感想はいつもありがたく拝読させていただいております。
これからも拙い物書きとその作品を宜しくお願い致します。
レイズとシュライヤの大喧嘩が始まったのと同時刻。
「あ~あ、アタシもレイズと一緒に行きたかったなぁ」
頬を膨らましブウブウと文句を言いながら、空を歩くのはカリーナ。
レイズとの時間を長く取るために“剃”と“月歩”を習得した。
「速さの問題なら仕方ないだろ、此方も重要なんだからな」
方や“指銃”と“鉄塊”を習得しているエース。
中々移動補助系の技の習得が上手くいかず、今も“剃”習得に向けて動作を意識した歩き方を実践している。
そんな二人は海賊島の東の高台へと歩いて向かっていた。
「にしても、楽しみだな”銀獣”ってどんな奴なんだろう」
エースはまだ見ぬ噂の凄腕剣士に期待を膨らませているようだった。
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一人の男が高台で座禅を組んでいた。
左手で刀の柄を握り、目を閉じ意識を集中させているその姿は刀を通じて世界と語り合っているようであった。
男は座禅を解き、腰に刀を差し込み立ち上がると左手で合掌の所作を行った。
次いで礼をし、腰の刀を徐に握る。
次の瞬間、男の左手には刀が握られており、その姿は居合い斬りの如く刀を振りぬいた姿をしていた。
「やはり、何か違う。一体何が違うんだ」
銀髪の剣士”サガ”。
彼は迷いの中にいたのであった。
サガには二人の幼馴染がいる。
一人はサガが通っていた道場の娘で、現在は海軍に仕官して着実に腕を上げている”くいな”。
もう一人はサガと同じく賞金稼ぎをしながら剣士として修行の旅をしている”ゾロ”。
「正義の剣」を極めることを目標としているサガとゾロは旅立つ日に師匠から譲り受けた刀と互いに渡しあった短刀を今も大切に持っている。
サガとゾロは武者修行の旅の途中悲劇が起きた。
二人で海賊船を襲った際、ゾロを庇って右腕の握力が極端に弱くなってしまい、サガは満足に刀を握れなくなってしまった。
サガを幼馴染二人は心配していたが、サガは気丈に振舞うことで二人の心配を払拭しようと今まで以上に刀の修行に邁進するようになていった。
名を上げていくサガ。
しかし、嘗ての自分の通りに動かせない身体にいつしか迷いが生じ、ここのところ満足が行く刀を振るえていないのであった。
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「ねぇ、エースは“自分の成長”について考えることはないの」
道の半ばでカリーナは最近のエースの成長具合について話をしてきた。
「あん、どういうことだ?」
“剃”に至るための歩行訓練を一旦辞め、普通に歩いているエース。
何事もやりすぎは良くないというレイズの教育方針が馴染んでいる証拠であった。
「だって、エースの目標ってレイズと肩並べて戦えるようになることなんでしょ?今だって十分に肩並べて戦えてると思うんだけど、そこんとこどうなのよ」
カリーナから見て二人は本当に息があっており、エースの死角をレイズが、レイズの死角をエースが、互いに補いながら戦う姿はまるで軽快なダンスを見ているようでもあった。
そんなカリーナの感想に対してエースの答えは。
「なによ、そのイヤそうな歯痒そうな顔は」
非常に納得していない、そんな顔付きだった。
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サガは己の右腕を見ていた。
日常生活を行う上では不便がないが戦うとなった時、途端に不便に感じてしまう。
元々左利きだったため、そこまで不便に感じていなかった。
だが、敵の強さが一段上がった時から苦戦を強いられるようになった。
剛剣士であるサガは力でねじ伏せる戦いを好んだ。
しかし、右腕が戦いにおいて不自由になってからは自慢の剛剣が振るえなくなり、何時しか迷いの中に陥ってしまったのである。
「・・・・なんで、オレなんだ」
蓋をしたはずの黒く濁った気持ちの悪い何かがサガの奥底から溢れだしてきた。
「オレは、なんであの時ゾロを助けようとしたんだ。なんであの賞金首を狙ったんだ。何でだ、なんでだなんでだナンデダナンデダ」
溢れだしてきた何かに突き動かされるように背面へと刀を振るうサガ。
一切答えのでない自問自答はただサガの心を蝕んでいくだけだった。
「誰だ、ちきしょうが。危ねえだろ」
そんな、誰かの怒声が響いたのはサガが刀を振り抜いた数秒あとだった。
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「あのな、カリーナ。レイズは風使いなんだぜ」
ため息と同時にエースの口から漏れた言葉は仲間内では周知の事実であった。
「周辺の空気の流れを掌握してから戦闘に移るような怪物が隙を晒すわけないだろ。あれはオレが反応出来るギリギリを敢えて見逃すことでオレの気配察知力を上げているんだよ」
そう言うと不貞腐れたかのように頬を膨らますエース。
「実際、ウチの船で一番強いのはまず間違いなくレイズなんだ。そんな奴がオレに期待をかけている、そう聞けば聞えが良いだろうけどな、オレは“対等”でいたいんだよ」
例えレイズにその様なつもりがなくとも、エースにとってレイズは未だに先を歩く存在だった。
しかし、子供の駄々のように思える自分の我儘とも言えるプライドのようなそれは、今のエースの原動力になっているのも事実だった。
「(男ってバカねぇ)」
そんな内心の苦笑をおくびにださずカリーナはエースに微笑んでいた。
その時、レイズに無理矢理鍛えられた生存本能が二人に警鐘をならした。
カリーナは上空へ、エースは仰け反ることで“何か”を避けることに成功した。
カリーナが無事着地し、エースが体勢を戻し一緒に振り向くとそこには、横一文字に斬り込みが入った岩壁があった。
二人が避けるのが遅ければ確実に頭と首が別れている位置だった。
「誰だ、ちきしょうが。危ねえだろ」
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誰かの怒声が聞こえサガが振り向くとそこにはテンガロンハットを被った青年と些か肌の露出に目がいきそうな少女がいた。
「すまない、人が来ていることに気がつかなかった」
先程までの“黒い何か”を押さえ込み謝罪するサガ。
「お前か、まったく気を付けろよな」
そんなサガに些か違和感を感じるエース。
「遅くなって申し訳有りません。“銀獣”サガさんでよろしいですか」
一瞬で猫をかぶるカリーナ、思考型の彼女が話を進めることにしていた。
「あぁ、今回は声をかけてくれて恩に着る」
「いえいえ、私達も“雇われた側”の人間です。諸事情で今回お迎えに上がった次第でして、依頼者がズボラでご迷惑をお掛けしました」
互いに頭を下げあうサガとカリーナ。
その様子を見ながらエースは何やら考え事をしていた。
「それじゃ、“船”に行きま「なぁ、あんた“何”に迷ってるんだ」
カリーナの先導を遮り発せられたエースの言葉に思わず動きが止まるサガ。
「エース、何言ってるの」
「こいつは確かに強い。だけどさっきの一撃にも其処までの迫力がなかった。今回、命を預けあう者としてオレはそれが知りたいんだ」
エースから発せられた言葉に思わずサガを見てしまったカリーナ。
一方のサガは何処か苛立ちを押さえるように頭を右手で押さえながエースへと視線を移す。
そこには、先程までのヘラヘラしていた青年は存在しておらず、“覚悟”を背負った一人の男が立っていた。
なぜかこの時サガは目の前の青年との付き合いが長くなるそんな確信を得ていた。
そして、サガは己のこれ迄とその心に巣くう黒い何かについて語った。
「「バッカじゃねぇの」」
それを聞いたエースとカリーナの返答は一句違わず同じものだった。
「え、いや、オレは真面目にだな「
そこには、サガを蔑んだように見つめるエースが仁王立ちしていた。
「いいか、そんなこと言い出したらオレなんかなレイズに対して後ろめたさしかないんだよ」
何かのタガが外れたかのようにエースが捲し立てていた。
「ある時は、戦闘中にオレのせいで怪我させても笑って「大事にならなくて良かったな」って言って赦してくれるし、ある時はオレが原因で喧嘩になったのにその相手との仲裁を買ってくれるし、ある時はその日のおかずを味見と称して食いつくしても拳骨で赦してくれるし、泥棒が入ったって言って皆の金庫から少しばかり借りてもばれてなかったり「ほう、あれはお前かエース」
エースが後ろを(震えながら)振り向くとそこには、菩薩も真っ青な笑顔の漆黒の闇を背負ったレイズと、そんなレイズに恐れおののくシュライヤがいた。
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エースの悲鳴とレイズの怒声とシュライヤの笑い声をBGMにカリーナがあとを引き継いだ様に喋りだした。
「要約すると、あたし達は不完全で当たり前なのよ」
「不完全が当たり前?」
カリーナの発した意味不明な言葉にサガは固まっていた。
「レイズ、今あそこでとてつもない笑顔でエースをしばいている人ね、あの人もあたし達の中では最強だろうけどね、能力者だから海に落とされたらひとたまりもないの」
カリーナの発言に顔を横にし、レイズと呼ばれた男を確認すると、どこから取り出したのかロープでエースを宙吊りにしてお小言に移行していた。
「だから、アタシもエースもレイズと肩並べられる様に強くなって、少しでもレイズが楽になるように頑張ってるの」
そう言いきったカリーナの横顔は年不相応に艶を帯びた女性の顔をしていた。
そして、カリーナは笑顔のまま争乱の中心へと歩いていった。
その時、唐突にサガの中で何かが弾けた気がした。
それは、目の前の少女に恋をしたわけではない。
ただ、自分の疑問の答えへの道が見えた気がしたからであった。
「(・・・・、たまには寄り道も良いかもしれないな)」
そして、サガもまた四人を追うようにして歩いていった。
エース、レイズ、カリーナ、シュライヤ、サガ。
5人の初めての航海はこうして始まったのだった。
季節の変わり目、皆様も体調にだけは気をつけてお過ごしください。