ヒト化した動物たちが大勢暮らす島、ジャパリパーク。そこにヒトの子供であるキュルルが、自分のおうちを探してサーバルとカラカルのふたりのフレンズと一緒に旅をしていた。だが、探偵と名乗るフレンズにさらわれてしまいイエイヌの家に連行されるのだった。人懐っこいイエイヌとフリスビーで遊んでいるところを見られてしまい、カラカルは逆上してケンカに発展してしまったのだった。

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フレンズ型のセルリアンは、いっそのことしゃべるようにすれば良かったんじゃないかなと思ってこの話を書きました。化けた相手の心のスキを突く感じで。女王やセーバルという前例があるから独自設定ではない筈。


素敵な絵はイエイヌを嗤う

 カラカルと、初めて大きなケンカをした。きっかけは、探偵と名乗る変な二人組にイエイヌさんの家に無理やり連れていかれたからだ。

 

 確かに心配させちゃったのは悪いと思うけど、イエイヌさんはいい子だったし遊んでるうちになんか楽しくなっちゃったんだから仕方がないじゃないか。

 

 悪いのはあの二人で、僕は何も悪くないよ。きっと……、多分……、だといいなあ。

 

「それにしても彼女、ひどいフレンズでしたね。キュルルさんのことを、あんなに一方的に怒鳴るなんて」

「ううん。心配させたのは僕のせいだし……って、元はと言えばイエイヌさんのせいでしょ!!」

「え?そうなんですか?」

 

 そうなんですかって、イエイヌさんが僕をここに連れて来いって言ったのがそもそもの原因じゃないか。でも、イエイヌさんはよく分からないといった表情でお茶らしきものが入っている急須を持ってきた。

 

「よく分かりませんが、取りあえず葉っぱにお湯を入れたやつを作ってみたんで一杯どうですか?落ち着きますよ」

「ありがとう」

 

 僕は、イエイヌさんが出してくれた紅茶のカップを受け取り口元まで運んだけど、不意に怒っているカラカルの表情が脳裏に浮かんで飲む気をなくした僕は口を付けることなくソーサーにカップを置いた。前にかばんさんのおうちで飲んだ紅茶とは匂いが違った気がしたけど、気のせいかな。

 

「なんとなく分かるかもしれません、あの子の気持ちも。あの子もまた、私と同じくヒトと心を通わせられる動物なのでしょう」

「あの二人に、無理やり連れてこられなかったらあそこまでこじれなかったと思うよ」

 

「さっきから、何の話ですか?」

どうもイエイヌさんが要領を得ないようなので、僕があの二人にオリに入れられて無理やり連れてこられてきたことを言うと彼女は本当に驚いていたようだった。

 

「ごめんなさい!!確かに連れてきてとは言ったのですが、そんな方法で無理やりなんて……。あの二人には、後で口の中に葉っぱをたくさん詰めて熱いお水を流し込むので、許してください!」

イエイヌさんに、そう言って頭を下げられたら僕も慌てるしかない。

 

「大丈夫!僕はもう気にしてないから、それだけはやめてあげて!普通に、可哀そうだから!」

あの二人、イエイヌさんは怒ると怖いフレンズだと脅かしていたけど、あれは本当のことなのかもしれない。

 

「そうですか?でも、それじゃあ私の気が。――あ!そうだ」

イエイヌさんは何か思いついたという感じで、外に出るドアとは違う小さな扉を開けた。変なことじゃないといいけど。

 

「これ、私の宝物なんです。お詫びっていうのもなんですけど、キュルルさんも見ていいですよ。これを見てると、温かい気持ちになれるんです」

 

 それは手紙のようだった。読んでみると、ここに来たヒトたちがイエイヌやパークの人達へ送った感謝の手紙らしいことが分かる。

 

「素敵な絵だと思いませんか?私達、以前も会っていたみたいですよ」

 

 イエイヌさんが渡してくれたのは、一枚の絵。僕とサーバルとカラカルが真ん中で笑っていて、知らない男女とイエイヌさんが描かれている絵だ。でも、この絵には覚えがない。何より、ここに描かれている人たちは僕の心当たりがない人たちだった。

 

 これは、確かに僕が描いた絵のようだ。スケッチブックの破れたページにこの絵を合わせると、切れ目がぴったり合う。でも、僕はこの光景()を知らない。得体の知れない絵を手にして固まっていると、空いた窓から一陣の風が吹いた。海が近いのか、潮の香りがする。

 

「キュルルさん、危ない!!」

 

 イエイヌさんに押し倒されると、あの見覚えのない絵からセルリアンの群れが出てくるのは同時だった。僕とサーバルとカラカル。それにイエイヌさんと3人の人間の姿をしたセルリアンが絵から出てきたようだった。

 

「逃げよう!イエイヌさん!」

 

 分が悪い。大きさこそ僕らと同じぐらいだけど、サーバルとカラカルがいないのに7体のセルリアンを倒せるわけがない。

 

「大丈夫、私に任せて!ヒトを守るのが、私の使命ですから!」

「いくらなんでも、数が多すぎるよ!!」

 

 実際、勝負にならなかった。イエイヌさんは、サーバルやカラカルそれに自分の姿を模ったセルリアンこそ倒せたものの、僕や3人の人間を模ったセルリアンは倒せない。彼女が殴ろうとしても、途中で拳を止めてしまうのだ。無理もない。セルリアンのあかしともいうべき一つの目(モノアイ)が胴体に着いてはいるものの、顔がある位置には人間の笑顔が張り付いているのだから。

 

「あらあら。ヒトを守るのが使命だから、私を攻撃できないの?」

かばんさんに似た声で、セルリアンの一つがそう呟いた。でも、違う。僕は、この声の主を知らない。

 

「寂しかったでしょう?イエイヌは本来、群れで生きる動物。孤独にお留守番なんてイエイヌにとっては苦痛のはずよ?」

かばんさんに似た声のそれとは別のセルリアンは、そう言って肩を揺らせた。恐らくは、笑っているのだろう。

 

「イエイヌ、一人にして悪かったね。この子に食べられれば、ずっと一緒にいられるよ」

デッキブラシを持ったセルリアンがそう告げると、僕に化けたそれは「僕は、けものじゃないよ。だから、けものを食べるんだ」とイエイヌさんに手を伸ばした。

 

させるもんか!

 

「行くよ、イエイヌさん!何でもするって、言ったよね!」

僕が無我夢中でイエイヌさんの腕を引っ張ると、彼女はちゃんと付いて来てくれた。でも、何も考えずに走ったせいでここはどこか分からない。森の中というのは、分かるけど……。

 

 茂みからがさがさという音がして、出てきたのはサーバルとカラカルだった。

 

「ほら。あんた、スケッチブックを忘れていったでしょ。届けに来てやったわよ」

「イエイヌ、どうしてそんなにボロボロなの?」

「気を付けてください!しゃべるセルリアンが来ます!」

 

 二人はセルリアンがしゃべるということにピンと来ていないようだったが、それはすぐさま現れた。

 

「イエイヌ。寂しかったでしょう?その輝きを消せば、もう苦しむことはなくなるわ」

「お留守番は、犬にとって苦痛のはず。一人でいるぐらいなら、ただの動物に戻った方がいいでしょう」

「いい子だから、大人しく食われなさい」

「みんなのことが、大好きだから食べてあげるよ」

 

 4体のセルリアンが、勝手なことを言いながらイエイヌに迫ってくる。あの中に僕の姿を模したセルリアンがいることに、悔しさと気持ち悪さが抑えられない。

 

「あの人の声で、そんなことを言わないで!」

「キュルルは、そんなことを言わないわよ!」

 

 サーバルとカラカルがかばんさんみたいなセルリアンと僕のようなそれを倒したけど残り二体残っている。が、「うがあああああ!!」と叫び声がするや否やジャングルの時に現れた暴走状態のフレンズ(ビースト)が一瞬でその二体を倒したのだった。

 

「……ううう!!」

ビーストはこちらを睨んでいたようだったけど、サーバルとカラカルが僕たちの間に割り込むとあきらめたのかどこかへと走り去ったのだった。

 

「仲良くなりたいな。あの子とも」

「正気!?言葉が通じるか、分からないのよ!!」

「でも、キュルルちゃんらしくていいと思う」

「まあ、ね」

 

 僕たちがそんな話をしていると、「キュルルさん」と明後日の方向からイエイヌさんが僕を呼んだ。

 

「お二人と、引き離すような真似をしてすみませんでした。仲間を失う気持ちは、よく知っていたはずなのに。キュルルさんは、旅を続けてご自分のおうちを見つけるべきです。私も、あのうちにいた人たちが戻ってくるまでお留守番を続けます」

 

 イエイヌさんの言葉に、あのセルリアンの言葉がよみがえった。イエイヌは本来、群れで生きる動物。孤独にお留守番なんて、イエイヌにとっては苦痛のはずだと。

 

「そうだ!最後に、言ってもらえませんか?「おうちにおかえり」って」

 

 そんなこと、言えるわけがない。ボロボロになったイエイヌさんを手当すらせずに別れを告げるなんて、もう二度と会わないと言ってるようなものじゃないか。でも、それ以外の言葉をイエイヌは欲してないだろう。言葉以外に何か……。

 

 僕は、スケッチブックを開くとイエイヌさんに見せた。

 

「あの!!この場所、知らない!?」

「は……はい?え、ええっと……すみません。見えないです」

 

 当然だ。夕日は、もうすぐ沈む。その上、ここは森の中だ。犬の目では、絵を認識できないだろう。ずるいやり方なのは承知の上で、僕は白々しくイエイヌさんに言った。

 

「そっかあ、じゃあ次に行く場所が分からないなあ。イエイヌさん、今日はイエイヌさんの所に泊めてよ。で、また明日この絵を見てほしいんだ」

 

「……ずるいですよ。そんなことされたら、別れがつらくなるじゃないですか」

「ごめんね。でも、僕のおうちが見つかったらまた会いに来るから。今日は、僕のわがままに付き合ってよ」

「――本当に、ひどいヒトですね。キュルルさんは」

 

 そう言いながら、イエイヌさんは微笑んでくれた。そうそう。僕が飲まなかったお茶?はカラカルが飲んだ。その味の評価は――。

 

「何よ、この味は!!明日からかばんの所に行って、お茶の淹れ方を教わって来なさあい!!場所は、教えるから!!」

「は、はいー!!」


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