セットも勝手に用意されていた。なぜこういうときははやてちゃんの動きが無駄にいいんだろうか。
「いいわけねぇだろ。バレたら普通にヤバいしあいつらも怒るだろうな。信頼関係崩れそうだ」
「だ、だよねー……やっぱりやめようよ。
正直私も最初スバルのことが好きな同級生と一緒に旅行に行くって聞いて興味があったから尾行してたけど、今となってはちょっと罪悪感があるし……」
「ならあたしだけでやるからなのははゆっくり体を休めてろよ。お前は普段から頑張りすぎなんだし。。
はやての頼みとはいえちょっと不本意だったけど、なんだか楽しくなってきたぜ……」
ちょっと悪い笑みを浮かべるヴィータと悩みながらも渋々尾行を続けるなのは。
一体何をしているのかこの上司たち。ぶっちゃけ今回の一件はトップが悪いのだが。
フィオたちは尾行されていることに気づくこともなく、旅行二日目の幕が上がる。
昨日の朝
「ねえはやて。なのはが朝からいないんだけど、知らない?」
「あ、なのはちゃんというか、スターズの四人は今日から三日間休暇取って旅行に行っとるんよ。
フェイトちゃんは聞いてなかったん?(まあなのはちゃんは無理矢理休ませたけど)」
「全然聞いてないよ……!うう、旅行に行くんだったら私も行きたかったなぁ……
はやて、今から私も休暇って取れる?」
「さすがにライトニングの隊長まで休まれるときついから無理やなぁ……ごめんな?」
「あはは、そうだよね……私、なのはに嫌われたのかなぁ。旅行に行くんだったら教えてほしかったよ……」
(アカン、フェイトちゃんが受けとるダメージが予想外に大きすぎる)